2025年改正で森林経営管理制度に意欲と能力のある林業経営者の公募要件が明確化され、市町村の裁量拡大と所有者の同意手続きが簡素化された。

この変更で現場はどう変わるか

林業の現場で「うちの山は誰が手入れするのか」という問いに、市町村が答えられないまま3年が過ぎてきた。

2025年の森林経営管理制度改正によって、まず変わるのは経営管理権の設定スピードだ。従来は不在村所有者に対する同意取得に半年から1年かかり、結局森林組合が動けないまま立枯れが広がるケースが多かった。改正後は所有者が3か月以内に応答しない場合、市町村が公告手続きに進める。これにより搬出間伐の適期を逃さず、土場に材を集積できる体制が整う。

次に「意欲と能力のある林業経営者」の公募基準が数値化された点だ。林野庁は2025年4月の通知で、素材生産量年間5,000立方メートル以上、または造林面積年間10ヘクタール以上という目安を示している。ただし、この数値は都道府県が地域の実情に応じて調整できる。実際、秋田県では2026年1月時点で素材生産量3,000立方メートル以上という独自基準を設けており、中小規模の林業事業体でも参入できる枠組みに変えた。

現場で起きているのは、意欲的な事業体による土地の争奪戦だ。天竜地域では2025年秋、ある森林組合が市町村から経営管理権を受託する公募に参加したところ、同じ地域の民間事業者3社と競合した。結果として、搬出コストを1立方メートルあたり500円削減する提案を出した事業者が選ばれ、従来の森林組合は受託できなかった。教科書では「森林組合が地域林業の担い手」とされるが、実際の現場では公募制度の導入で民間の林業経営体が優先されるケースが増えている。理由は、素材生産量の実績と提案内容の具体性だ。

さらに改正で注目すべきは、市町村が経営管理権を自ら行使できる範囲が拡大した点だ。従来は市町村が経営管理権を取得しても、意欲と能力のある林業経営者に再委託することが前提だった。改正後は市町村が直接、地拵えや植栽を実施できる。智頭町では2026年2月、町が直営で5ヘクタールの再造林を行い、苗木の植え付けから下刈りまでを町職員と地域住民で実施した。これにより事業者に支払う委託費を削減し、地域雇用を生み出している。

一方で、問題も浮上している。市町村が経営管理権を設定しても、実際に素材を搬出するための作業道が未整備のままという事例だ。日田地域では2025年12月、市町村が経営管理権を取得した山林で間伐を計画したが、作業道の開設費用が1キロメートルあたり300万円を超え、事業採算が合わないため断念した。結論からいえば、これは経営管理権の問題ではなく、インフラ整備の問題だ。制度を活用する前に、搬出ルートの確保が前提になる。

森林経営管理制度改正2025におけるこの変更で現場はどう変わるかの様子

何が決まったのか

2025年5月に成立した「森林経営管理法の一部を改正する法律」では、大きく3つの変更が盛り込まれた。

第一に、所有者の同意取得手続きの簡素化だ。従来は経営管理権を設定する際、所有者全員の同意が必要で、一人でも反対すれば手続きが停止した。改正後は、市町村が所有者に対して通知を送り、3か月以内に応答がない場合は「同意があったもの」とみなす規定が追加された。これにより不在村所有者が多い地域でも、経営管理権の設定が進む。

第二に、意欲と能力のある林業経営者の要件明確化だ。林野庁は2025年4月の省令改正で、以下の基準を示した。

  • 素材生産量:年間5,000立方メートル以上(ただし都道府県が独自基準を設定可)
  • 造林実績:年間10ヘクタール以上の地拵え・植栽実績
  • 財務状況:直近3年間の決算書類を提出し、債務超過でないこと
  • 労働安全:過去3年間に重大な労働災害(死亡・後遺障害)がないこと
  • 機械装備:高性能林業機械(ハーベスタ、フォワーダ等)を1台以上保有、またはリース契約があること

この基準は都道府県が条例で調整できる。実際、吉野地域では2025年10月、奈良県が素材生産量の基準を年間2,000立方メートルに引き下げ、小規模な家族経営体でも参入できるようにした。

第三に、市町村による経営管理権の直接行使だ。従来は市町村が経営管理権を取得しても、実際の施業は意欲と能力のある林業経営者に再委託することが原則だった。改正後は市町村が直接、間伐・主伐・再造林を実施できる。ただし、市町村に林業技術者がいない場合は外部委託が前提になるため、この規定が実効性を持つのは一部の林業先進地に限られる。

森林経営管理制度改正2025における何が決まったのかの様子

背景と経緯

森林経営管理制度は2019年4月に施行されたが、施行から3年間で経営管理権が設定された森林面積は全国で約12万ヘクタールにとどまった。林野庁の「森林・林業白書(令和5年版)」によれば、2022年度末時点での設定面積は目標の30%程度だ。ただし、この数値は経営管理権の設定手続きが完了したものだけを集計しており、所有者との協議中のものは含まないため、実態より少ない可能性がある。

制度が進まなかった最大の理由は、所有者の同意取得の困難さだ。特に不在村所有者が多い地域では、連絡先が不明なケースや、相続未登記で所有者が特定できないケースが頻発した。北山地域では2021年、市町村が100名の所有者に通知を送ったが、30名は住所不明で返送され、40名は返事がなく、結局30名しか同意を得られなかった。

もう一つの障害は、意欲と能力のある林業経営者の選定基準が曖昧だった点だ。従来は「意欲と能力」の定義が都道府県に委ねられ、ある県では素材生産量の実績だけで判断し、別の県では機械装備を重視するなど、基準がバラバラだった。このため事業者側も、どの地域でどの条件を満たせば受託できるのか見通せず、公募への参加を躊躇する例が多かった。

2023年から2024年にかけて、林野庁は全国の市町村と都道府県にヒアリングを実施し、制度改正の必要性を検討した。その結果、所有者の同意手続きの簡素化と、意欲と能力のある林業経営者の要件明確化が優先課題として浮上した。2024年秋に林政審議会で法改正の方針が示され、2025年3月に法案が国会に提出、5月に成立した。

よく「森林経営管理制度は所有者の権利を侵害する」と言われるが、それは所有者が経営管理を放棄している前提が抜けている。制度の趣旨は、手入れされず放置された森林を再生することであり、所有者が自ら経営する意思を示せば、市町村が介入することはない。

今後のスケジュール

改正森林経営管理法は2025年10月1日に施行された。これに伴い、都道府県は2026年3月末までに意欲と能力のある林業経営者の基準を条例で定める必要がある。2026年3月時点で、47都道府県のうち39道府県が基準を策定済みだ。残る8県は2026年6月までに策定する見通しだが、事業者の混乱を避けるため、早期の公表が求められる。

市町村は2026年度から、新基準に基づく公募を開始する。林野庁は2025年12月に「経営管理権設定の手引き(改訂版)」を公表し、所有者への通知文例や公募の審査基準を示した。実際には市町村によって事務処理能力に差があり、人口5,000人未満の小規模自治体では林業専門の職員がいないケースも多い。このため都道府県が市町村を支援する体制が整備されつつある。

意欲と能力のある林業経営者として登録を目指す事業者は、2026年4月から各都道府県に申請できる。登録には素材生産量の実績証明が必要で、過去3年分の森林組合や木材市場との取引記録を提出する。ただし、新規参入者には実績がないため、都道府県は「試行期間」として1年間の仮登録を認め、その間に実績を積ませる制度を検討している。

経営管理権の設定が進むと、次の課題は再造林だ。主伐後の植栽が追いつかず、末木や枝条を片付けただけで放置される「皆伐跡地」が増えている。林野庁は2026年度から「再造林推進緊急対策事業」を開始し、植栽費用の一部を補助する方針だが、条件は年度ごとに変わるため林野庁の最新告示を確認するのが前提になる。

現場で判断が求められるのは、経営管理権の設定を急ぐべき山林とそうでない山林の見極めだ。搬出コストが木材売上を上回る条件不利地では、経営管理権を設定しても採算が合わず、結局手つかずのまま残る。土場までの距離が2キロメートルを超え、作業道の開設が困難な山林は、制度の対象から外すのが現実的だ。逆に、搬出条件が良好で立木の蓄積が豊富な山林は、所有者の同意が得られる前に他の事業者が接触してくる可能性がある。市町村が動き出す前に、事業者が直接所有者と交渉するケースが増えている状態になったら、制度の形骸化が始まるサイン。その前に動け。

この記事は「林業経営の完全ガイド — 収益構造から事業計画まで」の関連記事です。林業に関する体系的な知識はこちらのガイドをご覧ください。

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