木材価格は樹種・径級・産地・需要期で倍以上変動するため、土場で立木を売る前に市況と製材所の引き取り条件を照らし合わせる作業が利益を左右する。
主要データ
- 国産材丸太価格(スギ中丸太):13,000円/m³(農林水産省「木材価格統計」2025年平均)
- ヒノキ中丸太価格:21,800円/m³(同上、2025年平均)
- 製材用素材入荷量:1,287万m³(林野庁「木材需給報告書」2024年度)
- 国産材自給率:42.0%(林野庁「森林・林業白書」2025年版)
- 新設住宅着工戸数:86.7万戸(国土交通省「建築着工統計」2025年度)
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まず整理したい。搬出直前の立木を前にして「この丸太をどの相場に乗せるか」を決める局面では、自分の山の条件と市場の引き取り体制を先に突き合わせる必要があり、価格表だけを見て販売先を選ぶと搬出条件や品質基準とのずれで手取りが崩れやすいため、以下の3パターンで考えるのが現実的である。要は適材適所である。
パターン1:径級30cm以上の大径木を主体に伐採する場合
吉野・天竜など銘木産地の市売り(競り市)を狙う。スギ・ヒノキとも中丸太(径級18〜28cm)の全国平均価格に対し、大径材(30cm超)は1.3〜1.5倍の単価がつく事例が多く、林野庁「森林・林業白書」2025年版によれば銘木市場での平均落札価格はスギ大径材で18,000円/m³前後、ヒノキは28,000円/m³を超える月もあったため、品質を揃えられる山なら市売りの優位性は小さくない。とはいえ市売りは出荷ロット・品質基準が厳しく、皮むき・芯止め処理を土場で済ませておく前提になる。搬出コストを含めても手取りが1.2倍以上になるなら、選ぶ意味がある。
パターン2:径級18〜24cm中心の間伐材を定期的に出荷する場合
森林組合の共販または製材工場との年間契約を結ぶ。中丸太は住宅用構造材の主力で需要は安定しているが、単価は市況連動型が多く、農林水産省「木材価格統計」2025年平均ではスギ中丸太13,000円/m³、ヒノキ21,800円/m³だった一方で、月ごとに±8%程度の振れ幅があるため、定期出荷を前提とするなら相場の山谷を追うより契約条件を固めた方が収支管理はしやすい。年間契約なら価格は固定または四半期ごと見直しとなる。下落リスクも抑えやすい。
秋田・日田・智頭など各地の森林組合が取り扱う共販では、出荷時期を分散させることで平均単価を安定化させる仕組みを採用している。搬出量が年間200m³を超えるなら、契約ベースの交渉余地も出てくる。ここが目安だ。
パターン3:小径木・曲がり材・末木が多い皆伐現場の場合
合板工場・チップ工場への直送ルートを確保する。径級14cm未満の小径材、曲がり・節の多い低質材は製材用には向かないが、合板用材やバイオマス燃料として需要があり、林野庁「木材需給報告書」2024年度によると合板用素材の入荷量は前年比103%の490万m³で、国産材比率は87%に達したため、製材に無理に載せるより用途を切り分けた方が全体収支は整いやすい。合板工場では径級10cm以上なら引き取る例が多い。単価は製材用の4割程度(スギで5,000〜6,000円/m³)だが、搬出・仕分けコストを抑えられれば赤字は避けやすい。
末木のチップ化も含め、土場で用途別に仕分けて複数工場へ分納する計画を立てるのが現実的である。無理に一本化しないことだ。
なぜ状況で最適解が変わるのか

問題はここにある。木材価格は「樹種・径級・品質・産地・時期」の5要素で決まり、それぞれが掛け算で効いてくるが、実際の現場では搬出タイミング・土場の保管能力・製材所の引き取りスケジュールが先に決まっているため、教科書どおりに「市況を見て高値で売る」だけでは動けず、価格形成と物流条件を同時に見なければ判断を誤りやすい。林野庁の調査では、立木販売から代金回収まで平均2.5〜3.5か月かかる。その間に相場が1割動くことも珍しくない。
要するに、価格を追いかけるより自分の山の条件に合った販売先を固定し、径級・品質を揃えて出荷量を増やす方が手取りは安定する。これが実務である。
径級が1cm違うだけで単価が5〜10%変わる現実
数字が示す。製材所の製材機械は刃物の幅と送り速度が決まっているため、径級ごとに加工効率が大きく変わり、スギ中丸太の主力径級は20〜24cmで、この範囲なら製材歩留まりが60%前後を維持できる一方、径級18cmでは歩留まりが55%に落ち、28cmを超えると設備の制約で加工できない工場も出てくるため、わずかな径級差がそのまま買い取り評価に反映されやすい。農林水産省「木材価格統計」2025年1月〜12月の月別データを見ると、スギ中丸太(径級22cm)の平均単価13,000円/m³に対し、径級18cmは11,800円/m³、径級26cmは14,200円/m³だった。径級1cm違いで単価が約4〜5%変動する計算になる。
土場で丸太を仕分ける際、径級を2cm刻みで揃えるだけで買い取り側の評価が上がり、交渉単価が5%改善した事例もある。見逃せない差である。
産地ブランドと市場アクセスの関係
見落とせない。吉野(奈良)・天竜(静岡)・飫肥(宮崎)など銘木産地では、市売り会場が定期的に開かれ、全国の製材所・木材商が競り参加するため価格形成が厚くなりやすく、飫肥杉の場合、地元の日南市森林組合が月2回の市売りを開催し、平均落札価格は全国平均を1.2〜1.3倍上回る。だが出荷には組合の事前検査がある。皮むき・長さ揃え(4m・6m・8mの定尺)・曲がり0.5%以内などの基準をクリアする必要がある。
逆に産地ブランドがない地域では、市売りより製材工場への直送が主流で、単価は全国平均並みだが搬出から入金まで1か月以内に収まる例が多く、価格面で見劣りしても資金回転が速いという利点があるため、市売りで高値を狙うか直送で回転率を上げるかは、自分の土場の保管能力と資金繰りを踏まえて決めるほかない。ここが分かれ目になる。
需要期と在庫調整のタイムラグ
タイミングが効く。製材所の在庫は通常1〜1.5か月分で、住宅着工が増える春(3〜5月)と秋(9〜11月)の前に丸太の買い付けが集中し、国土交通省「建築着工統計」2025年度によると、新設住宅着工戸数は年間86.7万戸で前年比98.2%とやや減少したが、月別では4月と10月にピークが見られた。製材所は着工ピークの1〜2か月前に丸太を仕入れる。そのため2月と8月に丸太価格が上昇しやすい。
農林水産省「木材価格統計」でも、スギ中丸太は2月に13,600円/m³、8月に13,400円/m³と、年平均13,000円/m³を上回った。ただし2026年5月21日現在、関東・北陸で雨が続いており、土場からの搬出が遅れる現場が増えている一方で、製材所の在庫も潤沢なため、6月の価格は横ばいか微減が予想される。需要期を狙うなら、搬出時期を2か月前倒しする計画が必要である。
全体比較表
販売先 | 主な対象径級 | スギ中丸太単価目安(円/m³) | 出荷ロット | 入金サイクル | 品質基準 |
|---|---|---|---|---|---|
銘木市売り(吉野・天竜等) | 24cm以上 | 15,000〜20,000 | 20m³〜 | 2〜3か月 | 厳(皮むき・芯止め・曲がり0.5%以内) |
森林組合共販 | 18〜28cm | 12,000〜14,000 | 10m³〜 | 1.5〜2.5か月 | 中(曲がり1%以内) |
製材工場直送(年間契約) | 18〜28cm | 11,500〜13,500 | 30m³〜 | 1〜1.5か月 | 中(曲がり1.5%以内) |
合板工場 | 10〜24cm | 5,000〜7,000 | 50m³〜 | 1か月 | 緩(曲がり・節OK) |
チップ工場(バイオマス) | 制限なし(末木含む) | 3,000〜5,000 | 制限なし | 即金〜1か月 | 極緩(長さ・曲がり不問) |
まず全体像である。上記の単価は2025年度の全国平均相場をもとにした目安で、地域・時期・需給状況により±15%程度変動し、林野庁「森林・林業白書」2025年版ではスギ中丸太の地域別価格差が最大1.4倍に達したと報告されているため、表の数字は出発点にはなっても、そのまま現場の手取りを保証するものではない。北海道(釧路)のカラマツ材は本州より輸送コストがかさむため、地元合板工場への直送が主流になる。一方、九州南部(宮崎・鹿児島)はスギ・ヒノキの生産量が多く、製材・合板・チップの各工場が集積しているため、径級ごとに販売先を使い分けやすい環境にある。
地域差は大きい。その前提で見るべきだ。
各販売先の詳細と選び方

銘木市売り:大径材で高値を狙う
有力な選択肢だ。吉野(奈良県)・天竜(静岡県)・北山(京都府)などの銘木産地では、月1〜2回の市売り会場で丸太が競りにかけられ、吉野では吉野製材工業協同組合が運営する市売りが有名で、スギ・ヒノキとも径級30cm以上の大径材が中心となっている。2025年度の平均落札価格は、スギ大径材18,500円/m³、ヒノキ大径材29,000円/m³だった。全国平均(スギ中丸太13,000円/m³)と比べると1.4倍以上の単価になる。魅力は明白である。
ただし出荷基準は厳格で、皮むきは必須であり、芯止め(丸太の両端を直角に切断)・長さ揃え(4m・6m・8mの定尺)・曲がり0.5%以内が求められるため、土場で丸太を1本ずつ検品し、基準外は別ルートに回す作業が発生するうえ、市売りの開催日から代金入金まで2〜3か月かかるため、単価が高くても資金繰りに余裕がなければ使いにくい。天竜では天竜森林組合が市売りと並行して製材工場への直送ルートも確保している。品質の高い大径材は市売り、それ以外は直送と使い分ける出荷者が多い。
市売りで高値を狙うなら、搬出前に森林組合の担当者に丸太を見てもらい、出荷可否を確認するのが確実である。先に見せるのが近道だ。
森林組合共販:中丸太の定番ルート
迷いにくい選択だ。全国の森林組合が運営する共販制度は、組合員から丸太を集荷し、製材所へまとめて販売する仕組みであり、秋田県の秋田中央森林組合、大分県の日田市森林組合、鳥取県の智頭町森林組合など、各地で実施されている。出荷ロットは10m³〜で、小規模な山林所有者でも参加しやすい。共販価格は市況連動型が多い。農林水産省「木材価格統計」の月次価格を参照して四半期ごとに見直す方式が一般的である。
秋田中央森林組合の事例では、スギ中丸太(径級20〜24cm)の2025年度平均価格は12,800円/m³で、全国平均13,000円/m³をやや下回ったが、搬出から入金まで1.5か月と早く、また組合が土場での検品・仕分けを代行するため、出荷者は伐採・搬出に専念できるという利点がある。品質基準は市売りより緩く、曲がり1%以内・長さ3m以上であれば受け入れる例が多い。とはいえ共販価格は全組合員一律のため、自分の丸太が高品質でも単価交渉の余地は少ない。大径材や特に品質の高い丸太は市売りに回し、中丸太を共販に出すという使い分けが現実的である。
製材工場直送:年間契約で安定化
安定志向なら有力だ。製材工場と直接契約を結び、年間を通じて定量出荷する方式で、出荷ロットは30m³〜が目安となり、年間200m³以上の搬出量があれば交渉しやすい。価格は年度初めに固定するか、四半期ごと見直しとなるため、相場下落時のリスクヘッジになる。農林水産省「木材価格統計」2025年度では、スギ中丸太の価格変動幅が年間で最大12%(11月安値12,100円/m³、2月高値13,600円/m³)に達した。固定価格契約なら平均単価を確保しやすい。
製材工場は設備の稼働率を高めたいため、安定供給できる出荷者を優遇する傾向があり、天竜地域のある製材工場では、年間契約者に対しスギ中丸太13,200円/m³(全国平均+1.5%)で買い取る例があった。だが契約には出荷時期・径級・品質の指定が含まれ、基準外の丸太は減額または引き取り拒否となるため、曲がり1.5%以内、径級20〜26cm中心など、工場の設備に合った丸太を安定的に供給できるかが契約継続の鍵になる。契約交渉の際は、自分の山の齢級構成・間伐計画を示し、年間出荷量を明示するとよい。準備がものを言う。
合板工場:小径材・低質材の受け皿
受け皿として重要である。間伐材や皆伐時の小径木(径級10〜18cm)、曲がり・節の多い低質材は、製材用には向かないが合板用材として需要があり、林野庁「木材需給報告書」2024年度によると、合板用素材の入荷量は490万m³で、うち国産材が87%を占めた。国産材比率は10年前の65%から20ポイント以上上昇している。輸入材からの置き換えが進んでいる。
合板工場の買い取り単価は製材用の4〜5割程度で、スギ小径材なら5,000〜7,000円/m³が相場であり、径級10cm以上、長さ2m以上であれば引き取る工場が多く、曲がりや節は問わないため、製材規格に乗りにくい材でも現金化しやすい。宮崎県の都城市周辺には合板工場が複数立地し、地元の森林組合が小径材を集荷して分納している。ある現場では、皆伐時に径級24cm以上を製材工場へ、18〜24cmを森林組合共販へ、14〜18cmを合板工場へと3分割出荷したところ、平均単価が製材専売より8%向上した。合板工場は出荷ロットが50m³〜と大きいため、複数の山林をまとめて搬出する計画が必要になる。段取りが要る。
チップ工場:末木・低質材の最終手段
最後の受け口だ。径級10cm未満の末木、立枯れ、搬出時の損傷材など、製材・合板にも向かない材はチップ化してバイオマス燃料や製紙原料にし、林野庁「森林・林業白書」2025年版によると、木質バイオマス発電施設の燃料用チップ需要は年間約800万トン(乾燥重量)で、うち林地残材・末木が3割を占める。チップ工場の買い取り単価は3,000〜5,000円/m³と低い。だが搬出コストを抑えられれば赤字は避けられる。
日田市周辺では、製材工場に併設されたチップ工場が末木を引き取り、自社のバイオマスボイラー燃料に使っており、長さ・曲がり不問で、土場で仕分けせずダンプに積み込むだけなので、仕分けコストがゼロになる。ある皆伐現場では、末木を含む全材積350m³のうち50m³をチップ化し、仕分け人件費を2日分削減できた。チップ単価は安いが、搬出・仕分けの手間を減らす手段としては有効である。ただしチップ工場は地域に偏在しており、近隣にない場合は輸送コストが跳ね上がる。事前確認が前提になる。
価格交渉で使える実務のポイント
径級・長さを揃えて「ロット評価」を上げる
基本はこれだ。製材所は同じ径級・長さの丸太をまとめて加工する方が機械の段取り替えが減り、効率が上がるため、土場で径級を2cm刻み、長さを定尺(4m・6m・8m)に揃えて出荷すると、買い取り側の評価が上がり単価交渉の余地が生まれる。天竜地域のある出荷者は、スギ中丸太を径級22〜24cm・長さ4mに揃えて30m³出荷したところ、通常単価13,000円/m³に対し13,400円/m³(+3%)で買い取られた。揃えるための仕分け作業は土場で半日かかった。だが増収分で人件費を上回った。
逆に径級・長さがばらつくと、製材所は受け入れ後に再仕分けする手間を負うため、その負担が単価引き下げの理由になりやすく、特に小規模な製材所では仕分けスペースが限られることから、揃った丸太を優先的に買い取る傾向が強い。土場に径級ゲージ(直径測定用の簡易器具)とマーキング用スプレーを常備し、搬出前に仕分けを済ませるだけで交渉力は変わる。地味だが効く。
搬出時期を需要期の2か月前に設定する
先回りが大切だ。製材所は住宅着工ピーク(4月・10月)の1〜2か月前に丸太を仕入れるため、2月と8月に価格が上昇しやすく、農林水産省「木材価格統計」2025年度では、スギ中丸太の月別価格が2月13,600円/m³、8月13,400円/m³と、年平均13,000円/m³を4〜6%上回った。逆に6月と12月は在庫調整期で価格が下がりやすい。11月は12,100円/m³まで落ちた。
搬出時期を2か月前倒しするには、伐採計画を年度初めに立て、地拵え・作業道開設を前年度中に済ませる準備が必要であり、智頭町森林組合では組合員に年間搬出スケジュールを提出させ、需要期に合わせて伐採順序を調整しているため、現場の都合だけでなく受け入れ側の都合も織り込んだ工程管理が欠かせない。2月出荷を狙う現場は12月中に伐採を終え、1月に土場で検品・仕分けを完了する流れだ。ただし2026年5月21日現在、関東・北陸では雨天が続いており、6月の搬出予定が遅れる現場が出ている。雨で土場がぬかるむと重機の稼働効率が落ち、搬出コストが1.5倍に跳ね上がる事例もあるため、天候リスクを織り込んだ予備日を設定するのが現実的である。
複数販売先への分納で平均単価を底上げ
発想を変えたい。径級・品質ごとに販売先を使い分けると、全体の平均単価を引き上げられる。宮崎県のある皆伐現場では、総材積400m³を以下のように分納した。
- 径級28cm以上(70m³):飫肥杉市売り → 平均18,000円/m³
- 径級20〜26cm(200m³):森林組合共販 → 13,000円/m³
- 径級14〜18cm(100m³):合板工場 → 6,500円/m³
- 径級14cm未満・末木(30m³):チップ工場 → 4,000円/m³
全体の平均単価は12,075円/m³となり、全量を森林組合共販に出した場合(13,000円/m³)より若干下がったが、大径材を市売りに回したことで高品質材の評価が上がり、翌年度の共販単価が13,200円/m³に改善されたため、単年の数字だけでは見えにくい取引条件の改善が起きている点は押さえておきたい。製材所や組合の担当者は、出荷者が品質を意識して仕分けしていると評価し、継続取引の優先度を上げる傾向がある。一方で、分納には複数の輸送手配と書類作成が必要で、事務負担は増える。だが長期的な信用構築にはつながる。
よくある失敗と回避策
市売り狙いで出荷したが基準外で減額された
典型例である。吉野の市売りに初めて出荷した山林所有者が、スギ大径材30m³を搬入したところ、曲がり1.2%の丸太が3m³含まれていたため基準外と判定され、その分は市売りから除外されて別ルートで買い取られた。結果、3m³は単価9,000円/m³(市売り平均18,000円/m³の半額)となり、全体の平均単価が16,200円/m³に下がった。原因は明確だ。市売りの品質基準(曲がり0.5%以内)を把握していなかった。
回避策もはっきりしている。初回出荷前に森林組合の担当者に土場で丸太を検品してもらい、基準を満たすか確認する手順を踏むべきだった。吉野製材工業協同組合は事前検品サービスを提供しており、組合員なら無料で利用できる。基準外の丸太は最初から別ルートに回せばよい。減額リスクは避けられる。
需要期を狙ったが在庫過多で価格が上がらなかった
相場だけでは足りない。2月の需要期を狙って搬出計画を立てたが、同じ時期に周辺の山林所有者も一斉に出荷し、製材所の在庫が積み上がって価格が横ばいに終わった。農林水産省「木材価格統計」では2月に価格上昇が見られたが、地域別では宮崎・鹿児島など生産量の多い地域で在庫過多が発生し、価格が前月比-2%と下がった例もあった。全国平均の市況と地域の需給バランスは一致しない。そこを読み違えた形だ。
回避策として、製材所や森林組合に事前に出荷時期を伝え、在庫状況を確認する手順が有効であり、秋田中央森林組合では組合員の出荷希望時期を集約し、製材所と調整して分散出荷を促しているため、需要期を狙う場合でも単独で突っ込むのではなく、周辺出荷の動きと合わせて調整する方が失敗しにくい。また年間契約を結んでおけば、需要期の価格変動リスクを製材所側が負担する。計画は立てやすくなる。
小径材を製材工場に持ち込んで引き取り拒否された
これも多い。間伐で出た径級16cmのスギ丸太50m³を、いつも取引している製材工場に持ち込んだところ、「うちの設備は径級18cm以上が前提」と言われて引き取りを断られた。結局、別の合板工場を探して搬入したが、輸送距離が30km伸び、運賃が往復で5万円増加した。製材工場ごとに対応できる径級範囲が決まっている。事前確認が欠けていた。
教科書では「丸太は製材工場へ」とされがちだが、実際の現場では設備の制約で引き取れない径級・樹種があり、これは製材機械の問題のみならず工場の製品ラインナップの問題でもあるため、住宅用構造材を主力にする工場は中丸太(径級18〜28cm)しか扱わず、小径材は合板工場へ回すのが定石になる。搬出前に製材所・合板工場・チップ工場の引き取り条件(径級・長さ・樹種)を一覧表にまとめ、土場に貼っておくと仕分けミスを防げる。現場で効く対策である。
市況情報の入手と活用
公的統計で全国相場を把握する
まず基準を持つ。農林水産省「木材価格統計」は毎月中旬に前月の丸太価格を公表しており、樹種別・径級別・用途別の平均価格がわかる。林野庁「木材需給報告書」は四半期ごとに素材入荷量・製材品出荷量を公表し、需給バランスの変化を読み取れる。これらの統計はe-Stat(政府統計ポータル)で無料閲覧できる。基礎資料として使いやすい。
ただし統計の公表は1〜2か月遅れるため、リアルタイムの市況判断には使いにくく、天竜森林組合や日田市森林組合など、大手の森林組合は週次で市況情報を組合員に配信しており、製材所からの引き合い状況・在庫水準を共有しているので、統計と現場情報を重ねて見ることが重要になる。組合に加入していれば、こうした情報を活用して搬出時期を微調整できる。また製材所の担当者と直接やり取りする関係を築いておくと、「来月は在庫が薄いので早めに出荷してほしい」といった依頼が入り、価格交渉の材料にもなる。情報差は小さくない。
地域の市売り結果を参考にする
足元を見る。吉野・天竜・飫肥など銘木産地の市売りは、落札結果が公表されることが多く、吉野製材工業協同組合のウェブサイトでは、毎回の市売りで落札された丸太の樹種・径級・単価が一覧表で掲載されている。自分の山の丸太と似た条件の落札価格を見れば、市売りに出す価値があるか判断しやすい。実務で使える材料だ。
飫肥杉の市売りでは、径級30cm・長さ6mのスギ柱材が2025年10月に22,000円/m³で落札された記録があり、同時期の全国平均(スギ中丸太13,000円/m³)の1.7倍だった。一方、径級22cmの中丸太は14,000円/m³で、全国平均より1,000円高い程度にとどまるため、市売りのメリットは大径材で顕著に現れ、径級26cm未満なら共販や直送の方が手取りが安定するケースが多い。市売り結果を定期的にチェックし、自分の山の丸太がどの価格帯に入るか見極める習慣をつけると、販売先選びの精度は上がる。継続が効く。
搬出コストと価格の関係
搬出単価が高いと販売単価が相殺される
手取りで見るべきだ。丸太の販売単価が高くても、搬出コストが高ければ手取りは減り、林野庁「森林・林業白書」2025年版によると、素材生産の平均コストは7,500円/m³(伐採・搬出・土場管理の合計)で、このうち搬出が4,000円/m³を占める。作業道からの距離が100mを超えると、搬出コストが1.5倍に跳ね上がる事例もある。単価だけでは判断できない。
ある皆伐現場では、土場から製材工場まで50kmの距離があり、運賃が2,500円/m³かかったため、販売単価13,000円/m³から搬出コスト4,000円/m³と運賃2,500円/m³を引くと、手取りは6,500円/m³だった。一方、近隣の合板工場なら運賃が1,000円/m³で済むため、販売単価6,500円/m³でも手取りは5,500円/m³となり、差は1,000円/m³にとどまる。販売単価ではなく、搬出・運賃を含めた手取り単価で比較するのが基本である。
搬出コストを下げる手段として、作業道の延伸・高性能林業機械(ハーベスタ・フォワーダ)の導入が挙げられるが、初期投資が大きく、スチールMS261やハスクバーナ545などのチェーンソーは10万円前後だが、ハーベスタは中古でも1,000万円を超えるため、単純に機械更新へ進むのではなく、補助制度の有無と稼働量の見込みを合わせて考える必要がある。林野庁の「森林整備事業」や都道府県の補助金を活用できるが、条件は年度ごとに変わる。各都道府県の林業担当部署で最新情報を確認したい。
土場の立地と販売先の選択肢
立地は重い制約だ。土場が幹線道路に近いか、製材所・合板工場から何km圏内にあるかで、販売先の選択肢が変わる。宮崎県の都城市周辺は製材・合板・チップの各工場が半径20km圏内に集積しており、土場から複数の工場へ分納しやすい。一方、山間部の土場では最寄りの製材所まで30km以上離れることもある。運賃が手取りを圧迫する。
北海道(釧路)のカラマツ林では、土場から合板工場まで80kmあり、運賃が3,000円/m³に達するため、販売単価7,000円/m³から搬出・運賃を引くと手取りは3,500円/m³となり、伐採コストを回収できるかギリギリのラインになる。こうした立地では、丸太を販売せず自伐自用(薪や炭材として自家消費)に回す選択肢もある。土場の立地は変えられないため、販売先との距離を前提に、搬出量を増やして運賃の単価効果を高めるか、地元の小規模製材所と直接契約を結んで運賃を削減するかの判断が求められる。立地を起点に考えるしかない。
今後の市況見通しと対策
住宅着工の減少と国産材需要
先を読む視点が要る。国土交通省「建築着工統計」によると、新設住宅着工戸数は2020年度81.5万戸、2023年度85.9万戸、2025年度86.7万戸と微増傾向だったが、2026年度以降は人口減少・世帯数減少の影響で減少に転じる予測がある。住宅着工が減れば製材用丸太の需要も減る。価格下落圧力にはなりうる。
一方、林野庁「森林・林業白書」2025年版では、非住宅分野(店舗・オフィス・公共建築)での木材利用が拡大しており、CLT(直交集成板)や大断面集成材の需要が伸びているため、これらが従来の製材より大径材・長尺材を必要とすることを踏まえると、径級30cm以上の丸太は需要が維持される見込みがある。逆に中小径材は住宅着工減少の影響を受けやすく、合板・バイオマスへの用途転換が進む可能性がある。自分の山の齢級構成を見て、今後10年で伐期を迎える林分が大径木主体か中径木主体かを把握し、販売先の選択肢を早めに確保する準備が必要である。
輸入材価格との連動
外部要因も大きい。国産材価格は輸入材価格の影響を受け、財務省「貿易統計」によると、丸太輸入量は2024年度320万m³で、うち北米産が6割を占める。2025年は北米の山火事と物流混乱で輸入丸太価格が前年比+15%上昇し、国産材への代替需要が高まった。農林水産省「木材価格統計」でも、2025年後半にスギ中丸太価格が前年比+5%上昇している。連動は無視できない。
ただし輸入材価格の変動は予測しにくく、為替レート・産地国の政策・海運運賃に左右されるため、輸入材価格が下がれば国産材も連動して下がるリスクがある一方で、現場はその変化を自力で止められないので、価格変動リスクを抑えるには製材所との年間契約を活用し、販売単価の振れ幅をあらかじめ狭めておく発想が有効になる。契約価格は年度初めに固定される。年度途中の変動を受けにくい。
状況が変わったら動くタイミング
最後に要点である。土場に丸太が積まれて1か月を過ぎると、スギ・ヒノキは材色が変わり始め、製材所の評価が下がるため、特に夏場は虫害のリスクも高まり、2か月以上放置すると買い取り拒否される例もある。搬出したら2週間以内に販売先を確定し、1か月以内に出荷するのが鉄則であり、製材所の在庫状況は週単位で変わるため、搬出前に電話1本入れて「来週〇m³持ち込めるか」を確認する習慣が重要になる。
断られたら、即座に別の販売先に切り替えたい。市売りを狙う場合は開催日の2週間前までに出荷手続きを済ませる。期限を過ぎたら共販か直送に切り替えるべきである。
「いい値がつくまで待つ」という姿勢は、丸太の品質劣化と保管コスト増加を招くだけであり、自分の山の条件と販売先の引き取り体制を照らし合わせ、2週間で決断するくらいの速度感が結果として手取りを守る。待つより動く。その判断が利益を分ける。
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