林業の原価計算は立木から出荷までの全工程を費用科目ごとに積み上げる手法が基本で、労務費・機械費・間接費の配賦方法が収益性判断を左右する。
「採算が合わない」と嘆く前に原価を見ろ
林業の現場でよく聞く話がある。「木材価格が安くて商売にならない」という声だ。しかし、それは本当に木材価格だけの問題だろうか。
林野庁の「令和3年度 林業経営統計調査」によると、素材生産を行う林業経営体の1m³あたりの平均販売価格は9,800円だったが、同じ調査で生産費は9,200円と報告されている。差額はわずか600円だ。ただし、この数値は調査に回答した経営体のみの平均であり、赤字経営体や小規模事業体の多くは統計に含まれていない可能性が高い。
現場の実態はもっと厳しい。吉野や天竜といった銘木産地でさえ、原価管理をしていない事業体は珍しくない。「何となく黒字だろう」で経営している林家が、実は機械の減価償却費を計上していなかったり、自分の労務費をゼロで計算していたりする。これでは適切な経営判断ができない。
原価計算は面倒だ。しかし、伐採・搬出・造林のどの工程でコストが膨らんでいるのかを把握できなければ、改善のしようがない。チェーンソーの目立てに時間をかけすぎているのか、作業道の配置が悪くて運搬距離が長すぎるのか。数字で見えれば手が打てる。
この記事では、林業における原価計算の具体的なやり方を、立木評価から出荷までの各工程ごとに解説していく。現場で使える帳簿のつけ方、労務費の配賦ルール、機械経費の計算方法まで、実務に即した内容だ。
前提条件・必要な道具
原価計算を始める前に整理すべき3つの要素
原価計算に着手する前に、以下の3要素を明確にしておく必要がある。
1. 計算単位の設定
林業の原価計算では、通常「m³あたり」または「ha(ヘクタール)あたり」を単位とする。素材生産なら材積ベース、造林・保育作業なら面積ベースで計算する。ただし、複数樹種が混在する広葉樹林では樹種ごとに単価が大きく異なるため、樹種別に分けて計算しないと実態が見えなくなる。
2. 作業工程の区分
林業の原価は以下の工程に分けて集計する。
- 伐倒(チェーンソー作業)
- 造材(枝払い・玉切り)
- 集材(林内から土場までの運搬)
- 造林・地拵え(植栽前の整地)
- 下刈り・除伐(保育作業)
- 間伐
各工程で発生した費用を個別に記録しなければ、どこにボトルネックがあるのか判断できない。
3. 費用科目の整理
林業の原価は大きく以下に分類する。
- 直接労務費:作業員の賃金・日当
- 直接材料費:燃料費、チェーンソーオイル、ワイヤーロープなど消耗品
- 直接機械費:林業機械(ハーベスタ、フォワーダなど)の使用にかかる費用
- 間接費:事務所経費、道具のメンテナンス費、作業道補修費など
これらを記録する帳簿がなければ、原価計算は始まらない。
必要な帳簿・ツール
教科書では「原価計算システムを導入しましょう」と書かれるが、実際の現場では導入コストが高すぎて中小事業体では現実的ではない。まずは以下の最低限の記録から始める。
作業日報
作業員ごと、日ごとに記録する。以下の項目を記入する。
- 作業日
- 作業場所(林班・小班)
- 作業内容(伐倒、造材、集材など)
- 作業時間(開始・終了時刻)
- 使用機械
- 作業量(伐倒本数、造材材積、集材距離など)
この日報がなければ、どの工程にどれだけ時間がかかったかが分からない。
機械使用記録
チェーンソー、刈払機、ハーベスタ、フォワーダなど、機械ごとに以下を記録する。
- 使用日
- 使用時間(エンジン稼働時間)
- 燃料消費量
- メンテナンス内容(目立て、オイル交換など)
スチールMS261やハスクバーナ545といった小型機械でも、稼働時間を記録しておかないと減価償却費の配賦ができない。
材積野帳
造材した丸太の記録。以下を記入する。
- 径級(末口直径)
- 材長
- 本数
- 樹種
- 等級(A材、B材、C材など)
これがないと、どの径級の木をどれだけ出荷したのか分からず、売上と原価の対応が取れない。
出荷伝票・売上台帳
市場や製材所への出荷記録。
- 出荷日
- 出荷先
- 樹種・径級・材長・等級
- 本数・材積
- 単価・金額
市場からの精算書をそのまま保管するだけでも最低限の記録になる。

手順
Step 1: 立木評価と取得原価の設定
原価計算の起点は立木の評価だ。自社所有林か、立木を購入したのかで扱いが変わる。
自社所有林の場合
立木の簿価がある場合はその金額を取得原価とする。簿価がない場合(相続や植栽から長期間経過している場合)は、立木評価額を算出する。
立木評価の方法は複数あるが、現場でよく使われるのは「材積法」だ。林分全体の材積を推定し、市場での予想販売価格から伐採・搬出コストを差し引いて逆算する。
例:
推定材積500m³、市場予想単価10,000円/m³の場合、売上見込みは500万円。伐採・搬出コストが4,000円/m³(計200万円)かかると見込めば、立木評価額は300万円となる。
この300万円を原価の起点とする。
立木購入の場合
購入代金がそのまま取得原価になる。ただし、立木代のほかに測量費や仲介手数料がかかった場合は、それも取得原価に含める。
智頭地域などで見られるケースだが、立木を購入したものの、実際に伐採してみたら材積が予想より2割少なかったという失敗がある。立木購入時の材積調査が甘いと、m³あたりの取得単価が跳ね上がり、最初から赤字が確定する。購入前の毎木調査は手を抜いてはいけない。
Step 2: 直接労務費の集計と配賦
直接労務費は、作業員に支払う賃金・日当だ。作業日報をもとに、工程ごとに集計する。
日当制の場合
作業員に日当を支払っている場合、各工程に費やした日数を記録し、工程ごとに労務費を割り振る。
例:
作業員A(日当15,000円)が、伐倒に3日、造材に2日、集材に5日かかった場合、
- 伐倒労務費:15,000円×3日=45,000円
- 造材労務費:15,000円×2日=30,000円
- 集材労務費:15,000円×5日=75,000円
これを作業量で割ってm³あたりの労務費を算出する。
時間給制の場合
作業員が時給で働いている場合、作業日報の作業時間をもとに、工程ごとの労務費を計算する。
例:
伐倒に24時間、時給1,500円の場合、伐倒労務費は36,000円。
自分自身の労務費をどう扱うか
個人経営の林家では、自分の労務費を計上していないケースが多い。これは大きな間違いだ。自分の労働にも対価があると考えなければ、採算性を正しく判断できない。
現場では、地域の標準日当(林業の場合、1日あたり12,000〜16,000円程度)を自分にも適用して計上する。日田地域の小規模林家では、自分の日当を12,000円と設定して計算し直したところ、「黒字だと思っていた山が実は赤字だった」と気づいた事例がある。
Step 3: 直接材料費の集計
直接材料費は、作業に直接使用する消耗品だ。
燃料費
チェーンソー、刈払機、林業機械の燃料(混合ガソリン、軽油)を記録する。機械使用記録をもとに、各工程で使った燃料を集計する。
例:
伐倒・造材にチェーンソーで混合ガソリン20L使用(単価200円/L)→材料費4,000円
集材にフォワーダで軽油50L使用(単価150円/L)→材料費7,500円
チェーンソーオイル、バーオイル
チェーンソー作業では、チェーンオイルとバーオイルが消耗品として発生する。1日の作業でどれくらい消費するかを記録しておく。
ワイヤーロープ、シャックル等
架線集材を行う場合、ワイヤーロープの交換費用がかかる。使用頻度や摩耗状況によって交換時期が変わるため、使用開始日と交換日を記録しておき、その間の作業量で按分する。
Step 4: 直接機械費の集計と配賦
林業機械の使用にかかる費用を集計する。機械費は「減価償却費」「修繕費」「燃料費」「保険料」に分けて計算する。林野庁「令和4年度 森林・林業白書」によると、素材生産における高性能林業機械の利用割合は令和3年度時点で約41%に達しており、機械化による効率化が進む一方で、機械費の適切な原価計算がますます重要になっている。
減価償却費の計算
機械の購入価格を耐用年数で割って、年間の減価償却費を算出する。林業機械の法定耐用年数は機種によって異なるが、一般的には以下の通りだ。
- チェーンソー、刈払機:3年
- フォワーダ、ハーベスタ:5年
- 林内作業車:4年
例:
ハーベスタを2,000万円で購入、耐用年数5年の場合、年間減価償却費は400万円。年間稼働時間が1,200時間であれば、1時間あたりの減価償却費は約3,333円。
この機械で集材作業を30時間行った場合、減価償却費として約10万円を原価に計上する。
修繕費・メンテナンス費
機械の修理費用、定期メンテナンス費用を記録する。大規模な修理(エンジンオーバーホールなど)は資本的支出として資産計上し、減価償却の対象とする場合もあるが、現場では判断が難しい。税理士と相談して処理する。
保険料
林業機械には動産保険をかけるのが一般的だ。年間保険料を稼働時間で割って、使用時間に応じて配賦する。
Step 5: 間接費の配賦
間接費は、特定の工程に直接紐づかない費用だ。
事務所経費
事務所の家賃、光熱費、通信費など。これらは全体の作業量に応じて配賦する。
例:
年間の事務所経費が120万円、年間の素材生産量が600m³の場合、m³あたり2,000円を間接費として配賦する。
作業道補修費
作業道の維持管理費用。作業道を使用した作業量に応じて配賦する。ただし、作業道は複数年にわたって使用するため、単年度の作業だけに全額を負担させるのは不合理だ。作業道の耐用年数(通常10〜15年)を見積もり、年間の減価償却費として計上する方法もある。
その他の間接費
道具のメンテナンス費、安全装備の購入費、研修費など。これらも作業量で按分する。
Step 6: 工程別原価の集計
ここまでのステップで集計した費用を、工程ごとに積み上げる。
伐倒工程の原価
- 直接労務費:45,000円
- 直接材料費(燃料・オイル):4,000円
- 機械費(チェーンソー減価償却費):3,000円
- 間接費:5,000円
- 合計:57,000円
伐倒材積が50m³の場合、m³あたりの伐倒原価は1,140円。
造材工程の原価
- 直接労務費:30,000円
- 直接材料費:2,000円
- 機械費:2,000円
- 間接費:3,000円
- 合計:37,000円
m³あたり740円。
集材工程の原価
- 直接労務費:75,000円
- 直接材料費(燃料):7,500円
- 機械費(フォワーダ):100,000円
- 間接費:8,000円
- 合計:190,500円
m³あたり3,810円。
全工程合計
m³あたりの素材生産原価は、1,140円+740円+3,810円=5,690円。
ここに立木の取得原価(例:600円/m³)を加えると、最終的な原価は6,290円/m³となる。
Step 7: 売上との対比と利益計算
原価が算出できたら、売上と対比して利益を計算する。
売上の集計
出荷伝票から、樹種別・径級別・等級別に売上を集計する。市場での精算価格がそのまま売上となる。
例:
50m³を出荷、平均単価9,500円/m³の場合、売上は475,000円。
利益の計算
売上475,000円-原価314,500円(50m³×6,290円)=利益160,500円。
m³あたりの利益は3,210円となる。
ただし、ここには運搬費や市場手数料が含まれていない。これらを控除した純利益はさらに少なくなる。現場では運搬費が意外と高くつき、m³あたり500〜800円かかることもある。遠隔地の山林では、運搬費だけで利益が消えるケースさえある。
Step 8: 原価データの蓄積と分析
1回の作業で原価計算を終わらせるのではなく、データを蓄積して分析する。林野庁「令和3年度 木材需給報告書」によると、国産材の素材価格はスギ中丸太で13,300円/m³、ヒノキ中丸太で21,100円/m³となっており、樹種によって2倍近い価格差があるため、樹種別の原価管理が収益性に直結する。
工程別原価の推移を見る
毎回の作業で工程別原価を記録しておくと、どの工程の効率が上がっているか(または下がっているか)が見える。
例:
3か月前は集材原価が4,200円/m³だったが、今回は3,810円に下がった。これは作業道の配置を見直して運搬距離を短縮した効果だ。
樹種別・径級別の採算性を見る
樹種や径級によって、原価と売上のバランスが変わる。スギとヒノキでは市場価格が異なり、径級が大きいほど単価は高いが伐倒・搬出に時間がかかる。
秋田地域のある林家では、径級30cm以上の大径木は市場価格が高いものの、伐倒に時間がかかり労務費が膨らむため、実は中径木(径級20〜25cm)のほうが利益率が高いことに気づいた。データがあれば、こうした判断ができる。
機械投資の回収計画
高額な林業機械を導入した場合、何年で回収できるかをシミュレーションする。年間の稼働時間と単位時間あたりの収益を計算し、減価償却費を回収できる見込みがあるかを確認する。
コマツPC30(小型バックホウ)を使った簡易な集材システムを導入した事業体では、導入コスト350万円に対して年間の集材原価削減効果が80万円あり、約4年半で回収できる計算が立った。しかし、故障による稼働停止期間を考慮すると、実際の回収期間は5〜6年になる可能性もある。
よくある失敗と対処法
失敗例1: 自分の労務費をゼロで計算してしまう
個人経営の林家に多い。自分の労働にコストがかかっていないと考えると、採算が取れているように見えてしまう。
対処法
地域の標準日当を自分にも適用する。もし自分が他人を雇って同じ作業をさせたらいくらかかるか、という視点で計算する。
失敗例2: 機械の減価償却を計上していない
チェーンソーやフォワーダを購入した年に全額を費用計上してしまい、翌年以降の原価に機械費が反映されない。これでは実態が見えない。
対処法
機械ごとに取得価格と耐用年数を記録し、毎年減価償却費を計上する。会計ソフトを使わなくても、エクセルで管理できる。
失敗例3: 間接費を無視する
伐倒・造材・集材の直接費だけを計算し、事務所経費や道具のメンテナンス費を無視すると、原価が過小評価される。
対処法
年間の間接費総額を見積もり、作業量で按分する。細かく配賦するのが難しければ、m³あたり一律1,000〜2,000円を間接費として上乗せする簡易的な方法もある。
失敗例4: 作業日報をつけていない
「だいたいこれくらい」で原価を見積もると、実態とかけ離れた数字になる。特に労務費の配賦が適当になり、どの工程にボトルネックがあるのか分からない。
対処法
最初は面倒でも、作業日報を毎日つける習慣をつける。スマホのメモアプリでもいいので、作業終了時にその日の作業内容と時間を記録する。
失敗例5: 立木購入時の材積調査が甘い
立木を購入する際、毎木調査を省略して目測で材積を見積もり、実際に伐採してみたら材積が2割少なかった。購入単価が跳ね上がり、最初から赤字が確定した。
対処法
立木購入前に、必ず標準地調査または毎木調査を行う。手間はかかるが、購入後の後悔よりマシだ。調査を外部に委託する費用も、立木の取得原価に含めて計算する。

安全上の注意点
原価計算そのものに安全リスクはないが、原価を削減しようとして安全装備や休憩時間を削るのは本末転倒だ。林野庁「令和3年度 森林・林業統計要覧」によれば、林業労働災害の発生率は全産業平均の約14倍と依然として高く、安全装備や安全教育のコストは削減対象ではなく必要経費として原価に組み込むべきだ。
安全装備のコストをケチらない
ヘルメット、防護ズボン、安全靴は消耗品だ。原価を下げるために使い古した装備を使い続けると、事故のリスクが高まる。事故が起きれば、原価削減どころではない損失が発生する。
安全装備の費用は間接費として適正に計上し、定期的に更新する。
過度な労働時間の削減目標を立てない
労務費を削減するために「1日8時間を6時間に短縮しよう」という目標を立てると、作業員が休憩を削り、疲労が蓄積して事故につながる。
労働時間の短縮は、作業の効率化(機械化、作業道の配置改善など)で実現するべきで、単に休憩を削るやり方は避ける。
機械の整備不良によるコスト削減は危険
機械のメンテナンス費を削減しようとして、点検を怠ると故障や事故のリスクが高まる。修繕費を原価に計上したくない気持ちは分かるが、予防保全のコストは必要経費だ。
まとめ
原価計算は面倒だが、やらなければ経営の実態は見えない。伐倒・造材・集材の各工程でどれだけコストがかかっているのか、どの径級が採算に合うのか、機械投資は回収できるのか。これらは数字がなければ判断できない。
結論からいえば、林業の原価計算は「作業日報」「機械使用記録」「材積野帳」の3つを毎日つけることから始まる。この記録がなければ、どんな高度な会計システムを導入しても意味がない。
工程別の原価が見えたら、次はボトルネックを探す。労務費が高いなら作業の効率化を、機械費が高いなら稼働時間の最適化を、間接費が高いなら固定費の削減を検討する。
原価が売上を上回っているなら、価格交渉か、作業の効率化か、山を選ぶ基準を見直すか、いずれかの手を打つしかない。数字が見えれば判断できる。見えなければ、ただ「木材価格が安い」と嘆くだけで終わる。
原価が膨らみ始めたら、それは経営が悪化しているサイン。次の作業に入る前に数字を見直せ。
この記事は「林業経営の完全ガイド — 収益構造から事業計画まで」の関連記事です。林業に関する体系的な知識はこちらのガイドをご覧ください。
📊 この分野の統計データは「林業の統計データ」で、グラフとテーブルで一覧できます。
※本記事の情報は公開日時点のものです。最新情報は各公的機関の公式サイトをご確認ください。
※補助金・法規制に関する情報は概要の紹介を目的としており、申請の可否・具体的な条件は管轄機関にお問い合わせください。


