搬出間伐の歩掛は地形・林齢・作業システムによって1人日当たり5〜30㎥と大きく変動するため、自林地の条件に合った計算基準の選択が採算性を左右する。
主要データ
- 全国の搬出間伐面積:13.8万ha(林野庁、2022年度)
- 間伐生産性の全国平均:10.6㎥/人日(森林・林業白書、2023年版)
- 高性能林業機械の導入による生産性向上率:1.8〜2.3倍(林野庁調査、2021年)
- 搬出間伐の平均コスト:8,200円/㎥(森林組合連合会、2023年度実績)
歩掛計算で最初に詰まるのは「林分条件の見誤り」だ
宮崎県北部のスギ林で搬出間伐を請け負った事業体が、見積もり段階で20㎥/人日の歩掛を設定したところ、実際の作業では12㎥/人日しか出せず赤字になった事例があるが、その原因は林分密度の過小評価にあり、図面上は標準的な本数密度に見えたにもかかわらず、現地は間伐遅れの密集状態だったため、伐倒後の枝払い・玉切りに予想の1.7倍の時間がかかった。
歩掛計算の失敗は採算性の判断ミスに直結し、林業経営では材価の変動よりも歩掛の見積もり精度が収支を左右するケースが多いため、秋田県の森林組合が2021年に実施した分析でも、同じ地域・同じ林齢のスギ林であっても、傾斜度と作業道からの距離の組み合わせによって歩掛が4倍近く変わった実例が報告されている。
要は、歩掛計算は「標準値を当てはめる作業」ではなく「自分の林分に合った係数を見つける作業」であり、教科書的な標準歩掛をそのまま使うとズレやすい。現場での歩掛は、地形・林齢・樹種・作業システム・オペレーターの熟練度という5つの変数の掛け算で決まり、林野庁の調査によれば高性能林業機械の保有台数は令和5年度時点で全国で10,000台を超えている一方で、オペレーター不足による稼働率低下が課題となっている。
歩掛がズレる3つの構造的原因

標準歩掛の前提条件が自林地と合っていない
林野庁が公表する標準歩掛は、傾斜度15〜25度・立木密度1,500本/ha・搬出距離100m以内・高性能林業機械使用という条件下での数値だが、実際の現場では傾斜30度超・密度2,500本/ha・搬出距離300mといった条件も珍しくなく、標準値は「平均的な好条件」を想定しているため、条件の悪い現場ではそのまま使えない。
天竜地域のヒノキ林では、傾斜35度を超えると架線集材が必要になり、グラップル搬出と比べて歩掛が3分の1以下に落ちる。標準歩掛15㎥/人日に対して実績は4〜6㎥/人日にとどまり、傾斜度1度の違いが作業効率に指数関数的に影響することが見て取れる。
作業内容の定義が曖昧
「歩掛」という言葉が指す作業範囲は、発注者・受注者・地域によって異なり、伐倒・造材・集材・積込みまでを含むのか、伐倒と造材だけなのか、移動時間や段取り替えを含むのか、土場での仕分けを別カウントにするのかによって、同じ数値でも中身は変わってしまう。
吉野地域では伐倒と枝払いまでを「山方」、集材と積込みを「出方」として分けて歩掛を計算する慣習がある。一方、北海道では一貫作業として一つの歩掛で計算する事業体が多く、同じ「18㎥/人日」という数字でも、作業範囲が違えば意味はまったく別物になる。
人日の数え方が統一されていない
1人日を「実働8時間」と定義するか「拘束8時間(休憩含む)」と定義するかで歩掛は1.2倍程度変わり、さらに雨天中止や機械トラブルの待機時間を含めるかどうかによって、月単位の実質歩掛は大きくブレるため、同じ現場でも算出結果が食い違いやすい。
森林組合の現場では、作業日報に記載する「稼働時間」と、実際にチェーンソーを動かしていた「純作業時間」に2〜3割の差が出る。そのため、移動・給油・目立て・休憩を含めた拘束ベースで歩掛を計算すると、純作業ベースの1.3〜1.5倍の時間がかかる計算になる。
搬出間伐の歩掛計算:正しい手順
Step 1:林分条件の数値化
まず現地踏査で以下の6項目を測定・記録する。机上の図面だけでは判断しきれない。
- 平均傾斜度(クリノメーターで3地点以上測定)
- 立木密度(10m×10mプロット3カ所で本数カウント)
- 平均胸高直径(20本以上を測定)
- 作業道からの平均距離(最遠点と最近点を実測)
- 林床植生の密度(膝下/腰下/胸下で3段階評価)
- 残存木の配置(伐採木を選ぶ際の障害度を5段階評価)
特に立木密度は、図面上の数値と実態が20〜30%ずれることが普通であり、間伐遅れの林分では図面の1.5倍の密度になっている例もあるため、歩掛の基礎となる入力値を誤らないには、手間が増える場合でも現地での実測を省かない方が後の見積もり崩れを防ぎやすい。
Step 2:作業システムの選択と基準歩掛の確認
地形と搬出材積から、採用する作業システムを決める。システムごとに基準となる歩掛が異なる。
作業システム | 適用条件 | 基準歩掛(㎥/人日) |
|---|---|---|
車両系(グラップル) | 傾斜25度以下 | 15〜25 |
車両系(ウインチ併用) | 傾斜25〜30度 | 10〜18 |
架線系(タワーヤーダ) | 傾斜30度超 | 4〜12 |
ハーベスタ一貫作業 | 傾斜15度以下・定量間伐 | 20〜35 |
これらの数値は林野庁「森林作業システム高度化推進事業」(2022年度)の実績データから抽出した中央値である。もっとも、オペレーターの習熟度や機械の年式によって±30%程度の変動があるため、表の数値をそのまま確定値として扱うのではなく、現場条件を照らし合わせるための出発点として使う見方が現実的となっている。
Step 3:補正係数の算出
基準歩掛に対して、自林地の条件による補正をかける。以下の5項目それぞれで係数を設定し、掛け算する。
傾斜度補正:基準より5度急なら0.85、10度急なら0.7を掛ける。車両系では傾斜の影響が大きく、架線系では比較的小さい。
密度補正:2,000本/haを基準に、500本増えるごとに0.9を掛ける。密集林では伐倒方向の制約が増え、かかり木処理の頻度も上がる。
搬出距離補正:100mを基準に、50m増えるごとに0.95を掛ける。グラップルの往復時間が効いてくる。300m超では作業道の増設を検討した方が良い。
林床補正:下草・潅木が密生している場合は0.85〜0.9。伐倒後の造材作業で枝払いに手間取る。逆に地拵え済みの林分なら1.1を掛けられる。
材の曲がり補正:曲がり材が多い林分では、玉切り判断に時間がかかり0.9程度に落ちる。スギの場合、間伐遅れで樹冠が偏っている林分ほど曲がりが多い。
例えば基準歩掛20㎥/人日の林分で、傾斜+10度(0.7)、密度+700本(0.81)、搬出距離+100m(0.9)という条件なら、20×0.7×0.81×0.9=10.2㎥/人日が実質歩掛になるが、基準値が高く見えても現場条件を順番に掛け戻すと実力値は大きく下がるため、この工程を飛ばすと見積もり全体が崩れやすい。
Step 4:人日の定義を明確化
「1人日」を何時間と定義するかを契約前に決める。現場では以下の3パターンがある。
- 純作業時間ベース:実際に伐倒・造材・集材している時間のみ(6〜7時間/日)
- 実働時間ベース:休憩を除いた稼働時間(7.5〜8時間/日)
- 拘束時間ベース:現場到着から撤収まで(8.5〜9時間/日)
森林組合の請負契約では「実働8時間」を基準にするケースが多いが、民間事業体では拘束ベースで計算することもあり、どの定義を使うかで同じ作業でも歩掛の数値が1.2〜1.4倍変わるため、後の解釈違いを避けるには契約書面の段階で明記しておく必要がある。
Step 5:実績の記録と補正値の更新
作業終了後、実際の投入人日と搬出材積から実績歩掛を算出する。予測値との乖離を分析し、次回以降の補正係数を調整する。
智頭町の事業体では、毎回の作業で「予測歩掛」「実績歩掛」「乖離率」「原因」の4項目を記録し、エクセルで蓄積している。3年分のデータを貯めると、自社の機械とオペレーターに固有の補正係数が見えてきて、その蓄積が次の見積もり精度を押し上げる流れができてくる。
歩掛計算の前提条件と必要データ
測定に必要な道具
歩掛計算の精度を上げるには、現地での正確な測定が前提になる。最低限、以下の道具を揃える。
- クリノメーター(傾斜測定用):デジタル式なら精度±0.5度以内
- 直径巻尺:胸高直径測定用、最低50本分のデータを取る
- レーザー距離計:搬出距離の実測用、±1m精度
- プロット用ロープ:10m×10mの方形区を設定
- 野帳とクリップボード:記録はデジタルより紙の方が現場では速い
特にクリノメーターは必須であり、目測で傾斜を判断すると5〜10度の誤差が普通に出るため、傾斜25度と35度で作業効率が倍近く違う現場では、その誤差が歩掛計算全体を狂わせる要因となりやすく、最初の測定精度が後工程の判断にそのまま響いてくる。
参照すべき公的データソース
自林地の条件と近い事例の歩掛データを探す際、以下のソースが使える。
- 林野庁「森林・林業白書」:全国平均の歩掛と作業システム別の生産性データ
- 都道府県の林業試験場報告:地域特有の林分条件下での実測データ
- 森林総合研究所の研究報告:作業システムごとの詳細な時間分析
- 森林組合連合会の事業報告:地域別の平均的なコストと歩掛
ただし公表データは「成功事例」に偏る傾向があるため、数値を参照する際は平均値をそのまま採用するのではなく、林分条件や人日の定義がどこまで一致しているかを確かめたうえで、1〜2割低めに見積もるくらいの慎重さを持った方が扱いやすい。
プロと初心者で差が出る3つの判断ポイント
伐採前に搬出ルートまで想定できるか
初心者は「どの木を伐るか」だけを考えがちだが、プロは「伐った後、どのルートでどう集めるか」まで伐採前に決めており、グラップルの回転半径、ウインチの有効距離、土場での荷姿を逆算しながら、伐倒位置と方向を詰めている。
日田地域のベテラン現場では、伐倒前に作業道から50m・100m・150mのラインにテープを張り、集材の効率が最大になる配置で伐採木を選ぶ。この段取りがあるかどうかで、集材の歩掛が1.5倍変わる。
「平均歩掛」ではなく「作業単位ごとの歩掛」で管理する
教科書では「搬出間伐の歩掛は〇〇㎥/人日」という一括りの数字が出てくるが、プロは作業を4〜5の工程に分解し、工程ごとに歩掛を記録するため、どこで時間を失っているのかを後から追いやすい。
- 伐倒・枝払い:〇〇本/時間
- 玉切り:〇〇㎥/時間
- 集材(引き寄せ):〇〇㎥/時間
- 集材(運搬):〇〇往復/時間
- 土場仕分け:〇〇㎥/時間
工程ごとに分解すると、ボトルネックが見える。全体で15㎥/人日しか出ないときに、伐倒は速いのに集材で詰まっているのか、逆に伐倒が遅いのかを切り分けられるため、原因の特定から改善策の選定までを一続きで進めやすくなる。
季節・天候による変動を織り込む
同じ林分でも、夏と冬では歩掛が2〜3割変わる。夏は下草が繁茂して視界が悪く、枝払い後の枝の片付けにも時間がかかる一方で、冬は日照時間が短く実働時間が減るため、雨天率の高い地域では月の稼働日数自体も変動する。
北山地域では、梅雨時期(6〜7月)と冬季(12〜2月)の歩掛を、通常期の0.8倍で見積もる慣例がある。年間契約では季節変動を平均化するが、単発の請負では時期による調整が必要となる。
現場で歩掛を判断する4つの観察ポイント
伐倒1本あたりの所要時間を3本測る
現地で作業を始める前、試しに3本伐ってストップウォッチで計測する。受け口・追い口・倒す・枝払い・玉切りまでの一連の時間を測り、1本あたりの平均を出す。
この数値に林分全体の伐採予定本数を掛ければ、伐倒・造材工程の総所要時間が見える。実測3本の平均が12分/本で、伐採予定が400本なら、12×400÷60=80時間となり、2人作業なら40人日であり、ここに集材・積込みの時間を足せば総人日が算出できる。
集材の「空走時間」を意識する
グラップルやフォワーダは、材を掴んで運ぶ「実走」と、空荷で戻る「空走」を繰り返す。初心者は実走の速度だけを見るが、プロは空走時間まで計算に入れる。
搬出距離150mの現場で、実走3分・空走2分なら、1往復5分。1回に3㎥運べるとして、20㎥運ぶには7往復×5分=35分であり、1時間で約35㎥の集材能力がある計算になるが、搬出距離が300mになると往復時間が倍になり、能力は半減する。
距離が長い現場では、中間土場を設けて2段階集材にする方が効率が良い場合があり、200m先に仮置きして、そこからトラックで一気に運ぶ方式は、単純な直送より手数が増えるにもかかわらず、全体の往復時間を抑えられるなら十分に比較対象となる。
かかり木の発生率で全体工数を補正する
密集林では、伐倒時のかかり木(他の立木に引っかかって倒れない状態)が頻発する。1本あたり5〜10分の処理時間が追加でかかる。
かかり木の発生率は、林分密度と伐採率の関数だ。密度2,000本/haで30%間伐なら、10本に1本程度の発生率が目安になり、400本伐採するなら40本でかかり木が発生し、40本×7分=280分(約4.7時間)の追加工数が発生する。
事前の立木配置観察で、かかり木が出やすい林分かどうかを判断し、発生率を予測する。この補正を歩掛計算に織り込まないと、伐倒工程だけでなく後続工程の段取りまで狂いやすい。
オペレーターの「慣れ」を数値化する
同じ機械でも、オペレーターの習熟度で歩掛が1.5〜2倍変わる。新人オペレーターと10年選手では、グラップルの操作速度・伐倒判断・玉切り精度すべてが違う。
飫肥地域の事業体では、オペレーターを3段階に分類し、それぞれに補正係数を設定している。A級(5年以上)=1.0、B級(2〜5年)=0.8、C級(2年未満)=0.6であり、見積もり時にどの級のオペレーターを投入するかによって、歩掛の基準値を変える。
チームの平均習熟度を過大評価すると予定工期内に終わらず、逆に過小評価すると受注競争で不利になるため、自社の実力を正確に把握することが歩掛計算の精度を左右し、林野庁の統計要覧によれば林業就業者数は2023年時点で約4.3万人と減少傾向が続いていることからも、熟練オペレーターの確保と技術継承が生産性に結びつく構図が見えてくる。
歩掛データの記録と活用
日報フォーマットを標準化する
毎日の作業実績を、同じ形式で記録する習慣をつける。最低限、以下の項目を記録する。
- 作業時間(開始・終了・休憩・移動の内訳)
- 投入人数と機械稼働時間
- 搬出材積(㎥)または本数
- 作業内容(伐倒・集材・積込みの区別)
- 天候と林床状態
- トラブルの有無と内容
この6項目を毎日記録すれば、3カ月で自社の標準歩掛が見えてくる。さらに、エクセルで集計して「傾斜度別」「樹種別」「季節別」にグラフ化すると、現場ごとの差が感覚ではなく条件別の傾向として可視化される。
「予測vs実績」の乖離分析を習慣化する
見積もり時の予測歩掛と、作業終了後の実績歩掛を比較し、乖離の原因を記録する。「なぜ予測を下回ったのか」「どの工程で時間がかかったのか」を3行でいいので書き残す。
この振り返りを20件積み重ねると、自分がどういう条件を見落としやすいかのパターンが見えてくる。傾斜の影響を軽視しがちなのか、集材距離の見積もりが甘いのかを把握できれば、次の見積もりでは確認すべき点が自然に絞られていく。
他社・他地域の事例を参照する際の注意点
森林組合の研修会や林業事業体の交流会で、他社の歩掛データを見る機会がある。参考にする際は、必ず「作業システム」「機械の種類」「人日の定義」「林分条件」の4点を確認する。
「うちは25㎥/人日出てるよ」という話を聞いても、それがハーベスタ使用・傾斜10度以下・純作業時間ベースなら、自社の車両系・傾斜25度・拘束時間ベースの現場とは比較できず、条件を揃えないまま数字だけを持ち込むと誤った基準値を設定しやすいため、数値そのものより前提条件の一致を先に確かめたい。
2026年9月中旬の天候が作業計画に与える影響
9月中旬は台風シーズンの終盤にあたり、天候の変動が大きい時期だが、日ごとの気象は変わりやすいため、作業計画では特定日の断定的な見通しに寄せるよりも、降雨による安全性低下や路面悪化、待機時間の増加といった影響を前提に、搬出作業と点検・整備の切り替え余地を持たせておく考え方が扱いやすい。
地域差にも注意したい。気温や降水傾向が違えば、同じ9月中旬でもオペレーターの疲労感、林床の滑りやすさ、実働時間の取り方は変わってくるため、全国一律の歩掛基準を当てはめるより、各現場の直前予報と足場条件を見ながら日単位で稼働計画を調整する方が無理が少ない。
とくに残暑が厳しい地域では午後に作業効率が落ちやすく、逆に涼しい地域では体力面の負担が軽くても日照や地面の湿り具合が制約になることがあるため、9月は地域ごとの気候差を織り込んで稼働日数を見積もり、歩掛の補正幅も広めに見ておく運用が現場ではなじみやすい。
次に現場でやるべきこと
歩掛計算の精度を上げるために、まず自分の直近3件の作業実績を掘り起こし、日報や請求書から「投入人日」と「搬出材積」を抜き出して実績歩掛を算出したうえで、その数値を林野庁の標準歩掛と比較し、自社がどの程度の位置にいるかを確かめるところから始めたい。
次に、今後の現場で「試し伐り3本の計測」を実行する。伐倒開始から玉切り完了までの時間を測り、その数値を記録する習慣をつければ、3現場分のデータが貯まった段階で自分の標準作業時間が見えてくる。
そして、次回の見積もり時には現地で傾斜と密度を実測し、図面だけで判断せず、クリノメーターと巻尺を持って林内に入り、最低3カ所でデータを取る。この実測データと過去の実績歩掛を組み合わせていけば、見積もり精度は着実に上がっていく。
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この記事は「林業経営の完全ガイド — 収益構造から事業計画まで」の関連記事です。林業に関する体系的な知識はこちらのガイドをご覧ください。
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