林業 ha当たり収益 計算方法とは、森林1ヘクタール(100m×100m)から得られる収入から経費を差し引いた利益を算出する手法で、主伐・間伐収入、補助金、搬出コストなどを積み上げて計算する。
植林から50年、伐採後の通帳に残った金額が想定の半分だった
天竜の山林所有者が主伐を終えた後、立木販売と補助金を合わせた収入から搬出費用や土場の使用料を引いた結果、ha当たり120万円しか残らなかった。当初は250万円を見込んでいたため、半分以下だ。原因は搬出路の補修費用と、末木の処理コストが想定より膨らんだことにある。
こうした誤算が起きる背景には、収益計算の方法論を知らないか、計算の段階で盛り込むべき項目を見落としているかのどちらかがある。特に立木価格だけを見て「儲かる」と判断し、搬出単価や地拵えの人件費を軽視した結果、最終的な収支が赤字になるケースは珍しくない。林野庁「森林・林業白書(令和5年版)」によれば、民有林における人工林の齢級構成では51年生以上が全体の約52%を占めており、主伐期を迎えた森林が全国的に増加している。こうした状況下で、収益計算の精度はこれまで以上に重要性を増している。
ha当たり収益の計算構造:収入項目と支出項目の内訳
ha当たり収益を正確に把握するには、まず収入側と支出側の項目を漏れなく洗い出す必要がある。
収入側の主要項目
主伐材の販売収入が最も大きい。スギ・ヒノキの立木価格は直径や長さによって変わるが、2023年時点で吉野産ヒノキは立米あたり1万8千円前後、一方で秋田のスギは1万2千円程度と地域差がある。ha当たりの立木本数を400本、平均材積0.5立米とすれば、単純計算で200立米×1万5千円=300万円の収入になる。
ただしこの価格には皮むきや芯止めの処理状態、搬出のしやすさが反映される。土場まで運ぶ距離が長ければ買い取り価格は下がるし、立枯れが混ざっていれば減額対象になる。教科書では「立木価格×材積」で計算するが、実際の現場では土場渡し価格から逆算して立木評価額を決めるため、この順序が逆転することもある。
間伐材や補助金も収入に加える。森林環境保全直接支援事業などの造林補助金は、間伐実施面積に応じて交付されるが、年度ごとに単価が変わるため最新の林野庁告示を確認する前提になる。林野庁「木材需給報告書(令和4年)」によれば、国産材の素材価格(スギ中丸太)は立米あたり13,900円で、前年比でやや下落傾向にある。価格変動リスクを織り込んだ収益計算が求められる。
支出側の主要項目
搬出コストが最大の支出だ。林道から遠い奥地では、ha当たり80万円以上かかることもある。架線集材かフォワーダ搬出かで単価が変わり、フォワーダを使える地形ならha当たり50万円前後に抑えられる場合もあるが、急傾斜地では架線のワイヤー張り替えや支柱設置で100万円を超える。
地拵えの人件費、苗木代、下刈りや除伐の作業費も計上する。再造林を前提とするなら、ha当たり150万円程度の初期投資が必要になるが、この費用は主伐収入から回収する形になる。
さらに見落としやすいのが末木処理と土場の使用料だ。末木は販売にならないため、林内に放置するか焼却するかの判断が必要で、放置すれば次の植林時に地拵えの手間が増える。土場の使用料は森林組合が管理する場合、立米あたり500円前後を請求されることがある。

実際の計算例:スギ人工林50年生の主伐収支
具体的な数値で収支を組み立てる。対象は日田地域のスギ人工林、林齢50年、ha当たり本数400本、平均材積0.45立米とする。
収入側は次の通りだ。立木販売収入は400本×0.45立米×1万3千円=234万円。間伐材の売却益が過去10年間で累積30万円。造林補助金が過去に120万円交付されている。合計384万円が収入となる。
支出側は以下の構成だ。搬出費用がha当たり65万円(フォワーダ使用、林道から平均500m)。地拵え・植栽・下刈りの再造林費用が140万円。土場使用料と末木処理で15万円。保険料や管理費が年間5千円×50年=25万円。合計245万円が支出となる。
差し引きで139万円の利益になるが、これは50年間の収支であり、年あたりに換算すれば約2万8千円にすぎない。しかも、この数字には所有者自身の労働対価や機会費用は含まれていない。
なぜha当たり収益計算が経営判断を左右するのか
結論からいえば、ha当たり収益を把握していなければ、主伐のタイミングも再造林の要否も判断できない。
林業の収益率は他産業に比べて低く、林野庁の「林業経営統計調査」(令和4年度)によれば、素材生産を主体とする林業経営体の所得率は約15%にとどまる。これは農業の所得率30〜40%と比較しても半分以下だ。ただし、この数値には自伐林家や小規模所有者の副業的林業は含まれないため、実態はさらに厳しい可能性がある。
ha当たり収益が100万円を下回る場合、再造林を諦めて針広混交林に転換するか、売却して手放すかの選択を迫られる。智頭町では、ha当たり収益が80万円を切った時点で所有者の7割が再造林を断念し、天然更新に任せる方針に転換したというデータもある(智頭町森林組合調べ、2021年)。
さらに、搬出単価が高止まりしている現状では、収益計算の精度が事業継続の可否を分ける。北山地域では、搬出距離が1km延びるごとにha当たり収益が12万円減少するという試算があり、林道整備の優先順位を決める際の判断材料になっている。

計算の落とし穴:見えにくいコストと過大評価されやすい収入
ha当たり収益を計算する際、最も誤差が生じやすいのは「見えにくいコスト」の扱いだ。
飫肥杉の産地では、主伐後の地拵えで岩が多く出たため、抜根作業に想定の1.8倍の時間がかかり、ha当たり30万円の追加コストが発生した。当初の収益計算では地拵えを一律20万円と見積もっていたが、現地の地質を反映していなかったことが原因だ。
また、立木価格の過大評価も頻発する。市場価格は需給によって変動するため、計算時点の価格をそのまま適用すると、実際の販売時には10〜15%下落していることがある。2020年のコロナ禍では、国産材需要が一時的に落ち込み、立米あたり2千円の下落が全国的に見られた。
補助金も確実な収入とは限らない。交付要件を満たしていても、予算枠の都合で翌年度回しになるケースがあり、キャッシュフローが狂う原因になる。
計算精度を上げるための実務上の工夫
収益計算の精度を高めるには、まず立木調査の段階で材積を正確に測る。直径巻尺とポールを使い、胸高直径と樹高を実測する。サンプル木を10本以上選んで材積計算式(材積=直径²×樹高×形状係数)に当てはめ、平均値を出す。形状係数はスギで0.45、ヒノキで0.42が目安だが、地域や立地で変動する。
搬出コストは見積もりを複数取る。森林組合だけでなく、素材生産業者にも声をかけることで、相場感がつかめる。架線集材とフォワーダ搬出の両方を検討し、地形や林道の状態に応じて選択する。
補助金の交付スケジュールは、都道府県の林務課に直接確認する。要綱に書かれた「交付決定後速やかに」という文言は、実際には2〜3カ月後になることもあるため、資金繰りに余裕を持たせる。
再造林費用は、地拵えの手間を実測ベースで見積もる。末木が多い林分では、チェーンソーでの玉切り作業が増えるため、標準単価より2割増しで計算する。苗木代はコンテナ苗と裸苗で価格差があり、コンテナ苗は1本200円前後、裸苗は120円前後だが、活着率を考慮すればコンテナ苗の方が最終的なコストが下がる場合もある。
ha当たり収益が150万円を下回ったら再造林の採算が取れないサイン
現在の木材価格と搬出コストを前提とすれば、ha当たり収益が150万円を下回った時点で、再造林しても次世代で回収できない可能性が高い。その前に、搬出路の整備状況を見直すか、隣接地との共同施業で搬出単価を下げる交渉をするかの判断が必要になる。林野庁「森林・林業基本計画(令和3年)」では、主伐後の再造林率が約3割にとどまっている現状が報告されており、再造林コストの高さと収益性の低さが林業経営の大きな課題として指摘されている。この数値は、ha当たり収益が一定水準を下回れば再造林が経済合理性を失うことを裏付けている。
この記事は「林業経営の完全ガイド — 収益構造から事業計画まで」の関連記事です。林業に関する体系的な知識はこちらのガイドをご覧ください。
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