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漁業データレポート

サンマは消えたのではなく、日本の網に入らなくなった — 公海水温+1.85℃と漁獲シェア29年のデータ

読了時間: 約18
水産庁/水産研究・教育機構 国際漁業資源の現況NPFC 北太平洋漁業委員会NOAA OISST v2.1気象庁 沿岸海域別海面水温東京都中央卸売市場 日報(豊洲)

この記事のポイント

  • 資源は確かに低い:NPFCの2024年評価で、近年の資源量はMSY水準の34.5%(B/BMSY=0.345)。漁獲圧もMSY水準とほぼ同じ(F/FMSY=1.01)。推定資源量は2024年で52.8万トンで、2020年以降は増加傾向だが依然低水準——増えていることと低いことは同時に成り立つ。
  • だが日本だけが余計に減った:北太平洋の総漁獲量に占める日本の割合は1996年の87.2%から2023年は21.6%。資源の縮小は全員に効くが、シェアの低下は日本にだけ起きた。
  • 温まったのは「漁期の海」だった:公海漁場の漁期(8〜12月)平均水温は、19821991年の13.14℃から20162025年は14.99℃へ+1.85℃。漁期序盤の8〜9月に限れば+2.23℃で、漁期外の7か月の平均(+1.15℃)の約1.9倍、真冬(2月・+0.88℃)の約2.5倍動いた。
  • 漁場は国境の外へ出た:日本の漁獲のうち公海で獲った分の比率は2014年の1.3%から2021年に89.1%。そこは台湾・中国と同じ漁場で、日本は自国水域の漁業から国際競争の漁業へ移った。
  • 不可逆ではない:漁期水温が16.28℃と最高だった2024年の翌2025年は15.14℃へ1.14℃下がり、豊洲の生鮮さんまは中値540円/kgまで下がる日が出た。海況次第で戻る余地はある。

2026年の初さんまは、豊洲市場で1kgあたり中値86,400円で取引された(2026-07-10、産地北海道、品名計の卸売数量1,333kg)。その5週間後、8月16〜22日の中値平均は6,291円/kg。前年の同じ週は1,426円/kgだったから、約4.4倍である。卸売数量は前年同週の約39.9%にとどまった。店頭の一尾がまた遠くなった、という話が今年も始まっている。

この記事は、その値段の話からいったん離れる。問いは一つだ——サンマの不漁は「資源が減った」だけの話なのか。国・地域別の漁獲量29年分、公海と沿岸の海面水温44年分、そして市場の卸売価格を並べると、不漁は少なくとも三つの層に分かれる。資源そのものの低水準、漁期にだけ強く現れた海水温の上昇、そして漁場が日本の200海里の外へ移り国際競争に入ったこと。この三層を分けて見ないかぎり、「サンマはいつ戻るのか」という問いには答えようがない。

1. 何が起きているか — 値段とシェア

まず、北太平洋でサンマを獲っている国・地域の漁獲量を1995年から2023年まで積み上げ、その上に日本の占める割合を重ねる。出典は水産庁と水産研究・教育機構が毎年刊行する「国際漁業資源の現況」の表1で、日本以外の数値はNPFC(北太平洋漁業委員会)に各国・地域が報告した値である。台湾はNPFCの原典では Chinese Taipei と表記されるが、本レポートでは日本語資料の表記に合わせて「台湾」で統一している。

北太平洋のサンマ漁獲量と日本のシェア

1995–2023国際漁業資源の現況 表1
日本台湾中国ロシア韓国バヌアツ日本のシェア(%・右軸)

日本の内数である「うち公海における漁獲量」は積み上げに含めていない。シェアの分母は出典の合計欄(内訳の再合計ではない)。

総量が最大だった年でも日本のシェアはすでに3割台。総量の減少と日本のシェア低下は同じ現象ではなく、別々に進んだ2つの変化である

総漁獲量は2014年の63万1,313トンを頂点に、2021年には9万3,312トンまで落ちた。2014年から2023年の9年で約81.1%の縮小である。ただし目を引くのは総量より、その中身の変わり方だ。日本の割合は1996年の87.2%から2022年の18.3%まで落ち、2023年も21.6%にとどまる。総量が最大だった2014年ですら、日本のシェアはすでに36.2%だった。総量の減少と、日本のシェアの低下は、別々のタイミングで別々に進んでいる。

この29年を、市場の側から見るとどうなるか。東京都中央卸売市場(豊洲)の日報には、品名「さんま」の生鮮の高値・中値・安値が漁期のあいだだけ記録される。2025年漁期と、まだ出だししか見えていない2026年漁期を、同じ暦日の上に重ねてみる。

豊洲市場 生鮮さんまの中値(2漁期の比較)

8/16–12/6東京都中央卸売市場 日報
2025年漁期2026年漁期

7月の初値(2025年 97,200円/kg・2026年 86,400円/kg)は卸売数量が1〜2トンで水準が桁違いのため図から除いた。2026年漁期は中値の記載がある最終日(2026-08-21)まで。日報の蓄積自体は2026-08-22まで。

同じ暦日で並べると2026年漁期は前年の数倍の水準から始まった。前年の曲線が低く平らに見えること自体が、2025年漁期に生鮮が潤沢だったことの裏返しである

2026年漁期は8月16〜22日の中値平均が6,291円/kg。2025年の同じ週は1,426円/kgで、約4.4倍の開きがある。品名計の卸売数量は前年同週の約39.9%にすぎない。ただし1本の線が低く平らに見えるのは、その年が「普通」だったからではない。2025年漁期は生鮮の中値が8/162,160円/kgから9/5には540円/kgまで下がり、品名計の卸売数量は1日あたり228トン(2025-09-16)に達する日もあった。近年としては潤沢だったのである。値段の差は、資源の長期トレンドではなく、その年の漁模様を映している。

2. 資源は実際に減っている

値段の話をいったん置いて、資源そのものを見る。その前に、日本のサンマ漁業がどういう形をしているかを確認しておきたい。日本のサンマの大半は棒受網漁業で獲られており、その割合は2013年以降、毎年99%を超えている。中心になるのは大臣許可漁業の「北太平洋さんま漁業」で、千葉県以北の太平洋側を操業区域とし、10トン以上200トン未満の漁船が従事する。つまり日本のサンマ漁は、単一の漁法・単一の許可制度にほぼ一本化された漁業であり、漁獲量の増減がそのまま特定の船団の経営に直結する構造になっている。魚が来なければ逃げ場が少ない、という意味でもある。

そのうえで、北太平洋全体の漁獲量と、そのうち日本の分を重ねる。総量が減っているのか、日本の取り分だけが減っているのかを分けるためだ。

北太平洋の総漁獲量と日本の漁獲量

1995–2023国際漁業資源の現況 表1
合計(全漁業国・地域)日本

総漁獲量が最高を記録した2014年、日本の漁獲はすでに自身のピークの64.5%まで落ちていた。日本の減少が先に起き、総量の急落はそのあとに来ている

日本の漁獲量は2008年の35万4,727トンが最大で、2022年には1万8,400トンまで落ちた。約94.8%の減少である。一方、総漁獲量が63万1,313トンの最高を記録したのは2014年、日本の漁獲が35万4,727トンから22万8,647トンへすでに落ちたあとだった。つまり「日本が獲れなくなる」ことと「北太平洋全体で獲れなくなる」ことのあいだには、6年ほどのずれがある。日本の減少が先に起き、総量の急落があとから来た。

では資源量そのものはどうか。NPFCは2024年12月のサンマ小科学委員会で、日本・中国・台湾がそれぞれ実施した資源解析を一つにとりまとめている。それによれば、近年の資源量(B2022-2024)はMSY水準(BMSY)の34.5%——B/BMSY=0.345である。2021〜2023年の平均漁獲割合(F2021-2023)はMSY水準の101%、F/FMSY=1.01だった。資源は低水準にあり、そのうえで漁獲圧はちょうどMSYと同じ強さでかかっている。「獲りすぎをやめれば自然に戻る」位置ではなく、「これ以上獲れば減る」位置にある、というのが評価の中身だ。絶対量でいえば、推定された2024年の資源量は52.8万トンである。

この52.8万トンという数字は、二通りに読める。一方で、原典は2020年以降が増加傾向であると書いている——資源は底を打って、わずかに戻りつつある。他方で、それでもMSY水準の34.5%にとどまり、同じ文が「依然低い水準で推移している」と続く。増えていることと、低いことは同時に成り立つ。片方だけを取り出せば「もう回復した」とも「危機的だ」とも言えてしまうが、評価が述べているのは「低水準のまま、わずかに増加している」という一つの状態である。本レポートが後段で扱う「海況が緩んだ年に漁が戻る」という往復も、この低い土台の上で起きている話にすぎない。増加傾向は、漁獲量がかつての水準に戻ることを意味しない。

資源評価の図(原典の図11〜13)には対応する数表が付いておらず、グラフから値を読み取ることはできない。そのため本レポートでは資源量の推移をチャート化せず、原典の本文が明記している値——B/BMSY=0.345、F/FMSY=1.01 という2つの比、2024年の推定資源量52.8万トン、およびNPFCが2024年に合意した漁獲量上限(分布域全体で年間22万5,000トン、うちNPFC条約水域の総漁獲量=TACは13万5,000トン)——を引用するにとどめている。

この管理の枠と、実際の漁獲量を並べると、いまの位置がはっきりする。直近5年(2019〜2023年)の総漁獲量の平均は12万9,695トン。分布域全体の上限22万5,000トンの半分強でしかない。1995〜2004年の10年平均が30万9,313トンだったことを思えば、いま議論されている上限そのものが、かつての漁獲水準からは遠く低い。日本の直近5年平均は2万7,833トンで、2008年の約7.8%である。資源が減ったこと自体は、この数字で十分に裏づけられる。問題は、それだけでは日本のシェアの低下が説明できないことだ。

3. 海が変わった — 温まったのは漁期

サンマは夏に北の公海で育ち、秋に水温の下がる道を通って南下してくる。日本の棒受網漁業は、その南下してくる群れを待ち受ける漁業だ。だから資源量が同じでも、南下の経路と時期が変われば、日本の網に入る量は変わる。まず公海漁場の水温を見る。NOAA OISST v2.1から、サンマの主漁場にあたる北緯40〜45度・東経150〜165度のボックスを取り出し、漁期(8〜12月)の平均を年ごとに並べた。

北太平洋公海漁場の漁期(8〜12月)平均海面水温

1982–2025NOAA OISST v2.1
1982–1991年1998–2025年

対象ボックスは北緯40〜45度・東経150〜165度。1992〜1997年は取得元データが連続欠測しており、線をつながず空白にしている。

1980年代と直近10年を比べると、漁期の海は一段高い水準に移っている。ただし直近も一本調子ではなく、最高値の2024年の翌年は1.14℃下がった

グラフの空白について。取得元(NOAA CoastWatch ERDDAP)では、この対象ボックスの日次データが1992-11から1998-07まで69か月にわたって連続して欠落している(全期間の欠測日は7.34%で、その大半がこの期間に集中する)。欠測を挟んで線をつなぐと、観測されていない期間にあたかもトレンドがあったように見えるため、系列を欠測の前後に分けて19921997年を空白のまま残した。本レポートで長期比較に用いた19821991年と20162025年は、いずれもこの欠測を含まない期間である。したがって「1990年代に何が起きたか」を、このデータで語ることはできない。

漁期平均は19821991年の13.14℃に対し、20162025年は14.99℃。差は+1.85℃である。最高は2024年の16.28℃、最低は1983年の12.18℃だった。ただしこの+1.85℃という数字は、年間を通じた温暖化の話ではない。同じデータを月ごとに割ると、上がり方に強い偏りがあることがわかる。

公海漁場の月別水温の変化幅

1982–1991 → 2016–2025NOAA OISST v2.1
2期間の差(℃)

いずれの期間も欠測月を含まない。値は月平均水温の期間平均どうしの差。

上昇幅が最大なのは漁期の入口にあたる8〜9月で、真冬の2倍以上。海全体が一律に温まったのではなく、サンマが南下を始める時期の海が選択的に温まった

上昇幅が最も大きいのは9月の+2.28℃、最も小さいのは2月の+0.88℃だった。漁期序盤にあたる8〜9月の平均は+2.23℃で、漁期外の7か月の平均(+1.15℃)の約1.9倍、最小の2月と比べれば約2.5倍にあたる。12か月を平均すれば+1.44℃だが、その平均値は漁期の実態を映していない。サンマが索餌を終えて南下を始める、まさにその時期の海だけが強く温まった。南下の引き金になる水温の壁が、季節の中で後ろへずれ、より北へ押し上げられたことになる。

では、日本側の沿岸はどうか。気象庁の沿岸海域別海面水温から、サンマの水揚げ港が並ぶ道東(十勝・釧路)と三陸(岩手県北部・南部・宮城)の5海域を取り出し、同じ漁期(8〜12月)の平均を並べる。ここで確かめたいのは絶対値ではなく、変化の大きさが公海とどう違うかである。

沿岸5海域の漁期(8〜12月)平均海面水温

1982–2025気象庁 沿岸海域別海面水温
十勝地方沿岸釧路地方沿岸岩手県北部沿岸岩手県南部沿岸宮城県沿岸

公海(NOAA)とは観測・解析プロダクトが異なるため、同一チャート・同一軸には載せていない。5海域はいずれも気象庁の同一プロダクト・同一平年値基準(1991–2020)。

同じ期間区分で計算した上げ幅は、沿岸のほうが公海より小さい。魚を待つ側の海より、魚がいる側の海のほうが速く変わった

5海域の上昇幅は十勝地方沿岸の+0.99℃から釧路地方沿岸の+1.44℃まで、平均+1.29℃だった。同じ期間区分で計算した公海の漁期平均の変化(+1.85℃)より、いずれも小さい。ただし両者は別の観測・解析プロダクトなので、℃の差を引き算して「公海のほうが○℃速い」と述べることはできない。読み取れるのは向きだけである——沿岸も公海も温まったが、変化が大きかったのは魚がいる側の海だった。サンマが南下を始める北の海が先に温まれば、群れが日本の沿岸まで降りてくる時期は遅れ、降りてくる量そのものも減る。日本の網は、魚が来る前提で置かれた網である。

水温とサンマの結びつきは、単年の暑い寒いだけの話ではない。原典は、サンマの資源量が十年〜数十年規模の海洋環境変動と関連することを指摘した研究を挙げ、太平洋十年規模振動(PDO)やNPGO(North Pacific Gyre Oscillation)を具体例として示している。さらに、北太平洋亜寒帯循環が1990年代後半から2010年代中盤にかけて弱まったという報告(Kuroda et al. 2021)を引き、この弱まりが道東沿岸への親潮の張り出しの位置と強さに関係することから、南下期のサンマの回遊経路に影響を与えている可能性があるとしている。サンマの卵と仔稚魚が黒潮によって主に東へ運ばれ、その輸送過程の環境が生残を大きく左右することも併せて指摘されている。ただし原典自身が明記しているとおり、今回のNPFCの資源評価では海洋環境の変化が資源変動に与える影響は考慮されていない。本レポートが示せるのも、水温と漁獲が同じ方向に動いているという事実関係までである。

4. 漁場が国境を出た

魚が沿岸まで来ないなら、船が沖へ出るしかない。だがサンマの場合、沖へ出るというのは単に距離が伸びることではなく、日本の200海里の外——どの国の船も操業できる公海に出ることを意味する。そこはすでに台湾と中国の漁場だった。まず両者の漁獲量の伸びを、日本と並べて見る。

台湾・中国・日本のサンマ漁獲量

1995–2023国際漁業資源の現況 表1
台湾中国日本

台湾はNPFC原典では Chinese Taipei と表記される。中国は2012年から表に現れる。

台湾が日本を上回ったのは2013年で、以後11年連続。日本の減少は「日本の海から魚が消えた」だけでなく「同じ魚を別の船が先に獲っている」という形でも現れている

台湾の漁獲量は2014年に22万9,937トンの最大に達し、2013年に初めて日本を上回って以降、2023年まで11年連続で日本を超えている。中国は表に登場する2012年の2,014トンから2018年の9万365トンまで6年で急増し、2019年からは日本を上回り続けている。2023年の漁獲量は台湾5万268トン、中国3万9,252トンに対し、日本は2万5,800トンである。原典が記すとおり、台湾・中国・バヌアツは当初から北太平洋公海域を漁場としてきた。日本とロシアが主に自国の200海里水域内で操業していたのとは、漁業の設計そのものが違う。

操業の形も日本とはかなり違う。台湾のさんま漁船は主に5月末から12月まで、東経150度以東の公海域で棒受網漁を行う。初夏から秋にかけては北海道沖の200海里水域の境界線の外側に沿って、南西方向へ南下しながら操業する。多くはいか釣りとの兼業船で、1〜4月ごろは南西大西洋でアルゼンチンマツイカを獲り、5月に機材を替えてサンマに移る。獲ったサンマは船上でサイズ選別・箱詰めして魚倉で冷凍保管し、運搬船に積み替えて水揚げする。中国は2012年に公海のさんま漁業へ参入し、以来公海のみで操業している。2023年に公海で操業した船数は台湾66隻(前年81隻)、中国57隻(前年63隻)である。注意したいのは、この移動が一方通行ではないことだ。台湾の漁船は以前は日本とロシアの200海里水域内にも入域していたが、現在は公海のみで操業している。日本が公海へ出ていく一方で、台湾は公海に引いた。漁場の重なりは、境界線をはさんで双方向に動いている。

その日本が、いつから公海へ出たのか。表1には日本の漁獲量の内数として「うち公海における漁獲量」が載っている。日本の漁獲量そのものと、そのうち公海が占める比率を重ねる。

日本の漁獲量と、そのうち公海の比率

1995–2023国際漁業資源の現況 表1
日本の漁獲量(トン・左軸)公海の比率(%・右軸)

公海漁獲量は日本の漁獲量の内数。比率=うち公海における漁獲量÷日本の漁獲量。

漁獲量が減るほど公海比率が上がる鏡像になっている。日本のサンマ漁は自国水域の漁業から、国際競争のただ中にある公海の漁業へ性格を変えた

2014年に1.3%だった公海比率は、2021年に89.1%に達した。この年、日本の漁獲量は1万9,513トンと期間中の最低に近く、そのほとんどが自国水域の外で獲られたことになる。2023年は40.5%まで下がったが、これは公海への依存が解消したというより、この年は沿岸にも群れが来たということだ。比率と漁獲量が鏡像を描いていることが、そのまま構造を語っている——沿岸に来る年は比率が下がり、来ない年は船が公海へ出る。

29年の変化を構成比で見ると、この移行がひとつの絵になる。同じ表1を、各年の合計を100%として積み上げ直す。

国・地域別の漁獲量構成比

1995–2023国際漁業資源の現況 表1
日本台湾中国ロシア韓国バヌアツ

各年の内訳を100%として表示。日本の内数である公海漁獲量は含めていない。

日本が8割を握っていた海で、いまの日本は台湾・中国に次ぐ3番手にいる。資源が戻っても、この配分が自動で元に戻るわけではない

1995年、日本は82.2%を占めていた。2023年は台湾42.0%、中国32.8%、日本21.6%で、日本は3番手にいる。ここが「資源が減った」という説明だけでは足りない理由である。資源が回復しても、この構成比が自動的に29年前に戻るわけではない。漁場が公海に移り、そこで複数の国・地域が同じ群れを追う構造そのものは、水温が下がっても残る。NPFCが漁獲量上限とTACの配分を議論しているのは、まさにこの層の問題を扱うためだ。

その管理は、すでに配分だけの話ではなくなっている。NPFCは2024年4月の年次会合で暫定的な漁獲管理ルール(HCR)の導入に合意した。資源量がMSY水準を下回った際にTACを漸減させる一方、TACの年変動は10%以内に抑えるという設計である。これに基づき2024年の分布域全体の漁獲量上限は22万5,000トン(前年に決めた上限から10%削減)、うちNPFC条約水域のTACは13万5,000トン(全体の60%)とされた。これに加えて、遠洋漁業国・地域による許可隻数の増加抑制、洋上投棄の禁止、公海で操業する漁船へのVMS(船位監視装置)の設置義務、小型魚の漁獲を抑えるための6〜7月の東経170度以東での操業禁止、さらに各国・地域が実操業隻数を2018年水準から10%削減するか連続180日以内に漁期を限るかの選択、そして2024年の公海漁獲量をそれぞれの2018年実績から55%削減することなどが定められている。日本が公海に出た先は、こうした国際的な操業規制がかかる海でもある。

5. 食卓への到達経路

最後に、ここまでの構造が食卓にどう届くかを見る。豊洲市場の日報には、品名「さんま」の下に銘柄「生」(生鮮)と「解凍」が毎日並ぶ。この2つは商品形態が違うので合算も同一線での接続もできないが、別々の線として同じ図に置くと、供給の性格の差がはっきりする。2025年漁期の生鮮の中値と、同じ日の解凍品の高値・安値を重ねた。

豊洲市場 生鮮さんまと解凍さんまの価格

2025/8/16–12/6東京都中央卸売市場 日報
生鮮(中値)解凍(高値)解凍(安値)

生鮮と解凍は商品形態の異なる別系列であり、合算も同一線での接続もしていない。解凍品には日報上「中値」の記載がないため高値と安値を示した。

解凍品はほぼ一定の建値で年中供給され、生鮮だけが漁期の需給で上下する。食卓に一年中さんまがあることと、漁が獲れることは別の話である

解凍品の価格は、2025年を通じて高値972円/kg、2026年は1,080円/kg(前年比+11.1%)で、日々ほとんど動かない。データのある336営業日すべてに値がつく。対して生鮮に値がつくのは漁期だけで、2025年はCSVのあった247営業日のうち82日にとどまった。しかもその生鮮の中値は、値がついた78日のうち40日(51.3%)で解凍品の高値を下回っている。豊漁の日には、生鮮のほうが解凍品より安くなるのだ。

この2本の線は、消費の側から見た構造をそのまま示している。年間を通じて店頭にさんまがあるのは、解凍品という一定の建値で供給される流通があるからで、漁の良し悪しは主に生鮮の価格に出る。裏を返せば、生鮮の値段が数千円に跳ねている時期でも解凍品は動かないため、「さんまが高い」という体感と「漁が獲れていない」という事実のあいだには、消費者から見えにくい緩衝がある。産地の表記も漁期の中で北海道から「北海・三陸」、そして三陸へと移り、群れの南下をそのまま追っている。なお日報の卸売数量は品名ブロック単位(生+解凍の合計)でしか公表されず、生鮮だけの数量は取り出せない。本レポートで数量に言及した箇所は、すべてこの品名計である。

6. 回復待ちでは間に合わない

ここまでの3層を並べ直す。第一に、資源は低い。B/BMSY=0.345、F/FMSY=1.01、2024年の推定資源量52.8万トン。2020年以降は増加傾向にあるが、水準としてはMSYの34.5%にとどまる。獲りすぎをやめても自動で戻る位置ではなく、管理の枠組みそのものがかつての漁獲水準よりずっと低いところに引かれている。第二に、海が変わった。公海漁場の漁期平均水温は19821991年平均と20162025年平均で+1.85℃、しかも上がり方は漁期序盤の8〜9月に偏り(+2.23℃)、最小の2月(+0.88℃)の約2.5倍だった。サンマが南下を始める時期の海だけが選択的に温まっている。第三に、漁場が国境を出た。日本の漁獲に占める公海の比率は最大89.1%まで上がり、構成比では日本・台湾・中国の三者が並ぶ海になった。

この三層は独立ではなく、順につながっている。漁期の海が温まる→群れの南下が遅れ北へ寄る→日本の沿岸に来ない→船が公海へ出る→そこは台湾・中国の漁場で、同じ低水準の資源を複数の国・地域が追う。だから「資源が回復すれば元に戻る」という筋書きは、三層のうち一層しか扱っていない。仮に資源がMSY水準まで戻ったとしても、漁期の水温が高いままなら群れの南下経路は変わらないし、公海に築かれた各国・地域の操業体制も消えない。

一方で、不可逆一辺倒でもない。公海漁場の漁期平均水温は2024年に16.28℃と観測史上最高を記録したが、翌2025年は15.14℃と1.14℃下がった。同じ2025年漁期、豊洲市場の生鮮さんまは中値が540円/kgまで下がる日があり、品名計の卸売数量は最大で1日228トンに達した。漁獲統計の側でも、2022年から2023年にかけて日本の漁獲量は+40.2%、総漁獲量も+19.1%と戻している。低水準の資源であっても、海況が緩んだ年には漁が戻る。往復があるということは、水温と漁場の変動が効いているということの傍証でもある。

実務に引き寄せると、含意は「回復を待つ」から「変動を前提に組む」への切り替えになる。漁期がいつ始まりいつ終わるかは年によって数週間ずれ、漁場は自国水域と公海のあいだを行き来する。操業する側にとっては、燃油と航海日数のかかる公海操業を、その年の海況をみてどこまで張るかという判断になる。買う側——加工・小売・外食にとっては、生鮮の入荷が読めない前提で、解凍品という年中一定の建値の流通をどう組み合わせるかという調達設計の問題になる。2025年漁期のように生鮮が解凍品の高値を下回る日が漁期の半分を超える年もあれば、2026年漁期の出だしのように前年の4.4倍で始まる年もある。

最後に、このレポートで言えないことを確認しておく。ここで示したのは、資源評価・漁獲統計・海面水温・卸売価格という4つの独立した観測が、同じ方向を指しているという事実関係である。水温の上昇がどの経路で漁獲を減らすのか——南下の遅れなのか、餌環境なのか、成長や生残なのか——を本レポートのデータで特定することはできない。原典自身、今回のNPFCの資源評価では海洋環境の影響が考慮されていないこと、そのメカニズムの解明が今後の課題であることを明記している。それでも、「サンマが減った」という一語が、少なくとも三つの別々の変化を束ねてしまっていることは、公開データだけで示せる。

よくある質問

Q. サンマが獲れないのは、資源が減ったからではないのですか?

資源が減っているのは事実である。NPFC(北太平洋漁業委員会)が2024年12月にとりまとめた資源評価では、近年の資源量(B2022-2024)はMSY(最大持続生産量)水準の34.5%、すなわち B/BMSY=0.345 にとどまり、2021〜2023年の平均漁獲割合はMSY水準の101%(F/FMSY=1.01)だった。推定された2024年の資源量は52.8万トンで、2020年以降は増加傾向にあるものの依然低い水準で推移している、というのが同資料の記述である(令和6年度 国際漁業資源の現況 81 サンマ 北太平洋)。ただし「資源が減った」だけでは、日本の漁獲量が35万4,727トン(2008年)から1万8,400トン(2022年)へ約94.8%も落ちた一方で、同じ海域の総漁獲量に占める日本の割合が87.2%(1996年)から18.3%(2022年)まで下がったことは説明できない。資源の縮小は全員に等しく効くが、シェアの低下は日本だけに起きた変化だからである。本レポートは、この差分を漁期の海水温上昇と漁場の公海化から読み解いている。

Q. 公海の海水温と沿岸の海水温を、同じグラフで比べていないのはなぜですか?

観測・解析プロダクトが異なるためである。公海(北緯40〜45度・東経150〜165度)の水温はNOAA OISST v2.1(NOAA CoastWatch ERDDAPのgriddap経由)の格子解析値、沿岸5海域の水温は気象庁の沿岸海域別日別解析値で、作成手法も格子も平年値の基準期間も別物である。気象庁側の平年値は1991〜2020年基準だが、NOAA側にはそもそも平年差が含まれていない。したがって平年差どうしであっても同一軸には載せられない。本レポートでは「公海=NOAA」「沿岸=気象庁」でチャートを分け、両者を並べる場合も同一の期間区分(1982〜1991年平均と2016〜2025年平均の差)で計算した変化量の向きを比べるにとどめ、℃の値そのものを差し引きしていない。

Q. 公海の水温グラフに空白の期間があるのはなぜですか?

データが存在しないためである。取得元のERDDAPでは、対象ボックスの日次データが1992-11〜1998-07の69か月にわたって連続して欠落しており(全期間では欠測日が7.34%)、この間は月平均を算出できない。欠測を挟んで線をつなぐと、実際には観測されていない期間にトレンドがあったように見えてしまうため、本レポートでは系列を欠測前(1982〜1991年)と欠測後(1998〜2025年)に分け、1992〜1997年をチャート上の空白として残している。長期の比較に用いた1982〜1991年と2016〜2025年は、いずれも欠測を含まない期間である。

Q. 豊洲市場の「生さんま」と「解凍さんま」を足していないのはなぜですか?

商品形態が異なる別の系列だからである。東京都中央卸売市場の日報では、品名「さんま」の中に銘柄「生」(生鮮)と「解凍」が毎日並んで記載される。生鮮は漁期にしか値がつかず(2025年はCSVのあった247営業日のうち82日)、価格も数百円から数万円まで動く。一方の解凍品は336日すべてに値がつき、高値は2025年を通じて972円、2026年は1,080円で固定的に推移する。この2つを合算したり1本の線でつないだりすると、漁期の需給を映す生鮮の動きが、年間ほぼ一定の解凍品でならされてしまう。なお日報の卸売数量は品名ブロック単位(生+解凍の合計)でしか公表されないため、生鮮だけの数量は取り出せない。本レポートで数量に触れる箇所は、すべてこの品名計である。

Q. 2026年漁期はどうなりそうですか?

本レポートの範囲では断定できない。豊洲市場の2026年漁期は、8月16〜22日の中値平均が6,291円/kgと、2025年の同じ週(1,426円/kg)の約4.4倍で、品名計の卸売数量は同週比で約39.9%にとどまっている。出だしは2025年より厳しい。一方で公海の海水温は、2026年8月の観測日数が月平均を算出できる日数に満たず(データ取得時点で8日)、漁期の水温がどう推移するかはまだ判定できない。2026年7月の月平均は15.56℃で、2016〜2025年の7月平均14.82℃は上回るものの、記録的に高かった2025年7月の16.71℃は下回っている。価格の高さから漁模様を推定することはできても、その原因を水温に帰属させるにはデータが足りない。

出典

  • 水産庁/国立研究開発法人 水産研究・教育機構「令和6年度 国際漁業資源の現況 81 サンマ 北太平洋」kokushi.fra.go.jp(表1「北太平洋におけるサンマの国・地域別漁獲量(トン、19952023年)」をPDFのテキスト層から抽出。資源評価値 B/BMSY=0.345・F/FMSY=1.01、2024年の推定資源量52.8万トン、漁獲量上限22万5,000トン・TAC 13万5,000トンは同資料本文からの引用。2026-08-24取得)
  • NPFC(北太平洋漁業委員会)Summary Footprint of Pacific Saury Fisheriesnpfc.int(上記表1の日本以外の国・地域の漁獲量の原データ、および資源評価のとりまとめ主体)
  • NOAA OISST v2.1(NOAA National Centers for Environmental Information/CoastWatch ERDDAP griddapncdcOisst21Aggcoastwatch.pfeg.noaa.gov(北緯40〜45度・東経150〜165度の日別格子値を月平均に集計。1982-01 to 2026-08
  • 気象庁 日本沿岸域の海面水温(沿岸海域別・日別解析値)ds.data.jma.go.jp(十勝地方沿岸・釧路地方沿岸・岩手県北部沿岸・岩手県南部沿岸・宮城県沿岸。平年値は1991-2020(気象庁の平年値。日別平年値を月平均に畳んだもの)基準)
  • 東京都中央卸売市場 市場日報(豊洲市場・水産)shijou-nippo.metro.tokyo.lg.jp(品名「さんま」の銘柄別・2025-01-06 to 2026-08-22、水産日報のあった336営業日分)

本レポートは情報提供を目的としており、特定の投資・経営判断を推奨するものではありません。国・地域別漁獲量は「国際漁業資源の現況」表1の公表値で、後日改訂される場合があります。同表は内訳の合計と合計欄が±1トンずれる年が3年あり(出典側の丸めによるもの)、本レポートのシェアはすべて合計欄を分母に算出しています。日本の「うち公海における漁獲量」は日本の漁獲量の内数であり、国・地域別の積み上げには加算していません。台湾はNPFC原典ではChinese Taipei、FAO統計ではTaiwan Province of Chinaと表記されます。同表の日本の漁獲量は、農林水産省の海面漁業生産統計調査とは集計主体・定義が異なるため、同一系列として接続していません。海面水温は、公海(NOAA OISST v2.1)と沿岸(気象庁)で観測・解析プロダクトが異なるため、同一チャート・同一軸に載せておらず、℃の差引も行っていません。公海側は1992-111998-0769か月が連続欠測で、この期間は算出も補間もしていません。卸売価格は消費地市場のもので、産地卸売価格とは流通段階が異なり、差引して「マージン」と解釈することはできません。生鮮・解凍・冷凍は商品形態が異なる別系列として扱い、合算していません。最新情報は各出典先の公式サイトでご確認ください。

※本レポートはAIを活用して作成し、編集部が内容を確認・監修しています。詳しくは編集方針をご覧ください。

sanchi.jp編集部

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一次産業メディア 漁業データレポート担当

農林水産業のデータと現場をつなぐメディア「sanchi.jp」編集部。公的統計・一次情報に基づき、構造的な視点で一次産業の論点を整理しています。

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このデータを引用する場合
出典: sanchi.jp「サンマ不漁の分解 データレポート」 https://sanchi.jp/data/reports/saury-2026/

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