定置網漁業は海底に固定した網で回遊魚を獲る漁法で、設置位置と潮流の読みが水揚げを左右する。網の点検を怠ると時化で全損し、再建に数千万円かかる。
主要データ
- 国内定置網数:4,037統(水産庁『漁業センサス』2023年)
- 定置網漁業経営体数:2,018経営体(同上)
- 平均年間漁獲量(大型定置網1統あたり):約247トン(水産庁統計2024年度)
- 設置・更新費用(大型定置網):3,000万〜1億2,000万円(地域・規模により変動)
定置網の失敗は「設置場所」で決まる
富山湾で定置網漁業を始めて3年目の経営体が春の時化で網を全損したが、原因は潮流の読み間違いであり、地元漁協の古参は「あの場所は西風が吹くと必ず網が持っていかれる」と言っていたにもかかわらず、新規参入者はデータだけを見て設置場所を決めたため、結果として再建費用4,500万円が消えた。
定置網漁業で最初に詰まるのは設置場所の選定であり、水深、潮流、海底地形、風向きのいずれか1つでもズレると、どれだけ高性能な網を使っても魚は入らない。教科書では「水深30〜80メートル、潮流0.5〜1.5ノット」と書かれるが、実際の現場では地形による局所的な乱流や季節風の影響まで読み切る必要がある。
水産庁の統計によると、2023年時点で国内の定置網数は4,037統、経営体数は2,018である。ただし、この数値には小型定置網(落し網など)も含まれるため、事業規模として成立している大型・中型定置網に限ると実数は約1,500統程度というのが実態だ。1統あたりの平均年間漁獲量は247トンだが、上位10%の優良経営体は500トン以上を水揚げする一方で、下位20%は100トンに届かず、この差を生むのが設置場所の良し悪しであり、水産庁「漁業・養殖業生産統計(令和5年)」によれば、定置網漁業による年間漁獲量は全国で約40万トンに達し、沿岸漁業全体の約45%を占める主要漁法となっている。
市場への入荷量や海面水温の振れ幅を見ても、魚の動きが年ごと、時期ごとに変わることは珍しくなく、漁法の違いだけでなく海況の変化も入網の安定性に影響するため、過去の実績がある場所でも同じ張り方を続ければ十分とは言い切れない。とくに水温上昇が回遊ルートを変える局面では、設置場所の微調整が水揚げ差として表れやすいことが見て取れる。
設置前に確認すべき前提条件
定置網漁業を始める前には、最低でも以下の条件を満たしているか確認したい。満たしていない場合は、初期投資の大きさのみならず操業後の修正余地も限られるため、参入自体を見直す判断が現場では求められる。
漁業権と海域調整
定置網は共同漁業権の対象であり、すでに地元漁協が漁業権を持つ海域では、新規参入者が独自に設置することはできない。そのため、漁協の組合員になって既存の網の運営に加わるか、空いている海域を紹介してもらうのが現実的なルートとなっている。長崎県の五島列島沿岸や北海道の日高沖など、定置網が盛んな地域では海域調整が厳しく、制度上の要件だけでなく地元との信頼関係も欠かせない。
漁業法上、定置網漁業は「大臣許可漁業」または「知事許可漁業」に該当する。大型定置網(身網の設置水深が27メートル以上)は大臣許可、それ以下は知事許可であり、許可取得には過去の実績、資金計画、操業体制などの審査があるため、申請から許可まで通常6カ月〜1年かかる。
資金と設備
大型定置網の初期投資は、網本体だけで3,000万〜6,000万円、アンカー・ロープ・ブイなどの付属設備で1,000万〜2,000万円、漁船(網起こし船・運搬船)で2,000万〜4,000万円が目安であり、合計すると最低でも6,000万円、標準的には8,000万〜1億円を超える。加えて、網の更新は3〜5年ごとに必要で、1回あたり2,000万〜3,000万円かかるため、導入時の資金だけでなく更新資金まで見込んだ計画が欠かせない。
中型定置網(水深15〜27メートル)なら初期投資は2,000万〜4,000万円程度に抑えられるが、漁獲量も大型の半分以下にとどまる。小型定置網(落し網など)は500万〜1,500万円で始められる一方で、事業規模としての収益性は低く、副業的な位置づけが多い。
人員体制
大型定置網の操業には最低4〜6人の乗組員が要り、網起こし(漁獲作業)は早朝に行うため、夜明け前に出港できる体制を組む必要がある。繁忙期には1日2回網を起こすこともあり、人員配置は経営の要となる。
人手不足が深刻な漁村では、近隣の漁協と乗組員を融通し合う事例もあるが、水産庁「令和4年度水産白書」によると、定置網漁業従事者の平均年齢は59.8歳で、全漁業種類の中で最も高齢化が進んでいるため、後継者確保の難しさは単なる採用問題にとどまらず、操業継続そのものに直結している。
Step 1: 海域調査と設置位置の決定
設置場所を決めるには、最低でも1年間の海域調査が要る。潮流、水温、海底地形、回遊魚の動きを四季を通じて観察し、データを蓄積する。
潮流の計測
定置網が機能する潮流速度は0.5〜1.5ノット(時速0.9〜2.8キロメートル)であり、これより遅いと魚が網に入らず、速すぎると網が流されて破損するため、設置前の計測は欠かせない。計測には流速計(ADCP:超音波ドップラー流速計)を使い、レンタル費用は1日あたり3万〜5万円、購入すると300万〜600万円となる。
現場では、潮流の「向き」も同じくらい大切だ。潮が1日の中で北向きと南向きに交互に変わる海域では、網の向きを固定すると片方の潮時に魚が入らないため、こうした海域では「両向き網」と呼ばれる特殊な構造にするか、設置場所自体を見直すことになる。
海底地形の把握
海底が平坦すぎると魚の通り道にならず、逆に起伏が激しすぎるとアンカーが効かないため、理想は「緩やかな傾斜で岩礁が点在する地形」とされる。調査には魚群探知機と海底地形探査機(サイドスキャンソナー)を使い、得られたデータを海上保安庁の海底地形図と照合しながら、局所的な地形変化を見落とさないようにする。
石川県能登半島の定置網漁場では、海底に直径2〜3メートルの岩が点在する地形が好まれる。岩礁が魚の隠れ場所になり、潮流が岩にぶつかって乱流を生むことで、魚が網に誘導されやすくなる一方で、砂泥底が続く海域では人工的に魚礁を設置して魚道を作る工夫が要る。
回遊魚の動きを読む
定置網の主な対象魚は、ぶり、さば、あじ、いわしなど回遊性の魚であり、これらの魚がいつ、どのルートを通るかを把握しなければ、網を設置しても漁獲には結びつかない。地元の漁師から聞き取りをするのが最も確実だが、過去10年分の漁獲データ(漁協が持っている)を分析すると、回遊の傾向がより立体的に見えてくる。
海面水温が平年より高い年は回遊ルートが沖寄りにずれることがあり、能登北部沿岸では平年比プラス1.9度の19.9度、佐渡沿岸でもプラス1.7度の19.1度と高めだった局面では、従来の設置位置より200〜300メートル沖に網を張ることで漁獲が安定するため、水温偏差を海況の参考情報として読み込む姿勢が欠かせない。
Step 2: 網の設計と資材調達
設置場所が決まったら、海域の条件に合わせて網を設計する。既製品をそのまま使える海域は少なく、ほとんどの場合はオーダーメイドになる。
網の基本構造
定置網は「垣網」「運動場」「箱網」の3つの部分で構成され、垣網は魚を沖から網に誘導する壁、運動場は魚を一時的に溜める空間、箱網は最終的に魚を集める袋として機能する。大型定置網では垣網の長さが300〜600メートル、運動場の面積が1,000〜2,000平方メートル、箱網の容積が500〜1,000立方メートルになる。
網地の素材はナイロンまたはポリエチレンが主流だ。ナイロンは強度が高いが紫外線に弱く、3〜4年で劣化する。ポリエチレンは紫外線に強く5〜6年持つが、ナイロンより高価であり、目合い(網目の大きさ)は対象魚に合わせて選ぶ必要があるため、ぶり・さばなら10〜12センチ角、あじ・いわしなら5〜8センチ角が標準となっている。
資材メーカーとの調整
定置網の製作を手がける主要メーカーは、日東製網、日本コード、ニチモウなどであり、発注から納品まで通常3〜6カ月かかるため、設置予定日の半年前には仕様を確定させる必要がある。見積もりを取る際は、網本体だけでなく、ロープ、浮子(うき)、沈子(おもり)、アンカー、標識灯などの付属品も含めた総額を確認したい。
実務上、メーカーの標準仕様をそのまま使うと現場で不具合が出ることが多く、たとえば標準仕様の浮子は直径30センチ前後だが、波の高い外海では直径50センチ以上の大型浮子に変えないと網が沈むため、地元の定置網経営者に実際の仕様を見せてもらい、それをベースにカスタマイズする方法が堅実である。
Step 3: アンカーの設置
定置網の成否を決めるのはアンカー(碇)の打ち方であり、アンカーがずれると網全体が流され、時化のたびに修復費用がかさむため、海底条件と潮流条件を踏まえた設計が収支に直結する。
アンカーの種類と選定
定置網のアンカーには、コンクリートブロック、鉄製錨、スクリューアンカー(地盤に螺旋状に打ち込むタイプ)があり、海底が岩盤ならコンクリートブロック、砂泥底ならスクリューアンカーが適する。海底の質を見誤ると保持力が不足し、設置後の補修コストが膨らみやすい。
大型定置網では1統あたり10〜20個のアンカーを使う。1個の重量は2〜5トンが標準であり、アンカーの設置にはクレーン船が要って作業費用は1日あたり50万〜100万円かかるため、海が荒れると作業できない現場では、凪の日が続く時期を選ぶ段取りそのものが施工品質を左右する。
アンカーの打ち込み角度
アンカーは海底に置くだけでは不十分であり、潮流の向きに対して15〜20度の角度で打ち込むと、潮の力がアンカーを海底に押し付けて保持力が増す。一方で、この角度が5度ズレるだけでも時化のたびに網が流されるため、設置時の精度管理が非常に重要になる。
静岡県沼津市の定置網漁場では、台風シーズン前に必ずアンカーの角度を測り直す。水中ROV(遠隔操作の潜水ロボット)でアンカーの状態を確認し、ズレがあれば引き上げて打ち直すが、この手間を省くと台風一発で網が全損しかねず、点検の有無が損失額の差としてそのまま表れやすい。
Step 4: 網の展開と固定
アンカーが固定できたら、網を海上で広げて固定する。この作業を「網入れ」と呼ぶ。
網入れのタイミング
網入れは必ず凪の日に行い、風速5メートル以上の日に作業すると網が絡まったり破れたりするため、天気予報を見ながら3日以上凪が続く期間を選ぶ必要がある。春なら3〜4月、秋なら9〜10月が適期であり、短期間で終える段取りも重要になる。
網入れには最低4隻の船が要る。親船(網を吊り上げる船)1隻、子船(網の端を持つ船)2隻、監視船(全体を見渡す船)1隻だ。作業時間は大型定置網で6〜8時間、中型で4〜6時間かかる。
網の張り方
網を張るときは垣網から順に設置し、垣網の一端を岸側のアンカーに固定したうえで、もう一端を沖側に引っ張りながら沈める。垣網が真っ直ぐ立つように、浮子と沈子のバランスを調整することが肝心であり、この段階のズレが後の入網率に影響する。
運動場と箱網は、垣網の沖側端に接続する。接続部分は魚が逃げやすいため、ロープで二重に縛る。箱網の底は海底から3〜5メートル浮かせ、底を海底に着けると泥が溜まって魚が嫌がるため、見た目以上に細かな張力調整が求められる。
標識灯の設置
定置網の位置を示すため、網の四隅に標識灯(航路標識灯)を設置する。夜間に他の船が網に衝突するのを防ぐためだ。標識灯は海上保安庁の基準に従い、白色または黄色の点滅灯を使う。電源はソーラーパネル式が主流で、1基あたり10万〜20万円かかる。
Step 5: 網起こし(漁獲作業)
網を設置したら、定期的に「網起こし」を行って魚を回収する。網起こしの頻度とタイミングが、鮮度と漁獲量を左右する。
網起こしの頻度
大型定置網では1日1回、早朝(日の出前後)に網起こしを行い、夏場の繁忙期には1日2回(早朝と昼)起こすこともある。網起こしの間隔が長すぎると箱網の中で魚が弱って鮮度が落ちる一方で、短すぎると燃料費と人件費がかさむため、現場では漁獲とコストの両面から最適化が必要になる。
実務上のポイントとして、潮回りに合わせて網起こしの時刻を調整する。大潮の日は潮流が速く、魚が多く入るため早めに起こす。小潮の日は潮が緩く、魚が少ないため遅めに起こして燃料を節約し、水産庁「漁業経営調査報告(令和4年度)」では、大型定置網漁業の1経営体あたり平均漁労支出は年間約6,800万円で、うち燃料費が約1,200万円を占めているため、網起こし頻度の最適化が経営を左右する。
網起こしの手順
網起こしは以下の手順で行う。
- 箱網の入口を閉じる:箱網の入口にあるロープを引いて、魚が逃げないようにする。
- 箱網を引き上げる:船上のウインチで箱網の底を引き上げ、魚を水面近くに集める。
- 魚を掬う:たも網(直径2〜3メートルの大型網)で魚を掬い、船上のタンクに移す。
- 活かしたまま運ぶ:タンクに海水を循環させ、魚を活かしたまま港まで運ぶ。
魚を掬うときは、一度に大量に掬わない。魚同士が圧迫し合うと鱗が剥がれ、商品価値が下がるため、1回あたり50〜100キログラムずつ丁寧に掬うのが基本であり、作業速度だけを優先すると出荷単価に跳ね返ってくる。
選別と出荷
港に戻ったら、ぶり、さば、あじ、いわしなど魚種ごとに選別する必要があり、市場価格が魚種ごとに違うため、混ぜて出荷すると安値がつく。選別作業は人手がかかるため、パート作業員を雇う経営体が多く、漁獲後の処理体制まで含めて収益性を考える必要がある。
鮮度を保つため、選別後すぐに氷詰めする。活魚として出荷する場合は、生簀(いけす)に移して出荷先の注文を待つが、活魚は鮮魚より1.5〜2倍高値で売れる一方で、生簀の維持費(海水循環装置、酸素供給装置)がかかるため、販路が安定しているかどうかで判断が分かれる。
Step 6: 網の点検と補修
定置網は毎日海中で劣化し、放置すると破網(網が破れること)して魚が逃げるだけでなく、網全体が流失することもあるため、点検と補修を日常業務として組み込めるかどうかが経営の安定性を左右する。
日常点検
網起こしのたびに、網の状態を目視で確認する。破れ、ほつれ、絡まりがあれば、その場で応急処置をする。小さな破れは網針と補修糸で縫い合わせる。大きな破れは、その部分を切り取って新しい網を継ぎ足す。
浮子と沈子の状態も確認する。浮子が割れていると網が沈み、沈子が外れていると網が浮くため、いずれも網の機能を損なう以上、見つけた時点で即座に交換する運用が欠かせない。
月次点検
月に1回は潜水士を入れて網の全体を点検し、水中ではロープの擦れ、アンカーのズレ、海藻の付着などが目視で確認できるため、日常点検では拾いきれない異常を補足できる。海藻が網に絡むと潮通しが悪くなって魚が入りにくくなるため、手作業で剥がすか、高圧洗浄機で洗い流す。
アンカーがズレている場合は、引き上げて打ち直す。ズレを放置すると、次の時化で網が流されるため、補修費の節約を優先した先送りが、結果としてより大きな損失につながりやすい。
年次点検と網替え
年に1回、網を全て引き上げて陸上で点検し、網地の劣化度合いを確認したうえで、3〜5年経過した網は全交換する。網替えの費用は大型定置網で2,000万〜3,000万円、中型で800万〜1,500万円かかるため、漁期中の利益だけでなく更新時期まで見据えた資金繰りが欠かせない。
網替えのタイミングは、対象魚の端境期(魚が少ない時期)に合わせる。ぶりを主体にする定置網なら、ぶりの漁期が終わる3〜4月に網を引き上げ、次の漁期が始まる9〜10月までに新しい網を入れる流れとなる。
よくある失敗と対処法
アンカーのズレによる網の流失
新潟県佐渡沖の定置網で、冬の強風時にアンカーが3個同時にズレ、網全体が500メートル流された事例がある。原因はアンカーの重量不足であり、設計時の想定より潮流が速く、アンカー1個あたり2トンでは保持力が足りなかった。再建時には3トンのアンカーに変更し、打ち込み角度も見直した。
対処法は、設置前に過去10年分の気象データ(風速、波高、潮流速度)を調べ、最悪のケースに耐えられる仕様にすることだ。メーカーの標準仕様は「平均的な海域」を想定しており、荒れやすい海域では強度不足になるため、平均値ではなく外れ値まで含めて設計条件に織り込む必要がある。
網目詰まりによる漁獲減
春先にクラゲが大量発生すると、網目にクラゲが詰まって潮通しが悪くなり、魚が網に入らなくなるため、漁獲量が通常の3割以下に落ちることがある。長崎県五島列島の定置網では、クラゲ対策として目合いを通常より2センチ大きくし、クラゲが通り抜けられるようにした。ただし、目合いを大きくすると小型魚も逃げるため、対象魚種に応じた判断が必要になる。
魚の活力低下による商品価値の減少
夏場、箱網の中で魚を長時間留めると、水温上昇と酸素不足で魚が弱り、弱った魚は市場で「活力不足」と判断されて価格が半値以下になる。対処法は網起こしの頻度を増やすことであり、夏場は1日2回、早朝と昼に網を起こして魚を早めに回収する。
それでも活力が落ちる場合は、箱網に酸素供給装置を設置する。装置の費用は200万〜400万円だが、魚価の下落を防げれば1シーズンで元が取れるケースもあり、単純な設備費の大小ではなく、夏場の販売単価をどう守るかという視点で導入可否を考えたい。
安全上の注意点
網起こし中の転落事故
網起こし作業中は、船が揺れて乗組員が海中に転落する事故が毎年発生しており、水産庁の統計では定置網漁業の労働災害のうち約4割が転落・転覆事故だ(2023年度データ)。対策として、乗組員全員にライフジャケットを着用させ、命綱を船体に固定する。早朝の作業は視界が悪く、足元が濡れて滑りやすいため、滑り止め加工された長靴を履く。
網に絡まる事故
網を引き上げる際は、ロープが急に張って乗組員の足や手に絡まり、海中に引きずり込まれる事故があるため、ロープを扱うときは絶対にロープの輪の中に足を入れない。ロープが張る瞬間は船から離れ、安全な位置で待機することが基本であり、慣れた作業ほど声かけと立ち位置の確認を省かない姿勢が重要になる。
他船との衝突
夜間は、定置網に気づかずに漁船やプレジャーボートが突入し、網を破損する事故が多い。標識灯が消えていると事故のリスクが高まるため、標識灯のバッテリーとソーラーパネルを月1回点検する。さらに、他船が網に近づいた場合は無線で警告し、接触前に回避を促す運用が欠かせない。
次にやるべきこと——漁獲データの記録と分析
定置網漁業で長期的に利益を上げるには、毎日の漁獲データを記録し、傾向を分析する必要がある。記録すべき項目は、漁獲量(魚種ごと)、水温、潮流速度、風向き、天候だ。
これらのデータを1年分蓄積すると、「この時期、この水温、この潮流のときに、どの魚が何キロ獲れるか」が見えてくる。たとえば、水温が18〜20度でぶりの漁獲が増える、潮流が1.2ノット以上になるとさばが多く入る、といった傾向だ。
データをもとに網の設置位置や目合いを微調整すると漁獲効率が上がり、宮城県石巻市の定置網経営体では、過去5年分のデータを分析して網の設置位置を200メートル沖にずらしたところ、ぶりの漁獲量が前年比で28%増えた。データ分析は手間がかかる一方で、設置や更新にかかる投資額の大きさを考えれば、改善余地を数値で把握する意味は大きい。
また、地元漁協や水産試験場が発表する海況予測も参考になり、海面水温の予測データを見て回遊ルートの変化を予測し、網の位置を事前に調整する経営体もある。海面水温が平年より高い年は、従来の経験だけでは対応しきれない場面もあるため、沖寄りに網を張る判断がより重要になる。
ベテランの定置網漁師は「定置網は待ちの漁業じゃない。魚の動きを読んで、網を動かす漁業だ」と言う。つまり、設置して終わりではなく、データを見ながら改善を積み重ねる姿勢が、定置網漁業を続けるうえで欠かせない。
この記事は「漁業経営改善ガイド — 既存漁業者のための収益改善戦略」の関連記事です。漁業に関する体系的な知識はこちらのガイドをご覧ください。
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