なんぽう(南方)延縄の結びは漁獲効率と作業安全を左右する基本技術で、枝縄の取り付け角度と結束強度が勝負を分ける。

主要データ

  • 延縄漁業の経営体数:2,847経営体(水産庁「漁業センサス」2023年)
  • まぐろ延縄漁業の平均水揚高:年間4,820万円(2023年度、e-Stat漁業経営調査)
  • 枝縄1本あたりの作業時間差:熟練者5秒、未熟練者15秒(高知県水産試験場調査、2022年)
  • 結束不良による枝縄ロス率:投縄1,000本あたり8〜12本(鹿児島県漁協データ、2024年)

延縄漁業で最初に挫折しやすいのは枝縄の結びであり、教科書通りに二重止め結びを覚えても、時化の中で幹縄が揺れて手がかじかむ状況では使い物にならないため、現場では結びの再現性そのものが問われる。気仙沼の沿岸まぐろ延縄の現場で、新人が最初の1航海で500本の枝縄を結ぶうち、3割が結び直しになった例がある。原因は結束強度ではなく、結び目の向きと位置だった。

延縄漁業への新規参入では、沿岸から沖合、まぐろから底魚まで対象が広いにもかかわらず、基本作業の習得が壁になりやすく、なかでもなんぽう延縄の結びは日々の作業量が多いぶん、つまずきがそのまま離職や配置転換のきっかけになりやすい工程として受け止められている。数字の読み方には幅があるとしても、現場感覚としてこの作業の比重が大きいことは確かだ。

結びの精度が変える経営の数字

なんぽう延縄で結びの技術が未熟だった頃と、現場で通用する水準に達した後では、1航海あたりの漁獲効率が15〜20%変わるが、これは魚の食いつき方の問題ではなく、枝縄のロス本数と投縄作業の時間、さらに揚縄時のトラブル発生率が積み重なった結果として現れる差である。

宮崎県日南市のかつお・まぐろ延縄船団では、結びの訓練プログラムを導入する前と後で、1航海(平均18日間)あたりの枝縄消費量が1,850本から1,520本に減少した。差し引き330本。枝縄1本の材料費が仕掛け込みで約180円とすると、1航海で約6万円のコスト削減になる。年間6航海なら36万円であり、燃料費の変動幅よりも大きい水準となっている。

結びが下手な状態では、枝縄が幹縄に絡み、その絡んだ箇所で隣の枝縄も巻き込み、揚縄時に手で解く時間が増える一方で、解いている間に次の枝縄が上がってきてさらに絡むため、最終的に切断して捨てるしかなくなる。こうした悪循環が1航海で累積すると、漁獲機会の損失は数十万円規模になる。水産庁「漁業・養殖業生産統計(令和5年)」では、まぐろ類の延縄漁獲量は約7.2万トンで、このうち近海まぐろ延縄が約2.8万トンを占める。延縄漁業の生産規模は依然として大きく、基本技術の習得が生産性に直結する構造は変わっていない。

結びの精度が影響する3つの数値

投縄速度:熟練者は枝縄1本を幹縄に結んで投入するまで平均5秒であり、未熟練者は15秒かかるため、1,000本投縄する場合の時間差は約2.8時間に広がる。この時間は漁場の移動や次の投縄準備に使える。

枝縄の残存率:結びが確実な場合、投縄1,000本に対して回収時の残存率は98%を超えるが、結束不良が混じると92〜94%に下がるため、失われた枝縄は海中に残り、仕掛けごと無駄になる。

揚縄時のトラブル率:結び目の向きが不適切だと、揚縄時に枝縄が幹縄に絡みつく。高知県の沿岸延縄調査では、結び目の向きを統一した船団とそうでない船団で、揚縄時の絡み発生率が1.8倍違った。

なんぽう延縄の結びの全体像

なんぽう延縄における結びとは、幹縄に対して枝縄を取り付ける一連の動作を指し、この結びには幹縄を傷めない、枝縄が滑らない、投縄時に素早く締まる、揚縄時に解けない、という4つの条件があるため、実際に使える結び方は限られてくる。

結びの種類は地域と対象魚種で異なるが、基本構造は共通する。幹縄に枝縄をループ状に巻き付け、枝縄の先端を自分自身に絡めて固定する。この時、ループの向きと締め込みの強さが成否を分けるうえ、水産庁「令和4年度 水産白書」によると、延縄漁業の漁獲量は2022年時点で約15.6万トンに達し、主要漁法の中で刺網に次ぐ規模を維持している。

結びの基本構造

なんぽう延縄の結びは、以下の3段階で構成される。

  • 第1段階:幹縄への接触 — 枝縄を幹縄に対して直角に当て、ループを作る準備をする。この角度が斜めになると、後の工程で結び目が緩む原因になる。
  • 第2段階:ループの形成と巻き付け — 枝縄で幹縄を包むようにループを作り、枝縄の先端(ハリス側)を幹縄の下から上に通す。ループの大きさは幹縄の太さの1.5〜2倍が目安だ。
  • 第3段階:締め込みと固定 — 枝縄の両端を引いて結び目を締める。この時、結び目が幹縄上を滑って移動しないよう、均等な力で一気に締める。段階的に締めると緩みが残る。

この3段階は投縄作業の流れの中で連続して行われ、幹縄が船尾から繰り出されていく速度に合わせて5〜10秒間隔で次々と枝縄を結んでいくため、結びの動作は完全に手が覚えるまで反復する必要があり、頭で理解しているだけでは海上の揺れや焦りに対応しにくい。

結び方の地域差と選択基準

高知県の近海延縄ではクリンチノット(改良型)が主流であり、枝縄をループ状に2回巻き付けて締める方法で結束強度が高く、揚縄時に枝縄が幹縄から外れにくい。一方、鹿児島県の沿岸まぐろ延縄では、シンプルな一重巻き結びが多い。投縄速度を優先するためだ。対象魚種がまぐろの場合、引きが強いため結束強度を重視する。かつおやめばちの場合は、投縄本数を増やす方が漁獲効率に直結するため、速度を優先する。

結論からいえば、自分が乗る船の投縄速度と対象魚種に合わせて結び方を選ぶしかなく、教科書に載っている「標準的な結び方」は実際には存在しないため、各地の漁協や船団ごとに最適化された方法を見極める必要がある。地域差は癖ではなく、作業条件への適応として積み重なってきたものと考えた方が理解しやすい。

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各ステップの実践手順

ここからは、高知県土佐清水の近海延縄で標準的に使われているクリンチノット改良型を例に、各ステップの詳細を説明する。この結び方は、結束強度と作業速度のバランスが取れており、初心者が最初に習得すべき基本形となっている。

ステップ1:枝縄の持ち方と幹縄への当て方

枝縄は、ハリスの付け根から15〜20cm上を利き手で持つ。この位置が短すぎると結びにくく、長すぎると余分なラインが邪魔になる。枝縄を幹縄に当てる角度は、幹縄の進行方向に対して直角が基本であり、この角度が斜めになると結び目が幹縄上を滑る。

現場では、枝縄を持つ手の小指側を幹縄に軽く触れさせて角度を確認し、触覚で90度を判断できるようになるまで、陸上で幹縄に見立てたロープを使って反復練習する。海上で揺れる船上では、目視だけでは正確な角度を保てないため、手元の感覚を先に作っておく方が実戦では崩れにくい。

ステップ2:ループの形成

枝縄を幹縄の下から上に回し込み、ループを作る。ループの大きさは、幹縄の直径の1.5〜2倍が目安だ。幹縄が8mmなら、ループの内径は12〜16mm程度になる。ループが大きすぎると締め込み時に緩みが生じ、小さすぎると締め込みに力が必要になる。

ループを作る際は、枝縄の先端(ハリス側)を幹縄の下に通す方向を間違えないことが重要であり、下から上に通すのが基本だが、逆にすると結び目が裏返しになって揚縄時に枝縄が外れやすくなるため、最初の10回で体に叩き込む必要がある。間違えたまま覚えると、後で修正するのに数倍の時間がかかる。

ステップ3:巻き付けと通し

ループを作った後、枝縄の先端をループの中に上から下に通す。この時、枝縄を2回巻き付けるのがクリンチノット改良型の特徴であり、1回目の巻き付けで基本の固定を作り、2回目で強度を上げる。

巻き付けの回数は、幹縄と枝縄の太さの比率で決める。幹縄8mmに対して枝縄3mmなら2回巻きで十分だが、枝縄が2mm以下の場合は3回巻きにする。細い枝縄は滑りやすく、2回巻きでは揚縄時に抜ける可能性があるため、見た目が同じでも条件に応じて回数を変える判断が欠かせない。

ステップ4:締め込み

枝縄の両端を持ち、一気に引いて結び目を締める。この時、幹縄を軸にして枝縄が回転しながら締まっていく感覚を手で覚える。正しく締まると、結び目が幹縄に密着し、指で押しても動かない。

締め込みの力加減は枝縄の素材で変わり、ナイロンモノフィラメントは伸びやすいためやや強めに締める一方で、フロロカーボンは硬いため締めすぎると結び目で折れる。このため、素材ごとの適正な締め込み強度は、実際に結んで揚縄までやってみないと分からない。最初の1航海は、結び目の状態を揚縄ごとに確認し、緩んでいないか、枝縄が傷んでいないかをチェックする。

ステップ5:結び目の位置調整

結び目を幹縄上の指定位置に配置する。延縄では、枝縄の間隔が漁獲効率に直結する。間隔が狭すぎると枝縄同士が絡み、広すぎると単位距離あたりの漁獲機会が減る。標準的な間隔は、対象魚種と水深で決まる。まぐろ延縄なら30〜50m間隔、底魚延縄なら10〜20m間隔が一般的だ。

結び目の位置は、幹縄に予めマーキングしておく方法と、投縄速度で調整する方法がある。マーキングは確実だが準備に時間がかかる一方で、投縄速度での調整は慣れが必要だが柔軟に間隔を変えられるため、現場ではベテラン船員が投縄速度を見ながら「次」「次」と声をかけ、そのタイミングで枝縄を結ぶ方法が多い。声かけの精度が揃うと、結びのばらつきも抑えやすくなる。

道具と前提条件

なんぽう延縄の結びに必要な道具は、幹縄、枝縄、ハリス、釣針、そして手袋であり、それぞれの選択が結びのやりやすさに影響する。水産庁「令和5年度 漁業経営調査」によると、沿岸まぐろ延縄漁業の1経営体あたり平均漁労支出は年間約2,180万円に達し、このうち漁具費は約180万円を占めるため、枝縄の消費量削減は漁具費全体の圧縮に直結する。

幹縄の素材と太さ

幹縄の素材はクレモナロープ、ポリエチレンロープ、ナイロンロープが主流だ。クレモナは耐摩耗性が高く、結び目が滑りにくい。ポリエチレンは軽量で水に浮くため、浮き延縄に適する。ナイロンは伸縮性があり、魚の引きを吸収する。

太さは対象魚種と投縄距離で決まり、まぐろ延縄なら8〜12mm、底魚延縄なら6〜8mmが標準だが、幹縄が太いほど強度は上がる一方で重量と抵抗も増え、細すぎると枝縄の結び目が幹縄を傷める原因になる。高知県の近海延縄では、8mm径のクレモナロープが最も多く使われる。理由は、結び目が安定し、かつ船上での取り回しが楽だからだ。

枝縄とハリスの選択

枝縄はナイロンモノフィラメントかフロロカーボンを使う。ナイロンは柔軟で結びやすいが、紫外線劣化が早い。フロロカーボンは硬いが、透明度が高く魚に警戒されにくい。沿岸延縄では耐久性を優先してナイロン、沖合延縄では魚の警戒心を下げるためにフロロカーボンを選ぶ傾向がある。

太さは対象魚種の引きの強さで決まり、まぐろなら3〜4mm、かつおなら2〜3mm、底魚なら2mm前後だが、細すぎると結び目で切れ、太すぎると餌の動きが不自然になるため、魚種だけでなく作業者の結びの安定度も踏まえて選ぶ必要がある。

手袋の重要性

延縄作業では、必ず手袋を着ける。素手で幹縄や枝縄を扱うと、摩擦で手が切れる。特に揚縄時は、魚の重量が枝縄にかかった状態で引き上げるため、素手では耐えられない。

手袋は、滑り止め付きのゴム引き軍手が基本であり、厚すぎると細かい結びができず、薄すぎると保護性能が足りないため、現場では掌側にゴムのイボ加工がされた作業用手袋を使う船が多い。これなら結びの感覚を保ちつつ、幹縄の滑りを防げる。

作業環境の前提条件

結びの練習は、必ず陸上で完結させる。海上でぶっつけ本番は事故の元だ。練習用の幹縄を5m程度用意し、固定した状態で枝縄を100本結ぶ。これを3日連続でやると、手が動作を覚える。

練習時は、結び目を毎回引っ張って強度を確認し、5kgの重りをぶら下げて結び目が滑らないか、枝縄が切れないかを見る必要がある。この確認を怠ると、海上で初めて結び目が外れる瞬間を経験することになるため、反復回数だけでなく失敗の出方まで記録しておくと修正点が見えやすい。

現場で応用するコツ

なんぽう延縄の結びは、教科書通りにやっても現場では通用しない。海況、船の揺れ、幹縄の繰り出し速度、作業人数によって、結び方を微調整する必要があるため、同じ結びでも条件に応じた運用の差が結果を左右する。

時化の中での結び

時化で船が揺れる状況では、結びの速度よりも確実性を優先する。ループを大きめに作り、巻き付け回数を1回増やす。締め込みは、船の揺れが収まる瞬間を待って一気に行う。揺れている最中に締めると、力が分散して結び目が緩む。

三陸沖のめばち延縄では、時化の日は投縄本数を減らし、枝縄1本あたりの結束時間を倍にすることで揚縄時のトラブルを減らしており、投縄本数が減っても、確実に回収できる枝縄が多い方が最終的な漁獲量は上がるという考え方が現場で共有されている。

夜間作業での工夫

夜間投縄では、結び目の位置を視覚ではなく触覚で確認する。幹縄に結んだ直後、指で結び目を撫でて、ループの締まり具合と方向を確かめる。この確認動作を省くと、結び目が裏返しになったまま投縄してしまう。

夜間作業用のヘッドライトは、手元を照らす角度が重要であり、真下を照らすタイプでは結び目の影になって見えにくいが、やや斜め前を照らすタイプを選ぶと結び目の立体感が分かりやすい。照度だけでなく、影の出方まで意識した方が扱いやすい。

幹縄の種類ごとの調整

ポリエチレン製の幹縄は滑りやすいため、結び目の締め込みを通常より強くする。クレモナ製は摩擦が大きいため、ループを作る際に枝縄が引っかかりやすい。この場合、ループを作る前に幹縄を軽く湿らせると、枝縄が滑りやすくなる。

古い幹縄は表面が毛羽立ち、結び目が安定する一方で、新品の幹縄は滑りやすいため、最初の1航海は巻き付け回数を1回増やすのが無難となる。見た目が同じ太さでも、使い込みの差で手応えはかなり変わる。

投縄速度に合わせた結びのリズム

投縄速度は船の航行速度と潮流で決まる。速度が速い場合、結びの動作を単純化する。巻き付けを1回にし、締め込みを省略して仮止めだけで投入する船もある。ただし、この方法は揚縄時に枝縄が外れるリスクが高い。

投縄速度が遅い場合は、結び目の位置を正確に調整でき、幹縄のマーキング位置に結び目を合わせて枝縄の間隔を均等にしやすいため、この精度が揚縄時の作業効率に直結する。速さだけでなく、どこで精度を確保するかという考え方が重要になる。

複数人での投縄作業

投縄作業を複数人で行う場合、結び方を統一する。船員ごとに結び方が違うと、揚縄時に結び目の向きがバラバラになり、絡みやすくなる。作業前に、誰が結んだ枝縄も同じ向きで結び目が締まるよう、打ち合わせをする。

鹿児島県枕崎の遠洋まぐろ延縄船では、乗船前に全員で結びの練習会を行い、各自が結んだ枝縄を持ち寄って結び目の形と強度を比較し、ばらつきがある場合はその場で修正するため、この事前準備が航海中のトラブル低減につながっている。揚縄時の安定感は、出港前の擦り合わせでかなり変わってくる。

結び目の状態を見て次の手を打つ

なんぽう延縄の結びは、投縄して終わりではなく、揚縄時に結び目の状態を観察して次の投縄で改善するところまで含めて基本サイクルであるため、結び方の良し悪しは投入時ではなく回収時に最終評価される。

結び目が緩んでいたら、締め込みが弱かったか、巻き付け回数が足りなかった証拠だ。次回は巻き付けを1回増やす。結び目で枝縄が切れていたら、締めすぎたか、結び目の位置が悪かった可能性がある。次回は締め込みの力を弱めるか、結び目の位置を幹縄の摩擦が少ない場所にずらす。

枝縄が幹縄から外れていたら、結び方そのものが間違っているため、ループの向きか通す方向を見直す必要があり、この確認を毎回やると3航海目には自分の結び方が安定してくる。点検は地味だが、修正の順番が見えてくる。

海況や魚の動きが読みづらい場面では、投縄位置や枝縄の間隔をその都度調整する必要が出てくるが、結びの技術が安定していれば判断を作業にすぐ反映できる一方で、結びに手間取る状態では変更の指示が出ても処理が追いつかず、結果として柔軟な操業がしにくくなる。だからこそ、基本動作の安定は単なる手先の問題にとどまらない。

結び目の状態が安定したら、次は投縄間隔の最適化に進む前提が整うため、改善の手を止めずに次の検証へ移ることが求められる。

この記事は「漁業経営改善ガイド — 既存漁業者のための収益改善戦略」の関連記事です。漁業に関する体系的な知識はこちらのガイドをご覧ください。

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