TMR飼料費用とは、粗飼料と濃厚飼料を混合した完全混合飼料(Total Mixed Ration)を給餌するための総コストのことで、原料費、調製費、配送費、保管費の合計を指す。

主要データ

  • 輸入乾草価格:約8.2万円/トン(2023年度、農畜産業振興機構調べ)
  • 配合飼料価格:86,200円/トン(2026年4〜6月期、全国平均)
  • 国産粗飼料自給率:76%(2022年度、農水省「食料需給表」)
  • ドル円相場:158.73円(2026年9月25日時点)

飼料代が経営を圧迫している酪農家の誤算

「TMRにすればエサ代が安くなる」と聞いて導入したものの、実際にはむしろコストが上がってしまった――そんな声が北海道や九州の酪農現場から聞こえてくるが、TMR飼料費用をめぐる誤解も、結局はこの認識のずれに集まっている。

TMR化そのものが費用削減の魔法というわけではなく、削減しやすいのは「労働時間」と「飼料ロス」であって原料代そのものが下がるわけではないため、導入前に描いた収支と実際の現場コストが食い違うケースは珍しくない。

2026年9月25日時点でドル円は158.73円と高止まりしており、輸入飼料への依存度が高い日本の畜産業は厳しい局面に置かれている一方で、東京食肉市場では2026年9月28日時点で和牛去勢A-5が2,701円/kgとなっているにもかかわらず、その価格だけで生産コスト上昇を十分に吸収できるかといえば、判断はそう単純ではない。

飼料費は酪農経営費の約4割を占めるため、TMR飼料費用をどこまで正確に把握し、どう管理するかが経営の生命線となっており、農水省「畜産物生産費統計(令和3年)」でも飼料費の割合は経営費の41.2%を占めていることから、価格変動の揺れが経営全体へ直結する様子がうかがえる。

TMR飼料費用の構成要素:原料費だけでは語れない現実

TMR飼料費用は大きく分けて4つの要素から成り、第一の原料費には粗飼料(牧乾草、サイレージ、稲わら等)と濃厚飼料(トウモロコシ、大豆粕、配合飼料等)の購入費が含まれるが、栃木県の酪農家に聞いた実例では、経産牛1頭あたり1日の原料費が約800〜1,200円に収まる場合もあれば、それを上回る場面もある。

この幅は小さくない。輸入乾草の比率や配合飼料の中身が変わるだけで、負担の出方はかなり違ってくる。

第二に調製費がかかり、これは混合機(ミキサーワゴン)の償却費、燃料費、メンテナンス費、オペレーター人件費の総称であり、自家調製なら設備投資が先に立つ一方、外部のTMRセンターに委託する場合は調製手数料として1kg あたり数円〜十数円が上乗せされる。

岩手県のあるTMRセンターでは、調製費を7円/kgに設定している。もっとも、この金額には配送費までは含まれていない。

第三に配送費があり、自家調製なら牛舎までの運搬燃料費、TMRセンター利用なら配送料として別途請求されるため、配送距離が15kmを超えると配送費だけで1kg あたり2〜3円が上乗せされ、群馬県の事例ではセンターから片道20km離れた牧場が配送費だけで月15万円を支払っていた。

第四に保管費がある。サイレージの貯蔵施設、乾草庫、穀類タンクの減価償却費、電気代、ラップサイレージのフィルム代などが該当する。

特にラップサイレージは1本あたり200〜300円のフィルム代がかかり、年間1,000本使えば20〜30万円になるため、原料価格だけを見ていると気づきにくい固定的な費用が、実際にはじわじわと積み上がっていく。

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1980年代アメリカから伝来した混合飼料革命

TMR飼料そのものは1980年代にアメリカから日本へ導入された技術であり、それ以前の酪農現場では粗飼料と濃厚飼料を別々に与える「分離給餌」が主流だったが、牛は嗜好性の高い濃厚飼料を先に食べ、粗飼料を残しやすい傾向があった。

その結果、第一胃のpHが下がって第四胃変位やアシドーシスを引き起こすリスクがあり、給餌の手間だけでなく、牛群の健康管理まで不安定になりやすい方式だったと整理できる。

TMRは粗飼料と濃厚飼料をあらかじめ混合し、牛が選り好みできない状態にすることで栄養バランスを安定させる仕組みであり、日本では1990年代に北海道の大規模酪農家が先行導入し、2000年代に入るとTMRセンター方式が各地へ広がっていった。

農水省の「畜産統計」によれば、TMR利用農家の割合は2015年時点で全酪農家の約23%だったが、2020年には28%まで上昇している。ただし、この数値には自家調製とセンター利用の両方が含まれており、地域差も大きい。

北海道では利用率が4割を超える一方で、都府県の中山間地域では1割未満にとどまる地域もあり、農水省「畜産統計(令和4年)」によれば2022年の乳用牛飼養戸数は13,600戸、飼養頭数は1,330千頭となっていることから、1戸あたり平均飼養頭数が約98頭へと大規模化している流れも見えてくる。

現場で積み上がるコストの内訳:実例から読み解く

千葉県の搾乳牛80頭規模の酪農家Aさんの事例を見てみると、Aさんは自家調製でTMRを運用しており、月間の飼料費用は次のような内訳になっている。

輸入乾草(アルファルファ、チモシー):月24トン、198万円。配合飼料:月18トン、155万円。国産稲わらWCS:月8トン、32万円。ビートパルプ、大豆粕等の副産物:月4トン、28万円。ミネラル・ビタミン添加剤:月間6万円。ミキサーワゴン(容量5立米)の燃料費:月3.5万円。設備償却費(ミキサーワゴン、サイロ、乾草庫):月18万円。ラップサイレージフィルム:月1.2万円。

合計すると月間441.7万円、経産牛1頭あたり月5.5万円、1日あたり約1,833円になり、この数字は2026年9月時点の為替水準(158.73円/ドル)と輸入物価指数193.7(2026年8月)を前提にしたものだが、仮に円安が進んで165円/ドルになれば、輸入乾草と配合飼料だけで月20万円以上のコスト増になる。

一方、宮崎県の搾乳牛50頭規模の酪農家Bさんは地域のTMRセンターを利用しており、センターへの支払いは調製費込みで1kgあたり52円となっている。

1頭あたり1日40kgを給餌するため、1頭1日あたり2,080円、月間約6.2万円となり、Aさんより高く見えるものの、Bさんは設備投資がゼロで労働時間も大幅に削減できているため、単純な単価比較だけで有利不利を決めるのは難しい。

乾乳牛や育成牛には別の飼料を給餌しているため、全体の飼料費としてはAさんと大差ない。この点まで見て初めて、数字の印象差を補正しやすくなる。

輸入依存がもたらす為替リスク

日本の粗飼料自給率は76%(2022年度、農水省「食料需給表」)と一見すると高く見えるが、これは国産稲わらやWCSを含めた数値であり、高栄養の牧乾草に限ればアメリカ産やカナダ産への依存度は8割を超えるため、表面上の自給率だけでは実際の調達リスクを十分に読み切れない。

濃厚飼料原料(トウモロコシ、大豆粕)に至っては、ほぼ全量を輸入に頼っている。構造的な弱さが残る。

2022年のウクライナ情勢以降、穀物価格は乱高下を繰り返し、2023年度の輸入乾草価格は約8.2万円/トンとなった(農畜産業振興機構調べ)が、2026年に入ってからも円安の影響で配合飼料価格は高止まりしており、4〜6月期の全国平均は86,200円/トンだった。

教科書では「TMRは飼料効率を高めて増体や乳量を改善する」と説明される。とはいえ、現場の受け止め方はそれだけでは済まない。

実際の現場では「いくら乳量が増えても、飼料代が上がれば利益は出ない」という感覚が強く、農水省「飼料をめぐる情勢(令和5年度)」によれば、配合飼料原料のうちトウモロコシは88%、大豆粕はほぼ100%を輸入に依存しているため、為替変動や国際穀物相場の影響を直接受ける構造が続いている。

自家調製かTMRセンターか:コスト構造の違い

自家調製とTMRセンター利用ではコスト構造が大きく異なるため、同じ「1頭1日いくら」という数字だけを並べても実態はつかみにくく、初期投資、労働時間、設計変更の自由度まで含めて見ないと判断を誤りやすい。以下の比較表で整理する。

項目

自家調製

TMRセンター利用

初期投資

ミキサーワゴン500〜1,000万円、貯蔵施設300〜800万円

ほぼゼロ(出資金のみ)

原料調達

自己責任で仕入れ、価格交渉も個別

センターが一括購入、スケールメリットあり

調製労働

毎日1〜2時間、人手確保が必要

配達受け取りのみ、労働ゼロ

設計変更の柔軟性

高い(泌乳ステージ別に細かく調整可能)

低い(センターの標準設計に従う)

1頭1日あたり費用

1,800〜2,200円(規模80頭以上で効率化)

2,000〜2,400円(規模50頭以下でも導入可能)

結論からいえば、経産牛100頭以上の規模なら自家調製のほうが長期的にはコストメリットを出しやすいが、50頭未満ならTMRセンター利用のほうが選びやすく、ただしこの見立ては労働力を確保できるか、設備投資の余力があるかという条件を満たして初めて意味を持つ。

コストダウンの現実的な選択肢

TMR飼料費用を下げる手段は多くないが、第一に国産粗飼料の自給率を上げる方法があり、自家の転作田でWCSや飼料用米を作付けして輸入乾草の使用量を減らせば為替リスクを抑えられる一方で、WCS生産には収穫機械(ロールベーラー、ラッピングマシン)が必要になる。

初期投資は200万円を超える。したがって、共同利用やコントラクター(作業受託組織)の活用が前提になりやすい。

第二に、TMRセンターの統合と大規模化があり、センターが扱う飼料量を増やせば原料の一括購入でトン単価を下げやすくなるため、熊本県のあるTMRセンターでは利用農家を15戸から25戸に増やすことで、配合飼料の仕入れ価格を1トンあたり3,000円下げた。

第三に、副産物飼料の活用がある。ビートパルプ、醤油粕、焼酎粕、パン屑などの食品製造副産物は、栄養価の割に安価で入手しやすい。

ただし、水分含量が高く保存性に劣るため、給餌設計には専門知識が必要であり、獣医師や飼料メーカーの栄養士に相談しないまま配合すると、第一胃発酵が不安定になって、かえって乳量が落ちる可能性もある。

2026年秋、円安と飼料高騰のダブルパンチ

2026年9月現在、円安が再び進行しており、9月25日時点でドル円は158.73円と前営業日比で0.77円上昇し、輸入物価指数も193.7(2026年8月)と高水準で推移しているため、輸入飼料にかかるコスト圧力は一段と強まっている。

東京食肉市場の9月28日の取引では、和牛去勢A-5の加重平均が2,701円/kgとなった。この価格水準自体は低いわけではない。

しかし、肥育農家の飼料コストまで含めて見ると利益率は薄く、豚生体(せり・並)の加重平均は545円/kgで、こちらも配合飼料高騰の影響を正面から受けている状況にある。

酪農現場でも、乳価の改定が飼料費上昇に追いついていない。2023年度の加工原料乳の補給金単価は1kgあたり12.15円だった。

それでも飼料費の上昇幅はそれを大きく上回っており、「乳を搾れば搾るほど赤字」という声が北海道の中小規模酪農家から聞こえてくるのは、販売単価の改善が進んでも費用増加のスピードを吸収し切れていないためである。

コスト管理の最前線:データと現場感覚の両輪

TMR飼料費用を正確に把握するには日々の記録が欠かせず、給餌量、乳量、体重、ボディコンディションスコア(BCS)、繁殖成績を記録したうえで、飼料費1円あたりの乳量や増体を算出する必要があるが、これを「飼料効率」と呼び、教科書的には乾物摂取量1kgあたり乳量1.5kg以上が目安とされる。

ただ、実際の現場では泌乳ステージや牛群の年齢構成で大きく変動するため、1.2〜1.8kgの範囲に収まれば合格ラインとみなすほうが、運用感覚にはなじみやすい。

エクセルや専用ソフト(デイリーコンプ、ファームノート等)で毎日入力するのが理想だが、零細規模では手が回らないことも多いため、最低でも月1回は飼料在庫と支払額を突き合わせ、1頭1日あたりのコストを算出する習慣を持っておきたい。

岐阜県のある酪農家は、スマホのメモアプリに毎日の給餌量と乳量を記録し、月末にエクセルへ転記している。手間は確かにかかる。

それでも、この記録によって「アルファルファ乾草を減らしてWCSを増やしても乳量が落ちなかった」と分かり、月10万円のコスト削減につながったことを考えると、記録作業は面倒でも経営改善へ結びつく材料になり得る。

次の一歩:まず自分の農場の1頭1日コストを計算しろ

TMR飼料費用を考えるとき、全国平均や他人の事例を眺めるだけでは足りず、自分の農場の数字を知ることが出発点であり、今月の飼料代総額を経産牛頭数で割ってさらに30日で割れば1頭1日あたりのコストが出るため、この数字が2,000円を超えているなら、原料構成の見直しかTMRセンターとの比較検討を始める余地がある。

次に、輸入飼料の割合を確認しろ。乾物ベースで5割を超えているなら、為替リスクの影響を受けやすい状態にある。

国産粗飼料への置き換えや副産物飼料の導入を検討する余地はあるが、栄養設計を素人判断で進めるのではなく、飼料会社の栄養士か獣医師に相談しながら進めるほうが、失敗を避けやすい。

最後に、労働時間とのバランスを見ろ。自家調製で毎日2時間かけているなら、その時間を他の作業(発情発見、分娩介助、哺育管理)へ振り向けたほうが、経営全体の収益が上がる可能性もある。

TMRセンターの利用料が月10万円高くても、労働時間が月20時間減るなら時給5,000円で外注したのと同じであり、この計算ができるかどうかで、TMR飼料費用を単なる「コスト」として見るのか、それとも「投資」として捉えるのかが分かれてくる。

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