南方延縄結びは幹縄と枝縄を直結する結束法で、強度と解けやすさの両立が成否を分け、誤った力の入れ方で結び目が滑る。

主要データ

  • 遠洋まぐろ延縄漁業の生産量:17.2万トン(水産庁「令和4年度水産白書」)
  • まぐろ類の国内漁業生産額:約1,248億円(2022年漁業・養殖業生産統計)
  • 延縄漁具の幹縄長:1航海あたり100〜150km(遠洋漁業)
  • 枝縄1本あたりの結束作業時間:熟練者で8〜12秒(三崎・焼津の現場実測)

延縄結びの失敗で獲物を逃す現場

焼津港で水揚げを待つまぐろ延縄船の甲板を覗くと、結束部が緩んで枝縄が幹縄から外れている漁具がいくつも見つかり、本マグロが掛かった瞬間に結び目が滑って逃がしたという事例も、実は経験年数3〜5年目の漁師に多いことが現場では繰り返し指摘されている。

最も典型的な失敗は、結び目に力を入れる方向を間違えることだ。三崎の延縄船で実際にあった話では、新人が1航海で仕立てた枝縄300本のうち80本近くが結束部から外れており、原因をたどると縦方向に引き締めるべき部分を横方向に引っ張っていたことが分かったため、この間違いをすると結び目の摩擦が十分に働かず、50kg以上の魚が掛かった瞬間に解けることがある。

もうひとつ頻発するのが結び目の締め込み不足であり、枝縄を幹縄に巻きつける回数が2回転で終わっている結束を見ることがあるが、教科書的には「3回転以上」とされる一方で、現場では海水を吸ったナイロン糸が滑りやすくなるため4回転が基本になる。

2回転では緩みやすい。時化で漁具全体が揺さぶられるうちに、結び目が自然に解けてしまう場面もあり、作業直後には問題が見えなくても操業中に差が表面化しやすい。

秋の漁期に入って延縄漁の水揚げが本格化する時期ほど、結束の精度はそのまま収益に跳ね返りやすく、しかも水産庁「令和4年度水産白書」が示すように遠洋まぐろ延縄漁業の経営体数は年々減少傾向にあるため、限られた人員で効率的に操業するには、結束作業の標準化と習熟を現場で積み上げていく必要がある。

結び目が滑る原因は摩擦係数の理解不足

南方延縄結びが解ける根本原因は、ナイロン繊維同士の摩擦係数に対する認識が甘いことにある。延縄漁具に使われるナイロンモノフィラメント(単糸)の動摩擦係数は、乾燥状態で0.3〜0.4程度だが、海水中では0.2前後まで下がるため、陸上で結んだ時の感覚で海中の状態を判断すると、必要な締め込み回数が1〜2回転足りなくなる。

結び目の強度を決めるのは糸同士が接触する面積と圧力であり、南方延縄結びでは枝縄を幹縄に巻きつける際に生じる螺旋状の接触面が荷重を支えるため、この接触面積が巻き数に比例する以上、3回転と4回転では保持力に1.3倍程度の差が出る。

大型魚では重い。とくに本マグロのような魚が掛かると、瞬間的に100kg近い荷重が枝縄に掛かるため、わずかな締め込み不足でも結果は大きく変わる。

もうひとつ見落とされがちなのが、結び目の形状による荷重分散だ。正しく結束された南方延縄結びは、幹縄に対して枝縄が斜め45度の角度で接続されるが、この角度が90度に近づくと結び目の一点に荷重が集中して滑りやすくなり、逆に0度に近づくと枝縄が幹縄に沿って流れる形になって保持力を失う。

水産庁の「令和4年度水産白書」によると、遠洋まぐろ延縄漁業の生産量は17.2万トンで、このうち約6割が南方海域(赤道以南)での操業であり、南方海域は海水温が高くナイロン糸の劣化が早いため、結束部の強度は新品の糸を使った場合でも6〜8ヶ月で10〜15%低下することがあるうえ、水産庁の「漁業・養殖業生産統計」が示す2022年のまぐろ類全体の国内漁獲量は約26万トンで延縄漁業が主要な漁法となっていることからも、漁具の信頼性が生産量を左右していることが見て取れる。

糸の太さと結び目の相性

幹縄と枝縄の太さの組み合わせも、結び目の保持力に影響する。一般的な遠洋延縄では、幹縄に直径4〜5mmのナイロン糸、枝縄に2.5〜3.5mmの糸を使い、この太さの比率が1.5〜2.0倍の範囲にあれば、南方延縄結びは十分な強度を発揮する。

しかし、枝縄が細すぎると結び目が幹縄に食い込みすぎて解く時に切断してしまい、逆に枝縄が太すぎると巻きつける際の螺旋が緩くなって保持力が落ちるため、三崎の船主が「幹縄5mmなら枝縄は3mmが黄金比率」と言うのは、作業性と保持力の両面を見た現場感覚に基づいている。

この比率だと扱いやすい。締め込みと解きやすさが両立しやすく、連続作業でも仕上がりが安定しやすいからだ。

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南方延縄結びの正しい手順

結論からいえば、南方延縄結びの成否は最初の2ステップで決まり、幹縄への枝縄の巻きつけ方と最初の締め込みの方向をここで誤ると、後からどれだけ調整しても必要な強度は出にくいため、最初の動作ほど丁寧にそろえる意識が欠かせない。

Step 1: 枝縄の端部を幹縄に当てる

枝縄の先端から20〜25cm残した位置を左手で持ち、幹縄に対して斜め上方から当てる。この時、枝縄と幹縄が作る角度は60度程度にする。角度が浅すぎると次の巻きつけがやりにくくなり、急すぎると結び目が立ってしまう。

枝縄の先端部分(後で結び目に巻き込む部分)は幹縄の右側に垂らしておき、この先端の長さは最低15cm必要であり、焼津の熟練工も「ぎりぎりの長さで結ぶと、最後に引っ張る部分が足りなくて結び目が甘くなる」と指摘している。

Step 2: 枝縄を幹縄に4回転巻きつける

右手で枝縄の中央部を持ち、幹縄に対して時計回りに巻きつける。1回転目は緩めでよいが、2回転目以降は少しずつ締めながら巻き、4回転巻き終わった時点で枝縄の先端部分が幹縄の下側に来るようにそろえる。

巻きつける際の力加減は幹縄が少し歪む程度であり、力を入れすぎると幹縄の表面が毛羽立ってそこから劣化が始まる一方で、緩すぎると次のステップで結び目全体が滑るため、三崎の船では「幹縄に指の腹を当てて、わずかに凹むくらいの強さ」と教える。

Step 3: 先端部を巻き込んで輪を作る

4回転巻きつけた状態から、枝縄の先端部分を上に持ち上げて、巻きつけた部分の上側に輪を作る。この輪の大きさは直径3〜4cm程度にする。輪が大きすぎると結び目が緩くなり、小さすぎると次のステップで糸を通しにくくなる。

輪を作る際、先端部分が巻きつけた螺旋の隙間に挟まらないように注意する。挟まった状態で締め込むと結び目が歪んで強度が落ちるため、焼津の船主が「輪を作った瞬間、螺旋の上に乗っかっている感覚があれば正解」と言うのは、見た目だけでなく指先の感覚で位置を確かめる意味合いも大きい。

Step 4: 枝縄の本体を輪に通す

枝縄の中央部(鉤に続く長い方)を、Step 3で作った輪に上から下に通す。この時、輪の中心を真っ直ぐに通すのがコツだ。斜めに通すと、締め込んだ際に結び目が傾いて荷重が偏る。

輪に通す長さは10〜15cm程度で十分であり、通しすぎると次のステップで引っ張る際に無駄な動きが増えて作業時間が延びるため、1航海で3000〜5000本の枝縄を結ぶ遠洋漁業では、1本あたり数秒の差でも累積すると数時間の差になる。

Step 5: 縦方向に引き締める

ここが最も失敗の多いステップだ。左手で幹縄を固定し、右手で枝縄の本体を幹縄に対して垂直方向(縦方向)に引っ張る。この時、枝縄の先端部分も同時に下方向に引っ張る。両方向に力を加えることで、結び目が均等に締まる。

引っ張る力の配分は、本体7:先端3くらいだ。

本体側に力を入れすぎると結び目が片寄り、先端側に力を入れすぎると結び目が緩むため、三崎の熟練者は「両手で同時に引き始めて、右手だけ少し長く引く感じ」と表現しており、数字だけを覚えるよりも、左右の手応えの差を体で覚えるほうが再現しやすい。

締め込みの強さは、結び目が幹縄に食い込んで動かなくなるまでだ。指で結び目を横に揺すってみて、1mm以上動くようなら締め込み不足になる。逆に、幹縄が白く変色するほど締めると、そこから劣化が進む。

Step 6: 余分な先端部を切断する

結び目から5〜8mm残して、枝縄の先端部をカッターで切断する。切断面は斜めではなく、垂直に切る。斜めに切ると切断面が尖って、操業中に他の糸に引っかかる原因になる。

焼津の船では、ライターで切断面を軽く炙って溶着させる方法が一般的であり、これにより糸のほつれを防げるが、炙りすぎると結び目近くまで熱が伝わって強度が落ちるため、炙る時間は1秒以内にとどめる。

作業前に確認すべき前提条件

南方延縄結びを始める前に、糸の状態と作業環境を確認する必要があり、この確認を怠ると結束後に問題が表面化して手戻りが発生するため、作業そのものの巧拙だけでなく、前段の点検をどこまで丁寧に行ったかが結果を左右する。

必要な道具と材料

幹縄には直径4〜5mmのナイロンモノフィラメント、枝縄には直径2.5〜3.5mmのナイロンモノフィラメントを用意する。三崎や焼津の船具店で扱われているのは、東レやクレハ製のものが多い。価格は幹縄が1mあたり20〜30円、枝縄が10〜15円程度だ。

切断用の刃物は、カッターナイフかフィッシングナイフを使う。鋏は切断面が潰れて糸が毛羽立つため向かない。ライターは風防付きのものが望ましい。甲板上の作業では風で火が消えやすいためだ。

手袋選びも重要だ。軍手ではなく、指先がゴム引きされた作業用手袋を使う。ナイロン糸を強く引っ張る際、軍手では滑って力が入らない一方で、素手だと糸との摩擦で指先が切れることがある。

糸の状態確認

使用する糸が新品であっても、保管状態が悪いと劣化している場合がある。糸を20〜30cm引き出して、表面に白い粉が吹いていないか確認する。白い粉はナイロンの加水分解の初期症状で、この状態の糸は強度が15〜20%低下している。

糸を軽く引っ張ってみて、伸びが大きい場合も要注意だ。ナイロンモノフィラメントの通常の伸び率は20〜25%程度だが、紫外線劣化が進むと30%以上伸びるようになり、このような糸で結束すると操業中に結び目が緩みやすくなる。

三崎の船具店では「糸は製造から1年以内のものを使う」のが基本であり、2年以上経過した糸は見た目が正常でも強度試験で不合格になることが多いため、購入時に製造ロット番号を確認し、古い在庫を掴まされないようにする必要がある。

作業スペースと姿勢

結束作業は、腰の高さに固定された台の上で行うのが理想だ。焼津の船では、甲板に高さ80〜90cmの作業台を設置して、そこに幹縄を張る。立ち姿勢で作業できるため、腰への負担が少なく長時間の作業が可能になる。

幹縄は両端をクリートやビットに固定し、軽く張力を掛けた状態にする。張力が弱いと結束の際に幹縄が動いて作業しにくく、強すぎると幹縄が伸びて後で緩むため、「幹縄の中央を指で押して、5cm程度沈む張力」を目安に現場では調整している。

プロと初心者で差が出る結束の細部

経験年数10年以上の熟練者と、5年未満の初心者では、同じ南方延縄結びでも仕上がりに差が出る。その差は主に3つの要素に現れ、見た目には小さな違いでも、投縄や揚縄の流れに入ると絡みや緩みとして表れやすい。

巻きつける速度とリズム

熟練者は枝縄を幹縄に巻きつける動作を、一定のリズムで淀みなく行う。1回転あたり1.5〜2秒、4回転で6〜8秒だ。このリズムが崩れると、巻きつけの強さが不均一になり、結び目の一部だけが先に緩む。

初心者は1回転ごとに手を止めて確認するため、1本あたり15〜20秒かかるが、焼津の船主は「10秒を切れるようになれば一人前、8秒なら上出来」と評価する一方で、スピードだけを追求して精度を落とすと、後工程での手直しが増えて結局は非効率になると釘を刺している。

結び目の位置精度

プロの結束では、隣り合う枝縄同士の間隔が正確に揃っている。標準的な遠洋延縄では、枝縄の間隔を3〜5mに設定するが、熟練者の結束では誤差が±10cm以内に収まる。この精度は、幹縄に予めマーキングしておくことで実現する。

初心者の結束では、間隔のばらつきが±50cm以上になることも珍しくない。間隔が不均一だと投縄・揚縄時に糸が絡まりやすくなって操業効率が落ちるため、三崎の船では結束前に幹縄に油性マジックで印をつけ、位置精度を先に担保してから作業に入る。

結び目の向きの統一

熟練者の結束では、すべての枝縄が同じ方向に揃っている。具体的には、枝縄が幹縄から出る角度が45度で統一され、すべて船尾側を向いている。この統一があると、投縄時に枝縄が順番に展開されて絡まない。

初心者の結束では結び目ごとに枝縄の向きがばらばらになり、これは締め込みの際の力の入れ方が不安定なためだが、焼津の船主は「結び目の向きが揃っていない船は、それだけで操業が下手だと分かる」と言う。また、水産庁の「漁業センサス」(2018年)では遠洋漁業の従事者の高齢化が進んでおり、熟練技術の継承が課題となっていることからも、結束技術の標準化と効率的な習得方法の確立が求められている。

操業中に結び目を確認する判断基準

一度結束した枝縄も、操業を重ねるうちに結び目が緩んでくる。この緩みに気づかず放置すると、獲物を逃すだけでなく漁具全体の破損につながるため、現場では感覚だけに頼らず、いくつかの基準を設けて結び目の状態を判断している。

投縄前の目視確認

投縄の準備段階で、結び目を手で触って緩みを確認する。結び目を指でつまんで左右に動かしてみて、2mm以上動くようなら結び直しだ。特に前回の操業で大物が掛かった枝縄は、結び目に負荷が掛かって緩んでいることが多い。

三崎の船では、投縄前に全枝縄の10%程度をサンプリングして確認する作業を習慣化しており、3000本の枝縄なら300本をチェックする計算になるが、この作業に30〜40分かけるのは、投縄後の損失を避けるために前段で時間を使うという考え方が共有されているからだ。

揚縄時の異常検知

揚縄の際、結び目が緩んでいる枝縄は、幹縄に沿って滑るように動く。通常は結び目が幹縄に固定されているため、枝縄を引っ張っても結び目の位置は変わらない。滑る枝縄を見つけたら、その場で結び直すか、マーキングして後で交換する。

焼津の船では、揚縄作業中に甲板員が結び目の異常を発見したら声を出して船頭に報告する決まりがあり、報告があった枝縄の本数が10本を超えたら、その日の操業終了後に全枝縄の点検を行うことで、大規模な漁具トラブルを未然に防いでいる。

海況による点検頻度の調整

時化が続いた後や、海水温が急変した後は、結び目の緩みが増える。時化では漁具全体が激しく揺さぶられて結び目に繰り返し荷重が掛かり、海水温の急変ではナイロン糸の伸縮率が変化する。このような条件の後は、通常より入念な点検が必要になる。

したがって、海況が不安定な期間は通常時と同じ感覚で点検間隔を固定するのではなく、操業後の手応えや枝縄の戻り方を見ながら確認回数を増やす運用が重要であり、結び目の緩みは一度に全面で出るとは限らないからこそ、異常が出やすい局面を先回りして拾う姿勢が求められる。

交換タイミングの見極め

枝縄は結び目の状態に関わらず、一定期間で交換する。遠洋延縄では、1航海(2〜3ヶ月)で全枝縄の20〜30%を新品に交換するのが標準的だ。焼津の船主は「ケチって古い枝縄を使い続けると、結局は大物を逃して損をする」と言う。

交換の判断基準は、糸の表面に細かい傷が目立ち始めた時点であり、ナイロン糸は摩耗が進むと表面が毛羽立って光沢が失われ、この状態になると結び目の強度は新品時の60〜70%まで低下しているため、漁具への適切な投資を収益管理の一部として捉える視点が現場では欠かせない。

結束精度が水揚げを左右する

気仙沼の船主がよく言うのは、「延縄の結び目は見えない貯金箱だ」という言葉であり、結束の精度を1%上げれば1航海で数十万円の差になる一方で、結束が甘い船はどれだけ良い漁場に入っても水揚げが伸びないため、技術の差がそのまま収益の差として表れやすい。

南方延縄結びの本質は、強度と作業性のバランスにある。4回転巻きつけて縦方向に締め込むという基本を守れば、初心者でも実用レベルの結束ができる。あとは枝縄3000本を結ぶ中で、自分の手に馴染むリズムを見つけていくことになる。

この記事は「漁業経営改善ガイド — 既存漁業者のための収益改善戦略」の関連記事です。漁業に関する体系的な知識はこちらのガイドをご覧ください。

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