和牛は単価世界1位のまま、5年で3割安くなった — 輸出量2.3倍の裏で進む「量と単価」の逆転
この記事のポイント
- 単価は世界1位のまま:2024年の日本産牛肉の輸出単価は1トンあたり30,969ドルで、2位のスイス(20,426ドル)の1.5倍。順位は動いていない。
- ただし5年で3割下がった:輸出量が年1,000トンを超えた2008年以降のピークは2019年の46,695ドルで、そこから33.7%下落した。同じ5年で輸出量は5,875トンから13,692トンへ133.1%増えている。単価と量の関係が入れ替わった。
- 輸出は生産の3%にすぎない:2024年の輸出量は国内生産の2.96%。その国内生産自体が1994年のピーク(60万2,336トン)から23.3%減っている。
- 単価1位は輸入飼料の上に乗っている:飼料自給率は2022年度で総合26%、濃厚飼料は13%。畜産品9品目では輸入額が輸出額の10.1倍で、牛肉輸出の伸びはこの入超をほとんど埋めていない。
- 為替と飼料コストは同じ幅で動いた:2019年から2024年にかけて、USD/JPYの年平均は39%、飼料価格指数は41.3%上がった。 単価1位でも吸収しきれる幅ではない。
牛肉の輸出額は伸び続けている。農林水産省が2026-08-04に公表した輸出実績によれば、2026年1〜6月の牛肉の輸出額は369億円で、前年同期比13.4%増。上半期としては過去最高だった。台湾・タイ向けの伸びが目立つ。 額は更新され続けている。では、単価はどうなっているのか。
「和牛は輸出単価で世界一」という言い方は、いまでも正しい。 FAOSTATの貿易データを全報告国で集計し直しても、2024年の日本産牛肉の輸出単価は1トンあたり30,969ドルで世界1位である。2位のスイスは20,426ドル、3位のスウェーデンは9,179ドルだから、日本だけが桁の違うところにいる。
ただし、この記事はその順位の話をするために書かれていない。問いは一つだ—— 「単価で世界1位」は、いま何を意味しているのか。 単価の推移、量の構造、原価の構造を並べると、順位が変わらないまま中身が入れ替わっていることが見えてくる。 単価は2019年のピークから3割下がり、輸出量は2.3倍になった。その輸出は国内生産のわずか3%で、 肝心の国内生産はピーク比で2割以上減っている。そして単価1位を支える飼料の大半は輸入である。 高付加価値路線がどこまで持つのかを考えるために、この4つを順に見ていく。
1. 世界1位の実態 — 単価は落ち、量は増えた
まず順位そのものを確認する。FAOSTATが公開している貿易のバルクデータから、2024年の牛肉(牛肉+水牛肉の一次産品集計)について、 国ごとに輸出額を輸出量で割った単価を出し、高い順に並べた。 輸出量が年1,000トンに満たない国は外している。下限を設けないと、輸出量が数トンしかない国が 単価の上位に紛れ込んでしまうためである。
牛肉の輸出単価 国別ランキング
牛肉の輸出量が年1,000トン以上ある72カ国のうち上位15件。日本はこの72カ国のうち1位。World・Europe・European Union (27) のような地域集計はFAOSTATのエリアコードから機械的に判定して除外している(除外67件)。
世界1位ではあるが、2位スイスとの差は1.5倍。「別次元」と呼べる距離ではなく、順位は薄い優位の上に立っている
1位と2位の差は1.5倍である。桁が違うほどの差ではない。 そして3位以下は9,179ドル、7,543ドルと急に落ちるので、 実質的には日本とスイスの2カ国だけが高単価帯にいて、 その2カ国のあいだにも1.5倍の差がある、という構図になる。 順位に安心する材料としては、思ったより薄い。
問題は、この単価が下がり続けていることだ。ただし、その前に断りが要る。 日本の牛肉輸出は長らく年数十トンの規模で、1990年の輸出量は53トンしかない。輸出量がこれだけ小さい年は、 たまたま高値の一件が入るだけで平均単価が跳ねる。実際1995年は63トンの輸出で単価76,381ドルという値が立っているが、これは統計的なノイズであって、 いまの30,969ドルと比べる意味はない。 そこで以下のチャートは、ランキング(C-01)と同じ 「輸出量が年1,000トン以上」という下限を時系列にも適用し、 それを満たした2008年以降だけを描いている。1990〜2007年はチャートに載せていない。
日本産牛肉の輸出単価と輸出量
輸出量が年1,000トン以上になった2008年以降。それ以前は輸出量が小さく単価が跳ねるため載せていない。
2019年の46,695ドルから33.7%の下落。同じ5年で輸出量は133.1%増えており、単価の下落と量の増加が同時に起きている
この期間のピークは2019年の46,695ドル/トンで、2024年の30,969ドルへ33.7%下がっている。 同じ5年間に、輸出量は5,875トンから13,692トンへ133.1%増えた。棒(量)が伸びる一方で線(単価)が下がる形が、1枚で見える。 ここが本レポートの起点になる。 単価を維持したまま量を増やしたのではなく、量が増えるのと引き換えに単価が下がっている。 単価は輸出額を輸出量で割った平均値なので、 安い部位や格付が輸出に回るほど、仕向先が価格の低い市場に広がるほど、下を向く。 どれが効いているかはこのデータからは分からないが、 「量で負けて単価で勝つ」という説明が2019年までの話であることは分かる。
日本の位置を他国と比べると、その特異さがはっきりする。 横軸に輸出量、縦軸に輸出単価をとって各国を置いてみる。
輸出単価と輸出量の関係
横軸は対数目盛り(1目盛りごとに10倍)。線形だと輸出量331万トンのブラジルに引きずられ、小口の国が左端に潰れて読めない。ラベルは主要5カ国のみ表示(点が重なるため)。このチャートは当サイトのダッシュボードと同じ34カ国のデータセットで、上のランキング(72カ国)とは母集団が違う。日本の単価・輸出量の値は両者で一致する。
高単価・少量の左上に日本だけが孤立している。量を増やせる国は単価が低く、単価が高い国は量が少ない——単価を守るなら量は増やせないという制約が、国際比較でそのまま見える
日本は左上の隅に一つだけ離れて置かれる。輸出量13,692トンは、この34カ国の中央値5万7,052トンより一桁少ない。 一方で単価は2位に1.5倍の差をつけている。 右側にいるのはブラジル・オーストラリア・アメリカで、いずれも百万トン単位の輸出量を持ちながら 単価は3,000〜5,000ドル台にとどまる。 量と単価が両立していないのは日本だけの事情ではなく、この散布図全体の形がそう言っている。 日本が特異なのは、その関係の一番端に、たった一国で立っていることである。
では輸出は失敗しているのかというと、金額で見れば逆である。 輸出額は1990年から一貫して増え続けている。
日本産牛肉の輸出額の推移
額の成長は続いているのに、その中身は入れ替わっている——2019年までは単価も量も伸びていたが、以降は単価が下がるなかで量が額を押し上げている(1990年比170.9倍)
1990年の2,481千ドルから2024年の424,028千ドルへ、170.9倍である。 金額だけを見れば輸出戦略は成功していると言ってよい。 しかしこの成長は、途中で性格が変わっている。 輸出量が年1,000トンを超えた2008年以降で見ると、2019年までは単価も量も上がっていたが、それ以降は単価が下がるなかで 量の増加が額を押し上げている。額の伸びは続いていても、 1トン運ぶごとに手にする金額は減っている。 同じ金額を稼ぐのに、より多くの牛が要るようになったということでもある。
2. 量の構造 — 輸出は生産の3%、その生産が減っている
量を増やすには、増やす原資が要る。国内の牛肉生産量はどうなっているか。
日本の牛肉生産量の推移
ピークは1994年で60万2,336トン。そこから23.3%減っており、輸出を増やす原資そのものが縮んでいる
起点を1990年に置くと減少率は15.9%にとどまり、実態より小さく見える。この系列のピークは1990年ではなく1994年(60万2,336トン)で、 そこから2024年の46万1,905トンまで23.3%減っている。 始点の取り方で印象が変わる典型なので、本レポートではピーク比を使う。 重要なのは、輸出を伸ばしている期間と、国内生産が縮んでいる期間が重なっていることである。 増えたパイの一部を外に出しているのではなく、縮んだパイから外に出す分を増やしている。
その「外に出す分」は、生産量に対してどれくらいなのか。
生産量に対する輸出量の比率
1990年の0.01%から2024年は2.96%へ。輸出は伸びたが、国内生産の97%はいまも国内で消費されている
2024年で2.96%である。1990年の0.01%からは大きく伸びたが、水準としては生産の3%にすぎない。 この数字は二通りに読める。伸びしろが大きいとも読めるし、 輸出単価がいくら動いても国内の畜産全体への影響は限定的だとも読める。 本レポートは後者を採る。生産の97%は国内で消費されており、 輸出単価は肥育経営の収益の主たる決定要因ではまだない。 ただし、限界的な収益——つまり最後の1頭をどこに売るか——には効く。 だからこそ単価の下落が意味を持つ。
生産量が減っている背景には、頭数の減少がある。
日本の牛の飼養頭数の推移
乳用牛を含む牛全体。肉用牛だけの系列ではない。
1990年比-16.3%。生産量の減少率とほぼ同じ幅で、1頭あたりの生産性向上は頭数減を埋めていない
1990年の476万頭から2024年は398万5,000頭で、-16.3%である。 同じ期間の生産量の変化とほぼ同じ幅であり、 1頭あたりの枝肉重量が増えたぶんで頭数減を相殺できてはいない。 なおこの系列は乳用牛を含む牛全体なので、肉用牛だけの動きとは一致しない。 それでも、輸出を増やす物理的な余地が縮んでいるという方向は変わらない。
では、その限られた量はどこへ向かっているのか。 ここからは出典が変わる。仕向先の内訳が取れるのは財務省の貿易統計で、 こちらはHS0201(生鮮・冷蔵)とHS0202(冷凍)の合計である。 FAOSTATとは品目の定義が違うため、数量は一致しない。
日本産牛肉の輸出仕向先
HS0201+HS0202の合計1万113トンに対する構成比。上位8件。FAOSTATの1万3,692トンとは品目定義が違うため一致しない(比0.74倍)。
上位5カ国・地域で72.1%。仕向先が数カ国に集中しているため、いずれかの市場の需要や規制が変われば平均単価はまとめて動く
上位5つ——アメリカ合衆国・台湾・香港・カンボジア・タイ——で72.1%を占める。輸出先は世界中に広がっているわけではなく、 実質的に数カ国の需要に依存している。 この集中は、単価の議論にも効いてくる。 平均単価は仕向先ごとの単価をその数量で加重した値なので、 構成比が動けば、現地の販売価格が一切変わらなくても平均単価は動く。2019年以降の下落に、この構成変化がどれだけ効いたのかは、 年次の仕向先データがないため本レポートでは検証できていない。 本レポートで扱えるのは2024年単年の構成である。
3. コスト構造 — 輸入飼料と為替の上に乗る単価1位
ここまでは売る側の話だった。次は原価の側を見る。 まず、日本の畜産が貿易のなかでどういう位置にいるかを確認しておきたい。 牛肉・豚肉・鶏肉・鶏卵・牛乳・はちみつなど畜産品9品目について、輸出額と輸入額を並べる。
日本の畜産品 輸出額と輸入額
畜産9品目の合計。品目間で重複計上にならないよう、上位分類と下位分類が重なる品目は除いてある。
2024年の輸入額は輸出額の10.1倍。牛肉輸出が170.9倍に伸びても、畜産全体の入超構造は動いていない
2024年の輸出額は492百万ドル、 輸入額は4,955百万ドルで、10.1倍の入超である。 チャートを見ると、輸入額の線は1990年代からほぼ横ばいの高い位置にあり、 輸出額の線は下から立ち上がってきてはいるが、まだ大きく離れている。 牛肉輸出の成長は、この構造を変えるほどの規模には達していない。 「輸出で稼ぐ畜産」という言い方は、金額の規模で見ると いまのところ畜産全体の一部の話にとどまる。
入超の中身に、飼料は直接は含まれない(上の9品目は畜産物であって飼料穀物ではない)。 だが牛を太らせる原料がどこから来ているかは、別の統計が示している。
飼料自給率の推移
濃厚飼料の自給率は13%(2022年度)。牛を太らせる穀物のほぼ全量が海外産で、単価世界1位の原価は海外の相場と為替で決まる
2022年度の総合自給率は26%である。内訳を見ると、牧草などの粗飼料は78%と高い一方、穀物中心の濃厚飼料は13%しかない。肥育牛のカロリーの大部分を占めるのは濃厚飼料のほうなので、 実感としてのコスト依存はこの13%のほうに近い。1965年度には総合55%あったものが、 半世紀かけてここまで下がった。単価世界1位という結果は、 原価の大部分を海外の穀物相場と為替に預けたうえで成り立っている。 なお、この統計表で公表されている最新年度は2022年度(概算)で、翌年度分はまだ反映されていない。
その海外相場と為替が、直近でどう動いたか。 飼料価格指数(農業物価統計)とUSD/JPY(FRB)を重ねる。 いずれも月次のデータだが、そのまま重ねると読み取れないため、 12か月そろっている年だけを暦年平均に畳んである。
飼料価格指数とUSD/JPY(年平均)
月次データを暦年平均に畳んだ系列。飼料価格指数の基準年はe-Statの系列定義に明記がないため、2020年の月次平均が100.02になることを確かめて2020年基準と判断している。
2019年から2024年で為替は39%、飼料指数は41.3%上昇。ほぼ同じ幅で動いているが、これは相関であって、本データから因果を示すことはできない
輸出単価が2019年のピークをつけてから2024年までのあいだに、 USD/JPYの年平均は109.0円から151.5円へ39%、 飼料価格指数は99.4から140.5へ41.3%動いた。ほぼ同じ幅である。 ただし、この一致から「円安が飼料を高くした」と結論することはできない。 飼料価格には海外の穀物相場や海上運賃も効いており、 本レポートのデータでは為替の寄与分を分離できないからである。 言えるのは、輸出単価が3割下がった同じ期間に、 コスト側の指標が4割上がったという事実関係までである。 ドル建ての単価が下がりながら円建てのコストが上がる局面は、 輸出向けの肥育にとって最も厳しい組み合わせになる。
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最後に、輸出3%という数字を需給全体のなかに置き直しておきたい。 国内生産と輸入を並べると、日本の牛肉供給の姿が見える。
牛肉の国内生産量と輸入量
食料需給表の「自給率」とは定義が異なる(在庫変動やくず肉の扱いが違う)ため、自給率とは呼んでいない。
2024年の国内供給に占める国内生産の割合は40.3%。日本は牛肉の純輸入国であり、輸出2.96%は「余った分を出している」のではなく、不足している国から高級品だけを出している
2024年の国内生産は46万1,905トン、 輸入は68万4,611トンで、 国内生産の割合は40.3%である。 日本は牛肉について明確な純輸入国であり、 輸出している1万3,692トンは、この図のなかではほとんど見えない大きさになる。 つまり日本の牛肉輸出は「国内で余ったものを海外に回す」構造ではない。 安い輸入牛肉を大量に受け入れながら、高い国産牛肉をごく少量だけ外に出す、 という非対称な形をしている。単価が世界一高くなるのは、 この構造から出てくる当然の帰結でもある。
4. 国内で起きていること
非対称な構造の片側——輸入側——を見ておく。 日本が受け入れている牛肉は、どこから来ているのか。
牛肉の輸入相手国
合計52万6,166トンに対する構成比。上位6件。
上位2カ国で82.3%。国内の「安いほうの牛肉」の価格は、国産の生産コストではなくオーストラリアとアメリカ合衆国の供給と為替で決まる
オーストラリアが47.5%、アメリカ合衆国が34.8%で、2カ国だけで82.3%を占める。輸出の仕向先が数カ国に集中しているのと同じ構図が、 輸入側にもある。国内の食卓に並ぶ牛肉の価格は、 国産の生産コストだけでなく、この2カ国の供給量と為替で動く。 前節で見た為替の変化は、輸出側のドル建て単価だけでなく、 こちら側の円建て輸入価格にも同時に効いている。
では国産側、それも輸出に回りうる高級な部分はいくらで取引されているのか。 東京都中央卸売市場の食肉市場(芝浦)の日報から、和牛枝肉の規格別の平均価格を集計した。 日報は品種と格付を分けて記載しているため、本レポートで唯一「和牛」に限定できるデータである。
和牛枝肉の規格別平均価格(芝浦市場)
集計期間内の日別価格の単純平均。観測が30日未満の規格(A-1)は平均が安定しないため除いている。
A-5とA-3の差は1.35倍。格付が1つ違うだけで手取りが大きく変わるため、輸出単価の下落を「A-5以外も輸出に回り始めた」と読む余地はあるが、貿易統計に格付区分はなく確認はできない
A-5の平均は2,594円/kg、A-3は1,920円/kgで、比は1.35倍である。格付が2段階違うと手取りが3割以上変わる。 この幅を頭に入れて輸出単価の下落を見ると、一つの仮説が浮かぶ—— 輸出量が2.3倍に増えた過程で、以前は国内に回っていた A-4やA-3の部分が輸出に混ざり始めたのではないか、というものである。 ただしこれは確認できない。貿易統計にも FAOSTAT にも格付の区分がないためで、 本レポートはこの仮説を提示するにとどめる。 なお、この価格は2026-04-01から2026-08-31までの91日分に固定して集計している。 日報は毎日増えるため、期間を固定しないと記事の数値が後から動いてしまう。
最後に、国内の小売価格を見ておく。輸出単価の話は生産者の手取りの話だが、 消費者が向き合っている価格差はまた別の動き方をしている。
牛肉の小売価格 国産と輸入
特別区部(東京23区)— 全国平均が取得できなかったため代替
国産と輸入の価格差は2000年の2.2倍から2025年は2.6倍へ拡大。輸出単価が下がる一方で、国内の売り場では国産と輸入の距離がむしろ開いている
2000年には国産734円、輸入340円で2.2倍だった差が、2025年には国産937円、輸入362円の2.6倍に開いている。 輸出単価がドル建てで下がっているのと、国内小売で国産の相対価格が上がっているのは、 矛盾しない。前者は輸出に回った分の平均で、後者は国内で売られている分の店頭価格であり、 見ている場所が違う。むしろ両方が同時に起きていることが、 国産牛肉が国内でも海外でも「高い側」に位置づけられ続けていることを示している。
5. 高付加価値路線の分岐点
ここまでのデータを一つにまとめると、こうなる。 日本産牛肉の輸出単価は世界1位を維持しているが、その順位は 2位に1.5倍という薄い差の上にある。 単価は2019年のピークから33.7%下がり、 その下落と引き換えに輸出量は133.1%増えた。 増やした先の輸出は国内生産の2.96%で、その国内生産はピーク比23.3%、飼養頭数は16.3%の縮小が続いている。 そして原価の側では、濃厚飼料の自給率が13%で、為替と飼料指数はこの5年でともに4割前後上がった。
これは「輸出が失敗した」という話ではない。 輸出額は1990年比で170.9倍になっており、成長そのものは続いている。 変わったのは成長の中身である。2019年までは単価と量が同時に伸びていたが、 いまは単価を下げることで量を伸ばしている。 「量で負けて単価で勝つ」という戦略の説明は、少なくともこの5年間の実績には合っていない。
分岐点は二つある。単価が下がっても量で稼ぐ方向に進むのか、 量を絞って単価を守る方向に戻すのか。前者を選ぶなら、 縮んでいる国内生産と頭数がボトルネックになる。後者を選ぶなら、 すでに数カ国に集中している仕向先のなかで、 どの市場が高い単価を払い続けるのかを選別する必要が出てくる。 どちらの選択も、公開統計だけでは決められない。
肥育・繁殖に関わる読者にとって、このデータから取り出せる判断材料は三つある。 第一に、輸出向けの平均単価は格付や部位の構成で動くため、 「輸出単価が下がった」という報道をそのまま自分の手取りの話として読まないこと。 芝浦市場のA-5とA-3の差が1.35倍あるように、どの格付を出しているかで話がまったく変わる。 第二に、格付別の輸出向け需要は公開統計では追えないため、 この点は実需者や輸出事業者から直接得る情報のほうが精度が高い。 第三に、飼料と為替の変動幅はこの5年で4割前後あり、 単価が世界1位であっても吸収できる大きさではない。 収益を考えるときは、輸出単価より先に、 自分の経営の濃厚飼料コストがどれだけ動いたかを見るほうが確実である。
最後に、このレポートで言えないことを確認しておく。 単価が下がった原因は特定していない。格付・部位・仕向先のどれが効いたのかを分けるには、 公開されていない粒度のデータが要る。 為替と飼料価格の一致も相関の提示にとどめており、寄与の分解はしていない。 また、輸出量そのものが出典によって0.74倍違うという事実も残っている。 それでも、「和牛は輸出単価で世界一」という一文が、 単価・量・原価という三つの別々の変化を束ねてしまっていることは、 公開データだけで示せる。
よくある質問
Q. このレポートの「牛肉」は和牛のことですか?
違う。本レポートが使っている貿易統計(財務省)にもFAOSTATにも、牛肉の品種区分は存在しない。したがって「輸出単価が世界1位」の対象は、和牛だけでなく交雑種・乳用種を含む日本産牛肉の全体である。タイトルとリードで「和牛」という語を使っているのは、この話題が一般に和牛の文脈で語られるためで、本文・チャート・数値ではすべて「日本産牛肉」と表記している。品種を区別できる数値は、本レポートでは芝浦市場の枝肉価格(C-15)だけで、こちらは日報が「和牛」「交雑牛」を分けて記載しているため和牛に限定できる。逆に言えば、輸出された13,692トンのうち何トンが和牛だったのかは、公開統計からは分からない。
Q. なぜ輸出単価が下がったのですか?
本レポートのデータで言えるのは、単価の下落(2019年の46,695ドル/トンから2024年の30,969ドル/トンへ33.7%)と輸出量の増加(5,875トンから13,692トンへ133.1%)が同じ期間に起きた、という事実関係までである。なお2008年より前は輸出量が年1,000トンに満たず、単価が跳ねるためピークの比較対象にしていない。単価はドル建ての輸出額を輸出量で割った平均値なので、①より安い部位・格付が輸出に回った ②仕向先の構成が変わった ③現地の販売価格そのものが下がった、のいずれでも下がる。この3つを切り分けるには、格付別・部位別の輸出数量が要るが、貿易統計にその区分はない。したがって本レポートは原因を特定していない。なお為替は単価を押し下げる方向には働かない(円安はドル建て単価を下げる要因ではない)ため、円安で説明することもできない。
Q. 貿易統計とFAOSTATで輸出量が違うのはなぜですか?
品目の定義が違うためである。本レポートでは、仕向先の構成(C-05)に財務省貿易統計のHS0201(生鮮・冷蔵の牛肉)とHS0202(冷凍の牛肉)の合計を使い、単価・生産比・需給構成にはFAOSTATの「Beef and Buffalo Meat, primary」(牛肉+水牛肉の一次産品集計)を使っている。2024年の輸出量は前者が1万113トン、後者が1万3,692トンで、比は0.74倍である。この差がどの品目の出入りから生じているかは特定できていないため、本レポートでは両者を同じチャート・同じ文の中で足したり引いたりしていない。さらにアメリカ農務省のPSDは枝肉重量換算(CWE)で集計しており、同じ2024年の輸出/生産比は2.96%になる。FAOSTATベースの2.96%(2024年)とほぼ同じ数字が出るが、同じ計算をした結果ではない。桁が合っていることの確認として使えるだけで、両者を同一の系列として扱うことはできない。
Q. 飼料自給率26%はいつの数値ですか?
2022年度(概算)の値である。農林水産省の飼料需給表(e-Stat 食料需給表 参考統計表)で公表されている最新年度がこれで、令和5年度(2023年度)はこの統計表にまだ反映されていない。本レポートでは総合26%のほか、粗飼料78%・濃厚飼料13%の内訳も併記している(いずれも2022年度)。飼料自給率は年度ごとに公表され、年によって数ポイント動くため、この種の数値を引用するときは必ず年度を添える必要がある。インターネット上には年度の記載がない「27%」「25%」といった数字も流通しているが、それらがどの年度のものかは確認できない。
Q. 「2位との差は3.4倍」と書かれた記事を見ましたが、1.5倍とどちらが正しいですか?
どちらも計算としては正しく、母集団が違う。本レポートが本文で使っている「2位スイスの1.5倍」は、FAOSTATのバルクデータを全報告国で集計し直し、牛肉の輸出量が年1,000トン以上ある72カ国に絞ったランキングである。一方の「3.4倍」は、当サイトのダッシュボードが使っている34カ国のデータセットでの値で、この母集団にはスイスが含まれていないため2位がスウェーデン(9,179ドル/トン)になり、倍率が大きく出る。日本が1位であること、単価の絶対値(30,969ドル/トン)は両者で一致する。母集団を書かずに倍率だけを引用すると、実態より優位に見えるため、本レポートでは全報告国ベースの1.5倍を採用している。
出典
- FAOSTAT Trade - Crops and livestock products(バルクCSV)fao.org(品目 Beef and Buffalo Meat, primary。輸出量 element 5910、輸出額 element 5922。国別ランキング(C-01)は全報告国のバルクデータを再集計し、輸出量1,000トン未満と地域集計を除いた72カ国。ライセンス CC BY 4.0)
- FAOSTAT Production - Crops and livestock products / Live animalsfao.org(生産量 element 5510、飼養頭数 element 5111。飼養頭数は乳用牛を含む牛全体。ライセンス CC BY 4.0)
- 財務省貿易統計(e-Stat「貿易統計 品別国別表」)e-stat.go.jp(輸出の仕向先はHS0201+HS0202の2024年分、輸入の相手国は同年の輸入表)
- 農林水産省「飼料需給表」(e-Stat 食料需給表 参考統計表)e-stat.go.jp(飼料自給率 総合・粗飼料・濃厚飼料。1965〜2022年度。公表されている最新年度は2022年度(概算))
- 農林水産省「農業物価統計調査」農業生産資材 類別月別年次別価格指数(e-Stat 統計表ID 0004047497)e-stat.go.jp(飼料の価格指数。1990-01〜2024-12の月次420点を暦年平均に集計)
- FRB(FRED)DEXJPUS — Japanese Yen to U.S. Dollar Spot Exchange Ratefred.stlouisfed.org(日次を月平均に集計したうえで暦年平均に畳んでいる。1990-01〜2026-08)
- 東京都中央卸売市場 食肉市場(芝浦)「販売結果(食肉)」日報shijou-nippo.metro.tokyo.lg.jp(和牛枝肉の規格別価格。2026-04-01〜2026-08-31の91日分に固定して集計)
- 農林水産省「2026年1-6月の農林水産物・食品の輸出実績」(2026-08-04公表)maff.go.jp(リードの2026年1〜6月の牛肉輸出額369億円・前年同期比13.4%増と、台湾・タイ向けの伸び。添付PDF p.3(品目別)・p.5(国・地域別)から読み取った値で、本レポートで唯一データファイルを経由していない数値)
- 総務省 小売物価統計調査(e-Stat 統計表ID 0003420453)e-stat.go.jp(牛肉の小売価格 国産・輸入。単位は円/100g。特別区部(東京23区)— 全国平均が取得できなかったため代替)
本レポートは情報提供を目的としており、特定の投資・経営判断を推奨するものではありません。 貿易統計にもFAOSTATにも牛肉の品種区分はないため、本レポートの「日本産牛肉」は和牛・交雑種・乳用種を含みます。 和牛に限定できるのは芝浦市場の枝肉価格のみです。 輸出量については、財務省貿易統計(HS0201+HS0202・単位KG)が1万113トン、FAOSTAT(Beef and Buffalo Meat, primary・製品重量)が1万3,692トンと0.74倍の差があり、差の原因は特定できていません。アメリカ農務省PSDは枝肉重量換算(CWE)でさらに別系統です。 この3系統は同一のチャート・同一の文のなかで合算・差引していません。 輸出単価は輸出額を輸出量で割った平均値で、格付・部位・仕向先の構成変化でも動きます。 本レポートは単価下落の原因を特定していません。 飼料価格指数とUSD/JPYの並置は相関の提示であり、因果関係を示すものではありません。 飼料自給率は年度値のため、引用の際は必ず年度を添えてください。 芝浦市場の枝肉価格は消費地の一市場のスナップショットであり、全国の取引価格を代表するものではありません。 小売価格は特別区部(東京23区)— 全国平均が取得できなかったため代替のため、全国平均とは異なります。 輸出単価の推移(C-02)は、輸出量が年1,000トン以上あった2008年以降を対象としています。それ以前は輸出量が年数十トンで、 少数の取引で平均単価が大きく振れるため、同じ系列として接続していません。 リードの2026年1〜6月の輸出額は農林水産省の公表PDFから読み取った値で、 本レポートで唯一データファイルを経由していない数値です。最新情報は各出典先の公式サイトでご確認ください。
※本レポートはAIを活用して作成し、編集部が内容を確認・監修しています。詳しくは編集方針をご覧ください。

sanchi.jp編集部
一次産業メディア 畜産データレポート担当
農林水産業のデータと現場をつなぐメディア「sanchi.jp」編集部。公的統計・一次情報に基づき、構造的な視点で一次産業の論点を整理しています。
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