枝肉重量とは、家畜を屠畜後に頭部・内臓・四肢端・皮を取り除いた状態の肉の重量のことだ。

主要データ

  • 和牛去勢A-5の枝肉単価:2,822円/kg(東京食肉市場、2026年10月20日)
  • 肉用牛の平均枝肉重量:雄495kg、雌458kg(農水省「畜産物流通統計」2024年度)
  • 枝肉歩留まり:黒毛和種約60%、ホルスタイン種約56%(家畜改良センター調査、2023年)
  • 東京食肉市場のと畜頭数:牛407頭、豚950頭(2026年10月20日)

出荷前夜に生体重を測って安心する肥育農家の勘違い

肥育農家の多くは出荷直前の生体重を計測して「850kgまで増えたから上出来だ」と判断しがちだが、実際に市場で値がつくのは枝肉重量であり、生体重と枝肉重量の間には「歩留まり」という大きな壁があるため、見かけの増体だけで収益を見積もると判断を誤りやすい。生体重800kgでも枝肉が450kgにしかならない個体と、生体重750kgでも枝肉が480kgになる個体では、後者のほうが高値で取引される。2026年10月20日の東京食肉市場では和牛去勢A-5の加重平均が2,822円/kgで推移しているが、この単価に掛け算されるのは生体重ではなく枝肉重量である。

つまり、肥育経営の収益性は「何kgまで太らせたか」だけでは測れず、「何kgの枝肉を市場に送り出せたか」が売上に直結するため、生体重信仰が現場に根強い一方で、実際の評価基準は枝肉の世界にあり、そのずれが日々の飼養判断や出荷タイミングの見極めにまで影響している。見ている数字が違う。この一点が重い。

枝肉が生まれるまで――と畜場での処理工程

家畜がと畜場に搬入されてから枝肉になるまでの工程を追うと、枝肉重量という概念の意味が見えてくる。牛の場合、生体から放血・剥皮を経てまず頭部を切断し、次に内臓(心臓・肝臓・胃腸など)を摘出したうえで四肢の先端(蹄を含む部分)を切り落とし、さらに皮と尾を除去して最後に背骨に沿って左右に二分割するため、この一連の処理を終えた状態が「枝肉」だ。

この過程で除去されるのは頭部・皮・内臓・四肢端・尾・血液など、生体重の約40〜45%に相当する部分であり、東京食肉市場で2026年10月20日にと畜された牛407頭も、すべてこの工程を経て枝肉に変換され、翌日以降の競りにかけられる。豚の場合は950頭が処理されたが、豚は皮を剥がずに枝肉にする点が牛と異なる。農林水産省「食肉流通統計」によれば、全国のと畜場における牛のと畜頭数は年間約100万頭規模で推移しており、そのすべてが同様の工程を経て枝肉へと加工される。

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歩留まり率が経営を左右する――品種・性別・肥育方法の違い

生体重に対する枝肉重量の比率を「歩留まり率」または「枝肉歩留まり」と呼ぶ。黒毛和種の去勢牛では約60%、ホルスタイン種では約56%が目安とされるが、この数字は個体差・性別・月齢・飼料設計によって大きく変動するため、同じ品種であっても結果は一様ではない。

宮崎県都城市のある肥育農家は、同じ黒毛和種でも雌牛の歩留まりが雄より2〜3ポイント低い傾向に悩んでいたが、雌牛は内臓の割合が大きく、特に妊娠経験のある廃用牛では子宮などの重量が枝肉歩留まりを押し下げる一方で、去勢牛は筋肉の発達が良好で、肉質等級が高い個体ほど歩留まりも向上しやすい。農水省の「畜産物流通統計」(2024年度)によれば、全国平均の枝肉重量は去勢牛で約495kg、雌牛で約458kgと、約37kgの差がある。

教科書では「歩留まりは品種で決まる」とされるが、実際の現場では飼料中の粗飼料比率や出荷前の絶食時間が歩留まりに影響を与えるため、同じ血統でも結果がぶれる。粗飼料を増やしすぎると消化管内容物が増え、生体重は重くなるが枝肉重量は伸びにくい。逆に濃厚飼料中心で仕上げると筋肉量が増え、歩留まり率が改善する。ただし、この手法は飼料費の高騰リスクと背中合わせであり、2026年9月の輸入物価指数は193.8と高止まりしているため、濃厚飼料依存の肥育は経営を圧迫する構図が見て取れる。

格付けと枝肉重量――A-5だけでは儲からない理由

枝肉は市場に出る際、肉質等級(1〜5)と歩留等級(A・B・C)の組み合わせで格付けされる。A-5は最高ランクとして知られるが、この「A」は歩留等級を指し、枝肉から精肉として取れる部分の割合を示す。A等級は歩留基準値が72%以上、B等級は69〜72%、C等級は69%未満だ。

ここで誤解されやすいのは、A-5という格付けが「高単価」を保証しても「高収益」を保証するわけではない点であり、東京食肉市場の2026年10月20日のデータでは和牛去勢A-5の加重平均が2,822円/kgだが、この単価に掛け算される枝肉重量が小さければ総額は伸びない。例えば枝肉重量400kgのA-5と、枝肉重量500kgのA-4を比較すると、前者は約112.9万円、後者は単価2,500円/kgと仮定して約125万円となり、逆転する可能性がある。格付けだけでは足りない。重量の差が効く。

北海道十勝地域のホルスタイン肥育農家は、肉質等級を追わず「枝肉重量の最大化」に特化した戦略を取る。ホルスタイン種は黒毛和種ほど肉質等級が上がりにくいが、体格が大きく枝肉重量は600kgを超えることもあるため、単価は黒毛和種より低い一方で、重量で補うことで経営を成り立たせている。農林水産省「畜産物流通統計」(2024年度)によると、黒毛和種の枝肉のうちA等級が約7割を占め、B等級が約2割、C等級が約1割という構成比率となっており、A等級の安定生産が市場評価の基準になっている。

購買者が見る枝肉――部分肉への分割と実需

市場で競り落とされた枝肉は、食肉加工業者の手によって「部分肉」へと分割される。ロース・バラ・モモ・カタなど、枝肉は約10数種類の部位に切り分けられ、それぞれ異なる需要先に流れる。高級焼肉店はロース芯やサーロインを求め、外食チェーンはバラやモモを大量に仕入れるため、同じ枝肉重量でも部位ごとの取り分が購買判断を左右する。

枝肉重量が大きいほど各部位の歩留まりも増える傾向にあり、枝肉重量450kgと500kgではロース芯の重量が約1.2倍になるというデータもあるため、重量の差は部分肉の商品価値にも直結する。東京食肉市場では日々約400頭の牛がと畜されるが、それぞれの枝肉が異なる業者の手に渡り、異なる需要に応えていく。枝肉は一枚岩ではない。部位ごとに値打ちが分かれる。

枝肉段階での評価が甘いと、部分肉に加工した際に「思ったより取れない」という事態が発生する。これは歩留等級がBやCの枝肉で起こりやすく、加工業者にとっては仕入れコストの無駄につながるため、購買者は重量だけでなく歩留等級や部位構成まで含めて枝肉を見ている。

データで見る枝肉重量の推移と市場構造

農水省の「畜産物流通統計」によれば、2024年度の全国平均枝肉重量は黒毛和種去勢で約495kg、雌で約458kgだった。ただし、この数値には交雑種や乳用種は含まれておらず、実際の食肉市場全体の平均値はやや下がる。交雑種(F1)の枝肉重量は約480kg前後、ホルスタイン種は約420kg前後とされる。

近年の傾向として、肥育期間の長期化により枝肉重量は微増しており、1990年代には黒毛和種去勢の平均枝肉重量は約450kg程度だったが、30年余りで約45kg増加した。背景には飼料技術の進歩と、肉質等級向上のための長期肥育戦略がある一方で、これは同時に飼料費の増大を意味し、2026年10月時点でドル円レートが158.58円まで上昇したことで、輸入飼料のコスト負担は一層重くなっている。重くなったのは牛だけではない。経営コストも同じだ。

市場構造の観点では、東京・大阪・名古屋の三大食肉市場が全国の枝肉流通の約4割を占める。地方市場は地域内流通が中心で、枝肉単価は都市部より1〜2割低い傾向にあるが、地方市場の枝肉重量は都市部と大差なく、地域による肥育技術の差は縮小している。農林水産省「畜産統計」(令和5年)によれば、2023年2月1日時点での全国の肉用牛飼養戸数は約3万8千戸、飼養頭数は約254万頭で、1戸当たり平均飼養頭数は約67頭となっている。

次の一手――枝肉重量を意識した肥育改善

肥育農家が枝肉重量を改善するために最初に取り組むべきは、出荷前の「生体重と枝肉重量の記録照合」だ。過去の出荷実績から自農場の平均歩留まり率を算出し、どの月齢・どの飼料設計で歩留まりが最大化するかを把握する。鹿児島県曽於市のある農家は、出荷記録を3年分遡って分析した結果、28ヶ月齢より30ヶ月齢のほうが歩留まり率が2ポイント高いことを発見し、出荷時期を調整して収益を改善した。

次に取り組むのは、と畜場・市場との情報共有であり、枝肉の格付け結果は通常、出荷から数日後にフィードバックされるが、この情報を放置せず、個体識別番号と紐付けて蓄積することが重要で、どの血統・どの飼料配合が高歩留まりにつながるかを可視化できれば、次世代の肥育戦略も組み立てやすくなる。まずは直近3ヶ月分の枝肉データを手元に集め、生体重との相関を確認するところから着手したい。記録が出発点になる。

この記事は「畜産経営入門 — 収益構造と経営改善の基礎」の関連記事です。畜産に関する体系的な知識はこちらのガイドをご覧ください。

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