水稲の耕作は耕起・代かきの深度と田面均平の精度で収量が15%変動する。降雨タイミングと土質を見極めた水管理が、根の活着と分げつ確保の前提だ。
主要データ
- 水稲作付面積:143.2万ha(農林水産省「作物統計」令和5年)
- 10a当たり収量:531kg(同上、令和5年産全国平均)
- 農業機械化が進んだ水稲作の労働時間:24.7時間/10a(農林水産省「営農類型別経営統計」令和4年)
- 湛水管理による雑草抑制効果:約70〜80%(農研機構調査、令和3年)
水稲耕作の失敗が決まる最初の3日間
耕起を終えた水田の表面が波打っており、代かき後の田面に3cm以上の高低差が残っていると、その後の水管理で必ず詰まるため、低い部分は水が深すぎて苗が沈み、高い部分は露出して根が乾く。実際に新潟県の中山間地で、耕起深度を12cmで揃えたつもりが実測では8〜15cmのバラつきが出た事例がある。この圃場では田植え後の活着率が62%まで落ち込み、本来なら10a当たり550kgの収量が470kg程度にとどまった。
教科書では「耕起深度15cm、代かきは2回」と書かれているが、これは関東以南の平場向きの数字であり、東北の重粘土地帯で同じ深度まで掘ると泥が締まりすぎて根の伸長が阻害される。秋田県内陸部の農家は耕起深度を10〜12cmに抑え、代かきも1回で済ませる判断をする場合が多く、土が締まりやすい条件では過度な攪拌が逆効果になるため、地域差を踏まえた調整が前提となっている。
水稲耕作の成否は、土質・降雨・前作残渣の3要素を見極めてから作業計画を立てるかどうかで左右され、農林水産省「耕地及び作付面積統計」(令和5年)によれば全国の耕地面積に占める水田の割合は54.1%であるため、日本の農業生産基盤として水田管理技術の重要性は今も大きいといえる。
耕作前に確認すべき圃場条件

耕起作業に入る前に、圃場の土壌水分と前作残渣の状態を目視と触診で把握する必要があり、土壌水分が高すぎる状態で耕起するとトラクターのタイヤ跡が深く残って代かき後も凸凹が消えない一方で、乾きすぎていると土塊が大きく割れて代かきの負荷が増える。
土壌水分の判定方法
圃場表面から5cmの深さの土を握り、手を開いたときの状態で判断する。土が固まったまま割れずに保たれていれば、耕起には適さない。手を開いたときに崩れ始めるが形は残る程度が理想的であり、この状態を「適湿」と呼ぶ。
福島県会津地方の水田地帯では、耕起前日に降雨があった場合は24〜36時間待つのが経験則になっているが、砂質土壌の場合は12時間で適湿に戻るため、圃場ごとに排水性が異なることを前提に複数地点で土壌水分を確認する必要があり、同じ地区内でも一律の待機時間では噛み合わないことが少なくない。
前作残渣の処理基準
稲わらを鋤き込む場合、長さ10cm以下に細断されていないと耕起時に絡まり、ロータリーの回転が不均一になるため、秋にわら処理を済ませていない圃場では耕起の2週間前にフレールモアまたはハンマーナイフモアで細断しておく。細断後、10〜14日置いて微生物分解を進めると、鋤き込み時の負荷が下がる。
ただし、稲わらの分解速度は気温に依存し、春先の地温が10度以下の地域では14日待っても分解がほとんど進まないため、この場合は秋耕起を選択するか、春に化学肥料の窒素量を1〜2割増やして分解を促進する対応が現場では取りやすく、わら処理の遅れをそのまま機械作業で吸収しようとすると後工程にしわ寄せが出やすい。
必要な機材と準備
水稲耕作に使う主要な機材は、トラクター・ロータリー・代かき用ハロー・レーザーレベラー(均平機)の4点であり、圃場面積と土質に応じて馬力と作業幅を選ぶ必要がある。
トラクターの選定基準
1ha未満の圃場なら30〜40馬力、1〜3haなら50〜60馬力が目安になる。ただし重粘土の場合、同じ面積でも10馬力高いクラスを選ばないと耕起深度が確保できない。クボタのSL54やヤンマーのYT5113など、50馬力クラスでPTO出力が高いモデルが中山間地では好まれる。
農林水産省の「農業経営統計調査」(令和4年)によると、水稲作経営体の平均経営面積は3.2haで、保有トラクターの平均馬力は47.3馬力だったが、この数値は大規模経営体の平均を引き上げているため、1〜2ha規模の兼業農家では実態として35〜45馬力が中心になる。さらに、農林水産省「農業物価統計」(令和5年)によると、トラクター(50馬力クラス)の購入価格指数は平成27年比で108.3と上昇しており、新品一択では負担が重くなりやすいため、中古機の活用や共同利用も選択肢となっている。
ロータリーと作業深度の関係
ロータリーの爪配列には標準型とスーパー型がある。標準型は土の反転が穏やかで、代かき後の沈下が少ない。スーパー型は砕土性が高く、荒起こしに向くため、重粘土地帯では標準型、砂質土では荒起こしにスーパー型を使い、仕上げ耕起で標準型に替える二段構えが確実である。
爪の摩耗も耕起深度に影響し、新品の爪と比べて20%摩耗すると、同じPTO回転数でも耕起深度が1.5〜2cm浅くなるため、トラクターの深度ゲージを信じるだけでは足りず、土質や作業速度の違いも踏まえながら、作業後に実測して確認する習慣を持っておきたい。
レーザーレベラーの必要性
田面の均平精度を±1cm以内に抑えるには、レーザーレベラーを使う方が確実であり、目視と経験だけで均平を出せるのは長年同じ圃場を作業している熟練者に限られるため、初期投資は80〜120万円かかるものの、10ha以上の経営規模なら3〜4年で回収できる。
レーザーレベラーを使わない場合、代かき後に田面を歩いて高低差を確認し、高い部分を手作業で削る「天場取り」が必要になり、1反(10a)あたり30〜40分かかるため、面積が増えると現実的ではなくなる。農林水産省「水田農業高収益化推進計画」(令和4年)では、水田の大区画化(1ha以上)と高精度な均平作業により、労働時間が約30%削減できると報告されている。
Step 1:荒起こし(耕起第一段階)
荒起こしは、前作の残渣を土中に鋤き込み、土塊を大きく反転させる工程であり、深度は12〜15cmを基本とするが前述のとおり土質で調整し、作業は圃場の長辺方向に往復してトラクターの走行ラインが重ならないよう幅を管理する。
ロータリーの回転数はPTO540rpm時で耕起速度1.5〜2.0km/hに設定する。速度が速すぎると土塊が大きく残り、遅すぎると土が細かくなりすぎて代かき時に泥濘化しやすくなる。エンジン回転数とPTO回転を連動させた定速作業が理想だが、古いトラクターでは手動でアクセルを調整する必要がある。
作業タイミングの見極め
荒起こしは田植えの3〜4週間前に行い、この期間に土壌微生物が有機物を分解して地温も上昇するが、耕起後に連続して降雨があると土が締まり再耕起が必要になる場合があるため、天気予報で3日間晴天が続く見込みのタイミングを選ぶのが基本になる。
新潟県上越地域では、5月上旬の田植えに対して荒起こしを4月10日前後に実施する農家が多い。この時期の気温は日中15〜18度で、地温も10度を超え始める。ただし標高200m以上の山間部では、同じ作業を4月20日以降にずらす判断が要り、平場の暦をそのまま当てはめると作業後の地温や乾き方が揃わない。
Step 2:砕土と整地(耕起第二段階)
荒起こしから1週間以上経過し、土塊の表面が乾燥してきた段階で砕土作業に入り、ロータリーの回転数を荒起こし時より10%上げて耕起深度を8〜10cmに浅くすることで、この工程では土塊を細かく砕き、代かきがしやすい状態へ整えていく。
砕土の良し悪しは、土塊の大きさが5cm以下に揃っているかで判断する。拳大以上の土塊が残っていると、代かき時に完全に溶けず、田植え後の根張りが悪くなる。圃場を歩いて目視確認し、土塊が多い部分は再度ロータリーをかける。
土壌改良材の投入タイミング
pHが5.5以下の酸性土壌では、砕土と同時に苦土石灰を10a当たり60〜100kg投入し、ケイ酸資材を使う場合もこのタイミングで施用すると代かきで均一に混和されるが、石灰を過剰投入するとリン酸の吸収が阻害されるため、事前に土壌分析結果を確認しておく必要がある。
土壌分析は最寄りのJA または県農業試験場に依頼できる。費用は1検体あたり2,000〜3,000円で、結果が出るまで7〜10日かかる。水稲作では3年に1回の頻度で分析を行い、施肥設計を見直すのが標準的な管理サイクルとなる。
Step 3:畦畔の整備と漏水チェック
代かきに入る前に、畦畔の亀裂や穴を補修しておく必要があり、モグラ穴やザリガニ穴から漏水すると代かき後の水位が保てず田面が露出して硬化するため、畦畔を歩いて目視し、亀裂には粘土を詰め、穴には砕いた土を固めて埋める。
畦畔の草刈りも代かき前に済ませる。草が伸びた状態で湛水すると、草の根が水みちになり漏水が進む。刈り払い機で地際から刈り、刈草は圃場外に搬出する。刈草を畦に放置すると、代かき時に田面に流入して浮遊物になる。
用水路の流量確認
代かきには1反あたり60〜80トンの水が必要になり、用水路の流量が毎秒5リットル以下の場合は1反の湛水に5〜7時間かかる計算となるため、複数の圃場で同時に代かきを始めると用水が不足し、地域の水利組合と調整して順番を決める必要がある。
山間部の小規模用水では、雪解け水が豊富な5月上旬は流量が確保できるが、5月下旬以降は流量が半減する場合がある。この地域では代かきと田植えを早めに設定し、6月に入る前に作業を終える計画が取りやすく、水量のピークを外さないことが作業全体の安定につながる。
Step 4:代かき(第一段階)
代かきは、耕起した土を水と混ぜて泥状にし、田面を平らにする作業であり、まず圃場に水を張って水深5〜7cmを確保し、水が浅いと土が完全に溶けず、深すぎるとハローが土に届かないため、水を張ってから30分〜1時間待ち、土に水が染み込んだ状態で作業を始める。
ハローは圃場の短辺から入り、長辺方向に往復する。トラクターの走行速度は2.5〜3.5km/hに設定し、PTO回転は540rpmを維持する。速度が速すぎると土が撹拌されず、遅すぎると泥が細かくなりすぎて沈下しやすくなる。
代かきの回数と判断基準
通常は2回代かきを行い、1回目で大きな土塊を砕き、2回目で田面を均平に仕上げるが、砕土が十分にできていれば1回で済む場合もあり、判断基準はハローを引いた跡に土塊が浮いていないかどうかになる。
土塊が残っている場合、2回目の代かきは1回目から24時間以上空ける。この間に土塊が水を吸って柔らかくなり、2回目で完全に溶ける。ただし48時間以上空けると、田面が沈下して再び凸凹になる可能性がある。
レーザーレベラーの使い方
レーザーレベラーを使う場合、1回目の代かきが終わった直後に作業し、レベラーのブレードが田面の高い部分を削って低い部分に土を移動させる仕組みであるため、圃場の対角線上に基準点を設定し、レーザー受光部がその高さに合わせてブレードを上下させる。
作業速度は1.5〜2.0km/hとゆっくり進む。速度が速いとブレードの反応が追いつかず、均平精度が落ちる。1回の作業で±1.5cm以内に仕上がれば合格となる。
Step 5:代かき仕上げと落水
2回目の代かき(仕上げ代かき)は田植えの1〜2日前に行い、このタイミングで田面を最終的に均し、水深を均一にするが、仕上げ代かきではハローの爪を浅く設定して田面の表層だけを撹拌し、深く入れると沈下が進んで田植え時に苗が深く刺さりすぎる。
仕上げ代かき後、6〜12時間かけて田面を落ち着かせる。この間に泥が沈殿し、田面が安定する。水を抜く必要はないが、水深を3〜4cmに浅くしておくと、田植え機のフロートが田面に触れやすくなり、植付深度が安定する。
田植え直前の水位調整
田植え当日の朝、水深を2〜3cmに調整する。水が多すぎると苗が浮き、少なすぎると植付爪が土に刺さりにくい。田植え機の設定にもよるが、フロートが田面に接地し、軽く土を押す程度の水深が理想である。
風が強い日は、田面に波が立って田植え機の姿勢が不安定になるため、畦際に防風ネットを張るか、風が収まる時間帯(早朝または夕方)に作業をずらす判断が求められ、無理に日中の強風下で進めると植付精度の乱れが後まで残りやすい。
よくある失敗とその原因
田面の高低差が解消されない
代かきを2回行っても田面に3cm以上の高低差が残る場合、原因は耕起深度の不均一にあり、トラクターの走行速度が一定でないと耕起深度が場所によって変わるため、深く耕した部分は沈下し、浅い部分は高いまま残る。
宮城県北部の圃場で、耕起時のトラクター速度が1.2〜2.5km/hまでバラついた事例がある。この圃場では代かき後に4.5cmの高低差が残り、田植え後の欠株率が18%に達した。対策として、次年度は耕起速度を1.8km/hに固定し、GPS速度計で監視した結果、高低差は1.2cmまで改善された。
代かき後に土が浮いてくる
代かき直後は問題ないが、数時間後に土塊や有機物が浮いてくる現象があり、原因は前作のわら処理が不十分で長いわらが泥の中に残っているためで、浮いたわらは田植え機のフロートに絡まり、植付精度を落とす。
この場合、田植えを1日延期し、浮いたわらを手作業で除去するか、もう1回ハローをかけて沈める対応が要る。ただし、再度ハローをかけると田面が撹拌され、沈下が進むため、処置後は翌日に再び水位調整が必要になる点まで見込んで動く必要がある。
耕起深度が浅すぎて根が張らない
耕起深度が8cm以下の場合、根が伸長できる層が薄く、分げつが抑制される。教科書では15cmとされるが、実際には10〜12cmでも問題ない場合が多い。ただし、砂質土壌で保水力が低い圃場では、12cm以上確保しないと根が乾燥ストレスを受ける。
秋田県南部の砂質圃場で、耕起深度9cmで作業した結果、田植え後の分げつが1株あたり12本にとどまった。通常は18〜20本が標準なので、明らかに不足している。翌年に耕起深度を13cmに変更したところ、分げつ数は19本まで回復し、収量も10a当たり48kg増加した。
安全上の注意点
トラクター作業中の転倒・転落事故は水稲作でも発生頻度が高く、特に畦畔や法面の際を走行する際は片輪が畦に乗り上げて横転するケースが目立つため、畦際30cm以内はロータリーをかけず、手作業で補う判断を取る方が安全性を確保しやすい。
代かき作業中は視界が泥水で遮られ、用水路の取水口や排水溝が見えにくくなる。作業前に圃場内の構造物の位置を確認し、目印となるポールを立てておくと安全性が上がる。
PTO軸への巻き込み防止
トラクターのPTO軸にカバーが付いていない機体は、作業中に衣服や手が巻き込まれる危険があり、農林水産省の統計では農作業事故のうち約8%がPTO軸への巻き込みによるものだ(令和3年「農作業死亡事故調査」)とされるため、作業前に必ずカバーの装着を確認する。
ロータリーやハローの爪は高速回転しており、作動中に触れると重傷になるため、点検や清掃はエンジンを停止し、PTO軸が完全に止まってから行うという順序を崩さないことが、現場では最も基本的な安全管理になっている。
湛水中の感電リスク
圃場内に電柱や電線がある場合、トラクターのキャビンやロータリーが接触すると感電し、湛水状態では水が電気を通すためトラクターに乗っている作業者にも電流が流れることから、電線との離隔距離は最低2m確保し、接近する場合はトラクターを停止して電力会社に連絡する。
次にやるべきこと
耕作が終わった後は、まず田面の均平精度を確認し、田植え前に圃場を歩いて水深が均一かどうかを目視する必要があるが、高低差が2cm以上ある場合は田植え後の水管理で苦労するため、部分的に土を動かして修正しておく。
田植えは代かき後48時間以内に行うのが理想であり、それ以上経過すると田面が沈下して再び凸凹になる可能性があるため、天候不良で田植えが延期になる場合は浅く水を張って田面を保護し、水深1〜2cmを維持して田面が乾燥して硬化するのを防ぐ。
田植え機の整備も並行して進める。植付爪の摩耗、フロートの変形、苗の送り機構の動作を確認し、不具合があれば部品交換を済ませる。田植え当日に機械トラブルが出ると、代かきのタイミングが無駄になる。
最初の作業としては、自分の圃場の土壌水分を握って確認し、教科書の数字だけで判断するのではなく手の感触で適湿を覚えることが、水稲耕作の精度を上げる出発点になっていく。
この記事は「稲作の完全ガイド — 育苗から収穫までの実践知識」の関連記事です。農業に関する体系的な知識はこちらのガイドをご覧ください。
📊 この分野の統計データは「農業の統計データ」で、グラフとテーブルで一覧できます。



