養殖鰻の生産で最初に詰まるのは水温管理と給餌の判断だ。水温1度の誤差が成長速度を2週間遅らせ、給餌率0.5%のズレが歩留まりを5%落とす。
主要データ
- 国内養鰻生産量:15,198トン(農林水産省「養殖業生産統計調査」2024年)
- シラスウナギ池入数量:18.7トン(水産庁「養殖業登録関係資料」2025年)
- 養鰻経営体数:392経営体(2023年漁業センサス)
- 平均出荷サイズ:150〜200g(5〜6尾/kg規格)
- 池入から出荷まで:8〜14ヶ月(加温・地域により変動)
養殖鰻で失敗する生産者の共通点
典型例だ。静岡県西部の養鰻場で、池入後3ヶ月目に大量斃死が発生した事例がある。水質検査では異常なしであり、餌も正規品を使用していたが、原因は水温の日較差だった。加温設備の温度設定を26度に固定していたにもかかわらず、夜間の外気温低下で実測では23〜27度の間を振れており、この4度の変動が鰻のストレスとなって免疫力を落とし、細菌性疾病を誘発していた。
問題はここにある。鹿児島県の別の現場では、給餌率を教科書通り「体重の2%」で固定したところ、成長が想定より2割遅れた。その生産者は餌代を抑えようと、やや控えめに給餌していた。結果、出荷時期が2ヶ月遅れ、その間の加温コストと人件費が膨らみ、餌代削減分以上の損失を出したのだ。
共通点は明快だ。この2つの失敗に共通するのは「固定的な数値管理」であり、養殖鰻の現場では水温・溶存酸素・給餌率という3つのパラメータを、日々の池の状態を見ながら微調整し続ける能力が成否を分ける。マニュアルに書かれた数値は、あくまで標準条件下での目安に過ぎない。そこが分岐点だ。
養殖開始前に揃えるべき設備と判断基準

まず全体像だ。農林水産省の「養殖業生産統計調査」(2024年)によると、国内の養鰻生産量は15,198トンで、うち静岡県が4,832トン、鹿児島県が3,547トン、愛知県が3,214トンと上位3県で全体の76.4%を占める。この地域差は気候条件だけでなく、インフラ整備の成熟度に起因する一方で、水産庁「令和5年度水産白書」によると、2023年の養殖うなぎ輸入量は約25,000トンに達して国内生産量を上回っているため、国内生産者は品質と鮮度で差別化を図る必要がある。
養鰻池の構造と水量設計
基本は池だ。養鰻池は土池とコンクリート池に大別される。土池は初期投資が安く、水温の変動が緩やかだが、泥が堆積しやすく病原菌の温床になりやすい。コンクリート池は清掃性に優れ、病気管理がしやすいが、建設コストは土池の3〜4倍かかる。
設計が効く。池の面積は1面あたり200〜500平方メートルが標準であり、これより小さいと水質管理の負荷が高まり、大きすぎると給餌ムラや個体の成長差が拡大するため、現場では作業性と管理精度の両方を見ながら規模を決める必要がある。水深は1.2〜1.5メートルに設定する。浅すぎると夏場の水温上昇が激しく、深すぎると底層の溶存酸素が不足する。
密度も重要だ。池入密度はシラスウナギ換算で1平方メートルあたり150〜250尾が目安になる。ただし、この数値は加温能力と給餌頻度に依存する。加温を十分に行い、1日3回以上給餌できる体制なら密度を上げられるが、自然水温に近い環境なら密度を下げないと成長が鈍る。固定値ではない。
加温設備の選定と燃料コスト
収益の核心だ。養鰻の収益性を最も左右するのが加温コストであり、鰻は変温動物で、至適水温は26〜28度とされるため、この温度帯を外れると摂餌量が落ち、成長速度が鈍化する。ここが採算線だ。
方式ごとの差は大きい。加温方式は重油ボイラーが主流だが、近年はヒートポンプ式や地熱利用も増えている。重油ボイラーは初期投資が比較的安価で、急速加温が可能だが、燃料費は1池あたり年間200〜300万円に達する。ヒートポンプは電気代が重油の6〜7割程度に収まるが、設備費は2倍近くかかる。償却期間は稼働率にもよるが、6〜8年が分岐点になる。
地域条件も効く。静岡県の浜名湖周辺では、地下水の温度が年間を通じて18〜20度で安定しており、これを熱源として利用する生産者もいる。補助加温の必要量が減るため、燃料コストを3割程度削減できるが、地質条件に恵まれた地域に限られる。万能策ではない。
溶存酸素管理のための曝気装置
酸素は生命線だ。鰻の呼吸には溶存酸素(DO)が4mg/L以上必要であり、5mg/L以下になると摂餌量が落ち、3mg/L以下では斃死が始まるため、高密度飼育ではDOの消費速度が速く、曝気装置なしでは管理できない。見落とせない。
設備の標準は明確だ。ブロワー式エアレーションが最も普及している。池底にエアストーンを配置し、空気を送り込む方式だ。1馬力のブロワーで池面積100〜150平方メートルをカバーできる。水車式やパドル式も使われるが、動力コストは若干高くなる。
計測が判断を支える。DOの測定は携帯型溶存酸素計で行い、価格は5万〜15万円程度だが、これをケチると致命的な事故につながるため、毎朝の測定を習慣化し、4.5mg/Lを下回ったら曝気を強化する判断が必要になる。省けない投資だ。
給餌設備と飼料の選択
コストの中心だ。養鰻用飼料は配合飼料が主流で、魚粉・魚油をベースにビタミン・ミネラルを配合したペレット状の製品が使われる。タンパク質含有率は45〜50%が標準だ。価格は1kgあたり250〜350円で、養殖コストの4〜5割を占める。
方式で差が出る。給餌は手撒き、自動給餌機、給餌台方式がある。手撒きは設備費がかからないが、人件費と給餌ムラが課題になる。自動給餌機は100万円前後の投資が必要だが、給餌量の精密制御ができ、歩留まりが2〜3%改善する。給餌台方式は食べ残しの確認がしやすく、過給餌による水質悪化を防げる。選択が収益を左右する。
Step 1: シラスウナギの池入と馴致
出発点だ。シラスウナギの池入時期は12月〜翌年5月が中心であり、水産庁の「養殖業登録関係資料」(2025年)によると、全国のシラスウナギ池入数量は18.7トンで、前年比8.3%減となった。池入価格は年により大きく変動し、2024年漁期は1kgあたり280万〜350万円で推移したうえ、水産庁「内水面漁業生産統計調査」(2023年)では、養殖うなぎの種苗確保が年々困難化しており、天然シラスウナギの採捕量は過去10年で約4割減少したとされる。このため池入価格の高騰が続いている。
池入前の水質調整
準備がすべてだ。池入の3日前から水を張り、水温を22〜24度に調整しておく。シラスウナギは急激な水温変化に弱く、5度以上の差があると浸透圧調節不全を起こして斃死する。井戸水を使う場合は、塩素やメタンガスの有無を確認する。塩素が0.02mg/L以上残留していると、鰻のエラが損傷する。
pHも要点だ。pHは7.0〜8.0に調整する。井戸水はpHが低めのことが多く、そのまま使うと鰻がストレスを受ける。消石灰を少量添加してpHを上げるが、一度に大量投入すると急激なpH上昇で鰻が死ぬ。0.5刻みで調整し、測定を繰り返す。慎重さが必要だ。
シラスウナギの輸送と選別
ここで差がつく。シラスウナギは輸送中の酸欠とストレスで弱りやすく、購入先から池までの移動時間が2時間を超える場合は、酸素ボンベを積んだ活魚車を使う必要があるが、到着後すぐに池入せず、まず選別作業を行う。順序が大事だ。
選別は省けない。選別では、活力のない個体、体色が黒ずんだ個体、外傷のある個体を取り除く。これらを混入させると、池入後に病気を広げる起点になる。選別率は通常5〜8%程度だが、輸送状態が悪いと15%を超えることもある。見逃しは禁物だ。
水温合わせと池入作業
焦りは禁物だ。選別後、輸送水と池の水を混ぜながら1時間かけて水温を合わせ、温度差を1度以内に縮めてから池入する必要があるが、ここを急ぐと鰻がショック状態になり、数日後に大量斃死する。急がないことだ。
池入の時間帯にも意味がある。池入は夕方に行うのが定石であり、日中は水温が上がりやすく、また鰻は夜行性のため夜間の方が落ち着いて環境に馴染む。池入直後は餌を与えない。翌日の夕方から少量ずつ給餌を始める。基本に忠実でいい。
Step 2: 池入後1ヶ月の馴致給餌
最初の山場だ。シラスウナギは天然環境では動物プランクトンを食べているため、配合飼料に慣れるまで時間がかかるが、この馴致期間の給餌管理が、その後の成長速度を決定する。ここが基礎になる。
初期給餌の開始と飼料の選択
始め方が重要だ。池入翌日の夕方、配合飼料を少量撒く。初日の給餌量は体重の0.5%以下に抑える。鰻が餌に気づかず、翌朝に食べ残しが浮いているのが普通だ。食べ残しは必ず回収する。放置すると腐敗して水質を悪化させる。
粒径も外せない。初期飼料はペレット径0.5〜1.0mmの稚魚用を使う。成魚用の3mmペレットを与えても、シラスウナギの口には大きすぎて食べられない。粒径が合わないと摂餌効率が3割以上落ちる。適合が第一だ。
摂餌行動の観察と給餌量の調整
観察が答えを出す。給餌後30分〜1時間、池のそばで鰻の行動を観察する。最初は餌に気づかず逃げ回るが、3〜5日で一部の個体が餌を食べ始める。この「先行個体」が増えると、他の鰻も追随して摂餌するようになる。
増やし方には段階がある。摂餌率が5割を超えたら、給餌量を体重の1%に増やし、8割が食べるようになったら1.5%、全体が安定して食べ始めたら2%まで引き上げるが、この過程には通常2〜3週間かかるため、焦って給餌量を増やすと、食べ残しによる水質悪化で鰻が弱る。急増は禁物だ。
水温と給餌頻度の関係
頻度は水温で決まる。水温が26度以上なら1日3回給餌が基本になり、24〜26度なら2回、22〜24度なら1回に減らす。鰻の消化速度は水温に比例し、26度では4〜6時間で胃が空になるが、22度では8〜10時間かかる。消化が終わらないうちに次の給餌をすると、餌が胃に滞留して消化不良を起こす。
地域差もある。愛知県の一色地区では、加温を十分に行い、年間を通じて水温27〜28度を維持する生産者が多い。この条件下では1日4回給餌も可能だが、餌代と人件費が増えるため、収益性を計算した上で判断する。回数だけでは決められない。
Step 3: 成長期の水質・給餌管理
勝負どころだ。池入から2ヶ月以降が成長期であり、この時期の管理精度が出荷までの期間と歩留まりに直結する。シラスウナギ1kgから出荷サイズまで育てる歩留まりは、優良経営体で5〜6倍、平均的な経営体で4〜5倍とされるうえ、水産庁は「養殖業における持続的生産の推進」(2024年)の中で、飼料効率の向上が環境負荷低減と経営改善の両立につながるとして、増肉係数1.5以下を目標値に掲げている。水温・給餌管理の最適化がこの目標達成の鍵となる。
水温管理の実務
中心は水温だ。成長期の至適水温は27〜28度だ。この温度帯では鰻の代謝が最も活発になり、飼料効率(増肉係数)が1.5〜1.8に収まる。増肉係数とは、1kgの体重増加に必要な飼料量のことで、数値が低いほど効率が良い。
外れると響く。水温が25度に下がると増肉係数は2.0〜2.2に悪化し、餌代が2割増える。30度を超えると鰻がストレスを受け、摂餌量が落ちる。夏場の高水温対策として、遮光ネットを張る、井戸水を追加する、夜間に換水するなどの手段を講じる。早めの対応だ。
日較差の管理が難所になる。水温の日較差は2度以内に抑えるのが理想であり、特に夜間の温度低下は鰻の免疫力を落とす最大の要因になるため、加温設備にサーモスタットを接続し、24時間自動制御するのが確実だが、設備費は50万〜80万円かかる。手動管理の場合、朝夕2回の温度測定と燃料調整が欠かせない。手間を惜しまないことだ。
溶存酸素と換水の判断基準
朝方が危ない。成長期の鰻は酸素消費量が多く、高密度飼育では朝方にDOが3mg/L台まで低下することがある。DOが4mg/Lを下回る日が続くと、摂餌量が減り、成長が2〜3割遅れる。数字は正直だ。
換水には基準がある。換水は池の汚れ具合とDOの値で判断し、透明度が30cm以下になったら換水のサインであるため、池の水を抜きながら新しい水を注ぎ、全体の2〜3割を入れ替える。一度に全量換水すると水温が変動し、鰻がショックを受ける。やり過ぎは逆効果だ。
頻度は一律ではない。換水頻度は飼育密度と給餌量に依存する。密度が高く、1日3回給餌している池では週2〜3回、密度が低く1日2回給餌なら週1回程度が目安になる。ただし、夏場の高温期は水質悪化が速いため、頻度を上げる必要がある。状況次第だ。
給餌率の調整と成長曲線
固定値ではない。成長期の給餌率は体重の2.5〜3.5%が標準だが、これは固定値ではなく、鰻の成長に応じて微調整する。体重50g以下の時期は代謝が活発で、3.5%でも食べきる。100gを超えると代謝が落ち着き、2.5%程度に抑える。変える前提で考える。
判断材料は食べ残しだ。給餌量の判断は、前回の給餌から1時間後の食べ残しで行う。食べ残しがゼロなら給餌量が少ない。逆に1割以上残っていれば過給餌だ。適正な給餌量は「30分で9割が食べ尽くす量」だと覚えておく。現場の目安になる。
曲線を知ると迷いにくい。成長曲線はシグモイドカーブ(S字曲線)を描き、池入直後はゆっくりで、2〜5ヶ月目に急成長し、100gを超えると成長率が鈍化するため、この曲線を頭に入れておくと、給餌率の調整タイミングが掴みやすい。経験則に近い知識だ。
Step 4: 疾病予防と早期発見
予防が先だ。養殖鰻の疾病は、細菌性・寄生虫性・環境性に大別される。一度発生すると池全体に広がり、斃死率が3〜5割に達することもある。予防が最優先だが、早期発見できれば被害を最小限に抑えられる。遅れが命取りだ。
主要疾病とその兆候
まず代表例だ。鰻で最も多いのは細菌性疾病のエドワジエラ症だ。原因菌はEdwardsiella tardaで、水温25度以上の高温期に発生しやすい。初期症状は体表の充血と腹部の膨満で、進行すると筋肉が壊死して斃死する。発症個体を見つけたら、直ちに隔離し、残りの鰻を観察する。
進行の速さにも注意だ。ビブリオ病も高水温期に多発する。症状はエドワジエラ症と似ているが、進行が速く、発見から24時間以内に大量斃死することがある。予防には水質管理とストレス軽減が不可欠だ。油断できない。
寄生虫も軽視できない。寄生虫ではイカリムシとダクチロギルスが問題になり、イカリムシは体表に寄生して白い糸状の卵嚢が見え、ダクチロギルスはエラに寄生して呼吸障害を起こすが、どちらも密度が高く、換水頻度が低い池で増殖する。環境管理と直結する。
疾病予防の実務手順
原則は単純だ。予防の基本は「清浄な水・適正な密度・低ストレス」の3原則であり、池の底泥は病原菌の温床になるため、出荷後は完全に掻き出し、天日干しする。コンクリート池なら塩素消毒も併用する。基本の徹底だ。
薬浴には注意が要る。新規池入時には、シラスウナギを薬浴処理する生産者もいる。ただし、動物用医薬品の使用には農林水産大臣の承認が必要で、使用基準を守らないと食品衛生法違反になる。処理方法の具体的指示は獣医師または水産用医薬品の販売業者に確認する。独断は避けるべきだ。
毎朝の巡回が防波堤になる。日常の観察では、毎朝の巡回時に斃死個体の有無を確認し、斃死が1日1〜2尾なら正常範囲だが、5尾以上なら異常のサインであるため、鰻の泳ぎ方もあわせて観察する必要がある。正常なら底層を這うように動くが、病気になると水面近くを漂う。兆候は必ず出る。
疾病発生時の対応
初動がすべてだ。異常を発見したら、まず水質を測定する。DO、pH、アンモニア濃度、亜硝酸濃度を確認し、基準値を外れていれば直ちに換水する。水質に問題がなければ疾病を疑い、斃死個体を冷蔵(冷凍は不可)して、水産試験場または民間の魚病検査機関に持ち込む。
検査待ちの間も手は打てる。検査結果が出るまでの間、給餌量を通常の5〜7割に減らし、鰻のストレスを軽減する。換水頻度を上げ、曝気を強化する。これだけで症状が軽快することもある。まず落ち着かせることだ。
治療は指示に従う。検査で細菌性疾病が確定した場合、動物用医薬品による治療が必要になる。ただし、具体的な薬剤名・用法・用量は獣医師の指示に従う。薬剤の使用記録は5年間保管が義務づけられている。記録も管理の一部だ。
Step 5: 出荷判定と選別作業
出口の判断だ。池入から8〜14ヶ月が出荷の目安だが、加温条件と成長速度により前後する。出荷サイズは150〜200g(5〜6尾/kg)が主流だが、市場や用途により異なる。最後まで見極めが要る。
出荷サイズの判定
感覚だけでは決めない。出荷前の選別では、池から鰻を掬い上げてサイズを目視確認する。正確には、100尾程度をサンプリングして計量し、平均体重を算出する。平均が150gを超え、ばらつき(変動係数)が30%以内なら出荷適期だ。数字で判断する。
ばらつきへの対応も重要だ。ばらつきが大きい場合、選別して大・中・小に分ける。小型個体を残して追加飼育すると、餌代と加温費が余計にかかる。収益性を考えると、小型も含めて一括出荷し、次の池入に備える方が合理的な場合が多い。ケース次第だ。
出荷前の絶食と活力確認
絶食には意味がある。出荷の2〜3日前から給餌を止める。胃の内容物を排出させ、輸送中の水質悪化を防ぐためだ。絶食期間が長すぎると鰻が痩せて商品価値が落ちるため、48〜72時間が目安になる。
活力の確認も欠かせない。絶食中、鰻の活力を確認し、池を軽く叩いて、鰻が素早く逃げるようなら活力良好だが、動きが鈍い、水面に浮く個体が多い場合、出荷を延期して原因を調べる必要がある。活力不足の鰻を出荷すると、輸送中に斃死し、買い取り拒否や減額のリスクがある。ここで無理はしない。
市場への輸送と取引
輸送も管理工程だ。出荷は活鰻車(酸素供給装置付きの水槽車)で行う。輸送時間が4時間を超える場合、途中で酸素ボンベを交換する。夏場は水温上昇を防ぐため、保冷剤を併用する。品質維持が最優先だ。
価格は需給で動く。取引価格は市場の需給バランスで変動する。土用の丑の日前後(7月)は高値で、それ以外の時期は安値になりやすい。2024年の東京中央卸売市場での平均価格は1kgあたり2,800〜3,200円だったが、サイズと品質により500円以上の差がつく。最後は品質勝負だ。
よくある失敗と現場での対処法
池入直後の大量斃死
最頻出の失敗だ。最も多い失敗は、池入時の水温合わせ不足であり、前述の通り、温度差5度以上でシラスウナギは浸透圧ショックを起こすため、輸送水が15度、池の水が25度という状態で一気に放流すると、翌日に斃死率30%を超えることもある。典型的な初歩ミスだ。
対処は一つだ。対処法は時間をかけた水温合わせしかない。輸送容器に池の水を少しずつ混ぜ、1時間かけて温度を合わせる。急ぐ理由はない。この1時間が数百万円の損失を防ぐ。ここを削らないことだ。
成長停滞と飼料効率悪化
相談の多い症状だ。池入から3ヶ月経過しても体重が50gに達しない、餌を食べる量が増えないという相談が多い。原因の大半は水温不足だ。水温計で測定すると26度を示していても、それは表層の温度で、鰻がいる底層は23〜24度ということがある。見えていないだけだ。
測る場所を変える。対処としては、池の底層で水温を測る必要があり、表層との差が3度以上あれば、加温を強化するか、循環ポンプで水を撹拌する。また、給餌量が多すぎて水質が悪化している可能性もあるため、透明度とDOを確認し、基準を下回っていれば換水する。原因を切り分けることだ。
夏場の高水温による摂餌量低下
夏の難所だ。7〜8月、水温が30度を超えると鰻の食欲が落ちる。給餌しても食べ残しが増え、成長が止まる。無理に給餌を続けると、食べ残しが腐敗して水質が急速に悪化する。悪循環になる。
対処は二段構えだ。対処法は給餌量を減らし、水温を下げる工夫をすることであり、遮光ネットで日射を遮る、井戸水を追加する、夜間に換水して蓄熱を逃がすなどが有効だが、それでも水温が下がらない場合、給餌を体重の1.5〜2%に減らし、鰻の代謝負担を軽減する。無理に食べさせないことだ。
疾病発生後の対応遅れ
遅れが致命傷になる。斃死が増え始めてから対処しても、多くの場合は手遅れだ。細菌性疾病は24〜48時間で池全体に広がる。斃死率を1割以下に抑えるには、初期症状の段階で対応する必要がある。待たないことだ。
鍵は日常観察にある。対処の鍵は日常観察であり、毎朝の巡回時、鰻の泳ぎ方、体色、摂餌状況を見る必要があるが、わずかな変化に気づいたら、すぐに水質測定と斃死個体の検査を行うべきである。「様子を見る」という判断が最も危険だ。
安全上の注意点と事故防止
池への転落事故防止
まず人命だ。養鰻池は水深1.5メートル前後あり、転落すると溺死のリスクがある。特に夜間作業時や、池の縁を歩く際は注意する。池の周囲に柵を設置する、作業時はライフジャケットを着用する、単独作業を避けるなどの対策が必要だ。基本動作の徹底だ。
加温設備の火災・一酸化炭素中毒
設備事故も重い。重油ボイラーは火災リスクがある。燃料配管の劣化、バーナー周辺への可燃物の放置が原因で火災が発生した事例が過去にある。定期的な保守点検と、消火器の設置が必須だ。後回しにできない。
見えない危険もある。ボイラー室内は換気不足で一酸化炭素が蓄積しやすく、密閉された空間での作業時は、換気扇を回し、一酸化炭素警報器を設置する必要があるが、めまい、頭痛を感じたら直ちに屋外に出る。迷わず退避だ。
飼料・薬品の取り扱い
保管管理も重要だ。配合飼料は高温多湿で変質し、カビが生える。カビ毒(アフラトキシン)が混入した飼料を与えると、鰻の肝臓障害を引き起こす。飼料は直射日光を避け、風通しの良い場所に保管する。開封後は1ヶ月以内に使い切る。
薬品は厳格に扱う。動物用医薬品は劇物指定されているものもあり、誤飲・皮膚接触で健康被害が出るため、薬品は施錠できる保管庫に入れ、使用時は手袋・マスクを着用する必要がある。使用記録を残し、残液は適切に廃棄する。管理の徹底に尽きる。
次にやるべきこと:収益性向上の判断基準
結論から言う。養殖鰻の経営で黒字と赤字を分けるのは、シラスウナギの池入価格と出荷時の市況だけではなく、日々の管理精度が歩留まりと飼料効率に直結し、収益の2〜3割を左右する。日常管理こそ収益管理だ。
数字で見るべきだ。具体的な判断基準を挙げる。水温の日較差が2度を超える日が月に5回以上あれば、加温制御の見直しが必要だ。給餌後の食べ残しが3日連続で1割を超えたら、給餌量を減らす。DOが4.5mg/Lを下回る日が週2回以上なら、曝気設備の増強か飼育密度の引き下げを検討する。
期間管理も外せない。出荷サイズ到達までの期間が12ヶ月を超えているなら、水温管理か給餌管理に問題がある。加温を1度上げると成長速度が1〜2割速まるが、燃料費も2割増える。この収支計算を、市況と照らし合わせて判断する。感覚ではなく計算だ。
斃死率は経営の通知表だ。疾病による斃死率が年間5%を超える経営体は、予防管理に課題がある。斃死率3%以下が優良経営体の基準だ。換水頻度、池の消毒、シラスウナギの選別精度を見直す。斃死率1%の改善は、100万円単位の収益改善に直結する。
最後は記録だ。最後に、自分の経営データを記録し続けることが重要であり、池ごとの池入数量、給餌量、斃死数、出荷量、燃料使用量を日々記録し、1年分のデータが溜まれば、自分の池の特性と改善点が見えてくる。データなしで「今年は調子が悪かった」と言っても、次の年に同じ失敗を繰り返す。それに尽きる。
この記事は「漁業経営改善ガイド — 既存漁業者のための収益改善戦略」の関連記事です。漁業に関する体系的な知識はこちらのガイドをご覧ください。
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