網代定置網は垣網で魚を誘導して箱網で捕獲する待ち受け漁法で、潮流の変化と網の張力管理が水揚げを左右する。

主要データ

  • 日本の定置網経営体数:5,064経営体(2023年漁業センサス、水産庁)
  • 定置網漁業の年間生産量:約29.8万トン(2024年水産庁漁業・養殖業生産統計)
  • 網代型定置網の最小設置水深:15〜20m以上(全国定置網漁業協会技術指針)
  • 垣網の潮流との推奨角度:30〜45度(沿岸漁業技術指導所調査、2022年)

網代定置網で失敗する最大の原因は垣網の角度だ

定置網を初めて設置する漁業者がつまずきやすいのは垣網の敷設角度であり、千葉県南房総の漁協で2021年に新規に網代定置網を導入した事例では、教科書通りに岸と平行に垣網を張ったところ、初年度の水揚げが想定の4割にも満たなかった。原因を調査したところ、その海域の主流が岸と斜め35度の角度で流れており、垣網に魚が誘導されず素通りしていたことが判明した。

垣網は魚を箱網へ誘導する「壁」だが、その壁が潮流に対して直角に近いと魚は沖へ逃げる一方で、平行すぎると垣網沿いに泳いで箱網へ入らないため、現場では潮流と30〜45度の角度で交わるように垣網を敷設するのが基本となっている。もっとも、この判断は海底地形と季節ごとの流向を把握していないと難しく、水産庁の2024年版「沿岸漁業技術指導資料」によれば、定置網の設置位置選定の失敗が経営不振の原因となったケースは新規参入漁業者の約32%に上る。

さらに、水産庁の「令和4年度水産白書」によれば、定置網漁業における新規就業者の5年後定着率は約58%と他の沿岸漁業と比較して高い水準にあるが、初年度の設置位置選定の失敗が早期撤退の主要因となっていることが見て取れる。網代定置網は、垣網・運動場・箱網という3つの構成要素が連動して機能するため、海底地形・潮流・魚種の遊泳習性という3つの要素を現地で実測したうえで、それに合わせて網の配置を決める作業を省くことはできない。

設置前の海域調査が水揚げの8割を決める

定置網漁業の主要漁獲魚種別生産量(2023年)(出典:水産庁「漁業・養殖業生産統計」(令和5年))
定置網漁業の主要漁獲魚種別生産量(2023年)

網代定置網の成否は、網を入れる前の海域調査で8割が決まるという見方が現場では根強い。これは石川県能登半島で40年以上定置網を営む漁業者の言葉であり、しかも海域環境は年ごとに揺れ動くため、過去の経験だけに頼らず、その時々の潮・地形・魚群の通り道を重ねて見る姿勢が欠かせない。

調査で最初に行うのは海底地形の測量であり、網代定置網は最低でも水深15〜20m以上の海域に設置するが、箱網を設置する場所は平坦で砂泥底が理想となる。岩礁帯は錨の保持力が弱く、時化のたびに網が流されやすい。静岡県伊豆半島沿岸では、岩盤が多い海域で定置網を設置したところ、台風シーズンに錨が抜けて網全体が流失した事例があるため、海底地形は魚群探知機と測深機を使い、設置予定エリアを格子状に測量する必要がある。

次に潮流の観測を行う。潮流は定置網の向きを決める最も重要な要素であるため、流速計を海中に沈めて、大潮・中潮・小潮それぞれのタイミングで24時間連続測定し、表層・中層・底層の3層で流速と流向を記録して、1日の中でどのように変化するかをグラフ化する。この作業を最低でも1か月、できれば季節ごとに実施する必要があり、教科書では「主流に対して垣網を斜めに張る」とされるものの、実際の現場では潮流が1日の中で90度以上向きを変える海域も珍しくない。

魚群の回遊ルートも事前に把握する。地元の刺し網漁業者や一本釣り漁業者から情報を集め、どの季節にどの魚種がどのルートを通るかをヒアリングする。特にブリ・サバ・アジといった回遊魚は、水温と餌の分布に応じて年ごとにルートが変わるため、単年の印象だけで網の向きや長さを決めると、設置後に修正幅が大きくなりやすい。

海底地形測量の具体的手順

測量船に魚群探知機と測深機を搭載し、設置予定海域を50m間隔の格子状に航行する。各測点で水深・海底の硬さ・地形の起伏を記録し、GPS座標と紐づけてデータを取得したうえで、帰港後に海底地形図を作成する。この図をもとに、箱網を設置する位置(平坦で水深が安定している場所)と、垣網の起点・終点を決める。

海底の硬さは錨の選定に直結する。砂泥底なら重量型の錨で保持力が得られるが、岩盤底では錨が滑るため、岩に固定するアンカーボルトが必要になる。この判断を誤ると、設置後に網全体が移動するリスクが生じる。

漁業の統計データをダッシュボードで見る →

網代定置網の構成要素と配置の全体像

網代定置網は「垣網→運動場→箱網」という3段階の構造で魚を捕獲する。垣網は沖から岸へ向かう魚群を遮り、運動場(昇り網とも呼ぶ)へ誘導する。運動場で魚群を一時的に滞留させ、最終的に袋状の箱網へ追い込む仕組みであり、この配置を海域の潮流に合わせて設計することが、網代定置網の設置作業の核心となる。水産庁の「漁業・養殖業生産統計(令和5年)」によれば、定置網漁業の主要漁獲魚種の内訳は、まあじ類約4.2万トン、まさば類約3.8万トン、ぶり類約2.9万トンとなっており、これらの回遊魚が定置網経営の中核を担っている。

垣網は長さ100〜300mの帯状の網で、海底から水面近くまで垂直に張る。網目は10〜15cm角が標準で、小型魚は通過させて成魚だけを誘導する。垣網の沖側の端を「垣網端」と呼び、ここにブイと錨を設置して網を固定する。垣網は海底に沈めるのではなく、浮きで水面に立て、錨で位置を保持する。

運動場は垣網と箱網の中間に位置し、魚群が一時的に滞留するスペースとなる。ここで魚群が落ち着き、潮流の変化とともに箱網へ進入する。運動場の広さは対象魚種によって変わり、ブリやカツオのように遊泳力が強い魚種は広い運動場が必要だが、アジやサバは狭くても捕獲効率が下がらない。

箱網は袋状の網で、底が深く魚が一度入ると出にくい構造になっている。底部に「網起こし」用のロープを通し、揚網時には底を持ち上げて魚を集める。箱網の容量は水揚げ量に応じて設計するが、小規模な網代定置網でも20〜30立方メートル、大規模なものでは100立方メートルを超える。

配置設計の手順

海底地形図と潮流データをもとに、まず箱網の位置を決める。箱網は水深が安定し、揚網作業がしやすい場所を選ぶ。次に、主流の方向に対して30〜45度の角度で垣網を配置し、さらに垣網の長さは対象魚種の回遊ルートの幅に応じて決めるため、ブリのように広範囲を回遊する魚種は200m以上、沿岸性の魚種なら100m程度でも機能する。

運動場の配置は、垣網の終端から箱網の入口までをスムーズにつなぐように設計する。潮流が強い海域では、運動場を広めに取り魚群が一時的に休めるようにする一方で、凪が多い海域では運動場を小さくして魚群が滞留しすぎないようにするため、同じ魚種を狙う場合でも海域条件によって最適解は変わってくる。

垣網の敷設作業と張力調整

垣網の敷設は、沖側の垣網端から岸側へ向かって進める。まず垣網端にブイと錨を設置し、網の起点を固定する。錨は海底の状態に応じて選ぶが、砂泥底ならストックアンカー(爪付き錨)、岩盤底ならマッシュルームアンカー(吸盤型)を使う。錨の重量は潮流の強さに応じて決めるが、流速1ノット以下なら200〜300kg、1.5ノット以上なら500kg以上が目安となる。

垣網を海中に展開する際は、船を一定速度で進めながら網を繰り出す必要があり、網が絡まないよう2〜3人で網を送り出す作業と船の操舵を分担する。風が強い日は網が水面で暴れるため、凪の日を選んで作業する。垣網を全長にわたって展開したら、岸側の端を運動場の入口に接続する。

垣網の張力調整は設置後の最重要作業であり、張力が弱すぎると潮流で網がたるんで魚が網の下を潜って逃げるが、逆に張りすぎると網が破れるため、張力はテンションゲージで測定し、網糸1本あたり10〜15kgを目安に調整する。ただし、これは凪の状態での数値であって、時化が予想される場合は張力を緩めて網にたるみを持たせる運用が求められる。

浮きと沈子の配置

垣網の上部には浮き(フロート)を取り付け、下部には沈子(おもり)を取り付ける。浮きは網を水面に立てる役割を持ち、2〜3m間隔で配置する。浮力は網の重量と潮流の強さに応じて調整するが、一般的には直径20〜30cmのプラスチック製フロートを使う。

沈子は網を海底近くまで沈める役割を持つ。鉛製の沈子を1〜2m間隔で取り付けるが、重量は海底地形に応じて変える。平坦な砂泥底なら軽めの沈子でも網が安定する一方で、起伏の多い岩盤底では重い沈子が必要になる。

箱網の設置と網起こしロープの通し方

箱網は運動場の終端に接続し、袋状に展開する。箱網の口は運動場から自然に魚が流入するよう、主流の方向に向ける。箱網の底部には「網起こしロープ」を通し、揚網時に底を持ち上げて魚を集める仕組みを作るが、このロープの通し方ひとつで揚網作業の流れが乱れることもあれば、逆に短時間で魚を寄せ切れることもある。

網起こしロープは箱網の底部の四隅に取り付け、中央で1本に束ねる。揚網時にはこのロープをウインチで巻き上げるが、ロープが絡まないよう箱網の内側ではなく外側を通すのがコツとなる。福井県小浜市の定置網漁業者は、ロープを内側に通した結果、揚網時にロープが網に絡まり作業が2時間遅れた経験がある。

箱網の容量は、1回の揚網で想定される漁獲量の1.5倍を確保する。漁獲量が予想を超えると箱網が魚で満杯になり、後から入ってきた魚が逃げる一方で、容量が大きすぎると揚網時に魚が箱網の隅に散らばって効率が落ちるため、余裕を持たせつつも過大設計にしない見極めが必要になる。

箱網の材質と網目選択

箱網の材質はナイロンまたはポリエチレンが主流だ。ナイロンは強度が高く破れにくいが、紫外線で劣化しやすい。ポリエチレンは耐久性があるが、ナイロンより高価になる。網目の大きさは対象魚種に応じて選び、ブリやカツオなら網目10〜15cm、アジやサバなら5〜8cmが標準となるが、網目が小さすぎると網が目詰まりし、潮通しが悪くなって魚が酸欠を起こす。

揚網作業の手順と鮮度管理

揚網は潮が動いていない時間帯を選ぶ。潮止まり(満潮または干潮の前後1時間)に作業すると、網が安定して魚が暴れにくい。揚網船を箱網の真上に位置させ、網起こしロープをウインチで巻き上げる。箱網の底が水面近くまで上がったら、タモ網で魚を掬い上げて船上の活魚槽または氷槽へ移す。

鮮度管理は揚網作業と同時に始まる。ブリやサバのように暴れやすい魚種は、タモ網で掬った直後に即殺し、氷で冷やす。活け(活魚)で出荷する魚種は、船上の活魚槽に海水を循環させて酸素を供給し、ストレスを最小限に抑える必要があり、同じ揚網でも出荷形態によって船上作業の段取りは大きく変わる。

揚網後の網の点検も欠かせない。網に破れや穴がないか目視で確認し、補修が必要な箇所をマーキングする。放置すると次回の揚網時に魚が逃げるだけでなく、破れが拡大して網全体の交換が必要になるため、点検と補修は揚網作業と切り離さずに進めるのが実務に合っている。

活魚出荷と鮮魚出荷の判断基準

活魚出荷は単価が高いが、魚にストレスがかかり斃死リスクがある。鮮魚出荷は即殺して氷締めするため鮮度が安定するが、活魚より単価が下がる。どちらを選ぶかは魚種と市場の需要で決める必要があり、ヒラメやタイは活魚の需要が高い一方で、ブリやサバは鮮魚出荷が主流となる。活魚出荷する場合は、揚網から出荷までの時間を6時間以内に抑える。それ以上経過すると魚が衰弱し、活魚として値がつかなくなる。

時化対策と網の保守管理

時化が予想される場合、垣網と箱網の張力を緩めて網にたるみを持たせる。張りすぎた状態で波を受けると網が破れるが、逆にたるみすぎると網が絡まり、時化が収まった後の復旧作業に時間がかかるため、このバランスは経験だけでなく日頃の点検記録にも支えられる。目安として波高2m以上の予報が出たら張力を通常の7割程度に緩める。

台風シーズンには、網を一時的に撤去する判断も必要だ。網を海中に残したまま台風を迎えると、網が流失するだけでなく、錨やロープが周辺の漁船や定置網に絡まる二次被害が発生する。和歌山県串本町では、2023年の台風13号で網を撤去しなかった定置網が流失し、隣接する定置網にも被害が及んだ事例がある。

網の保守管理は月に1回、箱網と垣網を目視点検する。特に箱網の底部は魚が暴れて破れやすい。破れを見つけたらその場で補修するか、破れが大きい場合は網を交換する。網の寿命は使用頻度と海域の環境によるが、ナイロン網で2〜3年、ポリエチレン網で4〜5年が目安だ。

網の補修方法

小さな破れ(直径30cm以下)は、網針と補修用の網糸で縫い合わせる。破れの周囲を補修糸でかがり、網目のパターンを復元する。大きな破れは予備の網を当てて縫い付ける「パッチ補修」を行い、補修作業は陸上で行うのが理想だが、時間がない場合は揚網時に船上で応急処置を施す。

必要な道具と設置の前提条件

網代定置網の設置には、最低でも以下の道具と設備が必要になる。まず網本体だが、垣網・運動場・箱網の3種類を用意する。網の総延長は小規模な網代定置網でも300〜500mに達するため、購入費用は新品で300万〜500万円が相場だ。中古網を活用すれば費用を抑えられるが、破れや劣化の有無を必ず確認する必要がある。水産庁の「漁業センサス(2023年)」によれば、定置網漁業経営体の1経営体あたり平均従事者数は5.2人となっており、小規模な網代定置網でもこの人員規模が運営の目安となる。

錨は海底の状態と潮流の強さに応じて選ぶ。垣網端用の大型錨(300〜500kg)、箱網固定用の中型錨(200〜300kg)、補助用の小型錨(100kg程度)をそれぞれ複数個用意する。ロープは錨から網への接続用、網起こし用、ブイ固定用など用途ごとに太さを変える。直径12〜16mmのナイロンロープが汎用性が高い。

ブイ(浮き)は垣網を水面に立てるための浮力体だ。プラスチック製の円筒型ブイ(直径20〜30cm)を100〜200個用意する。沈子は鉛製のものが主流で、1個あたり2〜5kgのものを100〜150個必要とする。

設置作業には最低でも2隻の船が必要だ。網を運搬・展開する作業船(5〜10トン級)と、錨やロープを運ぶ補助船(3〜5トン級)を用意する。ウインチやクレーンを搭載した船があれば、重量物の取り扱いがしやすく、設置精度の確保にもつながる。

人員と作業日数

網代定置網の設置作業には、最低でも4〜6人の人員が必要だ。網の展開と錨の設置を同時並行で進めるため、2人1組で2〜3組のチーム編成が理想となる。作業日数は海域の条件と網の規模によるが、小規模な網代定置網で3〜5日、大規模なもので1〜2週間を見込むため、天候不良で作業が中断することも織り込み、余裕を持ったスケジュールを組む必要がある。

現場で応用する判断と調整のコツ

網代定置網の運用で最も重要なのは、潮流と魚群の動きを日々観察し、網の配置を微調整することだ。教科書通りに設置しても、実際の海域では季節や天候で潮流が変わる。夏場は南風が強くなり、沖から岸へ向かう流れが強まる一方で、冬場は北風で逆の流れになるため、この変化に合わせて垣網の角度を数度ずつ調整する。

具体的には、垣網端の錨を10〜20m移動させて垣網の向きを変える。移動作業は揚網後の時化が来る前に行うのが効率的であり、錨を引き上げるには船のウインチを使うが、砂泥底なら比較的容易に引き上げられる。一方で、岩盤底では錨が岩に食い込んでいるため、潮流が弱いタイミングを選び、無理に引かず段階的に荷重をかけて慎重に作業する必要がある。

魚群の回遊ルートが変わった場合、垣網の長さを延長する判断も必要だ。回遊ルートが沖側にずれた場合、垣網の沖側端をさらに沖へ延ばして魚群を捕捉する。逆に、岸寄りにずれた場合は垣網を短縮してコストを削減する。この判断は、周辺の刺し網漁業者や一本釣り漁業者の漁模様を聞き取り、自分の網での漁獲データと照らし合わせて行う。

揚網のタイミングも柔軟に調整する。通常は1日1回の揚網が標準だが、魚群が濃い時期は1日2回揚網して鮮度を保つ一方で、魚群が薄い時期は2〜3日に1回の揚網に減らし、燃料費と人件費を抑える。この判断基準は、前日の漁獲量と市場価格のバランスで決める。漁獲量が多くても市場価格が暴落していれば、揚網を遅らせて魚を箱網内で活かしておき、価格が回復してから出荷する選択も現場では行われる。

網目の選択と交換タイミング

対象魚種が変わる季節には、網目を変更する。春先はブリの幼魚が多いため網目を小さくし、秋以降は成魚を狙って網目を大きくする。網目の交換は箱網だけで済ませることが多いが、垣網も対象魚種の体長に応じて変える漁業者もいる。網目が小さすぎると網が目詰まりし、潮通しが悪化して魚が酸欠を起こすため、これを防ぐには揚網時に網を海水で洗い流し、付着物を除去する。

法規制と漁業権の確認

網代定置網を設置するには、漁業権の取得が必須だ。定置網漁業は「定置漁業権」に該当し、都道府県知事の免許を受ける必要がある。漁業権は漁協が一括して取得し、組合員に行使権を配分する形態が一般的であるため、新規に定置網を始める場合は、まず地元漁協に加入し、漁業権の行使資格を得る。

定置網の設置位置は、他の漁業者の操業区域や航路と干渉しないよう調整する。特に、定期航路や港湾の出入口付近は設置が禁止されている海域があるため、設置前に海上保安部と漁協に届け出を行い、位置の承認を得る必要がある。設置後は、定置網の位置を示す標識灯を設置し、夜間でも他の船舶が視認できるようにする。

網に入った魚のうち、漁獲サイズ以下の幼魚は放流する義務がある。都道府県ごとに魚種別の体長制限が定められており、これを遵守しないと漁業法違反となる。揚網時に幼魚が混獲された場合は、魚への負荷をできるだけ抑えながら速やかに海へ戻すことになる。

収支計画と経営の見通し

網代定置網の初期投資は、網・錨・ロープなどの資材費で300万〜500万円、船舶や揚網設備を新規に購入する場合はさらに1,000万〜2,000万円が加わる。中古船や中古網を活用すれば初期投資を半分程度に抑えられる。

年間の運営費は、燃料費・人件費・網の補修費・氷代などで構成される。小規模な網代定置網で年間200万〜300万円、大規模なもので500万〜800万円が目安だ。収入は漁獲量と市場価格に左右されるが、ブリ・アジ・サバを主体とした定置網で年間500万〜1,000万円の水揚げが平均的な数値となる。ただし、この数値は豊漁年のものであり、不漁年には半分以下に落ち込むこともある。

水産庁の「漁業経営調査」(2023年度)によれば、定置網漁業の経営体あたり平均所得は約420万円だが、これは大規模経営体を含む平均値であり、小規模な網代定置網では200万〜300万円程度が実態に近い。経営を安定させるには、複数の販路を確保し、活魚出荷と鮮魚出荷を相場や魚種に応じて使い分け、単価と回転率の両方を見ながら売り先を組み立てる戦略が求められる。

補助金と支援制度

定置網漁業の新規参入には、水産庁の「漁業経営基盤強化支援事業」や都道府県独自の支援制度が利用できる。具体的な補助額や条件は年度ごとに変わるため、水産庁および都道府県の水産課の最新情報を確認する必要がある。また、漁協によっては組合員向けの低利融資制度を設けている場合もあるため、加入時に確認するとよい。

次の時化が来る前に確認すべき3つのポイント

網代定置網の運用で最も避けたいのは、時化による網の流失であるため、次の時化が来る前に、必ず以下の3点を確認する。

第一に、錨の保持力を点検する。錨が海底にしっかり食い込んでいるかを確認するには、ロープの張力を手で触って確かめる。ロープがピンと張っているなら錨が効いているが、ロープにたるみがある場合は錨が浮いている可能性があり、再設置が必要になる。

第二に、網の破れや擦れを修復する。特に垣網と箱網の接続部は摩擦で傷みやすい。破れを放置すると、時化の際に裂け目が拡大して網全体が使えなくなるため、小さな破れでも次の揚網までに補修を済ませる。

第三に、ブイと沈子のバランスを再調整する。長期間使用すると、ブイの浮力が低下したり、沈子が脱落したりする。垣網が水面に正しく立っているか目視で確認し、異常があればブイを追加するか沈子を調整することになる。

これらの点検を怠ると、時化で網が流され、数百万円の損失が発生する。網が海底に沈んだ状態のまま時化を迎えると、網が岩に引っかかり回収不能になることもあるため、点検は凪の日に行い、異常が見つかったらその日のうちに対処するという運用が、網代定置網を長く続けるうえで欠かせない。

この記事は「漁業経営改善ガイド — 既存漁業者のための収益改善戦略」の関連記事です。漁業に関する体系的な知識はこちらのガイドをご覧ください。

この分野の統計データは「漁業の統計データ」で、グラフとテーブルで一覧できます。