「一次産業は衰退産業」は本当か — 上場7社の決算セグメントで検証する、儲かる生産と薄利な生産の分かれ目
この記事のポイント
- 「衰退」は担い手の話:漁業就業者は1988→2023年で約69.1%減、林業就業者は2000→2020年で約34.9%減、漁業産出額も1990→2022年で約47%縮小した。産業の規模は確かに縮んでいる。
- それでも「工業化した生産」は高収益:ホクトの国内きのこ(生産)セグメント利益率は12.9%(2026年3月期)。屋内で環境を制御する生産は加工品(6.4%)より厚い利益を出す。
- 天然依存の生産は薄利で変動大:マルハニチロの水産(生産)利益率は1.4%(2026年3月期)。過去10期では-7.4%まで沈む期もあり、加工食品(5.0%)を下回る。
- 分水嶺は水準でなく変動幅:儲かる生産と薄利な生産を分けるのは「何を作るか」ではなく「需給と環境の変動をどれだけ制御できるか」だった。
「一次産業は衰退産業だ」——就業者の高齢化、耕作放棄地、漁獲量の減少。そう語られるとき、暗黙のうちに「衰退している=儲からない」という因果が前提されている。だが、産業全体の規模が縮むことと、その産業で事業を営む企業が利益を出せるかどうかは、本来まったく別の指標だ。本レポートは、農業・漁業・林業で「生産」を事業セグメントとして開示している上場7社の有価証券報告書(EDINET)を、産出額・就業者数のマクロ統計と突き合わせる。問いは一つ——「衰退産業」は、上場企業の決算数字でも成り立つのか。
先に断っておくべき非対称がある。一次産業の生産の大半は非上場・個人経営が担っており、上場企業は業界全体のごく一部にすぎない。だから本レポートの数字は「産業全体の姿」ではなく、「その産業で上場企業として生き残り、生産を独立セグメントで開示している企業の収益構造」である。むしろ、この「マクロは縮小、しかし個別企業は黒字」という非対称そのものが、本レポートの出発点になる。
1. 「衰退」の実像 — 担い手と産出額
まず「衰退」と言われるとき、何が縮んでいるのかを確かめる。最も明白に縮小しているのは担い手だ。農業・漁業・林業の就業者数を、それぞれ最初の調査年を100として指数化し、減少のペースを比べる。
担い手(就業者)の推移(各業種の初回調査年=100)
調査年が業種で異なるため、各系列を初回調査年=100として指数化。畜産の就業者単独時系列は整備が弱く本図から除外している。
漁業就業者は35年で3分の1以下に沈み、農業・林業も一貫して減少。担い手の減少という意味での『衰退』は、どの業種でも数字で裏づけられる
漁業就業者は1988年の約39.2万人から2023年の約12.1万人へ、35年で約69.1%減った。農業の基幹的農業従事者も2005年の約224万人から2020年の約136万人へ約39.2%減、林業就業者も2000→2020年で約34.9%減。高齢化と新規参入の細りが重なり、担い手の縮小はどの業種でも明白だ。では、その担い手が生み出す産出額はどうか。次に、絶対額で減少が鮮明な漁業と林業を見る。
漁業・林業の産出額の推移(億円)
漁業は数年おきの公表値、林業は年次値。ともに名目額(億円)。
漁業・林業の産出額はいずれも1990年からおよそ半減。担い手だけでなく、市場規模そのものが縮んでいる
漁業の産出額は1990年の約2.9兆円から2022年の約1.5兆円へ約47%、林業の産出額も1990年の9,775億円から2024年の5,713億円へ約41.6%縮んだ。一方で、同じ生産農業所得統計で見ると農業・畜産の産出額は名目では減っていない(畜産は1990→2022年で増加)。つまり「衰退」の正体は、産出額の一律縮小ではなく、担い手の激減と、漁業・林業に典型的な市場規模の縮小である。マクロの縮小はここまではっきりしている。問題はここからだ——縮む産業のなかで、上場企業の「生産」はどう稼いでいるのか。
2. それでも儲かる生産 — 工業化したきのこ
縮む産業のなかで、まず「生産そのものが高い利益率を出している」例から見る。農業(きのこ)のホクトは、報告セグメントを「国内きのこ/海外きのこ/加工品/化成品」に分けており、生産(きのこ栽培)を独立して切り出せる稀有な会社だ。その国内きのこ(生産)セグメントの売上高と利益率を10期並べる。
ホクト 国内きのこ(生産)セグメントの売上高と利益率
利益率=セグメント利益÷セグメント売上高。売上は外部顧客への売上高。
売上は10期でほぼ一貫して増加。利益率は2023年に一度沈むが、多くの期で二桁近い水準を保つ。屋内生産は規模拡大と高利益率を両立できている
国内きのこの外部売上は、初期の約423億円から直近の約561億円へと拡大した。利益率は-3.4%から13.7%の間で動き、直近は12.9%。2023年に一度赤字近くまで沈んだのは、エネルギー・資材価格の高騰と、増産に伴うきのこ単価の下落が重なったためだ。それでも多くの期で高い利益率を維持できているのは、きのこ栽培が「屋内の施設で温度・湿度・光・培地を管理する、限りなく工業に近い生産」だからである。天候にも海況にも左右されない。まさに「生産の工業化」が高収益を生む典型だ。この生産の強さは、同じ会社の加工品と比べるとさらに際立つ。
きのこ栽培では、菌床(培地)の配合から収穫までの日数、空調による生育速度まで数値で管理でき、需要期に合わせた計画生産ができる。露地の農作物のように天候一つで収量が半減することはなく、漁業のように資源量や海況で漁獲が上下することもない。「生産の条件を自ら設計できる」ことこそ、屋外の一次生産と決定的に違う点だ。産業としてのきのこ市場が限られていても、生産方式を工業に寄せた企業は、その限られた市場のなかで安定して高い利益率を出せる。「衰退産業だから儲からない」という因果は、少なくともこの生産では成立していない。
ホクト 生産(国内きのこ)vs 加工品の利益率
このケースでは生産(きのこ栽培)のほうが加工品より利益率が高い。付加価値が下流に移るとは限らず、制御された生産そのものが利益の源泉になりうる
一般に「生産は薄利、加工・流通で稼ぐ」と言われる。だがホクトでは、生産(国内きのこ)の利益率が加工品を上回る期が多い。生産の平均利益率9.0%に対し、加工品は平均5.7%。「工業化された生産」は、加工に付加価値を明け渡すのではなく、生産そのものが利益の中心になりうる。この構図が、きのこという作物に固有の偶然でないことは、もう一社のきのこ上場企業で確かめられる。
きのこ2社の生産セグメント利益率(ホクト vs 雪国まいたけ)
雪国まいたけはセグメント売上高が未開示のため外部売上を分母に用いた。開示期間が短く重複年のみ並列。
2社とも生産セグメントで高い利益率を出す。屋内でのきのこ栽培という『制御された生産』は、企業をまたいで高収益という共通性を持つ
雪国まいたけのきのこ事業も、直近2026年3月期で利益率11.7%、期間平均で12.0%と、ホクトと同様に厚い利益を出している。両社に共通するのは、生産を屋内施設に閉じ込め、需給に応じて増産・減産を調整できる点だ。「工業化された生産」は、産業がマクロで縮小していようとも、企業単位では高い収益性を実現できる。ここまでは「衰退=儲からない」への明確な反証だ。だが、生産がすべて高収益なわけではない。次は、同じ「生産」でも薄利にとどまる漁業を見る。
3. 「生産は薄利」の正体 — 漁業と種苗
漁業大手は、水産(漁撈・養殖・買付)を生産セグメントとして開示している。まずニッスイの最新期のセグメント別利益率を見て、生産(水産)が社内でどの位置にあるかを確かめる。
ニッスイ セグメント別利益率(2026年3月期)
水産(生産)は利益率4.5%で、食品(5.9%)を下回る。生産は薄いが、赤字ではなく安定して黒字を出す
ニッスイの水産(生産)の利益率は4.5%。食品セグメントの5.9%を下回り、社内では「稼ぐのは食品、生産は薄い」という関係になっている。きのことは対照的だ。ただしニッスイの水産は赤字に沈むことは少なく、薄利ながら安定している。これは同社が漁撈・養殖から加工・販売までを垂直に統合し、天然資源の変動を社内の複数工程で薄めているためと読める。生産単独では薄利でも、変動を吸収する仕組みがあれば黒字は続けられる。同じ漁業大手でも、マルハニチロを見ると事情はやや異なる。
マルハニチロ セグメント別利益率(2026年3月期)
水産(生産)の利益率は1.4%で、加工食品(5.0%)を下回る。ここでは『生産は薄利、加工で稼ぐ』の教科書どおりの構造
マルハニチロでは、水産(生産)の利益率1.4%に対し、加工食品は5.0%。まさに「生産は薄利、加工で稼ぐ」構造だ。ホクトのきのこが生産で稼いでいたのとは真逆に見える。だが本当の違いは、利益率の「水準」よりも「変動」に表れる。両社の水産(生産)利益率を10期並べてみる。
漁業2社の水産(生産)セグメント利益率の推移
マルハニチロは2022年3月期に水産の報告セグメント名称が変更(水産→水産資源)。時系列は接続せず参考値として並置。
ニッスイの水産は2.2〜5.4%の狭い帯で安定。マルハニチロは-7.4%まで沈む期があり、薄利なうえに振れ幅が大きい
ニッスイの水産は2.2%から5.4%の狭い範囲(変動幅3.2ポイント)で推移する。一方マルハニチロの水産は、2021年3月期に-7.4%まで沈むなど、変動幅12.0ポイントと大きく振れる。同じ「水産(生産)」でも、天然資源の変動をどれだけ社内で吸収できるかは企業で異なる。ニッスイは養殖と加工を垂直に統合し、生産の変動を薄くしている。極洋も水産商事の色が濃く、最新期(2025年度)の水産事業の利益率は約2.6%と薄利の傾向をなぞる。漁業の生産は「薄いが安定」か「薄くて不安定」かに分かれ、いずれもきのこのような高収益ではない。では、種苗はどうか。
サカタのタネ セグメント別利益率(2025年5月期)
種苗は海外卸売・国内卸売で高い利益率を出す高付加価値作物。ただし報告は流通軸で、生産(種苗開発)だけの利益は切り出せない
サカタのタネの利益率は、海外卸売で27.0%、国内卸売で35.8%と高い(小売は-5.6%で赤字)。種苗は品種開発という研究開発型の高付加価値作物で、きのこと並んで「農業でも高収益はありうる」ことを示す。ただしサカタのセグメントは「国内卸売/海外卸売/小売」という流通軸で、種苗の生産(品種開発)だけの利益を切り出せない。だからこの高収益は「生産の収益性」そのものではなく、種苗という商品の付加価値の高さを映すものとして、補助的に読むにとどめる。次に、最も解釈に注意がいる林業を見る。
4. 林業の場合 — 住友林業の資源環境
林業を上場企業で語るのは難しい。国内林業を主体とする上場企業がほとんどなく、木材関連で最大手の住友林業も、実態は住宅・海外事業が売上の大半を占める。それでも「資源環境」セグメントに山林・海外植林・木質バイオマスが含まれており、生産に最も近い部分をここから読める。ただし住友林業のセグメント利益は経常利益ベースで、他社(営業利益ベース)と単純比較できない点に注意が必要だ。まずその資源環境セグメントの利益率の推移を見る。
住友林業 資源環境セグメントの利益率(経常利益ベース)
利益指標は経常利益ベースのため、他社(営業利益ベース)とは単純比較できない。横軸は決算期(年/月。2020年は決算期変更で2期ある)。
資源環境の利益率は18.4%から直近の-4.8%まで大きく揺れ、直近は赤字。海外木材市況やバイオマス採算に左右され、変動が最も激しい生産
資源環境セグメントの利益率は、20/3期の18.4%(経常)から、直近25/12期の-4.8%まで、18.4%から-4.8%という極端な幅で揺れる。背景は、海外植林・木材市況・バイオマス発電の採算が世界の資源価格や為替に強く連動するためだ。ここでの「生産」は、屋内で制御されるきのことは対極にあり、外部環境の変動をほとんど遮断できない。会社全体のなかでの位置づけも見ておこう。
住友林業 セグメント別利益率(2025年12月期・経常利益ベース)
生産に最も近い資源環境は直近で赤字。稼ぎ頭は建設・不動産や住宅で、林業に近い部分ほど採算が薄い
最新期の住友林業では、稼ぎ頭は建設・不動産や住宅で、生産に最も近い資源環境(-4.8%)は木材建材(5.0%)よりも薄く、この期は赤字だった。林業は、就業者・産出額のマクロが最も縮んだ業種であると同時に、上場企業の「生産に近い部分」でも採算が薄く不安定という、S1〜S3の傾向を凝縮したような姿になっている。ただし住友林業の資源環境は海外植林・バイオマスが主体で、国内林業=山林そのものの収益性とは一致しない。あくまで「生産に最も近い開示セグメント」として、傾向を補助的に読む対象である。ここまで4業種を横断してきた。最後に、7社を一つの平面に並べ、収益を分ける軸を特定する。
林業をあえて一言でまとめれば、「屋外の生産のなかでも、最も変動を制御しにくい生産」である。きのこが数十日で回る屋内の生産だとすれば、山林の育成は数十年単位で、そのあいだに木材市況も為替も海外の需給も何度も変わる。時間軸が長いほど、途中の変動を吸収しきれない。住友林業の資源環境が海外植林やバイオマスへ事業を広げてきたこと自体、国内の山林生産だけでは収益の変動が大きすぎることの裏返しとも読める。就業者・産出額の縮小が最も進んだ林業が、上場企業の生産セグメントでも最も不安定という事実は、「衰退」と「変動の大きさ」が別々の現象でありながら、同じ根(環境変動への露出)から生じていることを示唆する。
5. 分水嶺は水準でなく変動幅
ここまでの生産・加工セグメントを、二つの軸で一枚に置く。横軸は利益率の「水準」(期間平均)、縦軸は利益率の「変動幅」(標準偏差)。水準が高いほど右、変動が大きいほど上に位置する。住友林業は経常利益ベースで軸が異なるため、この図には含めていない。
生産・加工セグメントの利益率マップ(水準 × 変動幅)
横軸=期間平均利益率、縦軸=利益率の標準偏差。緑=きのこ生産、青=水産生産、灰=加工。値は各社の開示全期間から算出。
『何を作るか』では収益は決まらない。きのこ生産は水準が高く、水産生産は低い。だが変動幅で見ると別の序列が現れ、水準と変動は独立した二つの軸として効いている
図の右側(高水準)に来るのは、ホクト・雪国まいたけのきのこ生産(平均9.0%、12.0%)だ。左側(低水準)には水産生産(ニッスイ3.5%、マルハニチロ1.3%)が並ぶ。ここまでは「きのこは儲かる、水産は薄い」という水準の話だ。だが縦軸(変動)を見ると序列が変わる。ニッスイ水産は低水準ながら変動が最も小さく(標準偏差1.0)、マルハニチロ水産は低水準かつ変動が大きい(3.3)。きのこ生産は高水準だが、変動は決して小さくない(ホクト4.7)。水準と変動は、独立した二つの軸として効いている。この二軸を時系列で確かめる。
生産セグメント利益率の推移(3社重ね)
ホクトきのことマルハ水産を強調、ニッスイ水産は参照。マルハは区分変更をまたぐため参考値。
きのこ生産は高い位置で振れ、マルハ水産は低い位置で振れ、ニッスイ水産は低いまま平ら。高さも揺れ方も企業と生産方式で決まる
ホクトのきのこ生産は高い位置で、しかしそれなりに振れながら推移する。マルハニチロの水産は低い位置で大きく振れ、ニッスイの水産は低いまま平らに続く。三本の線は「利益率の高さ」も「揺れ方」も別々だと物語る。屋内で環境を制御するきのこは高水準を出せるが、エネルギー価格ショックという外部変動は施設の壁を越えて侵入し、利益率を揺らす。海に依存する水産は低水準で、その変動を垂直統合で吸収できるか(ニッスイ)否か(マルハニチロ)で安定度が分かれる。収益を分けているのは、作物の種類そのものではなく、生産が外部の変動にどれだけ晒され、それをどれだけ制御・吸収できるかだった。
6. 何が収益を分けるのか
7社の決算を横断して見えたのは、まず「一次産業は衰退産業だから儲からない」という因果が、上場企業の決算では成り立たないという事実だ。担い手も産出額も縮む産業のなかで、ホクト・雪国まいたけのきのこ生産は二桁近い利益率を出し、サカタのタネの種苗も高収益を維持している。産業(マクロ)の縮小と、そこで事業を営む企業(ミクロ)の収益性は、はっきりと別の指標である。「衰退」という一語で両者を一緒くたにすると、この構造は見えなくなる。
そのうえで、儲かる生産と薄利な生産を分けるのは「何を作るか」ではなかった。きのこ・魚・木という作物の別ではなく、その生産が需給と環境の変動にどれだけ晒され、どれだけ制御できるかが分水嶺だった。屋内で温度・湿度・培地を管理するきのこ栽培は、生産を限りなく工業に近づけることで高い利益率を実現する。だが完全な制御はない——エネルギー価格という外部投入コストの変動は、施設の壁を越えて利益率を揺らす。天候・海況・海外市況に直接晒される水産・林業は薄利で、その変動を垂直統合で吸収できる企業(ニッスイ)と、吸収しきれない企業(マルハニチロ・住友林業)に分かれる。
この構造は、一次産業のこれからを考えるうえで一つの含意を持つ。産業が縮小しているかどうかより、「その生産が変動をどれだけ制御できるか」が、企業として生き残れるかを左右する。屋内生産・施設化・垂直統合・需給調整——変動を遮断し吸収する仕組みを持てるかどうかが、収益の水準と安定を決める。逆に言えば、産業全体が縮む「衰退産業」であっても、変動の制御に成功した生産は高い収益を上げられる。上場7社の決算は、「衰退か否か」という問いよりも、「変動を制御できるか否か」という問いのほうが、一次産業の収益を語るうえで本質的であることを示している。
この視点は、生産現場の投資判断にも読み替えられる。屋内施設化や環境制御への投資、養殖や加工との垂直統合、需要期に合わせた計画生産——いずれも「作るものを変える」のではなく「変動をどれだけ遮断・吸収できるか」を高める打ち手だ。きのこ2社が示すように、市場が小さくても制御された生産は高い利益率を出せる一方、ニッスイとマルハニチロの対比が示すように、同じ天然資源の生産でも変動の吸収力があるかどうかで安定度は大きく分かれる。産業の規模が縮んでいるという事実は、そこで事業を営む企業が儲からないことを意味しない。縮む市場のなかでも、変動を制御できた生産だけが収益を確保している——これが7社の決算から取り出せる、実務に近い含意である。
最後に限界を確認しておく。上場企業は一次産業のごく一部であり、非上場・個人経営が担う生産の実像はここには映らない。セグメントの「生産」の中身は企業ごとに異なり、利益指標も営業利益ベースと経常利益ベースが混在する。単純な横並び比較には限界がある。それでも、公開された決算という一次情報から、「衰退=儲からない」という通念が単純化しすぎであること、そして収益の分水嶺が変動の制御にあることは、確かに数字で示せる。
よくある質問
Q. なぜ上場企業の決算で「一次産業は衰退か」を論じられるのですか?
一次産業の生産の大半は非上場・個人経営が担っており、上場企業は業界全体の一部にすぎない。したがって本レポートの数字は「一次産業全体の姿」ではなく、「その産業で上場企業として生き残り、生産を事業セグメントとして開示している企業の収益構造」である。むしろこの非対称性こそが論点になる。マクロ統計(産出額・就業者数)では漁業就業者が1988年から2023年で約69.1%減、林業就業者も2000年から2020年で約34.9%減と縮小が明白だが、同じ期間に個別企業の生産セグメントは黒字を出し続けている。産業の「規模の縮小」と、そこで事業を営む企業の「収益性」は別の指標であり、両者を突き合わせることで「衰退」という一語が覆い隠している構造が見えてくる。数値はすべてEDINET(金融庁)に提出された有価証券報告書のセグメント情報から取得している。
Q. 各社のセグメント利益率はどう計算していますか?
セグメント利益(有価証券報告書の報告セグメント別利益)を、そのセグメントの売上高で割った値を利益率としている。分母は内部売上を含むセグメント売上高(net_sales)を基本とし、これが未開示の社(雪国まいたけ)のみ外部顧客への売上高(external_sales)を用いた。ホクト・雪国まいたけ・サカタのタネ・マルハニチロ・ニッスイ・極洋の6社は営業利益ベース、住友林業のみ経常利益ベースの開示のため、住友林業の利益率は他社と単純比較できない点に注意が必要である(本文・チャートで都度明示している)。またマルハニチロ・住友林業などはセグメント区分の変更が複数回あり、時系列を機械的に接続していない期がある。区分変更をまたぐ推移は参考値として扱う。
Q. 「生産セグメント」とは具体的に何を指しますか?
企業ごとに「生産」の中身は異なる。ホクト・雪国まいたけは屋内施設でのきのこ栽培(国内きのこ/きのこ事業)、ニッスイ・マルハニチロは漁撈・養殖・買付を含む水産事業(水産/水産資源)、住友林業は山林・海外植林・木質バイオマスを含む資源環境事業を指す。同じ「生産」でも、屋内で環境をほぼ完全に制御するきのこ栽培と、天候・海況・海外市況に左右される水産・林業とでは、収益の安定度がまったく異なる。本レポートはこの「生産の中身の違い」が利益率の水準と変動幅にどう表れるかを軸に読み解いている。単純な業種横並び比較には限界があるため、各チャートで「そのセグメントが何を含むか」を明示している。
Q. サカタのタネや極洋を本文で大きく扱わないのはなぜですか?
サカタのタネは報告セグメントが「国内卸売/海外卸売/小売」という流通軸で構成されており、種苗の「生産」を独立したセグメントとして切り出せない。そのため生産の収益性を直接は論じられず、種苗という高付加価値作物の全体像を示す補強材料として扱っている。極洋も水産商事の色合いが濃く、養殖・漁撈専用の生産セグメントの分離が弱いため、漁業大手の傾向を裏づける補足として本文で最新期の水産事業の利益率(約2.6%、2025年度)に触れるにとどめている。「生産セグメントを分離開示しているか」という基準で扱いの軽重を決めており、分離が弱い社は無理にチャート化していない。
Q. 結論を一言でいうと何ですか?
「一次産業は衰退産業だから儲からない」という因果は、上場企業の決算では成り立たない。産業(マクロ)の縮小と、そこで事業を営む企業(ミクロ)の収益性は別物だからだ。そのうえで、儲かる生産と薄利な生産を分けるのは「何を作るか(きのこか、魚か、木か)」よりも「需給と環境の変動をどれだけ制御できるか」である。屋内で環境を制御するきのこ栽培は高い利益率を出すが、それでもエネルギー価格ショックを通じて外部変動が侵入する。天候・海況に晒される水産・林業は薄利で、企業によって変動の吸収力に差が出る。分水嶺は利益率の「水準」だけでなく「変動幅」にある——これが7社の決算から読み取れる構造である。
出典
- EDINET(金融庁)有価証券報告書 セグメント情報edinet-fsa.go.jp(ホクト 1379 / 雪国まいたけ 1375 / サカタのタネ 1377 / マルハニチロ 1333 / ニッスイ 1332 / 住友林業 1911 / 極洋 1301。書類取得API type=5 CSV版から報告セグメント別の売上高・利益を抽出)
- e-Stat 農林業センサス(基幹的農業従事者・林業就業者)/総務省 国勢調査e-Stat
- e-Stat 漁業センサス(漁業就業者)
- 農林水産省 漁業産出額(e-Stat)/生産農業所得統計 林業部門(e-Stat tableId: 0004049366)
- 農林水産省 生産農業所得統計(農業・畜産の産出額)
本レポートは情報提供を目的としており、特定の投資・経営判断や個別企業の評価を推奨するものではありません。記載のセグメント数値はEDINET提出の有価証券報告書に基づく公表値で、後日訂正される場合があります。セグメント利益率は各社のセグメント利益をセグメント売上高で割った自社算出値です。分母は内部売上を含むセグメント売上高を基本とし、未開示の社は外部売上を用いました。ホクト・雪国まいたけ・サカタのタネ・マルハニチロ・ニッスイ・極洋は営業利益ベース、住友林業は経常利益ベースの開示で、両者は単純比較できません。セグメント区分の変更・会計基準の相違・決算期変更がある期は時系列を機械的に接続しておらず、区分変更をまたぐ推移は参考値です。上場企業は一次産業全体のごく一部であり、本レポートの数値は産業全体の姿ではありません。最新情報は各出典先の公式サイトでご確認ください。
※本レポートはAIを活用して作成し、編集部が内容を確認・監修しています。詳しくは編集方針をご覧ください。

sanchi.jp編集部
一次産業メディア 業種横断レポート担当
農林水産業のデータと現場をつなぐメディア「sanchi.jp」編集部。公的統計・一次情報に基づき、構造的な視点で一次産業の論点を整理しています。
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