森林減少を食い止める現場の手順は、単なる植林量の拡大ではなく、伐採跡地の確実な更新・獣害対策・地拵えの精度が鍵を握る。
主要データ
- 人工林の未立木地面積:約9.6万ha(林野庁「森林資源の現況」2022年3月31日時点)
- 主伐面積に対する再造林率:約36%(林野庁「森林・林業白書」令和4年版)
- 獣害による苗木枯損率:平均18〜25%(地域によって異なる、九州森林管理局調査2023年)
- 日本の森林面積:約2,505万ha(国土面積の約66%、林野庁「森林・林業白書」令和5年版)
主伐後の再造林を放棄した現場で見えてくる現実
秋田県内の林業事業体が主伐を終えた現場を訪ねたとき、最初に目に入ったのは土場の脇に積まれたままの苗木の枯死体であり、発注者との契約では再造林まで含まれていたにもかかわらず、人手不足に加えて獣害対策の見積もりが甘かったため植栽が先送りされ、そのまま放置に至った事例だった。
林野庁の「森林・林業白書」(令和4年版)によれば、主伐面積に対する再造林率は約36%にとどまっている。つまり、伐採された森林の6割以上が適切に更新されていない計算になる。この数字には自然更新も含まれるため、人工林として確実に次世代を育てている面積はさらに少なく、世界的には森林面積が年間約1,000万ha減少している一方で、日本国内の森林面積はほぼ横ばいで推移しているものの、人工林の未立木地面積は約9.6万haに達しており、質的な森林減少が進行していることが見て取れる(林野庁「森林・林業白書」令和5年版)。
本当に問われているのは本数ではない。森林減少を防ぐ現場の作業は、単に植林本数を増やすことではなく、伐採跡地を確実に次世代林へ更新し、その後の保育を継続する仕組みを回すことにあり、教科書では「伐採→地拵え→植栽→下刈り」と順序立てて書かれるが、実際の現場では地拵えの精度が低ければ苗木の活着率が3割以上落ち、獣害対策を怠れば植栽後2年以内に半数近くが食害で枯れることもある。
現場で最初につまずくのは、伐採直後の地拵えを「残材の片付け」程度に考えてしまう点であり、実際には伐根の処理・枝条の整理・雑草木の除去が不十分だと、その後の植栽作業の効率が半分以下になり、さらに植えた苗木が根を張るスペースを確保できず、初年度から生育不良を起こすことになる。
伐採跡地の更新に必要な現場条件と道具

森林減少を防ぐための再造林作業では、まず伐採後の現場がいくつかの条件を満たしている必要があり、第一に土場から植栽予定地まで苗木を運搬できる作業道または林道が確保されていること、第二に伐採時期と植栽時期の間隔を適切に設定することで、急傾斜地では人力での荷揚げになるため1日あたりの植栽本数が平地の半分以下に落ち、秋に主伐を終えた現場でも地拵えが冬季に完了していなければ翌春の植栽適期に苗木の調達が間に合わない。
必要な道具は多い。まず地拵えには刈払機(エンジン式またはバッテリー式)、チェーンソー(伐根処理用)、唐鍬または鋤簾(じょれん)が要る。植栽には植付鍬(唐鍬でも代用可能だが専用品のほうが作業が早い)、苗木運搬用のコンテナまたは背負子、獣害対策用のネットまたはチューブが必須となっており、獣害が激しい地域では植栽と同時にツリーシェルター(苗木保護筒)を設置する前提で資材を手配する。九州南部ではシカの食害が深刻で、2023年の九州森林管理局の調査では無対策の場合の枯損率が18〜25%に達している。
苗木の選定も現場条件に左右される。スギ・ヒノキの実生苗かコンテナ苗か、品種はどうするか。コンテナ苗は根鉢がしっかりしているため活着率が高く、植栽適期の幅も広い一方で、単価は実生苗の1.5〜2倍になるため初期費用を抑えたい現場では判断が難しく、吉野や天竜といったスギ・ヒノキの名産地では地域に適した系統の苗木を選ばないと後の成長に大きな差が出る。
Step 1: 伐採直後の土場整理と地拵え計画の立案
主伐が終わった直後の土場には末木枝条(うらきえだえ)や樹皮、切り捨て材が散乱しており、この段階で再造林の成否を左右する地拵えの範囲と方法を決める必要があるため、全刈り(全面地拵え)か筋刈り(列状地拵え)か、それとも坪刈り(点状地拵え)かを地形と作業力に応じて選び、平坦地で機械地拵えが可能なら全刈りが理想だが、急傾斜地では人力での筋刈りが現実的になる。
土場の整理では、まず搬出材として利用できなかった末木や曲がり材を土場の端に集積する。この段階で林地に残す枝条と、搬出または焼却する枝条を分ける。林地に残す枝条は将来的に土壌改良材になる一方で、量が多すぎると植栽作業の妨げになるため、目安として地表面が50%以上覆われる状態は避けたいところだ。
地拵えの計画では、植栽予定本数と配置を先に決める。スギ・ヒノキの一般的な植栽密度は1ha当たり2,000〜3,000本だが、近年は低密度管理(1,500本/ha程度)も増えている。ただし、低密度では初期の下刈り回数が増えるため労務コストを考慮する必要があり、また傾斜地では等高線に沿った筋刈りにすることで土壌流出を防ぐ効果もあるため、密度と配置は切り離さず一体で判断することになる。
Step 2: 刈払機とチェーンソーによる地拵え作業
ここから実作業に入る。刈払機で雑草木と低木を刈り、チェーンソーで伐根の周囲を整理する。刈払機の刃は、笹や低木が多い場所ではチップソー、草本が主体ならナイロンカッターでもよいが、ツル性植物が絡んでいる場合はチップソー一択であり、刃の回転方向を意識して刈った草木が作業者側に飛ばないよう注意しなければならない。
伐根の処理は、植栽の障害になる高さ30cm以上の切り株をチェーンソーで地際まで切り下げる。完全に掘り起こす必要はない。植付鍬が入るスペースを確保し、伐根が多い現場では伐根の間に苗木を配置する前提で地拵えの範囲を決めていく。
筋刈りの場合、刈り幅は1.5〜2m程度、刈らない部分(残置帯)は2〜3m程度が標準だが、シカやイノシシの生息密度が高い地域では残置帯を狭くして見通しを良くすることで獣害を減らす効果があり、新潟県内の事例では残置帯を1m以下にした現場で食害率が約15%低下したというデータがある。
地拵え後、枝条や刈草を林地に均等に敷くか、筋状に集積するかを決める。敷く場合は土壌の乾燥防止になるが、厚すぎると植栽時に邪魔になる。集積する場合は、将来的に腐植層となるよう等高線に沿って配置すると扱いやすい。
Step 3: 苗木の調達と植栽前の養生
植栽の2〜3週間前には苗木を発注する。発注先は地域の森林組合、種苗業者、または都道府県の林業公社などであり、苗木の品質は根の状態と樹高のバランスで判断し、根がしっかり張っていて根鉢が崩れていないことに加え、樹高は30〜50cm程度が扱いやすいものの、獣害対策で高い苗木を選ぶ場合は60〜80cmのものもある。
苗木が届いたら、植栽までの間に仮植または養生を行う。コンテナ苗の場合は直射日光を避けた日陰に置き、根鉢が乾燥しないよう定期的に水をやる。実生苗の場合は、根を湿らせたおがくずや土で覆い、風通しの良い場所に仮植する。植栽予定日の直前に降雨があれば苗木の活着率が上がるため、天候を見ながら植栽日を調整するのが基本となる。
時期の見極めは重要だ。高温期の植栽は苗木への負担が大きいため避けるのが基本であり、秋植えの適期は10月下旬以降、春植えなら3月下旬〜4月中旬が目安となっている。
Step 4: 植付鍬による植栽作業と獣害対策
植栽当日、苗木をコンテナまたは背負子に入れて現場に運ぶ。急傾斜地では1回の荷揚げで運べる本数が限られるため、複数回に分けて往復することになる。植栽位置は事前に決めた配置に従い、測量用のポールやピンクテープで目印をつけておく必要がある。
植付鍬で植穴を掘る。深さは苗木の根鉢がすっぽり入る程度、直径は20〜30cm程度。掘った土は穴の脇に置き、苗木を穴に入れた後、根鉢の周囲を埋め戻す。このとき、苗木の根元が地表面と同じ高さになるよう調整し、深植えすると根腐れのリスクが高まり、浅植えでは乾燥や倒伏の原因になるため、見た目よりも数cm単位の精度が活着に直結する。
植え付け後は、苗木の周囲の土を足で踏み固める。これは根と土を密着させ、活着を促すためであり、踏み固めが不十分だと降雨後に苗木が傾いたり、根が浮いたりしやすい。
獣害対策は植栽と同時に行う。ツリーシェルター(高さ1.2〜1.5mの筒状ネット)を苗木にかぶせ、支柱で固定する。シカの食害が激しい地域ではツリーシェルターだけでは不十分で、周囲にネットフェンスを張る必要があり、ネットの高さは1.8m以上、地面との隙間は10cm以下に抑え、シカは低い隙間から侵入するため裾を土で埋めるか杭で固定する。
Step 5: 植栽後の下刈りと獣害チェック
植栽後1年目の夏(6月下旬〜8月上旬)には、第1回目の下刈りを行う。下刈りは苗木の成長を妨げる雑草木を刈り取る作業で、通常は年1〜2回、5〜8年間継続する。刈払機で苗木の周囲1m程度を刈るが、苗木本体を誤って刈らないよう注意が要り、初心者がよくやる失敗は刈払機の刃が苗木の幹に当たって折る事例であるため、刃を地面に対して平行に保ち、苗木の周囲30cm以内は手鎌で刈る。
回数は固定ではない。下刈りの頻度は、植栽後3年目までは年2回(初夏と晩夏)、4年目以降は年1回が目安だが、雑草木の繁茂状況によって調整する。ササやツル性植物が多い現場では、年2回でも足りない場合がある。
獣害チェックは、植栽後1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年のタイミングで行う。ツリーシェルターが外れていないか、ネットに破れがないか、苗木に食害の痕がないかを確認する。シカの食害は先端部の新芽が食べられる形で現れ、イノシシの場合は根元を掘り起こされるため、被害を見つけた段階で補植または追加の防護対策に移らないと、その後の保育効率まで落ちてしまう。
Step 6: 保育の継続と枯損木の補植
植栽後2〜3年目には、活着しなかった苗木や獣害で枯れた苗木を補植する。補植率は現場によって異なるが、10〜20%程度が一般的だ。ただし、獣害対策が不十分な現場では補植率が30%を超えることもあり、補植のタイミングは初回植栽と同じ時期(春または秋)が望ましい。
5〜8年目には、下刈りの頻度を減らし、苗木の樹高が雑草木を上回る段階に入る。この時期から、除伐(不要な広葉樹や形質不良木の除去)に移行する。除伐は植栽木の成長を促すために周囲の競合木を取り除く作業で、通常は10〜15年生の段階で1〜2回行う。
保育作業を継続するには、施業計画と予算の確保が欠かせず、林野庁の「森林整備事業」や「森林環境保全直接支援事業」などの補助制度があるものの、詳細な補助率や条件は年度ごとに変わるため最寄りの森林組合または都道府県の林務課に問い合わせる必要があり、再造林から初期保育までのコストは1ha当たり約100万〜150万円に上ることから、木材価格の低迷下では所有者の負担が重く、これが再造林率低迷の一因となっている(林野庁「森林・林業白書」令和3年版)。
現場でよく起こる失敗と実践的な対処法
宮崎県内のある林業事業体では、植栽後2年目の夏に現場を訪ねたところ苗木の約4割が枯れており、原因を調べると地拵えの際に伐根の周囲に枝条を厚く敷きすぎたため苗木の根が土に到達せず、乾燥で枯死したことが分かったため、枝条を敷く厚さは5cm以下に抑え、植穴の周囲30cm以内は枝条を除去するのが正しい手順になる。
別の事例もある。植栽密度を1ha当たり1,500本に設定したところ、初期の下刈りが追いつかず、3年目には雑草木が苗木を覆い尽くした。低密度植栽は将来的な間伐コストを減らす利点がある一方で、初期の下刈り回数が増えるため労務コストとのバランスを考える必要があり、下刈りを年2回確実に実施できる体制がなければ、植栽密度は2,000本/ha以上にしたほうが安全といえる。
獣害対策の失敗例として、ツリーシェルターを設置したが支柱の固定が甘く、強風で倒れた現場がある。支柱は地面に30cm以上打ち込み、シェルターとの結束は針金またはプラスチックバンドで2箇所以上固定する。竹の支柱を使う場合、根元が腐りやすいため、2〜3年ごとに点検・交換が必要となる。
補植のタイミングを逃す失敗もある。枯損木を放置したまま数年経過すると、周囲の雑草木が繁茂して補植作業が困難になる。枯損木は植栽後1年目の秋に確認し、翌春には補植を完了させたい。
作業中の安全管理と労災防止のポイント
森林作業では、刈払機とチェーンソーによる事故が最も多く、刈払機では刃の跳ね返り(キックバック)による足や脚の切創、飛散物による目の負傷が典型的であるため、保護具としてヘルメット、フェイスシールドまたは保護メガネ、防振手袋、刈払機用の防護ズボン(チャップス)、安全靴(つま先に鋼板入り)を必ず着用する。
チェーンソーでは、伐根処理中のキックバックと、不安定な姿勢での作業による転倒が危険だ。チェーンソーの目立ては毎日作業前に行い、チェーンの張りも確認する。目立てが不十分だとキックバックのリスクが高まるため、足場が悪い場所では無理に作業せず、周囲の枝条を片付けてから姿勢を安定させることが求められる。
急傾斜地での植栽作業では、滑落事故が起こりやすい。傾斜30度を超える現場では、安全帯(ハーネス型)を着用し、立木やロープに固定する。雨天後は地面が滑りやすいため、作業を中止するか、滑り止め付きの地下足袋またはスパイク付き安全靴を使う。
熱中症対策も欠かせない。夏季の作業は気温と湿度の影響を強く受けるため、早朝(午前5時〜9時)と夕方(午後4時以降)に作業時間を寄せ、15〜20分ごとに水分補給を行うとともに、塩分タブレットも携帯して体調変化を見逃さない運用にしておくと、無理な継続作業を避けやすい。
次にやるべきこと:伐採計画と再造林の一体管理
森林減少を防ぐ最も確実な方法は、伐採と再造林を一体で計画し、契約に盛り込むことであり、主伐の発注時に地拵え・植栽・下刈りまでの工程と予算を明確にして施工業者に一括発注すれば、分離発注で起こりがちな再造林の後回しを抑えやすく、日本の人工林は51年生以上が約半数を占めて今後10〜20年で主伐期を迎える森林が集中するため、再造林の体制整備が急務となっている(林野庁「森林・林業白書」令和4年版)。
まずは自分が管理する林地の伐採計画を見直し、再造林費用を含めた収支シミュレーションを作る。木材価格が低迷している現状では、再造林費用を含めると赤字になるケースが多いが、森林環境譲与税や各種補助金を活用することで収支を改善できる。具体的な制度名と窓口は、都道府県の林務課または森林組合に問い合わせる。
次に、地域の苗木業者と連絡を取り、必要な苗木の品種と数量を確認する。コンテナ苗は需要が高まっており、注文から納品まで数ヶ月かかる場合があるため、植栽適期に合わせて納品スケジュールを調整できるよう早めに発注しておきたい。
獣害対策は、地域の猟友会や森林組合と連携して進める。シカやイノシシの生息密度が高い地域では、植栽前に捕獲圧を高めることで食害を減らせる。また、周辺の林地所有者と共同で広域の防護柵を設置する方法もあるため、単独対応に限界がある地域ほど早い段階で合意形成を進めたい。
最後に、植栽後の保育計画を立てる。下刈り・除伐・間伐のスケジュールと予算を5年単位で組み、毎年の作業を確実に実施する体制を作る。保育作業を外注する場合、複数年契約にすることで単価を下げられる場合があり、自伐林家であれば年間の作業日数を決め、他の農繁期と重ならないよう調整する。
森林減少を防ぐ現場の作業は、単発のイベントではなく数十年にわたる継続的な管理サイクルであるため、まずは目の前の伐採跡地1haから確実な更新を始め、その積み重ねで次世代の森林資源を守っていく視点が欠かせない。
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