森林経営管理制度とは、適切に管理されていない民有林について市町村が仲介役となり、意欲ある林業経営者への集約化や市町村による公的管理を進める仕組みだ。

主要データ

  • 制度開始年:2019年(平成31年)4月(森林経営管理法施行)
  • 私有林の経営放棄割合:約3割(林野庁推計、2018年時点)
  • 森林環境譲与税の総額:年間約600億円規模(2024年度、総務省公表)
  • 意向調査実施面積:累計約118万ha(2024年3月末時点、林野庁調べ)

市町村主導の森林管理という誤解

誤解の核心だ。 「森林経営管理制度は市町村が山の管理を引き受ける仕組み」という理解が現場で広まっているが、これは半分正しくて半分間違っており、確かに市町村が関与するものの、制度の本来の目的は民間事業体への森林の集約化である一方で、市町村による直接管理は、あくまで「どうしても採算が取れない森林」に限った最終手段にとどまる。

背景がある。 この誤解が生まれたのは、制度開始直後のメディア報道で「市町村が森林を管理」という見出しが独り歩きしたためであり、その結果、森林所有者の中には「何もしなくても市が面倒を見てくれる」と受け止める人が出てきた。実際、岐阜県の中山間地域では意向調査の際に「全部市に任せたい」と答えた所有者が想定以上に多く、制度の趣旨説明に追われた事例もあった。

整理が重要だ。 この制度は「所有者不在・経営放棄された森林を動かす仕組み」であり、市町村はその橋渡し役として機能するのであって、林業経営として成り立つ森林は意欲ある事業体に任せ、難しい森林だけを市町村が公的に管理するという二段構えを共有しない限り、現場の混乱は収まりにくい。役割の見極めが要る。

2019年施行の森林経営管理法が生んだ新秩序

出発点は2019年だ。 森林経営管理制度は2019年4月、森林経営管理法の施行とともに動き出したが、この法律が生まれた直接の契機は、2011年の森林法改正で義務化された森林所有者の届出制度が期待したほど機能しなかった現実にあり、届出があっても実際の施業に結びつかないまま、不在村所有者の増加と高齢化が重なって、手入れされない人工林が各地で目立ち始めた。

数字が物語る。 林野庁の推計では、私有林のうち約3割が実質的に経営放棄状態にあった(2018年時点)。これは単なる統計ではない。立枯れや風倒木が放置され、隣接する適正管理林への被害が広がるためであり、京都府の北山地域では、隣の山から倒れてきた枯損木が搬出作業中の土場を塞ぎ、数日間作業が止まった例もある。

制度設計の要点だ。 森林所有者に「経営管理権」を市町村へ委ねる選択肢を与えた点が大きく、所有権は移さず管理の権限だけを市町村が預かり、そのうえで集約化した森林のうち採算が見込める部分は「意欲と能力のある林業経営者」に再委託し、そうでない部分は自ら管理する構造となっている。財源には2024年度から本格徴収が始まった森林環境税(国税)を原資とする森林環境譲与税が充てられ、年間約600億円規模のこの財源が制度の実効性を支える前提である。

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意向調査から始まる現場の実務フロー

入口は意向調査だ。 制度の入口は市町村による「森林所有者への意向調査」であり、対象森林を選定したうえで、所有者に「森林の経営管理を自分で行うか、市町村に委ねるか」を尋ねる。この調査票が届いた時点で、多くの所有者は初めて制度の存在を知る。最初の接点となる。

負担は重い。 調査票の回収率は地域差が大きく、秋田県内のある町では初回調査で6割を超えたが、都市近郊の不在村所有者が多い地域では3割を切ることもあるため、未回答者への再通知のみならず戸籍調査による相続人特定まで必要になり、市町村の林務担当者にかかる負担は想定以上に重い。人口3,000人規模の町で林務担当が1名だけという例も珍しくなく、意向調査だけで年間業務の大半が埋まることもある。

次に進む。 所有者が「委託する」と回答した森林について、市町村は経営管理権集積計画を作成し、所有者の同意を得て公告する。この計画に基づき、採算性のある森林は公募で選ばれた林業経営者に再委託(経営管理実施権の設定)され、再委託された事業体は間伐や主伐、その後の再造林までを一体的に実施し、木材販売収益の一部を所有者に還元する。ここが実務の本線である。

一方で、再委託できない森林は市町村が直接管理する。傾斜が急であり、林道からの距離が遠く、搬出コストが販売額を上回るような条件では再委託が成立しにくいためで、この場合の作業内容は主に間伐と地拵えとなり、収益を目的としない公益的機能の維持が中心となっている。実際の作業は森林組合や地元の林業事業体に発注するが、利益は見込みにくく、森林環境譲与税からの支出で賄う形となる。

意欲と能力のある林業経営者とは誰か

鍵を握る存在だ。 制度の鍵を握るのが「意欲と能力のある林業経営者」の選定であり、この呼称は法律上の正式名称で、単なる修飾語ではない。市町村が公募し、都道府県が公表する事業者リストに登録された者だけが、経営管理実施権の設定を受けられる。入口は限られる。

登録要件は都道府県ごとに細かく定められているが、共通する基準には、過去5年間の素材生産量または造林面積が一定規模以上であること、高性能林業機械の保有または外部調達の確保、労働安全衛生法に基づく安全管理体制の整備、森林経営計画の作成実績などがあり、これらをクリアできるのは、実質的に既存の中核的な林業事業体に限られる。

地域差も大きい。 実際に登録されているのは、各地の森林組合、素材生産を専業とする民間事業体、大手製材所の関連会社などだ。宮崎県や岡山県では登録事業者数が50を超えるが、北海道や東北の一部では10に満たない地域もある。事業体の地域偏在が制度運用のボトルネックになっている。

問題はここにある。 教科書では「意欲ある事業体が効率的に集約化」とされるが、実際には事業体側の受け入れ余力が限られており、高性能林業機械のオペレーターは慢性的に不足し、既存の施業地で手一杯という事業体も多いため、市から打診があっても新規案件をすぐには受けられない。実際、ある森林組合の参事は「市から打診があっても、うちの皮むき間伐の現場が詰まっていて、新規は半年待ちになる」と語っており、制度が動いても実際の施業まで数年かかる例は珍しくない。林野庁の集計では、実際に意欲ある林業経営者に経営管理実施権が設定された面積は2024年3月末時点で累計約2,600haに過ぎず、集積計画設定面積のさらに一部にとどまっている。

譲与税の配分と市町村格差の拡大

配分の仕組みだ。 森林環境譲与税は、私有林人工林面積、林業就業者数、人口の3要素で按分され、市町村に配分される。このため、森林面積の大きい中山間地域ほど多くの譲与税を受け取る仕組みとなっている。2024年度の実績では、北海道下川町や高知県梼原町など林業が基幹産業の自治体に数千万円規模が配分される一方、都市部では数十万円にとどまる例もある。

本当の差は執行力だ。 配分額の差以上に問題なのは執行能力の差であり、林業技術者が在籍し、森林GISを整備済みの自治体は意向調査も計画策定もスムーズに進む一方で、林務担当が兼任で森林の現況すら把握していない自治体では外部委託に頼らざるを得ず、コンサルタント費用で譲与税の大半が消える例もある。差を広げる要因である。

数字が示す停滞だ。 2024年3月末時点で、累計約118万haの森林で意向調査が実施されたが(林野庁公表)、実際に経営管理権集積計画が策定された面積はその1割にも満たない。調査は進んでいる。だが、次の段階に移れない自治体が多い。林野庁「森林・林業白書(令和6年版)」によれば、経営管理権集積計画の設定面積は2024年3月末時点で累計約1.5万haにとどまり、意向調査実施面積の約1.3%という低水準が続いている。

再委託不可能森林の管理コスト負担

持続性を左右する論点だ。 市町村が直接管理する森林、いわゆる「再委託できない森林」の扱いが制度の持続可能性を左右する。採算が取れない森林の間伐や末木枝条の処理は、すべて譲与税で賄う。だが譲与税は無限ではない。制約は厳しい。

現実は重い。 ある町では、初年度に広範囲の意向調査を実施したところ、予想以上に多くの所有者が「委託したい」と回答したが、再委託できない森林が大半を占めたため、試算では全てを適正管理するには年間譲与額の3倍以上の予算が必要になることが判明した。結果として、優先順位をつけて段階的に実施するしかなく、当初計画は大幅に縮小された。理想と予算がぶつかる。

判断は難しい。 市町村直接管理の森林では、収益を生まない前提での施業になるため、搬出までは行わず、芯止めや筋刈り程度の保育で抑える判断も出ているが、これは森林の多面的機能の維持という公益目的には合致する一方で、木材生産という林業本来の姿からは遠ざかるため、現場では割り切れない感覚も残る。簡単な答えはない。

所有者不明森林への対応と特例措置

もう一つの柱だ。 制度のもう一つの柱が、所有者不明森林への対応である。森林経営管理法では、一定の手続きを経ても所有者が判明しない森林について、市町村が都道府県知事の裁定を経て経営管理権を取得できる特例を設けた。この特例により、相続未登記で数世代放置された森林にも手が入る道が開かれた。

運用は簡単ではない。 実際の運用では、戸籍や固定資産税台帳を辿り、相続人全員に通知を送っても応答がない場合、公告を行い一定期間経過後に裁定申請へ進む。熊本県や島根県ではこの手続きを使い、数十haの所有者不明森林に経営管理権を設定した実績がある。前進は見て取れる。

ただし負担は大きい。 手続きには法務や行政手続きの専門知識が必要であり、小規模自治体では外部の司法書士や行政書士に依頼するケースが増えているため、所有者不明森林に手を入れるための制度であるにもかかわらず、手続きコストが譲与税を圧迫するという本末転倒な状況も一部で起きている。制度の簡素化を求める声は強い。

森林環境税との関連と比較対象制度

混同しやすい論点だ。 森林経営管理制度と混同されやすいのが、既存の「森林環境税」(地方税)である。こちらは都道府県や一部市町村が独自に課税している地方税で、2026年4月時点で37府県が導入している。使途は森林整備や木材利用促進など幅広く、自治体ごとに異なる。

一方の整理も欠かせない。 森林経営管理制度の財源となる「森林環境税」(国税)は2024年度から住民税均等割に年額1,000円が上乗せされる形で徴収が始まったが、譲与税としての配分は2019年度から先行実施されており、当面は他の財源で立て替えられている。2024年度からの本格徴収により制度の財政基盤は安定する段階に入ったのであり、総務省の資料によれば、2024年度から始まった森林環境税(国税)の本格徴収は年間約620億円規模を見込んでおり、全国約1,700の市町村に譲与される。

比較も重要だ。 もう一つ、森林経営計画制度との違いも整理が必要であり、森林経営計画は森林所有者や森林組合が自ら作成し、補助金や税制優遇を受けるための制度で、所有者の自主的な経営を前提とする。対して森林経営管理制度は、所有者が自ら経営できない、またはしない森林を対象に、市町村が介入する点で性格が異なるため、両制度は併存し、適正に管理されている森林は従来通り森林経営計画で、放置森林は森林経営管理制度でという棲み分けが想定されている。役割は異なる。

実務担当者が直面する現場の壁

現場の声は重い。 制度開始から7年が経過した2026年、市町村の実務担当者が語る現場の声は重い。「意向調査の回答率を上げるため、不在村所有者に電話をかけ続ける日々。林業の知識がない職員が森林の境界確認に同行し、急斜面で滑落しかけたこともある」。ある町の担当者の言葉だ。

期待とのずれも大きい。 別の自治体では、意向調査で「委託したい」と答えた所有者が、実際の契約段階になって「やっぱり自分でやる」と翻すケースが続出した。理由を聞くと、「木材価格が上がっているニュースを見て、売ったら儲かると思った」という。現実には搬出コストを差し引けば手元にほとんど残らない森林なのだが、所有者の期待と現実のギャップを埋める説明に時間を取られるため、担当者の負担は書類作成だけでは済まない。

一方で、制度を活用して成果を上げている例もある。奈良県の吉野地域では、古くからの林業地としてのノウハウを活かし、市町村と森林組合が連携して意向調査から再委託までを2年以内に完了させた例があり、鍵は所有者との信頼関係がもともとあったこと、事業体の受け入れ体制が整っていたことの2点にあった。条件が揃えば制度は機能する。だが、その条件を満たせる自治体は限られる。

制度の今後と現場が求める改善点

見直しは始まっている。 制度の見直しは既に始まっている。林野庁は2025年度、意向調査の簡素化や所有者不明森林の手続き短縮に向けた検討会を設置した。現場からは「5年、10年単位の長期施業を見据えた計画が立てにくい」「単年度予算の縛りで複数年の契約ができない」といった声が上がっており、制度の柔軟化が課題になっている。

担い手確保も急務だ。 また、意欲ある林業経営者の育成・確保も急務であり、登録要件を満たせる事業体が少ない地域では制度があっても動かせないため、高性能林業機械のリース支援、オペレーター養成の補助拡充など、事業体の体力強化策が並行して進められている。現場では時間との勝負になっている。

最後に視点を戻したい。 ある森林組合の班長は「制度ができて山が動き出したのは確かだ。だが、制度に頼るだけでは山は守れない。所有者が自分の山に関心を持ち続けることが前提だ。市町村も事業体も、その橋渡しをしているに過ぎない」と語った。つまり、森林経営管理制度は万能薬ではなく、所有者・市町村・事業体の三者が責任を分かち合う仕組みであり、この前提を共有できるかどうかが制度の今後を左右する。そこが要点だ。

この記事は「林業経営の完全ガイド — 収益構造から事業計画まで」の関連記事です。林業に関する体系的な知識はこちらのガイドをご覧ください。

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