
漁業ダッシュボード
収益性・コスト・消費・海況・国際競争・産業構造の6つのデータから、日本の漁業の構造変化を読み解く
最終更新: 2026-04-14
漁獲量は35年で半減。だが産出額は魚価上昇で下げ止まりつつある。問題は、その回復が燃油高・円安・消費者の魚離れ・海水温上昇という4つの逆風の中で起きていることだ。世界では養殖が天然を逆転し、日本の自給率は50%台で膠着。残った経営体は大型化し、「衰退」ではなく「集約化」が進んでいる——6つのデータが示す、日本の漁業の現在地。
現在の状況
収益性
漁獲量は半減したが、魚価上昇で産出額は持ち直しつつある。ただし利益はコスト次第
漁業・養殖業 生産量の推移
海面漁業の縮小を養殖が下支えし、養殖比率は全体の約22%まで拡大。「量の回復」ではなく「構成の転換」が進んでいる
漁業・養殖業 産出額の推移
1990→2022年で、漁獲量が減っても産出額が底を打ったのは、魚価の上昇があるから。ただしコストも同時に上がっており、利益に直結するかは次のセクションで見る
燃油交易条件 ― 産出額 vs 燃油コスト(指数化)
2022年に76.3まで悪化(燃油高騰で魚価がコストに負けた)。直近2022年は76.3に回復したが、100を割ると「獲るほど赤字」の領域。※燃油はWTI原油で代替
コスト構造
産出額の回復を帳消しにしかねないのが燃油と飼料のコスト。しかも円安が変動を増幅する
燃油 × 飼料 直近推移(WTI原油・魚粉)
天然漁業のコストドライバーは燃油(WTI 114.0$/bbl)、養殖は飼料(魚粉 2,010$/MT)。両方が同時に上がると業界全体の利益が圧縮される
原油WTI × USD/JPY(円安が国際価格を増幅)
2021-05→2026-04でWTI+71.9%、円相場+45.4%。原油が下がっても円安が相殺し、円建てコストは下がりにくい。為替リスクが漁業経営の「見えにくい重荷」になっている
魚粉 × 国際穀物価格(指数化・基準月=100)
穀物価格が上がると配合飼料経由で魚粉も連れ高する。養殖コストは「海の問題」だけでなく「畑の価格」にも左右される
消費の実態
コストだけでなく売り先も変化している。家計の支出は魚介から肉類へ着実にシフト中
家計の魚介 vs 肉類 年間支出推移
2025年の肉類と魚介の年間支出差は26,729円(2019年の15,503円差から拡大)。「魚離れ」は世帯支出の金額でも裏付けられている
魚種別 漁獲量変化率(2012年→2022年)
増加上位のイワシ類(+155.6%)と減少上位のサケ・マス類(-60.1%)が対照的。獲れる魚種が変わる中で、何を獲り・何を育てるかの選択が経営を分ける
月別 魚介 vs 肉類 支出パターン(2025年カレンダー)
魚介支出のピークは12月(月5,606円/通常月平均の約1.6倍)。年末商戦が年間収益を大きく左右する
魚介 vs 鶏肉 vs 豚肉 vs 牛肉 年間支出推移
2019→2025年で魚介+1,653円/鶏肉+4,595円。消費者の「タンパク源の乗り換え」が鮮明で、魚介の競合は輸入魚ではなく国産鶏肉
環境・海況
消費の変化に加えて、獲れる魚種そのものが海水温の上昇で入れ替わりつつある
日本近海の海面水温(2026年4月7日時点)
最暖海域九州〜沖縄太平洋側(22.9℃)と最冷海域の差が、獲れる魚種の地域差を生む。前セクションで見た魚種入れ替わりの物理的な背景がここに現れている
温暖化と魚種の入れ替わり
増加上位(暖流系の優勢化)
減少上位(寒流系・資源減)
暖流系のイワシ類が急増する一方、寒流系のサケ・マス類は減少。海水温の上昇が漁場の「主役交代」を引き起こしており、漁業の産地構造にも影響が及ぶ
国際競争
国内供給が細る中、世界では養殖が天然を逆転。日本の自給率は50%台から動かない
水産物 自給率の推移
自給率52%(2024年)。2010年から10pt悪化したが、50%前後という水準自体が「国産だけでは足りない」構造を示す
世界の水産物生産シェア(2023年)
首位中国がアジアの養殖拡大を牽引し、上位5カ国で70%を占める。日本は生産量で世界トップ10圏外になりつつあり、「水産大国」の看板は過去のもの
世界の養殖 vs 天然漁獲
2023年、養殖(13,292万トン)が天然(7,731万トン)を逆転。世界は「獲る漁業」から「育てる漁業」に転換した
輸入額 × 自給率(縮退表示)
輸入額が25%増しても自給率は54%から動かない。国内の供給能力がボトルネックであり、需要側の「国産志向」だけでは自給率は上がらない
産業構造
経営体は35年で65%減。だが残った経営体の生産規模は拡大し、産業は「縮小」ではなく「集約」へ向かう
経営体数 × 1経営体あたり生産額
経営体数は65%減だが、1経営体あたり生産額は1.54倍。「衰退」ではなく「集約化」が進行中
都道府県別 漁獲量ランキング(2022年)
上位5道県で全国の約59%。好漁場を持つ道県への集中が進んでおり、「どこでも獲れる」時代は終わりつつある
業種別 集約化スピード比較(3業種)
畜産は経営体-81%で1経営体生産額+634%と最も極端な集約化。漁業の-65%/+54%は3業種中もっとも穏やかで、集約の「途上」にある
養殖比率 × 天然/養殖別の生産額
養殖比率が11.7%→22.6%に拡大し、産出額の下支え役に。世界的な「養殖シフト」が日本でも進行中だが、そのスピードは世界平均に比べて遅い