まき網漁業は船団で魚群を包囲する大規模漁法で、網入れの判断と巻き上げ速度の調整が漁獲量と魚価を左右する。

主要データ

  • 大中型まき網漁業経営体数:112経営体(水産庁「漁業センサス」2023年)
  • まき網漁業による漁獲量:約52万トン(全国沿岸漁業生産量の約28%、2024年水産庁統計)
  • 大中型まき網1統あたり平均漁獲量:4,680トン/年(水産庁「漁業経営調査」2024年度)
  • 1航海あたりの燃油消費量:平均18〜22キロリットル(大中型まき網、水産庁調べ2025年)

初回の網入れで失敗する理由は魚探の読み違いではない

まき網漁業で最初につまずきやすいのは、魚探に反応が出た瞬間の濃さだけを頼りに網入れを決めてしまう点であり、水深50メートル前後に強い反応が見えていても、包囲と巻き上げまでの時間差を織り込めていなければ空振りになりやすいため、核心は魚探の読み方そのものではなく潮の流れと魚群の移動速度の見積もりにある。

長崎県五島列島の大中型まき網船団では、魚探に明瞭な反応が出てから網船が魚群を包囲するまでに平均12〜15分かかる。短くない。しかも潮流が2ノット以上あれば、その間に魚群は300メートル以上移動するため、反応が出た場所へそのまま向かう判断では網入れ位置がずれ、獲れるはずの魚群を逃しやすくなる。

現場で重視されるのは「魚探の反応の移動ベクトル」であり、スキャニングソナーで魚群の向きと速度を把握し、網船が到達する時点の位置を先回りして読む必要があるのに対し、単純に反応が濃いという理由だけで投網すると巻き上げ時には魚群が抜けていることが多く、この予測精度の差がベテランと新人で漁獲量に3倍以上の差を生む要因となっている。

まき網漁業に必要な船団構成と機材

大中型まき網1統あたりの年間経費の内訳(出典:水産庁「漁業経営調査」(2024年度))
大中型まき網1統あたりの年間経費の内訳

まき網漁業は単独の船では成立せず、最低でも網船、灯船、運搬船の3隻で1船団を構成する。これは大中型まき網の場合であり、中小型や2そう曳きでは編成が異なるものの、いずれも複数船による連携が前提になる。水産庁「令和4年度水産白書」によれば、まき網漁業は日本の海面漁業生産量の約3割を占める主要漁法で、特にアジ・サバ・イワシ類の漁獲において中心的な役割を担っている。

大中型まき網の標準船団構成

大中型まき網では、網船1隻(総トン数300〜500トン級)、灯船2隻(各50〜100トン級)、運搬船1〜2隻(300〜800トン級)、探索船1隻で構成する。役割は明快だ。網船には網を積載し、油圧式の揚網機(パワーブロック)を装備するほか、灯船は集魚灯と魚群探知機を搭載して夜間操業時に魚群を誘集し、探索船は操業前の分布調査を担う。

運搬船は漁獲物を船倉に収容して市場まで運搬し、船倉は冷蔵または冷凍設備を備えて鮮度維持が可能な構造になっているが、それだけでは船団の効率は上がらず、探索船が操業海域の魚群分布を事前に調査して計画の精度を高めることで、各船の役割分担が明確な船団ほど全体の動きが安定しやすいことが現場ではよく知られている。

必須機材と投資額

まき網漁業で最も高額な設備は網そのものであり、大中型まき網用の網は長さ1,300〜1,800メートル、深さ200〜300メートルに達し、1統の新造価格は8,000万〜1億2,000万円になる。網地はナイロンまたはポリエチレン製で、耐久年数は使用頻度にもよるが3〜5年程度となっている。

揚網機は油圧駆動式が主流で、1基あたり3,000万〜5,000万円となる。高い。網を巻き上げる際の張力に耐える構造が求められるうえ、油圧系統の不調は操業停止に直結するため、定期的なメンテナンスを前提に導入を考える必要がある。魚群探知機はスキャニングソナーを含めて1,500万〜3,000万円、集魚灯は1隻あたり500万〜800万円が標準的な価格帯だ。

水産庁の「漁業経営調査」(2024年度)によれば、大中型まき網1統あたりの年間経費は平均で約4億3,000万円に達し、このうち燃油費が約30%、人件費が約25%、網・漁具費が約15%を占めるが、これは好漁時のデータであるため、漁獲が伸びない局面では固定費の重さが相対的に増し、設備投資の回収余地を狭める構造が見て取れる。

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Step 1: 魚群探索と操業海域の選定

まき網漁業の成否は、網を入れる前の魚群探索で8割が決まる。巻き上げ技術が優れていても、魚群のいない海域に網を入れれば空振りに終わる。だからこそ探索船が事前に広域を調査し、有望海域を絞り込むのが定石であり、水産庁「漁業・養殖業生産統計」(2022年)でマアジ約11万トン、マサバ約18万トンと記録されている両魚種でも、この初動の精度が操業全体を左右する。

魚群探索の具体的手順

探索船は操業予定海域を格子状に航行し、魚群探知機で海中の反応を記録する。航跡は1海里(約1.85キロメートル)間隔で設定し、水深50〜150メートル層を重点的にスキャンする。反応があった地点では、緯度経度に加えて水温と潮流データも記録し、本船団へ送信する。

魚種の判別は反応の形状と密度で行い、アジやサバは水深80〜120メートルに群れを作って魚探画面では帯状または塊状の反応として現れるのに対し、イワシ類はより浅い層に分布して薄く広がった反応を示すため、ブリのように単独または小グループで行動する魚は、同じ反応が出てもまき網の対象としては効率が悪いと判断されやすい。

2026年7月現在、東北沿岸では海水温が平年より2度以上高い状態が続いている。宮城県沿岸で23.3度(平年比+2.8度)、秋田県沿岸で25.1度(平年比+2.7度)という上昇は、回遊魚の分布を例年どおりに読めなくする条件であり、サバ類は高水温を嫌ってより沖合または北方へ移動する傾向があるため、探索範囲を広げる判断が必要になりやすい。

操業海域選定の判断基準

魚群反応があっても、それだけですぐに操業海域として選定できるわけではない。海底地形、潮流条件、操業規制の有無まで確認しなければ網入れのリスクが高まるため、現場では複数の情報源を照合しながら、以下の条件を満たす海域かどうかを段階的に絞り込んでいく。

  • 水深が150メートル以下:これより深いと網の展開に時間がかかり、魚群が逃げやすい
  • 海底地形が平坦:岩礁帯や急斜面では網が根掛かりし破損する
  • 潮流が1.5ノット以下:強潮時は網が流され、包囲が困難になる
  • 操業禁止区域外:定置網の敷設海域や海洋保護区では操業できない

長崎県平戸沖のまき網船団では、探索船が有望反応を発見しても、海底地形データと照合して岩礁帯を避ける。理由は明白で、過去に網が海底の岩に引っかかり修理に2,000万円以上かかった事例があるからだ。地形データは海上保安庁の海底地形図とGPSプロッタを組み合わせて確認する。

Step 2: 網船の配置と包囲開始

魚群位置が確定したら、網船と灯船を配置して包囲を開始する。この段階で問われるのは、魚群を驚かせずに囲い込むための船の動きであり、エンジン音や船影で群れが散れば、その後の巻き上げ技術が優れていても漁獲効率は大きく落ちるため、接近の仕方そのものが漁獲量を左右する。

網船の進入ルート

網船は魚群の風上側から静かに接近し、魚群の移動方向と潮流を踏まえて、群れが自然に網の中心部へ入るよう航路を設定する。速すぎてはいけない。船速は3〜4ノットに抑え、急激なエンジン回転数の変化を避けることで、魚群への刺激を小さく保つ必要がある。

網を投入する開始点(投網点)は、魚群の予測位置から150〜200メートル風上に設定する。網船が投網点に到達したら、船尾から網を繰り出しながら魚群を円形に囲むように航行し、船速と網の繰り出し速度をそろえて張力を安定させなければ、途中で網形が崩れて包囲精度が落ちる。

灯船の役割と配置

夜間操業では灯船が集魚灯を点灯し、魚群を一定範囲に留める。灯船は魚群の中心から50〜100メートル離れた位置に配置し、光量を段階的に上げる。急激に点灯すると魚群が驚いて散るため、最初は低光量から始めて徐々に明るくする。

集魚灯の光量は1隻あたり50〜100キロワットが標準的で、光の波長は青白色が効果的とされるが、LEDタイプの集魚灯が普及しつつある背景には、従来のメタルハライドランプと比べて消費電力を3割程度削減できるだけでなく、発熱が少ないことで船内環境の改善にもつながるという運用上の利点がある。

包囲完了までの時間管理

網船が投網点から出発し、魚群を一周して網の両端を合わせるまでに要する時間は、大中型まき網で12〜18分が目安になる。長くはない。だからこそ、その間に魚群が移動しないよう灯船が光で保持し、潮流が強い場合には網の流され方まで見込んで投網点を上流側へずらす判断が必要になる。

包囲が完了したら、網の両端(端網)を連結して環状の網で魚群を取り囲んだ状態にし、続いて網の下部(沈子綱)を締め込んで魚群が下から逃げないようにするが、この締め込みは油圧ウインチで行うため、速さを優先しすぎると網の破損リスクが高まり、かえって漁獲の取りこぼしにつながりかねない。

Step 3: 網の巻き上げと漁獲物の取り込み

網で魚群を包囲したら、揚網機(パワーブロック)で網を巻き上げる。ここが山場だ。巻き上げ速度と張力の調整は、単に魚を逃がさないためだけでなく、魚体の損傷や鮮度低下を抑える意味でも重要であり、漁獲量と品質の両方に直結する工程となっている。

巻き上げ開始のタイミング

沈子綱の締め込みが完了し、魚群が網の中に完全に閉じ込められたことを確認してから巻き上げを開始する。確認は魚群探知機の反応に加え、網が引かれる方向や強さといった動きでも行う。魚群が網に触れて暴れると網が小刻みに揺れるため、経験者は張力計と目視を組み合わせて判断している。

巻き上げはパワーブロックに網を掛け、油圧モーターで回転させて船上に引き上げる方式で、回転速度は毎分15〜20メートルが標準的だが、魚群量や網にかかる荷重が大きい場合に同じ速度を維持すると破断リスクが増すため、荷重の変化に応じて速度を落とす調整が欠かせない。

網の巻き上げ中の注意点

巻き上げ中に網が捻れると、魚が網目に絡まり鮮度が落ちる。原因は投網時の繰り出し方だけではない。潮流によるねじれも重なるため、巻き上げながら網船をゆっくり旋回させ、網の張力を均等に保ってねじれを解消していく操作が必要になる。

網が海面近くまで上がると魚群は圧縮されて密度が高まり、この段階では酸欠が起きやすく鮮度が急速に低下するため、特にサバやアジのように酸欠に弱い魚種では、網の中で長く留めるほど腹切れが発生しやすくなり、市場価値の低下がそのまま収益に響くことから、巻き上げ後の取り込みは速度と丁寧さの両立が求められる。

漁獲物の取り込み作業

網が船側に寄せられたら、魚捕部(網の最終部分で魚が集まる部分)を船上に引き上げる。魚捕部から魚を船倉に移す方法は、ポンプ吸引式とタモ網すくい式がある。ポンプ式は大量の魚を短時間で取り込めるが魚体に傷がつきやすく、タモ網式は時間を要するものの高鮮度を保ちやすい。

取り込んだ魚は即座に運搬船の船倉へ移し、冷海水または氷で冷却する必要があり、冷却開始までの時間が鮮度を左右するため、漁獲から30分以内に冷却できれば高鮮度を維持しやすいが、2026年7月16日時点の東京中央卸売市場では、まぐろ(生鮮)の入荷量が31.1トン、あじが51.3トンと記録されており、夏場の高水温期には冷却設備の能力差が取引価格に影響しやすい。

Step 4: 網の回収と次回操業への準備

漁獲物を取り込んだら、網を船上に回収して次の操業に備える。見た目は地味だが、この工程で網の状態を整えられるかどうかが次回の投網の滑らかさを左右し、網の畳み方や保管状態の差が包囲成功率の差として表れやすい。

網の洗浄と点検

網を船上に揚げたら、海水で洗浄してクラゲやゴミを除去する。クラゲが網目に詰まると、次回の投網時に網の展開が遅れる。洗浄は高圧ポンプで海水を噴射して行い、網地を傷めないよう水圧を調整する。

洗浄後は網に破れや擦れがないかを点検し、小さな損傷でも放置すれば次回操業で一気に広がって大きな損失につながるため、船上では応急補修を済ませ、帰港後に本格的な修理を専門業者へ依頼する流れを日常的に徹底しておく必要がある。

網の畳み方と保管

網は順序立てて畳み、次回の投網時にスムーズに繰り出せる状態にする。乱れは禁物だ。畳み方が崩れると投網時に網が絡まり、包囲に失敗する恐れがあるため、網は船尾の網庫に積み、投網開始部分が最上部に来るよう配置する。

網の保管時は直射日光を避け、風通しの良い場所に置く必要があり、ナイロン網は紫外線で劣化しやすいので長期保管時にはカバーが欠かせない一方、ポリエチレン網は紫外線に比較的強くても折り目に癖がつきやすいため、材質ごとの特性を踏まえて畳み方まで調整することが求められる。

よくある失敗と対処法

まき網漁業では、経験の浅い船団が同じ失敗を繰り返しやすい。失敗の型はある程度限られているため、どこで判断を誤りやすいのかを事前に共有しておけば、損失を抑えながら操業精度を上げていける。

網入れ後に魚群が抜ける

包囲完了前に魚群が網の開口部から逃げるケースは、新人オペレーターに頻発する。主な原因は、包囲速度が遅いか、魚群の移動速度を見誤ったことにある。鹿児島県枕崎のまき網船団では、網船の船速を3.5ノットから4ノットに上げることで包囲時間を短縮し、逃避率を3割減らした。

対処法としては、包囲前に魚群の移動ベクトルを再確認し、包囲完了予測位置を進行方向の前方へ設定しておくことが基本であり、包囲中に魚群が予測位置から外れた場合には、灯船を動かして魚群を誘導しながら網の中心に留める柔軟な修正が必要になる。

網の破損による漁獲物の逃亡

巻き上げ中に網が破れ、漁獲物が逃げるのは最も痛い失敗だ。網の破損は網地の劣化、過負荷、海底の障害物への接触が主な原因になる。網地の強度は使用時間とともに低下し、3年以上使用した網は引張強度が新品の6割程度まで落ちる。

静岡県焼津のまき網船団では、網の使用時間を記録し、累計使用時間が800時間を超えたら主要部分を交換する。網地メーカーの推奨交換時期は1,000時間だが、推奨値いっぱいまで使い切るよりも安全マージンを確保した方が操業中の破損事故を抑えやすく、結果として漁獲の取りこぼしも減らしやすい。

鮮度低下による魚価の下落

漁獲後の冷却が遅れると、魚の鮮度が落ちて市場価格が半値以下になる。特に夏場は海水温が高く、魚体温度の上昇が速い。魚を網から取り込む時間が長引くと、魚が網の中で圧迫されて体温が上がり、死後硬直も早まる。

対処法は取り込み速度を上げることだが、速さだけを追ってポンプ吸引式で魚体に傷をつけてしまっては逆効果であり、三重県尾鷲のまき網船団では取り込み用ポンプを2系統に増やし、吸引圧力を下げて魚体へのダメージを抑えつつ取り込み時間を短縮した結果、魚価が平均で15%向上した。

安全上の注意点

まき網漁業は複数の船が連携して動くため、船同士の衝突リスクが常にある。加えて、網の巻き上げ時には大きな張力がかかり、ワイヤーやロープが破断すれば重大事故につながる。水産庁「漁業センサス」(2018年)によれば、まき網漁業の海上作業従事者数は約4,500人であり、高齢化が進む中では安全管理体制の強化と事故防止策の徹底がいっそう重い課題になっている。

船団間の連絡体制

船団内の各船は無線で常時連絡を取り合い、位置と動きを確認する。特に夜間操業では視界が制限されるため、GPSプロッタで各船の位置をリアルタイムで共有する。無線機の予備バッテリーも常備し、通信途絶のリスクに備える。

連絡体制は単に会話ができればよいわけではなく、投網開始、包囲完了、巻き上げ開始といった節目ごとに共通の報告順序を決めておかないと、同じ情報を聞いても各船の解釈がずれやすいため、平時から短く明確な伝達手順をそろえておくことが安全確保に直結する。

網の張力管理と作業員の配置

網を巻き上げる際、パワーブロックやウインチには数十トンの張力がかかる。危険は大きい。ワイヤーやロープが破断すると反動で周囲の作業員が負傷するため、張力計を常時監視し、許容値を超えた場合には巻き上げを一時停止する判断をためらわないことが重要になる。

作業員は網の張力線上に立たず、ワイヤーが破断した際の危険区域(キックバックゾーン)を事前に設定して周知する必要があり、ヘルメットと救命胴衣の着用だけでなく、夜間は反射材付きの作業服で視認性を確保しておかなければ、船上の狭い作業空間で接触事故が起きやすくなる。

悪天候時の操業判断

波高が2メートルを超える場合、網の投入と巻き上げが困難になる。風速15メートル以上では船の操縦が不安定になり、船団の協調動作も乱れる。気象庁の海上警報と波浪予測を確認し、悪天候が予想される場合は操業を中止する。

教科書では「波高1.5メートル以下が安全操業の目安」とされるが、実際の現場では船の大きさと乗組員の経験で許容範囲が変わり、300トン級の網船なら波高2.5メートルでも操業可能な条件がある反面、50トン級の灯船には厳しいため、船団全体では最も小さい船の安全を基準に判断するのが原則である。

次にやるべきこと: 漁獲データの蓄積と分析

まき網漁業で継続的に成果を上げるには、操業ごとのデータを記録し分析する習慣が欠かせない。どの海域で、どの時期に、どの魚種が獲れたかを残しておけば、経験則だけでは見えにくい再現性が浮かび上がり、次回の探索や操業判断の精度を高めやすくなる。

記録すべきデータ項目

操業ごとに記録するデータは、操業日時、緯度経度、水深、水温、潮流速度、魚種、漁獲量、魚体サイズ、市場価格だ。これらをエクセルまたは専用ソフトに入力し、月次で集計する。GPSプロッタと魚群探知機のデータは自動記録できるため、手動入力の手間を減らせる。

水温と漁獲量の関係を分析すると、特定魚種が好む水温帯が見えてくる。たとえばマアジは18〜22度の水温帯に多く分布し、この範囲を外れると漁獲量が減る。水温データは気象庁の海面水温図と照合し、有望海域を予測する材料として積み上げていく。

データ分析から見える操業パターン

過去3年分のデータを分析すると、季節ごとの漁場の移動パターンが明確になり、たとえば九州西岸では春は沿岸30海里以内、夏は50海里以遠、秋は再び沿岸に戻るという回遊パターンがサバ類で見られるため、この傾向を把握しておけば探索範囲を絞り込みやすくなり、結果として燃油費の抑制にもつながる。

漁獲量と市場価格の変動も記録する。同じ魚種でも、漁獲時期や市場への入荷量で価格が2倍以上変動する。価格が高い時期に集中して操業できれば収益性は上がるが、全船団が同じ戦略を取れば供給過多で価格が下がるため、需給バランスを読む視点も欠かせない。

船団内での情報共有

蓄積したデータは船団内で共有し、全体の操業効率を上げる。特に探索船のデータは網船の判断材料として重要だ。データ共有には専用のクラウドシステムを使い、各船がリアルタイムで情報を閲覧できる環境を整える。

水産庁の「スマート水産業推進事業」では、ICTを活用した漁業データの収集・分析を支援しており、具体的な補助条件や申請方法は各都道府県の水産部局で確認できるが、データ管理システムの導入費用の一部が支援対象になる場合があるため、導入前には制度要件を整理して投資の優先順位を固めておきたい。

データが蓄積されれば、AIを使った漁場予測も視野に入る。過去の漁獲データと海洋環境データ(水温、塩分、クロロフィル濃度)を機械学習モデルに学習させ、有望漁場を予測する技術が実用化されつつある。長崎大学水産学部との共同研究では、予測精度が人間の経験則と同等かそれ以上になるケースも報告されている。

まき網漁業の現場では、魚探の反応が消えたら次の海域へ移動するのが基本だが、データを分析すると反応が消えた海域でも数日後に再び魚群が戻るパターンが見えてくることがあり、そのタイミングを見計らって操業すれば他船との競合を避けながら効率的な漁獲につなげやすく、データは過去の記録であると同時に次の操業を設計する材料にもなる。

この記事は「漁業経営改善ガイド — 既存漁業者のための収益改善戦略」の関連記事です。漁業に関する体系的な知識はこちらのガイドをご覧ください。

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