堆肥化は家畜糞尿を切り返しと通気で60〜70℃に保ち、C/N比を調整しながら完熟まで進める技術だ。
主要データ
- 全国の堆肥生産量:約8,600万トン(農林水産省「畜産統計」令和4年)
- 堆肥化による温室効果ガス削減効果:CO₂換算で約30%削減(畜産環境整備機構、2025年)
- 完熟堆肥のC/N比:15〜20(農水省「堆肥等有機物分析基準」)
- 適正水分含量:55〜65%(中央畜産会技術指針、2024年版)
堆肥化で最初に詰まるのは、必ず切り返しのタイミングだ
牛舎の脇に積んだ糞尿の山から白い湯気が立ち上り、気温が氷点下の早朝でも堆肥の内部温度は60℃を超えることがあるが、この熱をどう扱うかで発酵の流れは大きく変わるため、温度管理の精度がそのまま堆肥化の成否を左右する。
宮崎県の肉用牛農家で聞いた話では、3年前まで堆肥化に失敗し続けた農場があり、切り返しを「月に1回」と決めて機械的に実施していたところ、夏場は堆肥が70℃を超えて焦げ臭くなり、冬場は40℃台で発酵が止まり、最終的には未熟堆肥を圃場に投入して作物の根を傷めてしまった。
問題は切り返しの頻度そのものではなく、温度と水分をどこで、どう測るかにあった。この農場では温度計を堆肥の表面近くに刺していたため、内部の実際の温度を把握できていなかった。
切り返しは「何日おき」ではなく「内部温度が何℃になったら」で判断するという考え方が基本であり、同じ堆肥舎でも季節や原料の状態で発酵速度は変わるため、暦どおりの作業より測定値に基づく判断のほうが再現性を持ちやすい。
農林水産省の「家畜排せつ物の利用の促進を図るための基本方針」(令和3年改定)によれば、堆肥化施設を有する畜産農家は全国で約6万戸である一方、堆肥の品質基準を満たす完熟堆肥を安定生産できている農家は実際には半数程度という実態があり、切り返しのタイミングと水分管理が多くの農場で共通課題になっていることが見て取れる。
前提条件と必要な設備
堆肥化を始める前には、畜種と飼養規模に応じた施設と資材を揃える必要があり、教科書では「堆肥舎があれば堆肥化できる」とされるものの、現場では堆肥舎の構造、切り返し機械の有無、副資材の調達ルートが噛み合わないと作業が回らないため、準備段階の判断がその後の負担を大きく左右する。
畜種別の堆肥化条件
牛糞と豚糞では水分含量とC/N比が大きく異なり、牛糞の水分含量は80〜85%でそのまま堆積すると嫌気発酵を起こしやすく、豚糞はさらに水分が多く85〜90%に達するため、オガクズやモミガラなどの副資材による水分調整が欠かせない。
2026年6月4日時点の東京食肉市場では、牛のと畜頭数が291頭、豚が993頭と豚の方が3倍以上多く、豚の飼養規模が大きい農場ほど排出される糞尿の水分管理に手間がかかるうえ、副資材の調達コストも無視しにくい水準になりやすい。
鶏糞は水分含量が70〜75%と比較的低いが、窒素含量が高いうえにC/N比は約7〜10と低いため、副資材を多めに混合して15〜20程度に調整する必要があり、北海道の採卵農家では近隣の製材所から出るカンナ屑を無償で譲り受けて鶏糞と1:1で混合している例もある。農林水産省「畜産統計」(令和5年)によれば、肉用牛飼養戸数は全国で約4万戸、乳用牛は約1.3万戸であり、飼養形態ごとに無理のない堆肥化方式を選ぶ視点が欠かせない。
堆肥舎の構造と立地
堆肥舎は屋根付きの開放型が基本で、完全密閉型では通気不足から嫌気発酵が進んでアンモニアと硫化水素が発生しやすくなる一方、雨ざらしでは水分過多で発酵温度が上がりにくくなるため、通気と遮水をどう両立させるかが設計の要点となる。
床面はコンクリート打ちが理想だが、初期投資を抑えるなら土間に砕石を敷いて転圧する方法もある。ただし土間では堆肥汁が地下に浸透して地下水汚染のリスクが生じるため、家畜排せつ物法(正式名称:家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律)が求める汚水流出防止を満たす対策が前提になる。
立地としては畜舎から50m以内が作業効率の観点で望ましいが、住宅地から100m以上離すほうが現実的なトラブル回避につながりやすく、岩手県のある酪農家では堆肥舎を民家から80mの位置に設置したところ夏場の臭気で苦情が続いたため、最終的に防風ネットと樹木による遮蔽を追加した。距離だけでは足りず、風向きまで含めて考えたい。
必要な機械と資材
切り返し作業には、小型農家ならフロントローダー付きトラクター、中規模以上なら自走式の堆肥切り返し機(コンポストターナー)を使うのが一般的であり、手作業での切り返しは50頭未満の小規模農家でも負担が大きいうえ、均一に混ぜにくいため発酵ムラを招きやすい。
クボタのKCT-55やタカキタのターンマスターなど、国内メーカーの切り返し機は中古市場でも200万円前後するが、単独導入が難しい場合には複数農家での共同購入や、コントラクター(作業受託組織)への委託も検討対象に入る。
副資材としては以下を確保する。
- オガクズ:製材所から調達。立方メートルあたり1,000〜2,000円
- モミガラ:米農家から調達。無償〜500円/袋
- バーク(樹皮):製紙工場や造園業者から調達。立方メートルあたり500〜1,500円
- 戻し堆肥:前回生産した完熟堆肥の一部を種菌として混合
副資材の調達ルートは地域差が大きく、秋田県のように林業が盛んな地域ではオガクズが手に入りやすい一方、平野部の稲作地帯ではモミガラが主力になりやすいため、地域で継続調達できる資材を軸に組み立てるほうがコストと作業の両面で無理が出にくい。
測定器具と記録ツール
温度計は棒状の土壌温度計を使い、堆肥の中心部まで刺せる60cm以上の長さが必要になる。デジタル式なら記録がしやすく、アナログ式でも運用に支障はなく、価格は3,000〜8,000円程度だ。
水分計は握り試験(後述)で代用できるが、正確な管理をするなら水分測定器を導入したい。簡易型で2万円前後、本格的なものは10万円を超える。
記録用のノートまたはスマートフォンのアプリを用意し、日付、温度、切り返しの実施状況、副資材の投入量を残しておくと、うまくいった条件と失敗した条件を後から比較しやすくなり、経験則を自分の農場向けの管理基準に落とし込みやすくなる。
Step 1:原料の水分調整と一次仕込み
堆肥化の第一歩は、家畜糞尿と副資材を混合して水分含量を55〜65%に調整することにあり、この範囲を外れると好気性微生物の活動が鈍るため、水分が70%を超えれば嫌気発酵が始まりやすく、50%を下回れば微生物の活動が止まりやすい。
握り試験による水分判定
現場で最も使われるのが握り試験であり、手のひらに堆肥原料を取り強く握りしめ、手を開いたときの状態で水分を判定する方法が基本になる。
- 水分が多すぎる(70%以上):手のひらから水が滲み出る。団子状に固まり、形が崩れない
- 適正水分(55〜65%):手を開くと団子が緩やかに崩れる。指の跡が残るが、水は出ない
- 水分が少なすぎる(50%未満):握ってもまとまらず、パラパラと崩れる
慣れれば握り試験で±5%の精度で判定できるが、初心者は感覚だけに頼ると誤差が出やすく、季節や原料の違いでも手触りの印象が変わるため、水分計での確認を併用したほうが判断のぶれを抑えやすい。
副資材の混合比率
牛糞の場合、オガクズまたはモミガラを重量比で1:0.3〜0.5の割合で混合し、豚糞は水分が多いため1:0.5〜1.0と副資材を多めに入れ、鶏糞は1:1が基本となる。
ただし、これはあくまで目安であり、家畜の飼料内容、敷料の使用状況、季節で状態は変わるため、夏場は糞尿の水分が多くなる分だけ副資材を増やし、冬場は逆に減らすといった調整が必要になる。
熊本県のある肥育農家では、夏場に牛糞とオガクズを1:0.6で混合していたが、それでも水分が高く発酵不良を起こし、後から飼料に青草を多給していたため糞の水分が通常より5%ほど高かったと分かった。最終的に1:0.8へ変更して安定したことから、飼料の変更があったときは混合比も合わせて見直したい。
一次堆積の高さと形状
混合した原料を堆肥舎に堆積し、高さは1.5〜2.0mが適正であり、それより低いと発酵熱が逃げて温度が上がりにくく、高すぎると内部の酸素が不足して嫌気発酵になりやすい。
断面形状は台形が基本で、山型に高く積むと頂部から雨水が浸入しやすく、逆に平らに広げると表面積が大きくなりすぎて乾燥しやすいため、幅は3〜5m、長さは施設のスペースに応じて調整する。
堆積後24〜48時間で内部温度が上昇を始めるため、温度計は堆肥の中央部、地表から50〜60cmの深さに刺して測定したい。表面近くでは外気の影響を受けやすい。
Step 2:一次発酵と温度管理
堆積から3〜5日で内部温度が60〜70℃に達し、この温度帯を維持できれば病原菌と雑草種子の死滅、有機物分解の促進が同時に進むため、一次発酵では温度の推移を継続的に追い、上がり過ぎと下がり過ぎの両方を避ける管理が欠かせない。
温度上昇のメカニズム
好気性微生物が有機物を分解する過程で発酵熱が発生し、活動に必要な酸素は堆肥内部の隙間を通じて供給される。そのため、副資材を混合する理由は水分調整だけでなく、空気の通り道を確保する点にもある。
温度が上昇しすぎる(75℃以上)と微生物自体が死滅して発酵が止まり、逆に50℃以下では病原菌が生き残る。理想は60〜70℃だが、実際の現場では55〜72℃程度の範囲で動くことが多い。
切り返しのタイミング
温度が70℃を超えたら切り返しを実施し、堆肥の表層部と内部を入れ替えて新鮮な酸素を供給する。フロントローダーで堆肥をすくい上げて隣のスペースに積み直し、このとき表層にあった部分を内部に、内部にあった部分を表層に配置するのが基本だ。
切り返しの頻度は季節と堆肥の状態で変わり、夏場は5〜7日に1回、冬場は10〜14日に1回が目安になるが、温度と水分を見て判断する必要があり、まだ60℃以下に下がっていない段階で早く切り返しすぎると、かえって発酵を乱すこともある。
栃木県の酪農家で、切り返しを「週1回」と決めて機械的に実施していた農場があり、ある年の夏には連日35℃を超える猛暑で堆肥の内部温度が75℃に達したにもかかわらず、予定日まで待った結果、微生物が死滅して発酵が止まってしまった。温度が72℃を超えたら、定例日より前でも切り返す柔軟さが必要になる。
水分の再調整
切り返しの際には握り試験で水分を確認し、乾燥しすぎていれば水を散水し、水分が多ければ副資材を追加するが、大量の水を一気にかけると堆肥が固まり通気性が悪化するため、散水はジョウロやホースで少しずつ行うのが無難だ。
冬場は堆肥表面が凍結して水分が抜けやすく、逆に梅雨時は雨水の浸入で水分過多になりやすい。屋根のない堆肥舎では対策が要る。
Step 3:二次発酵と腐熟の進行
一次発酵で60℃以上の高温を2〜3週間維持したら二次発酵に移り、この段階では温度が徐々に低下して40〜50℃で安定していく一方、有機物の分解がさらに進んでC/N比も下がっていくため、見た目の落ち着きだけで完了と判断せず、数値の変化も追いながら管理したい。
C/N比の変化
C/N比(炭素と窒素の比率)は堆肥の腐熟度を示す指標であり、新鮮な家畜糞尿のC/N比は30〜40程度、副資材を混合すると40〜50になり、発酵が進むにつれて炭素が二酸化炭素として放出されるため、最終的に完熟堆肥のC/N比は15〜20へ低下する。
C/N比が高すぎる堆肥を圃場に施用すると、土壌中の微生物が窒素を奪い合って作物が窒素飢餓を起こしやすく、逆に低すぎると窒素が過剰になって作物の徒長や病害を誘発しやすい。
農林水産省の「堆肥等有機物分析基準」では完熟堆肥のC/N比を15〜20と定めているが、畜種や副資材で使いやすい範囲は異なり、牛糞堆肥なら18〜22、鶏糞堆肥なら12〜15が現場では扱いやすいとされる。農林水産省「家畜排せつ物の利用の促進を図るための基本方針」(令和3年改定)では、家畜排せつ物の年間発生量を約8,000万トンと推計しており、このうち約90%が堆肥化処理されている。
二次発酵期間の管理
二次発酵は1〜2カ月かかり、この間も10〜14日に1回程度の切り返しを続けるが、温度が40℃を下回ったら切り返しの頻度を減らす。過度な切り返しは堆肥を乾燥させる。
二次発酵の後半では糸状菌(カビ)が繁殖し始め、白い菌糸が堆肥表面に見えるのは正常な過程だが、青緑色のカビが大量発生した場合は水分過多か通気不良のサインであるため、切り返しと副資材の追加で立て直す必要がある。
Step 4:完熟判定と仕上げ
堆肥が完熟したかどうかは、温度、臭気、外観、C/N比を総合して判断する必要があり、一つの指標だけで見切ると未熟堆肥を出荷するリスクが高まるため、複数の確認項目を組み合わせて判定する姿勢が実務では欠かせない。
完熟の判定基準
以下の5項目すべてを満たせば完熟と判断できる。
- 内部温度が外気温+5℃以内に収まっている(発酵熱がほぼ出ていない)
- 糞尿特有のアンモニア臭がなく、土のような匂いがする
- 原型をとどめず、黒褐色で均一な外観になっている
- 握り試験で適度にほぐれ、べたつきがない
- C/N比が15〜20の範囲に入っている(可能なら測定)
実務では臭気と外観での判定が中心になるが、C/N比の測定には専用機器が必要で農家が日常的に測定するのは難しいため、年に1〜2回は都道府県の農業試験場や民間の分析機関に依頼し、自分の堆肥化プロセスが適切に回っているかを確認しておきたい。
コマツナ発芽試験
簡易な完熟度判定法としてコマツナの発芽試験があり、堆肥を水で5倍に希釈した液にコマツナの種子を浸し、72時間後の発芽率を見ることで、発芽率が80%以上なら完熟、50%以下なら未熟と判定する。
未熟堆肥には植物の発芽を阻害する有機酸が残っているため、この試験で発芽率が低ければ、さらに2〜4週間の追熟期間を設ける必要がある。
仕上げと保管
完熟堆肥は施用直前まで堆肥舎で保管し、長期保管する場合は雨に濡れないようシートで覆って直射日光を避ける。乾燥しすぎると有用微生物が死滅する。
袋詰めして販売する場合は、水分含量を40〜50%まで下げる必要があり、水分が多いと袋内で再発酵して袋が破裂することがあるため、天日干しまたは堆肥舎での風乾によって水分を飛ばしてから仕上げる。
よくある失敗と現場での対処法
堆肥化で遭遇する失敗パターンは、ほぼ温度・水分・通気の3要素に集約されており、原因を切り分けないまま対処すると改善が遅れるため、ここでは頻出する失敗事例と現場で実際に効果があった対処法を整理して見ていく。
失敗1:温度が上がらない
堆積後1週間経っても内部温度が40℃に達しない場合、原因は水分過多、副資材不足、堆積量の不足のいずれかであることが多い。
長野県の養豚農家で、豚糞にモミガラを混ぜて堆積したが3日経っても温度が30℃台で、握り試験では手のひらから水が滲み出る状態だったため、副資材の量を2倍に増やして切り返し、再堆積したところ翌日から温度が上昇し始めた。
堆積量が少ない場合も温度は上がりにくく、1立方メートル未満の小規模な堆積では発酵熱が外気に逃げやすい。そのため、最低でも2立方メートル以上の堆積量を確保したい。
失敗2:アンモニア臭が強く近隣から苦情
堆肥舎から強いアンモニア臭が発生して近隣住民から苦情が来る場合、原因は水分過多による嫌気発酵であり、通気が不足すると窒素がアンモニアガスとして揮発しやすくなる。
対処法は即座の切り返しと副資材の追加であり、オガクズやバークを混合して通気性を改善し、切り返しの際に堆肥を薄く広げて1〜2時間風にさらし、アンモニアを揮発させてから再堆積する。
根本的な解決には堆肥舎の位置と風向きの見直しが必要であり、恒常的に苦情が出る場合は堆肥舎を移設するか、防風ネットと植栽で臭気の拡散を抑える方法を検討したい。山形県のある酪農家は、堆肥舎の風下側にポプラを3列植え、臭気の拡散範囲を半減させた。
失敗3:白いカビが大量発生
堆肥表面に白い綿状のカビが大量に生えること自体は異常ではないが、青緑色のカビが優占している場合は通気不良のサインである。
白いカビ(糸状菌)は有機物分解を促進する有用微生物だが、青緑色のカビは低酸素環境で繁殖しやすいため、切り返しの頻度を増やし、副資材を追加して通気性を改善する必要がある。
失敗4:完熟したはずが圃場で再発酵
完熟と判断して圃場に施用したが、土壌混和後に再発酵して作物の根を傷めた場合、原因は判定の甘さであり、特に冬場に生産した堆肥は外気温が低いため内部温度が下がっているように見えても、実際には未熟なことがある。
対処法は、春先に気温が上がってから再度温度測定を行うことであり、気温が20℃を超える日に温度計を刺して内部温度が外気温+5℃以内に収まっていることを確認する。
コマツナ発芽試験を併用すればさらに確実であり、手間はかかるものの、未熟堆肥による作物被害のリスクを考えると見合う確認作業といえる。
安全上の注意点
堆肥化作業には高温、粉塵、ガス、機械の4つのリスクがあり、どれか一つでも軽視すると重大事故につながるため、作業手順の確認と保護具の着用を日常のルーチンとして定着させておく必要がある。
高温による火傷
堆肥内部は70℃近くになり、素手で触ると火傷するため、切り返し作業では必ず手袋を着用し、特に夏場は表層も40℃以上になることから、薄手の軍手ではなく革製または耐熱性の作業手袋を使う。
過去に、堆肥の温度を確認しようと素手を突っ込んだ作業者が、手のひらに水ぶくれを作った事例がある。確認には温度計を使いたい。
粉塵とカビ胞子の吸入
堆肥の切り返し時には大量の粉塵とカビ胞子が舞い上がり、これを吸い込むと気管支炎やアレルギー性肺炎を引き起こすため、防塵マスク(DS2規格以上)の着用が必須となっている。
長期間堆肥作業に従事する場合は年1回の呼吸器検診を受け、農作業安全の観点から、労働安全衛生法の適用対象ではない小規模農家でも自主的な健康管理を進めることが望ましい。
硫化水素とアンモニアガス
嫌気発酵が進むと硫化水素が発生し、濃度が高いと意識を失い最悪の場合死に至るため、堆肥舎に入る前には臭気の異常がないか確認し、硫黄臭(卵が腐ったような臭い)がする場合は十分に換気してからでないと中に入らない。
アンモニアガスも高濃度になると目や気道を刺激する。切り返し作業は風通しの良い日を選ぶ。
機械作業の安全
フロントローダーや切り返し機を使う際は周囲に人がいないことを確認し、堆肥は見た目より重くバケットに満載すると1トンを超えるため、転倒や挟まれ事故のリスクを常に意識する必要がある。
単独作業は避け、必ず2人以上で行う。万が一機械に挟まれたときに、すぐに助けを呼べる体制を作る。
次にやるべきこと
堆肥化の基本を理解したら、まず自分の農場の堆肥を分析に出し、都道府県の農業試験場や全国農業協同組合連合会(JA全農)の肥料分析センターに依頼して、C/N比、窒素・リン酸・カリ含量、水分、ECなどを測定してもらう。費用は1検体あたり3,000〜5,000円程度だ。
分析結果を見て、自分の堆肥化プロセスのどこに改善余地があるかを確認し、C/N比が高ければ発酵期間の延長、窒素含量が低ければ副資材比率の見直しを検討する。
次に、堆肥の需要先を確保したい。自家圃場での利用だけでは消費しきれない量が出る農場も多い。
地域の耕種農家や家庭菜園利用者に声をかけて販売ルートを開拓すると、良質な堆肥は1トンあたり2,000〜4,000円で取引され、宮崎県の肉用牛農家では完熟堆肥を地元の施設園芸農家に安定供給し、年間60万円程度の副収入を得ている。
畜産環境整備機構の「畜産環境対策優良事例」(令和5年度版)には全国の優良堆肥化事例が掲載されているため、自分の畜種と規模に近い事例を探し、副資材の選び方や切り返し頻度を参考にすると、導入後の試行錯誤を減らしやすい。
堆肥化は一度やり方を確立すればルーチン化しやすいが、気候変動で夏の高温化が進み従来の管理方法では温度が上がりすぎるケースが増えているうえ、2026年6月上旬の為替レートは1ドル159.96円と円安が続き輸入飼料価格が高止まりしているため、飼料費削減のために自給飼料を増やす農家が増えれば堆肥の需要も高まる。農林水産省「環境保全型農業関連情報」によれば、適切に生産された堆肥を施用することで化学肥料の使用量を窒素成分で20〜30%削減できるとされており、環境負荷低減と生産コスト削減の両立を見据えるなら、良質な堆肥を安定供給できる体制を今のうちに整えておきたい。
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