ブリ養殖は種苗導入→給餌→出荷の3段階で構成され、水温管理と餌料コストの最適化が収益性を左右する。海面水温の上昇傾向に適応した密度設計が成否の鍵だ。
主要データ
- ブリ類養殖生産量:139,687トン(水産庁「漁業・養殖業生産統計」2024年)
- 1尾あたり出荷サイズ:4.5〜6kg(通常12〜16ヶ月育成)
- 飼料転換効率:生餌1.8〜2.2:配合飼料1.4〜1.7(九州大学水産学部調査、2023年)
- 稚魚単価(モジャコ):180〜350円/尾(長崎県・鹿児島県沿岸、2025年平均)
生け簀の収容密度を決める基準は水温の推移だ
ブリ養殖で最初に失敗しやすいのは種苗を導入する段階での収容密度設定であり、教科書では「1立方メートルあたり20〜30尾」と書かれているものの、この数字をそのまま使うと夏場の酸欠で大量へい死を招くおそれがあるため、能登北部沿岸で2026年8月時点の海面水温が27.8度と平年比+1.1度を記録している現状では、従来の密度設定だけでは水温上昇リスクに対応しきれない。
現場での判断基準は、導入予定海域の過去3年間の最高水温に置かれる。例えば長崎県五島列島周辺では、8月の最高水温が28度を超える年が2022年以降3年連続で発生しているため、この場合は密度を従来の7割程度に落として1立方メートルあたり15〜18尾に抑える運用となり、水温が26度を下回る海域なら25尾でも問題ないが、28度超が想定される海域では密度を下げる判断が欠かせない。
密度を下げると1生け簀あたりの収益は減るものの、へい死率が10%上がれば餌代と種苗代が丸ごと無駄になるため、五島の養殖業者が2024年に実施した比較試験で密度18尾/㎥の生け簀と25尾/㎥の生け簀に8.3ポイントの差が出た事実は軽く見られず、しかも経営上は生け簀の総数と人員で上限が決まることから、密度設計は単独の技術論ではなく設備配置や労務配分まで含めて考える必要がある。
種苗導入から出荷までの全体工程

ブリ養殖の工程は、種苗導入→育成(給餌・選別)→出荷の3段階に分かれ、それぞれの段階で水温と魚体サイズによって作業内容が変わるため、暦どおりに進めるのではなく、その時々の水温と成長度合いを見ながら工程全体を組み直す運用が現場では求められている。
種苗導入期(4〜6月)
天然採捕されたモジャコ(稚魚)を導入する。長崎県・鹿児島県沿岸で採捕されたモジャコは、体長3〜5cmの段階で養殖業者に販売され、価格は年によって変動が大きく、2025年は1尾あたり180〜350円だったため、豊漁年は200円を切るが、不漁年は400円を超えることもあるという前提で仕入れ計画を組む必要がある。
導入直後は生け簀の網に擦れてストレスを受けやすく、最初の2週間は給餌量を抑えて1日あたり魚体重の1〜2%程度に留めるのが基本であり、水温が18度を下回る場合は給餌自体を見送る日も作るが、この時期に無理に餌を与えると消化不良を起こしてへい死の原因につながるため、導入直後ほど「食わせる」より「落ち着かせる」管理が優先される。
育成期(6月〜翌年8月)
水温が20度を超えたら本格的な給餌に入り、餌は生餌(イワシ・サバ等の冷凍魚)と配合飼料(ペレット)の2種類があって成長段階と経営方針によって使い分けるが、生餌は嗜好性が高く成長が早い反面、飼料転換効率は1.8〜2.2と配合飼料の1.4〜1.7より劣るため、成長速度だけでなく総コストまで見て選ぶ必要がある。
給餌は1日2回、朝と夕方に行う。夏場の高水温期は朝の給餌を早めて水温が上がる前に終わらせるのが一般的であり、水温が28度を超えると食いが落ちるため給餌量を減らして残餌を出さないようにするが、残餌は水質悪化の原因となって赤潮発生時のリスクも押し上げることから、この時期の調整は日々の観察と切り離せない。
育成期間中に最低1回、多い場合は3回程度の選別作業を行う。成長の早い個体と遅い個体を分けることで出荷サイズのばらつきを抑えられる一方、選別は網で魚を追い込んで一時的に密度を上げるため魚体へのストレスが大きく、作業後3日間はへい死数が増えるのが通常であることから、選別直後の給餌は控えめにする運用が定着している。
出荷期(9月〜翌年2月)
出荷サイズは4.5〜6kgが標準で、導入から12〜16ヶ月で到達する。出荷時期は市場価格と魚体サイズのバランスで決められ、年末年始は需要が高く価格が上がるものの、その時期に出荷サイズへ達していなければ無理に出さず、サイズ不足の魚は単価が下がって餌代を回収しにくくなるため、価格だけを見た前倒し出荷は避けたいところだ。
出荷前1週間は給餌を停止し、腹に餌が残った状態で出荷すると輸送中や活け締め後に内臓が傷んで鮮度落ちが早まるため、鹿児島県東町漁協では出荷3日前から絶食させる業者が多いが、これは輸送時間が長い関東市場向けの対応でもあり、水産庁「令和4年度水産白書」によると2022年の養殖ブリ類の輸出額は約118億円に達していて、北米や欧州での需要拡大も続いている。
Before/After:密度設計を見直す前と後
見直し前の状態
愛媛県宇和海の養殖業者Aは、2022年まで教科書通りの密度25尾/㎥で生け簀を設計していた。2023年夏には8月の水温が例年より1.5度高い28.7度を記録し、生け簀3基でへい死が相次いだ結果、最終的なへい死率は14.2%に達して、餌代と種苗代を合わせて約380万円の損失が出ている。
原因は密度過多による酸素不足であり、水温が上がると水中の溶存酸素量が減るのと同時に魚の代謝が上がって酸素消費量も増えるため、密度が高いとこの二重の負荷に耐えられず、業者Aは「水温が高い年もあれば低い年もある。運が悪かった」と考えていたものの、実際には2020年以降、宇和海の8月平均水温は3年連続で平年を上回っていた。
見直し後の変化
2024年、業者Aは密度を18尾/㎥に引き下げた。生け簀1基あたりの収容尾数は従来の5,000尾から3,600尾に減ったため、同じ出荷量を確保するには生け簀を1.4倍に増やす必要があったが、既存の生け簀配置を見直して一部を2段式にすることで、新規投資はできるだけ抑えている。
2024年夏の水温は28.3度まで上昇したが、へい死率は4.1%に留まり、前年比で10ポイント以上改善しただけでなく、餌の食いも良く成長速度は前年より8%早まったため、結果として出荷までの期間が1.2ヶ月短縮されて餌代の総額も減っており、密度を下げたことで1尾あたりの遊泳空間が広がってストレスが減ったことが要因と考えられる。
業者Aは「密度を下げると収益が減ると思っていたが、へい死率と成長速度を考えれば逆だった」と話す。ただし、この結果は宇和海という高水温海域での話であり、北海道や東北の低水温海域では密度設計の考え方が異なるため、同じ数値を横展開するのではなく、海域ごとの水温特性に合わせて調整する視点が必要になる。
各ステップの詳細
ステップ1:種苗の選定と導入
種苗は天然採捕されたモジャコと人工種苗の2種類があり、天然モジャコは長崎県・鹿児島県沿岸で4〜6月に採捕されて体長3〜5cmの段階で取引される一方、人工種苗は近畿大学水産研究所などで生産されているものの、流通量は天然モジャコの1割未満にとどまる。
天然モジャコの価格は漁況に左右される。2023年は豊漁で1尾180円前後だったが、2024年は不漁で300円を超えたため、価格が高騰した年は導入尾数を減らすか、小型の生け簀で密度を上げて対応する業者もいるものの、密度を上げた分だけへい死リスクは高まりやすい。
導入時の選別も成否を分ける。モジャコは同じロットでもサイズにばらつきがあり、大きい個体と小さい個体が混在するため、大小混在のまま育成すると大型個体が餌を独占して小型個体が育ちにくくなり、導入段階で目視選別を行ってサイズ別に生け簀を分けておけば、手間はかかっても最終的な出荷サイズの均一性が上がり、選別作業の回数も減らしやすい。
ステップ2:給餌管理
給餌管理はブリ養殖で最も時間とコストがかかる作業であり、餌代は総コストの5〜6割を占める。水産庁「漁業経営調査」(2024年)によると、ブリ養殖の1kg生産あたりコストは平均742円で、うち餌代が約450円を占めるが、この数値は配合飼料を主体とした経営体の平均であり、生餌を多用する経営体ではコストがさらに高く、水産庁「令和5年度水産基本計画」では、養殖業の生産性向上目標として2032年までに飼料効率を10%改善する方針が示されている。
餌の種類は成長段階で切り替える。導入直後は生餌(イワシ・サバのミンチ)を与え、体長10cmを超えたら配合飼料に移行する業者が多く、生餌は嗜好性が高く初期成長が早いものの飼料転換効率が悪く、配合飼料は転換効率が良く保存も利く反面、食いつきが悪い個体もいる。
給餌量は水温と魚体重で決まり、水温20〜25度では魚体重の2〜3%、25〜28度では3〜4%が目安になるが、28度を超えると食いが落ちるため2%程度に減らし、逆に18度を下回ると代謝が落ちて餌を消化しきれないため1%以下に抑えるという調整が必要になる。
現場では給餌量を「食い残し」で調整する。餌を投入して30分後に生け簀の底を覗き、残餌が見えたら翌日の給餌量を減らし、残餌が出ない場合は翌日少し増やすという微調整を毎日繰り返すが、自動給餌機を導入している経営体でも食いの変化を見逃しやすい面があるため、手撒きで魚の動きを直接観察する価値はなお大きい。
ステップ3:選別作業
選別は成長の早い個体と遅い個体を分ける作業であり、同じ生け簀内でもサイズのばらつきは出るため、大型個体が餌を優先的に食べて小型個体が餌にありつけず成長が遅れる状況を放置すると、出荷時期に達した個体と達していない個体が混在し、出荷効率が落ちてしまう。
選別のタイミングは体長10cm、20cm、30cmの3段階が基本だ。ただし、成長が均一な場合は20cmと30cmの2回で済ませることもあり、選別は網で魚を追い込み一時的に高密度にして選別網で大小を分けるため、この作業中に魚体が網に擦れたり密度上昇でストレスを受けたりして、作業後3〜5日はへい死が増えやすい。
選別直後の給餌は控えめにし、ストレスで消化能力が落ちているため通常の7割程度に減らしたうえで、3日後に食いが戻ったら徐々に量を増やすのが基本となっており、さらに選別作業は凪の日を選ぶのが鉄則でもあるため、時化の日に行うと作業効率が落ちるだけでなく魚体へのダメージも大きくなりやすい。
ステップ4:病害対策
ブリ養殖で最も警戒すべき病害は類結節症とビブリオ病であり、類結節症は細菌感染症として夏場の高水温期に発生しやすく、感染すると体表に結節(しこり)ができてへい死率は20〜30%に達することもある一方、ビブリオ病も細菌性で水温25度以上で発生し、感染初期には体表の充血が見られて放置すると全身に広がる。
予防の基本は密度管理と給餌管理にある。密度が高いと魚同士の接触が増えて感染が広がりやすく、残餌が多いと水質が悪化して細菌が繁殖しやすいため、病害発生時の対処法は動物用医薬品の使用になるが、具体的な薬剤名や使用量は獣医師の指示に従う必要があり、水産用医薬品は薬機法の規制対象でもある。
赤潮も大きなリスクであり、宇和海では2022年に大規模な赤潮が発生してブリ養殖で約6,800トンの被害が出たため、発生時は給餌を停止して魚の代謝を下げ、酸素消費を抑える対応が必要になるが、可能であれば生け簀を赤潮の影響が少ない沖合に移動させる方法もあり、もっとも移動には船と人手が必要なことから、小規模経営体では実行が難しい場面もある。
ステップ5:出荷調整
出荷は市場価格と魚体サイズを見ながら調整する。ブリの市場価格は年末年始にピークを迎え、1kgあたり1,200〜1,500円になる一方、通常期は800〜1,000円程度で推移するため、年末に出荷するには11月時点で4.5kg以上に育っている必要があり、サイズが足りなければ無理に出さず翌年1月以降に回す判断が現実的になる。
出荷前の絶食期間は輸送距離で変わり、関東市場向けは輸送に12〜18時間かかるため出荷1週間前から給餌を停止する一方、関西市場向けは輸送時間が短いため3〜5日前の停止で済むが、絶食期間が短いと腹に餌が残って輸送中に内臓が傷み、逆に長すぎると魚体が痩せて商品価値が下がる。
活け締めのタイミングも鮮度を左右し、出荷当日の朝に活け締めして氷詰めで出荷するが、活け締めは脳と脊髄を破壊して即死させる方法で暴れによる身質の劣化を防ぐ一方、この作業には技術が要るため、慣れない作業者が行うと締めが不完全で暴れが残ることもあり、鹿児島県東町漁協では活け締め専門の作業員を雇用している経営体もある。
必要な道具と設備
生け簀
ブリ養殖の生け簀は円形のネットケージが主流で、直径10〜15m、深さ8〜12mの規模が標準となっており、1基あたり3,000〜5,000尾を収容するが、網地はポリエチレン製が多く、目合いは成長段階で変え、稚魚期は15〜20mm、成魚期は30〜40mmを使う。
生け簀の設置場所は水深と潮流で決まる。水深20m以上、潮流が秒速10〜30cmの海域が適しており、潮流が速すぎると網が流されて魚がストレスを受け、遅すぎると水の入れ替わりが悪く酸欠リスクが高まるため、長崎県五島列島や愛媛県宇和海は潮流が適度なブリ養殖の適地として知られている。
生け簀の耐用年数は5〜7年であり、網地は潮流と紫外線で劣化して2〜3年で交換が必要になる一方、フレーム(浮き輪部分)はポリエチレン製で耐久性が高いが、台風や冬の時化で破損することもあり、2023年の台風13号では鹿児島県錦江湾の養殖生け簀が複数破損して魚が逃げる被害が出た。
給餌設備
給餌は手撒きと自動給餌機の2種類があり、手撒きは作業船から餌を投げ入れる方法で設備投資が少なく魚の食いを直接観察できるが、1日2回の給餌に人手が必要であり、天候が悪いと作業ができないという制約もある。
自動給餌機は生け簀に固定して一定量を自動投入する装置だ。人手を減らせるが、機器の価格は1基あたり150万〜250万円と高く、故障時の修理費もかかるうえ、食いの変化を見逃しやすいという欠点もあるため、自動給餌機を使う場合でも週に数回は目視確認が必要になっている。
作業船
給餌、選別、出荷のすべてで作業船が必要であり、船の規模は経営規模で変わるものの5トン未満の小型船が一般的で、船にはクレーンや網の巻き上げ装置を搭載して選別時に魚を持ち上げるため、中古で300万〜800万円、新造なら1,000万円を超える。
船の操縦には小型船舶操縦士免許が必要だ。5トン未満なら2級、5トン以上なら1級の免許が要り、作業中の安全確保のためライフジャケットの着用も義務化されているが、2022年の水産庁調査では養殖業での海中転落事故のうち6割がライフジャケット未着用だった。
前提条件と初期投資
漁業権の取得
ブリ養殖を始めるには、まず漁業権が必要であり、養殖業は「区画漁業権」に分類されて都道府県知事が漁協に免許を与え、漁協が組合員に使用権を割り当てる仕組みになっているが、漁協の組合員になるにはその地域に居住して一定期間の漁業実績が求められるため、新規参入者がいきなり養殖を始めることは制度上難しい。
漁業権の使用料は漁協ごとに異なるが、年間数万〜数十万円が相場だ。また、漁協への加入時に出資金が必要で、金額は漁協によって10万〜100万円と幅があるため、これらの費用も初期投資ではなく継続的な経営コストとして見込んでおく必要がある。
初期投資の内訳
ブリ養殖の初期投資は生け簀の規模で変わる。生け簀1基(5,000尾規模)を新設する場合、以下の費用がかかる。
- 生け簀本体(網、フレーム、アンカー):200万〜350万円
- 作業船(中古5トン未満):300万〜800万円
- 種苗(モジャコ5,000尾):90万〜175万円(単価180〜350円)
- 初年度餌代:400万〜600万円(配合飼料主体の場合)
- その他(給餌設備、保険、漁協費用):100万〜200万円
合計で1,090万〜2,125万円が目安であり、既存の養殖業者の下で研修を受けながら独立する場合は、生け簀や船を共用できることもあるため、設備を一式そろえる場合に比べれば初期投資を抑えやすい。
経営を続けるための条件
ブリ養殖は出荷まで12〜16ヶ月かかるため、その間の運転資金が必要であり、餌代は月間30万〜50万円かかってこれを出荷まで立て替える必要があることから、日本政策金融公庫の「農林漁業セーフティネット資金」や各県の制度融資を活用する経営体が多いが、具体的な融資条件は年度ごとに変わるため、各地の漁協や普及センターに最新情報を確認するのが前提になる。
もう一つの条件は労働力だ。給餌は1日2回で、選別や出荷は数日がかりの重労働になるため、家族経営なら2〜3人、規模が大きければパートやアルバイトを雇うことになるが、高齢化が進む産地では人手確保が課題となっており、鹿児島県東町漁協では外国人技能実習生を受け入れている経営体もある。
農林水産省「漁業センサス(2023年)」では、海面養殖業経営体数は約9,000経営体と10年間で約20%減少しており、後継者不足と高齢化が進行していることが数字からも読み取れる。
現場で応用するコツ
水温変化を先読みする
ブリ養殖で最も重要なのは水温の先読みであり、水温が2度変われば給餌量も密度設計も変わるため、気象庁の海面水温予測や県の水産試験場が公表する水温情報を週1回は確認したい。2026年8月時点では、日本近海の13海域中11海域で平年を上回る水温が観測されており、釧路地方沿岸では18.3度(平年比+1.3度)、岩手県北部沿岸では22.5度(平年比+1.2度)と、北の海域でも水温上昇が続く。
この傾向が続く場合、従来は低水温海域として密度を高めに設定していた東北・北海道でも、密度設計を見直す必要が出てくる。水温上昇は成長速度を早める利点もあるが、酸欠リスクとのバランスを取るには密度を下げる判断が欠かせない。
餌の切り替えタイミング
生餌から配合飼料への切り替えは、魚体サイズではなく「食いつき」で判断し、体長10cmを超えたら配合飼料を少量混ぜてみて食いが悪ければ生餌に戻し、食いが良ければ徐々に配合飼料の比率を上げながら、1週間で生餌7:配合3から5:5、3:7と段階的に移行する。
配合飼料への切り替えが早いほど餌代を抑えられるが、食いが悪いまま無理に切り替えると成長が遅れる。成長が遅れれば出荷時期が延びて餌代の総額が増えるため、切り替えの成否は単なる餌の選択ではなく、年間の収支計画にも響いてくる。
出荷時期の分散
出荷時期を分散させると価格変動リスクを抑えられ、年末一括出荷を狙うとその年の市場価格に収益が左右されるため、価格が高ければ良いが暖冬で需要が減ると単価が下がる一方、出荷を12月、1月、2月の3回に分けると、どこかで高値を引ける可能性が上がる。
ただし、出荷時期の分散には選別作業が必須だ。同じ生け簀内でサイズを揃えておかないと、出荷適期の個体と未達の個体が混在するため、選別の手間はかかっても価格リスクを減らせる利点は小さくない。
記録を残す
給餌量、水温、へい死数、選別日を記録し、どの条件で成長が早いか、どの時期にへい死が多いかを見える化すると、例えば水温26度で給餌量を魚体重の3%にした年と2.5%にした年を比較した際に、どちらが成長速度と餌代のバランスが良かったかを後から検証できる。
記録は紙のノートでも良いが、スマートフォンのアプリを使うと後で集計しやすい。愛媛県の一部の養殖業者は、養殖管理用のアプリを使って水温と給餌量をグラフ化しており、データが蓄積されるほど経験だけに頼らない判断がしやすくなっていく。
次にやるべきこと
ブリ養殖を始めるなら、まず地域の漁協に足を運び、漁業権の取得条件、組合員になるための要件、既存の養殖業者との関係を確認する必要があるが、新規参入者を受け入れる体制がある漁協もあれば閉鎖的な漁協もあるため、後者の場合はまず准組合員として既存業者の下で働き、実績を積んでから独立する道筋を探ることになる。
次に、県の水産試験場や普及センターで技術情報を集める。各県は養殖技術のマニュアルを公開しており、病害対策や給餌管理の基礎を学べるうえ、先進的な養殖業者の見学も有効であり、実際の生け簀配置、給餌の様子、選別作業の手順を見れば、教科書では分からない現場の工夫が見えてくる。
資金計画も早めに立てる。初期投資だけでなく、出荷まで12〜16ヶ月の運転資金が必要であり、日本政策金融公庫や県の制度融資を調べ、必要なら事業計画書を作成して融資相談に行くことになるが、融資審査では漁協の推薦状や研修実績が重視されるため、漁協との関係構築を先に進めておくほうが動きやすい。
道具の準備は後回しでよく、生け簀や船は高額でいきなり揃えると失敗時のリスクが大きいため、まずは既存業者の下で働いて現場の流れを体で覚え、給餌のタイミング、選別の力加減、出荷時の魚の扱い方を身につけたうえで、1〜2年の研修期間を経て独立の目処が立った段階で設備投資に進むほうが、資金面でも運営面でも無理が出にくい。
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この記事は「漁業経営改善ガイド — 既存漁業者のための収益改善戦略」の関連記事です。漁業に関する体系的な知識はこちらのガイドをご覧ください。
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