稚魚は豊漁、卸値は25%下落 — それでもうな重が安くならない4つの理由
この記事のポイント
- シラスウナギ取引価格は前年比48%下落:2024年漁期(R6)の250万円/kgから2025年漁期(R7)の130万円/kgへ。池入量18.7トンは管理上限21.7トンの範囲内、5年ぶりの豊漁。
- 豊洲卸値も3月時点で前年比-24.8%下落:活鰻の卸値は2025年3月の5,065円/kgから2026年3月の3,811円/kgへ。稚魚豊漁が出荷段階に到達した結果。
- それでもCPIは過去最高圏:うなぎかば焼きの消費者物価指数は2026年4月時点で119.2(2020=100)、2020年比+19.2%。全国小売平均は1,468円/100g。
- 下落が消費者に届かない4つの理由:(a)養殖タイムラグ(池入れ→出荷6ヶ月〜1年)、(b)円安(2026年5月時点で158.2円)×輸入依存(活+調製で年30493トン)、(c)配合飼料が2020年比+36%、(d)流通マージン硬直の4層構造。
2025年のシラスウナギ漁は5年ぶりの豊漁となり、稚魚の取引価格はR6の250万円/kgから R7(2025年漁期)の130万円/kgへと48%下落した。豊洲市場の活鰻卸値も2026年3月時点で前年同月比-24.8%の二桁下落。だが、家計が実際に支払ううなぎかば焼きの値段はほとんど動いていない。本レポートは水産庁の池入数量、東京都中央卸売市場の月次卸値、e-Statの消費者物価指数・小売物価統計、財務省貿易統計、FREDの為替・原油PPI、配合飼料指数を横断的に重ね、9チャートで「稚魚豊漁が食卓に届かない」価格構造の各層を分解する。
1. うな重は20年でいくら上がったか
まずは消費者が実際に支払っている価格を時系列で見る。総務省の消費者物価指数で「うなぎかば焼き」を抽出すると、2005年からの20年間で価格水準が大きくシフトしたことが分かる。
うなぎかば焼き 消費者物価指数 20年推移(2020=100、全国)
月次値。2020年平均を100とする指数。
2005年1月の46.2から2026年4月の119.2へ。20年で約2.58倍に達し、上昇は2010年代後半以降に加速した
グラフを引いて見ると、うなぎかば焼きのCPIは2010年代前半までは緩やかな水平推移、2010年代後半から段階的に切り上がり、2020年以降は階段状に押し上げられている。基準年の2020年=100に対して2026年4月時点で119.2まで上昇し、+19.2%。食料全体のCPI上昇率を上回るペースで、これは「うなぎかば焼き」固有の供給制約とコスト構造を反映している。次のチャートで同じ価格構造を都市別に分解し、地域差がどれだけ大きいかを見る。
都市別 うなぎかば焼き小売価格ランキング(2025年、上位10都市+下位5都市)
全国47都市平均は1,468円/100g。
最高は名古屋市1,905円/100g、最安は長野市1,262円/100gで、その差は1.5倍。地域の流通構造と需要密度が価格に直接表れる
47都市の小売平均は1,468円/100gだが、その内訳は驚くほど不均一だ。上位10都市は名古屋市1,905円、大分市1,759円、高松市1,721円と続く。これらの地域は産地(愛知・四国・九州の養鰻地帯)に近く需要密度も高い。一方で下位は熊本市1,262円が際立って低く、最高値の1.5倍の開きがある。同じ「うなぎかば焼き」でも、調達ルート(活鰻 vs 調製品)と店舗業態(専門店 vs スーパー)の構成比で平均価格は大きく振れる。次節では、この高値を支える上流——シラスウナギの供給構造を見る。
2. シラスウナギ — 豊漁と枯渇の歴史
ニホンウナギの養殖は天然の稚魚(シラスウナギ)の採捕に100%依存している。卵から稚魚を育てる完全養殖は研究段階で、商用ベースの稚魚はすべて海から採れた天然個体だ。だからシラスウナギの豊凶が、その後数年の供給を決める。
シラスウナギ 池入量と取引価格の推移(H15〜R7)
池入量は前年11月〜当該年5月の合計。H28以降は池入数量上限21.7トン(破線)が国際管理体制で設定されている。
2018年漁期に299万円/kgのピークを打った取引価格は、2025年漁期に130万円/kgへと前年比48%下落。池入量も上限内の18.7トンに回復した
ニホンウナギの稚魚は太平洋赤道域のマリアナ諸島近海で生まれ、黒潮に乗って東アジア沿岸に来遊する。年により回遊量が大きく変動するため、池入量は10〜30トンのレンジで激しく上下する。2012-13年(H24-H25)の歴史的不漁時には取引価格が248万円/kg、2018年漁期(H30)には299万円/kgまで高騰した。価格高騰を受けて2014年にIUCNが「絶滅危惧IB類」に指定、2015年以降は国際的な資源管理体制が動き出した。日中韓台の合意による池入数量上限(合計21.7トン、養鰻業の許可制とセット)の運用が始まり、それ以降は2025年漁期の18.7トンも含めて上限内に収まっている。
国内シラスウナギ採捕量 長期推移(1957〜2025)
池入の内訳ではなく、国内沿岸での採捕量のみ。輸入は含まれない。
1963年に232トンのピークを記録した国内採捕量は、2025年で18トン。ピーク比92.2%の減少という長期トレンドの中で、近年の年次変動が起きている
半世紀以上の時間軸を取ると、近年の「豊漁」「不漁」が極めて狭いレンジの上下に過ぎないことが分かる。1960年代初頭には232トンに達していた国内採捕は、1970年代以降ほぼ一貫して右肩下がりとなり、2000年代以降は10〜20トン台で推移している。2025年漁期は18トンと近年の中では多めだが、ピーク比では92.2%の減少という構造的衰退の中での話だ。この長期トレンドが「稚魚は希少資源」という価格高騰の基盤を作っている。次節では、この稚魚価格の下落が出荷段階の卸値にどう伝わり、そこで止まっているかを見る。
3. 卸値は下がった、でも食卓は下がらない — 価格の非対称性
豊洲市場の活鰻卸値は実は2025年後半から動き始めている。2026年3月時点で前年同月比-24.8%の下落だ。だが消費者物価指数(CPI)はほぼ横ばいを保っている。この「非対称性」を、両系列を同じ起点に揃えて比較する。
豊洲卸値 vs 消費者物価指数(2023年1月=100)
両系列とも2023年1月の値を100に正規化。豊洲は月次集計の活鰻平均卸価格、CPIは全国月次。
卸値は2025年後半から急落し、2026年に入って64前後まで低下。同期間のCPIは108前後で横ばい。卸値の下落が小売に届くまでには明確なタイムラグがある
卸値の急落とCPIの粘着性が同じグラフの上で目に見える。卸値は2025年夏から下方トレンドに入り、2026年前半には起点比で30%近く低下した。一方CPIは横ばいで、起点とほぼ変わらない水準を保っている。この「卸値が下がっても小売が動かない」現象には、2つの構造的な理由がある。第一に、養殖場で池入れされたシラスウナギが食卓に上る活鰻として出荷されるまでには通常6ヶ月から1年のラグがあり、稚魚豊漁の効果は段階を踏んで伝わる。第二に、養殖以降のコスト構造(飼料・エネルギー・人件費)が高止まりしているため、稚魚価格だけが下がっても川下の原価は十分下がらない。次のチャートで、この高止まりするコスト要因を確認する。
配合飼料指数 vs 原油PPI(2020年1月=100)
両系列とも2020年1月の値を100に正規化。配合飼料指数は月次。原油PPIはFRED月次。
配合飼料指数は直近136(=2020年比+36%)の高水準で推移。原油PPIは波打ちながらも構造的に高い水準を維持
養殖うなぎのコスト構造で最大級の項目は配合飼料だ。日本の配合飼料指数は2020年1月を100として、2024年12月時点で136台に達している。2022年のロシア-ウクライナ侵攻に伴う穀物相場の急騰でピークを打った後も、円安と海上輸送費の上昇により高水準が定着している。同時に養鰻場の温度管理(夏場の冷却・冬場の加温)に必要な電力・燃料コストも、原油PPIの動きと連動して高止まりしている。稚魚価格が下がっても、養殖原価の半分以上を占めるこれらのコスト項目が下がらない限り、出荷価格は十分下がらない。これが「卸値↓、CPI→」という非対称性を作る最大のメカニズムだ。
4. 国内消費の7割を支える「海外うなぎ」
ここまでは国内養殖の話だったが、日本のうなぎ供給は実は国内自給だけでは成立しない。財務省貿易統計を見ると、2025年で活うなぎ約7243トン、調製品(白焼・蒲焼の冷凍)約23250トンが輸入されている。スーパーや量販店のうなぎ商品の多くは、これら輸入品か、国内で焼き直された輸入素材だ。
うなぎ輸入量の推移(活うなぎ+調製品、2021〜2025)
国別の集計では中国が金額ベースで91.8%を占める。台湾は1%前後で限定的。
2025年の輸入総量は30493トン。活うなぎ7243トン+調製品23250トン。調製品が活うなぎの3倍超で、加工済みの形で流入する流通構造が定着
直近5年で見ると、活うなぎは7,000〜9,000トン、調製品は18,000〜23,000トンのレンジで推移し、調製品が量的に主力だ。国別の内訳を見ると、輸入元はほぼ中国に集中している(2025年の金額ベースで91.8%)。台湾は1%程度、その他はゼロに近い。歴史的にはヨーロッパウナギを輸入していた時期もあるが、2009年のCITES(ワシントン条約)規制でEUからの輸出は事実上停止し、現在の輸入はほぼニホンウナギと近縁のアジア産ウナギに収斂している。この構造で重要なのは、輸入単価が為替で大きく動く点だ。
うなぎ輸入単価 × USD/JPY為替(2021〜2025、年平均)
輸入単価は活+調製の合計金額÷合計数量。為替はFRED DEXJPUSの日次→月次→年次の単純平均。
2021年→2025年で輸入単価は+22.8%、為替は109.8円→149.6円(+36.2%)。為替の影響を強く受ける構造
2021年から2025年にかけて、USD/JPY為替は109.8円から149.6円へと+36.2%の円安方向に動いた。これに歩調を合わせて輸入単価も+22.8%変化している。直近の2025年は供給増の影響で単価がやや落ち着いたが、2026年5月時点の為替は158.2円とさらに円安方向に振れており、ドル建てで横ばいの中国産単価でも円換算ではコスト上昇圧力が続く。この為替要因は、稚魚豊漁・卸値下落といった国内供給の改善とは独立に効くため、消費者価格の下落を阻む独立した「層」として機能している。
5. だから今年の夏はいくらになるか
ここまで見てきた4つの層——稚魚価格、養殖コスト(飼料・エネルギー)、為替×輸入単価、流通マージン——を、2015年から2025年までの小売価格上昇(約1012円/100g→1,468円/100g、+45%)の寄与度として並べてみる。各要因の寄与は本文中の構造分析に基づく概算値であり、厳密な計量モデルではない点に注意。
2015→2025 小売価格上昇の要因分解(概算)
各要因の寄与は本文の構造分析に基づく概算であり、厳密な計量モデルではない。
最大の寄与要因は飼料・エネルギー高で約+160円/100g。稚魚価格の寄与は相対的に小さく、為替・コスト・流通の3層が主因
寄与度の概算から見えるのは、「稚魚価格の上昇が小売値上げの主因」という見方が必ずしも正しくない、という事実だ。稚魚は確かに高価で、希少資源として象徴的に取り上げられるが、小売価格1袋(100g)に占める影響は限定的。むしろ為替(+130円/100g)、飼料・エネルギー高(+160円/100g)、流通段階のマージン・人件費(+136円/100g)の3層が、稚魚要因よりも大きく価格を押し上げている。これは裏返せば、2025年漁期の稚魚豊漁が起きても、為替・コスト・流通が下がらない限り小売値下げは限定的という結論を導く。
完全養殖技術の現状にも触れておきたい。研究機関では卵→稚魚→成魚→卵のサイクルを回す技術が確立されつつあるが、商用ベースでは1尾あたり約1,800円のコストが必要とされ、天然由来(180〜600円/尾)の数倍。仔魚期の生残率と餌料の量産性が解決すれば、稚魚供給の安定化につながる可能性があるが、これは中長期の話だ。短期では、池入数量上限21.7トンの維持と、国際的な資源管理(特に東アジア沿岸の密漁・違法取引の取り締まり)が現実的な打ち手となる。
2026年夏の土用の丑の日に向けては、卸値の下落が一部小売店の値下げに反映される可能性はあるが、為替・飼料・エネルギーの3層が現状水準を維持する限り、CPI水準で見た大幅な値下げは期待しにくい。前年並みかわずかに緩む程度——これが本データレポートが示す現実的な見通しだ。「稚魚豊漁=うな重値下げ」という単純なストーリーは、4層構造の現実の前では一部しか正しくない。
よくある質問
Q. 今年の土用の丑の日(2026年)は安くなりますか?
豊洲市場の活鰻卸値は2026年3月時点で前年同月比 -24.8% と二桁の下落、シラスウナギ取引価格も2025年漁期に130万円/kgと前年(250万円/kg)から約半減した。にもかかわらず、消費者物価指数(うなぎかば焼き)は2026年4月時点で119.2(2020=100)と高止まりが続いている。小売段階に下落が届くまでには養殖タイムラグ(池入れから出荷までの6ヶ月〜1年)と流通マージンの硬直性が壁となるため、2026年夏の土用の丑の日で大幅な値下げは期待しにくい。前年並みかわずかに緩む程度が現実的な見通し。
Q. シラスウナギの完全養殖は実用化される?
ニホンウナギの完全養殖(卵→稚魚→成魚→卵の循環)は研究機関で技術的には可能だが、商用ベースには遠い。最大の壁は仔魚(レプトケファルス)期の生残率の低さと、生餌(サメ卵粉末を主成分とするスラリー)の安定供給。2024〜2025年の試算では完全養殖シラスの単価は天然由来(180〜600円/尾)の数倍とされ、量産化への道筋は中長期。一方で、養殖技術の精緻化(環境制御・配合飼料の改良)は着実に進んでおり、稚魚供給リスクの分散としては「天然採捕+管理型養殖の高度化」が現実解。
Q. 中国産と国産で品質や安全性は違いますか?
日本のうなぎ輸入は2025年で活うなぎ約7243トン+調製品約23250トン、そのうち金額ベースで中国が91.8%を占める。中国産は主に養殖場由来で、近年は厚生労働省のモニタリング検査の対象にもなっており、合格率は安定的に高い水準。国産との差は「飼料の配合」「養殖期間(国産は通常1〜1.5年、中国産はやや短期)」「水質管理の手厚さ」に表れる傾向。価格差は2〜3倍に達することがあるが、これは品質単独ではなく流通段階のブランド付加価値も含む。食の安全という観点では、輸入うなぎも国内検査の対象であり、合理的な選択肢として位置づけられる。
Q. なぜスーパーのうなぎはなかなか値下がりしないのか?
本レポートの中心テーマでもある。小売価格は (1) シラスウナギの取引価格、(2) 養殖場での餌料・エネルギーコスト、(3) 卸〜小売のマージン、(4) 円安による輸入うなぎ単価、の4層で決まる。2025年漁期の稚魚豊漁で(1)は前年比-48%下落、卸値も(3)月次で前年比-24.8%下落と動いているが、(2)の飼料・エネルギー高は配合飼料指数で2020年比36%増の水準が続き、(4)為替は2026年5月時点で158.2円。下落要因(稚魚・卸値)と上昇要因(飼料・為替)が綱引きをしているため、小売の体感価格は緩やかにしか動かない。
Q. ウナギは絶滅危惧種なのに食べて大丈夫?
ニホンウナギは2014年にIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで「絶滅危惧IB類」(EN)に指定されている。これは科学的には資源量の長期的減少を意味する評価で、即座に「食べてはいけない」を意味するものではない。日本国内では2015年から池入数量上限制度(年間21.7トン)が導入され、養殖業の許可制と合わせて資源管理が強化された。2025年漁期の池入18.7トンはこの上限の範囲内。消費者ができる選択としては (a) 信頼できる流通(蓄養期間の長い国内養殖、認証制度の活用)を選ぶ、(b) 食べる頻度・量を意識する、(c) 完全養殖技術への投資を支持する、といった選択肢がある。
出典
- 水産庁「ウナギをめぐる状況と対策について」(令和8年3月)jfa.maff.go.jp(シラスウナギ池入数量・取引価格、採捕量推移)
- 東京都中央卸売市場 月報(豊洲市場・水産部)shijou.metro.tokyo.lg.jp(活鰻・冷凍・調味調理品の月次卸値)
- 総務省 消費者物価指数(2020年基準・うなぎかば焼き 全国/東京都区部) e-Stat tableId: 0003427113
- 総務省 小売物価統計調査(動向編・年平均・うなぎかば焼き) e-Stat tableId: 0003420453
- 財務省貿易統計(e-Stat経由・HS 0301.92 活うなぎ/HS 1604.17 うなぎ調製品・品別国別表)customs.go.jp
- FRED(Federal Reserve Economic Data, セントルイス連銀)fred.stlouisfed.org(DEXJPUS USD/JPY 為替、WPU0561 原油PPI)
- 農林水産省 農業物価統計調査(配合飼料指数、令和2年=100)
本レポートは情報提供を目的としており、特定の行動・購買・投資判断を推奨するものではありません。記載の数値は公的統計・市場統計の当該公表時点の値であり、速報値が後日改定される場合があります。豊洲市場の月次卸値は2026年4月までを反映、消費者物価指数は2026年4月まで、配合飼料指数は2024年12月までを反映しています。シラスウナギの取引価格は業界調べを水産庁が公表する値であり、養殖場間で実際の取引額は異なる場合があります。2026年夏の見通しは過去パターンと現時点の各指標から導いた定性的な見立てであり、特定の銘柄・店舗の値動きを保証するものではありません。
※本レポートはAIを活用して作成し、編集部が内容を確認・監修しています。詳しくは編集方針をご覧ください。

sanchi.jp編集部
一次産業メディア 漁業データレポート担当
農林水産業のデータと現場をつなぐメディア「sanchi.jp」編集部。公的統計・一次情報に基づき、構造的な視点で一次産業の論点を整理しています。
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