馬糞堆肥は発酵熱が高く繊維質が豊富だが、わら混入率と切り返しのタイミングを誤ると未熟堆肥となり作物に障害を起こす。
主要データ
- 国内の馬飼養頭数:約2万7千頭(農林水産省「畜産統計」令和5年)
- 馬糞1頭あたり年間排出量:約6.8トン(生産獣医療システム調査資料)
- 完熟堆肥のC/N比:15〜20(家畜排せつ物の利用促進を図るための基本方針より)
- 堆肥化期間:90〜150日(敷料種類・切り返し頻度により変動)
堆肥化で最初に躓くのは水分調整だ
馬糞堆肥づくりでベテラン畜産農家が最も気をつけるのは堆積直後の水分率で、多くの初心者は「馬糞は乾燥しているから水分管理は楽」と考えがちだが、それは敷料としておがくずを使う場合の話に過ぎない。稲わらやもみ殻を使う場合は排尿がそのまま吸収されるため、水分率が70%を超えることも珍しくなく、農林水産省「畜産統計(令和5年2月1日現在)」によれば、馬の飼養戸数は全国で約3,200戸、そのうち軽種馬産地である北海道が約半数を占める。
北海道の軽種馬産地で実際にあった事例では、稲わら敷料で馬房を管理していた牧場がそのまま切り返しもせず堆積したところ、5ヶ月経っても発酵が進まず悪臭が発生し続けたが、原因は水分率が75%を超えていたことにあった。好気性発酵に必要な通気性が確保できず、嫌気発酵に移行していたのである。水分率60〜65%が理想とされる一方、実際の調整方法は敷料の種類によって大きく変わってくる。
馬糞は牛糞と比較して繊維質が多く粒子が粗く、この粗さが通気性を確保する反面、敷料の選択を誤ると空隙が多すぎて発酵熱が逃げてしまうため、単に積めば発酵するという理解では現場対応が追いつかない。教科書では「切り返しは2週間に1回」とされるものの、実際には堆積物の温度と臭気で判断することが多く、温度計を堆肥の中心部に差し込んで50℃を下回ったタイミングが切り返しの合図となっている。
この手法を知る前と知った後の違い
知らなかった頃:未熟堆肥による作物障害
馬糞堆肥づくりの基本を知らないまま圃場に投入すると窒素飢餓と呼ばれる現象が発生するが、その理由は未熟な堆肥中の炭素成分を微生物が分解する際に土壌中の窒素を奪うためで、見た目だけで熟度を判断すると施用後に問題が表面化しやすい。栃木県のトマト栽培農家で、馬糞堆肥を1反あたり3トン投入したところ、葉が黄化して生育が止まった事例がある。堆積開始から60日程度で「見た目は黒くなった」という判断で施用したが、実際にはC/N比が30を超える未熟状態だった。
さらに未熟堆肥は雑草種子やセンチュウ卵を死滅させられず、発酵温度が60℃以上に達する期間を7日間以上確保しないと、これらの有害生物が生き残るため、結果として除草作業が増え、線虫被害が拡大する悪循環に入りやすい。
知った後:土壌改良効果と労働時間削減
適切な堆肥化手順を踏むと投入後の作物生育は明らかに変わり、C/N比を15〜20に調整した完熟堆肥は施用直後から窒素飢餓を起こさないのみならず初期生育を促進するため、堆肥化の精度がそのまま圃場成績に反映される。茨城県のメロン産地では、完熟馬糞堆肥を連用している圃場で糖度が平均1.2度上昇したデータがある。
労働面でも変化が見て取れ、未熟堆肥を使っていた時期は施用後の追肥調整や雑草管理に手を取られたが、完熟堆肥に切り替えてからは元肥の量を3割減らしても収量が維持でき、除草回数も年間4回から2回に減った。堆肥化の段階で手間をかけることで、後工程の圃場管理が軽くなるという逆転が起きている。
堆肥化の全体像:4つの段階
馬糞堆肥の製造は大きく分けて4つの段階を経るが、各段階で求められる作業内容と管理指標は同じではなく、初日の水分調整を誤ればその後の温度上昇が鈍り、一次発酵での切り返しが遅れれば熟成まで引きずるため、段階ごとの目標をはっきり持つことが失敗回避に直結する。
第1段階:材料準備と水分調整(初日)
馬房から搬出した馬糞と敷料の混合物を堆肥化場所に運搬し、この時点で水分率を測定して必要に応じて調整材を加える。水分率が高すぎる場合はおがくずやバーク堆肥を混ぜ、低すぎる場合は水を散布する。握って団子状になり、指の間から水が染み出ない程度が目安となる。
第2段階:一次発酵(1〜4週間)
堆積後は好気性微生物の活動が活発化して温度が上昇し、通常3〜5日で50℃に達して7〜10日で60〜70℃のピークを迎えるため、この高温期を確保できるかどうかが病原菌や雑草種子の抑制に関わってくる。温度が下がり始めたら切り返しを行い、内部と外部を入れ替えて再び温度を上げる。この工程を2〜3回繰り返す。
第3段階:二次発酵(5〜10週間)
温度上昇が緩やかになり、40〜50℃で安定する期間だ。繊維質の分解が進み、堆肥全体が黒褐色に変化する。切り返し頻度を減らし、月に1〜2回程度に調整する。この段階で急激に温度が上がらなくなったら、発酵が進んでいると見てよい。
第4段階:熟成(11週間以降)
温度が外気温に近づき、堆肥特有の土のような匂いになる段階で、見た目では元の馬糞の形状が崩れ、手で握ると崩れる程度の柔らかさになる。C/N比が20以下になり、アンモニア臭がほぼ消失したら完熟の目安となっている。
ステップ1:敷料選択と事前準備
堆肥化の成否は敷料の選択で半分決まるとされ、馬房で使う敷料がそのまま堆肥の材料になるため、日常管理で選んだ資材が後の発酵効率、切り返しのしやすさ、さらには完熟までの期間にまで影響する。
敷料の種類別特性
稲わらは吸水性が高く馬糞と混ざりやすい反面、堆積時の水分率が高くなりやすく、長さが30cm以上あると切り返し作業が困難になるため、事前に裁断機で5〜10cm程度に切断しておく必要がある。九州の馬産地では稲わらを主体にする牧場が多いが、切り返し頻度を週1回に増やして対応している。
おがくずは水分調整が容易で、堆積時の通気性も確保しやすい。ただし針葉樹のおがくずは分解に時間がかかり、完熟まで5〜6ヶ月を要する。広葉樹おがくずであれば3〜4ヶ月で完熟に達するため、入手可能であれば広葉樹を優先したい。
もみ殻は軽量で取り扱いやすく通気性に優れるが、単体では吸水性が低いため、稲わらやおがくずと混合して使うのが実際の現場での運用であり、混合比率はもみ殻3:おがくず7程度が扱いやすい。
堆肥化場所の選定
堆肥化場所は降雨の影響を受けない屋根付きスペースが理想だが露天でも運用でき、ただし露天の場合はブルーシートで覆って降雨による水分過多を防ぐ必要があるほか、地面はコンクリート打設が望ましいものの、予算の都合で土間の場合は透水シートを敷いて堆肥成分の流出を防ぐ配慮が求められる。
堆積場所の広さは、1頭あたり月間排出量約0.6トンを基準に計算する。10頭飼養であれば月6トンとなり、これを高さ1.5mで堆積すると底面積4㎡程度が必要になる。切り返し作業スペースを含めると、最低でも10㎡以上は確保したいところである。
ステップ2:堆積と初期水分調整
馬房清掃で出た馬糞と敷料を堆肥化場所に運び山状に積み上げるが、この時の積み方が後の発酵効率を左右し、同じ材料でも形状と水分の整え方次第で温度の立ち上がりが変わるため、初期段階の形づくりを軽く見ることはできない。
堆積形状の基本
堆積は底面を広く取り、高さ1.2〜1.8m程度の台形にする。高すぎると自重で圧密されて通気性が失われ、低すぎると発酵熱が逃げて温度が上がらない。幅は2〜3m、長さは材料量に応じて調整する。小規模であれば幅1.5m×長さ2m×高さ1.2m程度から始めると管理しやすい。
積み上げる際は一度に大量を投入せず、毎日の馬房清掃で出る分を少しずつ積み増していくほうがよく、一気に積むと内部の酸素が不足しやすい。3〜4日分を積んだら一度切り返して空気を入れ、再び積み増すというサイクルを繰り返す。
水分率の測定と調整
水分率は簡易測定法として堆肥を強く握って判断し、握った時に手のひらに水分が滲み出ず、手を開いた時に形が崩れない程度が60〜65%の目安となるが、より正確に測定する場合はサンプル100gを105℃で24時間乾燥させて重量減少率を測る。
水分が高い場合は乾燥したおがくずやバーク堆肥を混合し、混合比率は重量ベースで馬糞10に対しておがくず2〜3程度から始めて握り具合を確認しながら調整する一方、水分が低すぎる場合はジョウロで水を散布するが、一度に大量にかけると水が底部に溜まるため、少量ずつ全体に行き渡らせるのが基本となる。
ステップ3:一次発酵期の温度管理と切り返し
堆積後3日目から温度測定を開始し、堆肥用温度計を中心部まで差し込んで深さ50cm地点の温度を記録するが、朝夕2回測定して変化を追うことで、温度の立ち上がり不足や過剰発熱といった異常の兆候を早めに把握しやすくなる。
温度上昇パターンの読み方
正常に発酵が進む場合、3日目で40℃、5日目で55℃、7〜10日目で60〜70℃に達するが、もし5日経っても40℃に達しない場合は水分過多か窒素不足が疑われる。水分過多であれば切り返して通気性を確保し、窒素不足であれば米ぬかや鶏糞を少量添加する。添加量は堆肥全体の重量に対して1〜2%程度に留める。
逆に3日目で70℃を超える場合は、窒素過多か堆積量が多すぎる可能性があり、この状態では温度が上がりすぎて有用微生物まで死滅するため、切り返して温度を下げる必要がある。
切り返しの実施方法
温度が60℃に達してから7日間維持した後、温度が50℃を下回ったタイミングで一回目の切り返しを行い、堆肥の外側部分を内側に、内側部分を外側に移動させて空気を送り込む。スコップで人力作業する場合、1㎥あたり20〜30分を要する。
小型のショベルローダーがあれば作業は格段に楽になり、バケットで堆肥をすくい上げて隣のスペースに落とすだけで内外が入れ替わるが、機械の重量で堆肥を圧密させないよう、堆肥の上を直接走行しない配慮が要る。
切り返し後は再び温度が上昇し、二回目のピークは一回目より低く55〜60℃程度になるため、これを2〜3回繰り返すと温度上昇が緩やかになり、二次発酵期へ移行していく。
ステップ4:二次発酵期の管理
一次発酵で急激な温度上昇が収まり、40〜50℃で安定する期間が二次発酵であり、この段階では繊維質の分解が中心となって堆肥の色が茶色から黒褐色に変化していくため、見た目と手触りの変化を温度記録と合わせて追うことが重要になる。
切り返し頻度の調整
二次発酵期の切り返しは月に1〜2回に減らす。頻繁に切り返すと発酵熱が逃げて分解が進まない。逆に全く切り返さないと、堆肥内部で部分的に嫌気状態が発生し悪臭の原因になる。2週間に一度、温度を測定しながら判断する。
この時期の堆肥は握ると崩れる程度の柔らかさになり、元の馬糞の形状が不明瞭になるため、わらやおがくずの繊維も短く分解され、全体が均質な質感に近づいていく。
水分管理の継続
二次発酵期も水分率は60%前後を維持し、発酵が進むと水分が蒸発して乾燥しやすくなるため、表面が白っぽく乾いてきたら少量散水する。ただし一次発酵期ほど大量の水は不要で、霧吹き程度で表面を湿らせる程度で十分である。
ステップ5:熟成と完熟判定
二次発酵が終わると堆肥の温度は外気温プラス5℃程度に落ち着き、ここから先は熟成期間として微生物相が安定するのを待つ段階に入るが、温度だけで完熟と決めつけず、臭気や触感、C/N比など複数の指標を重ねて確認する必要がある。
完熟の判定基準
完熟堆肥の判定には複数の指標を組み合わせる必要があり、第一に臭気としてアンモニア臭や腐敗臭が消失し土や森の中のような有機的な香りに変わること、第二に色として黒褐色から黒色に近づくこと、第三に触感として握ると容易に崩れ指の間からこぼれ落ちることが挙げられる。
より客観的に判定する場合はC/N比を測定し、完熟堆肥は15〜20の範囲に収まる。簡易測定キットも市販されており、堆肥サンプルを試薬に浸して色の変化で判定できる。農業試験場に依頼すれば精密分析も可能だが、費用は1検体あたり5千円〜1万円程度かかる。
発芽試験も有効であり、堆肥を水で5倍に薄めた液にカイワレ大根の種を浸して3日後の発芽率を見て、80%以上発芽すれば完熟、50%以下なら未熟と判断する。この方法なら特別な機器なしで現場で実施できる。
保管と品質維持
完熟した堆肥は使用するまで適切に保管し、ブルーシートで覆って直射日光と降雨を避けるが、長期保管する場合は月に一度程度の頻度で表面を軽く攪拌してカビの発生を防ぐ。保管期間が6ヶ月を超えると窒素成分が揮発して肥効が低下するため、できるだけ早く圃場に施用したい。
必要な道具と設備
馬糞堆肥づくりに必要な道具は規模によって異なるが、同じ作業でも人力中心で進めるのか機械化を取り入れるのかで必要装備と作業時間が大きく変わるため、飼養頭数に応じた準備が欠かせない。
小規模(飼養頭数1〜5頭)の場合
- スコップ(角型・剣先各1本)
- フォーク(堆肥用、柄の長いタイプ)
- 一輪車またはリヤカー
- 堆肥用温度計(測定部50cm以上)
- ブルーシート(3.6m×5.4m程度)
- 散水用ホース
- 軍手・長靴
初期投資額は合計で3万円程度に収まり、温度計は農業資材店で2千円〜5千円で購入できるが、堆肥専用フォークは一般的なフォークより歯の間隔が広く、湿った堆肥でもすくいやすい構造になっている。
中規模(飼養頭数6〜20頭)の場合
- 小型ショベルローダー(中古可)
- 堆肥切り返し機(歩行型)
- 堆肥化専用ハウス(パイプハウス流用可)
- 温度・水分計測器(デジタル式)
- 堆肥袋詰め機(販売する場合)
ショベルローダーは新品で200万円以上するが、中古であれば50万円〜80万円で入手できる。クボタやヤンマーの農業用小型機が扱いやすい。堆肥切り返し機は歩行型で30万円前後、乗用型だと150万円を超える。
大規模(飼養頭数20頭以上)の場合
- 中型トラクター(30〜50馬力)
- ローダー付きアタッチメント
- 自走式堆肥切り返し機
- 堆肥化専用舎(コンクリート床、屋根付き)
- 自動温度監視システム
大規模になると設備投資は1千万円を超えるが、家畜排せつ物法に基づく処理施設整備事業などで補助が受けられる可能性があり、詳細な条件や補助率は年度ごとに変わるため、各都道府県の畜産課に確認することが前提になる。
前提条件と制約
馬糞堆肥を製造する上では法的制約と物理的制約があり、これらを理解せずに始めると後から対応に追われる。農林水産省「家畜排せつ物の利用の促進を図るための基本方針(令和2年改定)」では、家畜排せつ物の堆肥化施設整備率が全国平均で約85%に達しているとされ、適正管理の徹底が進んでいることがうかがえる。
法的制約:家畜排せつ物法
家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律(通称:家畜排せつ物法)により、10頭以上の馬を飼養する場合は管理基準に従う義務があり、具体的には堆肥化施設に屋根と床を設けて雨水の浸入と堆肥成分の地下浸透を防ぐ構造が求められる。9頭以下であれば努力義務に留まるが、近隣への配慮として同等の設備を整えるのが実際の運用である。
物理的制約:作業時間と労働力
堆肥化作業は日常の馬房清掃に加えて発生し、1頭あたり馬房清掃に毎日15〜20分、堆肥の切り返しに月1回あたり1時間程度を要するため、10頭飼養であれば馬房清掃だけで毎日2.5〜3時間、切り返しに月10時間が追加される。これを一人でこなすのは困難であり、複数名での作業体制か機械化が必要になる。
臭気対策
適切に管理された堆肥からは強い悪臭は出ないが、未熟な段階ではアンモニア臭が発生するため、住宅地に近い場合は堆肥化場所を敷地の風下側に配置し、緩衝緑地を設けるなどの配慮が要る。茨城県の馬術クラブでは、堆肥場周辺にヒノキを植栽して臭気の拡散を抑えている事例がある。
現場で応用するコツ:季節別の対応
馬糞堆肥の発酵は気温の影響を大きく受けるため、同じ材料と同じ積み方でも季節によって温度の立ち上がり、水分の抜け方、切り返しの間隔が変わり、年間を通じて安定した品質を保つには季節ごとの調整が欠かせない。
春季(3〜5月)の管理
気温が上昇し微生物活動が活発になる時期であり、堆積開始から温度上昇までの期間が短く3日で50℃に達することも珍しくないため、この時期は切り返し頻度を増やして過度な温度上昇を抑える。水分蒸発も多いため、週に一度は表面の乾燥具合を確認する。
夏季(6〜8月)の管理
外気温が高いため堆肥温度が70℃を超えやすく、過剰な高温は有用微生物まで死滅させるので、切り返しで温度を下げる頻度を増やす必要がある。直射日光が当たる場所では遮光ネットを張り、堆肥表面の温度上昇を防ぐ。水分蒸発が最も激しい時期なので、3〜4日に一度は散水が必要になる。
秋季(9〜11月)の管理
気温が下がり始めて発酵速度が緩やかになり、春季と同様に安定した管理がしやすい時期である。この時期に堆肥化を開始すると、冬を越して春に完熟するタイミングになり、春の施肥に間に合う。秋雨の影響で水分過多になりやすいため、ブルーシートでの被覆を徹底する。
冬季(12〜2月)の管理
気温が低く微生物活動が鈍るため、堆積開始から温度上昇まで7〜10日を要することもあるが、一度温度が上がれば堆肥内部は保温される一方で、外気との温度差で表面が結露しやすい。結露水で表面が過湿になるとその部分だけ嫌気発酵に移行するため、切り返し時に表面と内部を入れ替える。北海道や東北では、冬季の堆肥化を避けて春まで馬糞を貯留する牧場もある。ただし長期貯留は臭気発生のリスクがあるため、最低限の切り返しは継続する。
トラブルシューティング:よくある失敗と対処
温度が上がらない
堆積後1週間経っても温度が40℃に達しない場合、原因は3つに絞られ、第一に水分過多で握ると水が滴る状態であれば乾燥材を混ぜ、第二に水分不足で握っても固まらない場合は散水し、第三に窒素不足で敷料として針葉樹おがくずのみを使っている場合などに起きる。この場合は米ぬかを堆肥重量の1%程度添加すると改善する。
悪臭が消えない
アンモニア臭や腐敗臭が3ヶ月経っても消えない場合は嫌気発酵に陥っているため、切り返し頻度を増やして週1回のペースで空気を送り込む。それでも改善しない場合は、一度堆肥を薄く広げて1〜2日乾燥させ、再び積み直す。この作業で嫌気状態がリセットされる。
白いカビが発生
堆肥表面に白い綿状のカビが発生することがあるが、これは放線菌の一種で有機物分解に有益な微生物であり、悪臭を伴わなければ問題ない。ただし表面全体が白く覆われるほど増殖している場合は、水分不足のサインなので散水する。
コバエや虫の発生
未熟な段階では堆肥に誘引される虫が発生し、特に夏季はコバエが大量発生することがあるため、対策として堆肥表面を完熟堆肥やバーク堆肥で5cm程度覆うと産卵を防げる。また60℃以上の高温期を7日以上維持することで、卵や幼虫を死滅させる。
販売を視野に入れる場合の品質基準
自家利用ではなく堆肥を販売する場合は、肥料取締法に基づく品質表示が必要になり、特殊肥料(堆肥)として届出を行って成分分析結果を表示する義務があるため、製造管理だけでなく表示と保管の実務も含めて準備しておく必要がある。
成分分析の実施
販売用堆肥は窒素・リン酸・カリの三要素と、水分・C/N比・pH・ECの測定が求められるため、分析は都道府県の農業試験場や民間の分析機関に依頼する。費用は1検体あたり8千円〜1万5千円程度だ。分析結果を基に、肥料袋に成分表示を印刷する。
袋詰めと保管
販売用は20kgまたは15kg単位で袋詰めし、ポリエチレン製の肥料袋を使って口を紐で縛る。袋詰め後は風通しの良い場所で保管し、積み重ねる場合は5段以下にする。重ねすぎると下段の袋が破れる。
農林水産省の「特殊肥料等品質表示基準」(平成12年制定、最終改正令和3年)では、堆肥の窒素全量が0.5%以上、炭素窒素比が35以下と定められており、完熟堆肥であればこの基準はクリアできるが、未熟なまま販売するとクレームの原因になりやすい。
他の家畜糞との混合利用
馬糞単体ではなく他の家畜糞と混合することで、発酵速度や成分バランスを調整できるが、混合相手によって水分、窒素、病原菌リスクが変わるため、比率設定と温度管理を一体で考える必要がある。
牛糞との混合
牛糞は水分が多く粘性があるため、馬糞と混ぜると水分調整がしやすくなる。混合比率は馬糞7:牛糞3程度が扱いやすい。ただし牛糞は病原菌や雑草種子を含む可能性が高いため、60℃以上での発酵期間を10日以上確保する。
鶏糞との混合
鶏糞は窒素分が高く、馬糞に少量添加すると発酵が促進されるが、混ぜすぎると温度が上がりすぎてアンモニアガスが大量発生するため、混合比率は馬糞9:鶏糞1程度に留める。鶏糞は生のままではなく、一次発酵済みの発酵鶏糞を使う方が管理しやすい。
豚糞との混合
豚糞は牛糞と馬糞の中間的な性質を持ち、水分が多いため馬糞と混合する場合は水分調整に注意する必要がある。混合比率は馬糞6:豚糞4程度が目安だ。豚糞には寄生虫卵が残存することがあるため、高温発酵での殺菌を徹底する。
圃場への施用方法と効果
完熟した馬糞堆肥を圃場に施用する際の手順と期待できる効果について整理する。農林水産省「耕地及び作付面積統計(令和5年)」によれば、環境保全型農業の推進により有機質肥料を施用する耕地面積の割合は増加傾向にあり、馬糞堆肥のような良質な有機質資材への需要は今後も高まると見込まれる。
施用量の目安
一般的な畑作では10aあたり1〜2トンが標準的な施用量だが、連用する場合は土壌分析を行って塩基バランスを確認する必要がある。馬糞堆肥はカリウムが多いため、連用するとカリ過剰になりマグネシウム欠乏を引き起こすことがある。3年に一度は土壌分析を実施し、必要に応じて苦土石灰を追加する。
施用時期
春作の場合は前年秋(11〜12月)に施用し、冬の間に土壌と馴染ませる。秋作の場合は夏(7〜8月)に施用する。施用直後に作付けすると、堆肥中の未分解成分が根の発達を阻害することがあるため、最低でも1ヶ月の期間を置く。
土壌改良効果
馬糞堆肥は繊維質が豊富なため土壌の団粒構造を改善する効果が高く、連用3年目から土壌の保水性と排水性が向上して作物の根張りが良くなる。千葉県の露地野菜産地では、馬糞堆肥を5年間連用した圃場で、トマトの裂果率が30%減少したデータがある。
また馬糞堆肥は微生物相を豊かにし、土壌病害の抑制効果も期待できるため、連作障害が出やすいナス科作物でも、連用によって障害が軽減される事例が報告されている。
経済性の検討:コストと収益
馬糞堆肥づくりの経済性を、自家利用と販売の両面から検討するが、発生量の多い経営では処理コストの削減と資材費の節約が重なり、さらに販売まで視野に入れると収益化の余地も出てくるため、単なる廃棄物処理として片づけるには惜しい側面がある。
自家利用の場合
10頭飼養で年間約68トンの馬糞が発生し、これを全量堆肥化すると完熟堆肥で約40トン(容積減少を考慮)が得られるため、市販の牛糞堆肥を購入する場合の1トンあたり3千円〜5千円という費用を当てはめると、40トンで12万円〜20万円の節約になる。堆肥化にかかる人件費と機械費を差し引いても、経済的メリットは見込める。
販売する場合
馬糞堆肥は牛糞堆肥より高値で取引され、品質が良ければ20kg袋で300円〜500円で販売できるため、年間40トンを20kg袋詰めにすると2,000袋、販売価格を400円とすると売上80万円になる。ただし袋代(1枚30円)、分析費用、人件費を考慮すると、純利益は30万円〜40万円程度に落ち着く。
販路としては、直売所や道の駅での委託販売、地域の園芸農家への直販、インターネット通販などがあり、リピーターを獲得できれば安定した収益源になる一方、品質のばらつきは信用を失う原因になる。毎回同じ品質を維持する管理が、販売継続に直結してくる。
次にやるべきこと
馬糞堆肥づくりを始めるなら、まず現在使っている敷料が堆肥化に適しているかを見直し、水分率と繊維の長さを確認したうえで、稲わらであれば裁断機の導入を検討し、おがくずであれば広葉樹と針葉樹のどちらかを確認する。
次に堆肥化場所を確保し、10頭以下であれば露天でも運用できるがブルーシートと温度計は必須であり、堆積を始めたら最初の2週間は毎日温度を測定して発酵のパターンを掴む。温度の上がり方が想定と違う場合は水分か窒素のどちらかに問題があるため、握り具合で水分を確認し、必要なら米ぬかを少量添加して様子を見る。
完熟までの期間は最低3ヶ月、できれば4〜5ヶ月を見込み、焦って未熟なまま圃場に入れると作物障害で元も子もなくなるため、最初の一回は少量でテストして発芽試験で完熟を確認してから本格的に施用する。この手順を踏めば、失敗のリスクは格段に減っていく。
この記事は「畜産経営入門 — 収益構造と経営改善の基礎」の関連記事です。畜産に関する体系的な知識はこちらのガイドをご覧ください。
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