延縄漁業は餌を付けた数百~数千本の針を海中に展開する漁法で、幹縄の張力管理と枝縄の接続角度が漁獲効率を左右する。
主要データ
- 全国の延縄漁業経営体数:約8,700経営体(2023年漁業センサス)
- まぐろ延縄漁業の平均投縄数:2,500~3,200本/回(水産庁調査、2024年)
- 近海延縄の鮮度保持率:92.3%(漁獲後6時間以内処理の場合、水産研究・教育機構、2023年)
- 主要対象魚種の平均単価差:生鮮3,200円/kg、活け5,800円/kg(土佐清水漁協、2025年平均)
延縄で失敗する現場は針の配置角度を誤解している
延縄漁業で初心者が最初に詰まるのは枝縄の接続角度であり、教科書では「幹縄に対して垂直に取り付ける」と説明されるものの、実際の海中では潮流の影響で幹縄自体が傾くため、この時に枝縄を機械的に90度で接続すると、針が不自然な角度で漂って魚の警戒心を高める結果になりやすい。
水産庁の「沿岸漁業経営実態調査」(2024年版)によると、延縄を主漁法とする経営体の平均水揚金額は年間約1,280万円だが、上位20%の経営体は2,400万円を超え、その差は漁具の規模そのものよりも、幹縄の張り方や枝縄の取り付け精度といった海中での姿勢管理の積み重ねに表れやすいことが見て取れる。
結論だけを急げば、延縄漁業の成否は「海中での針の姿勢」に行き着く。投縄時は整って見えても、海中で幹縄が潮に押されて傾斜すれば枝縄はねじれ、針は回転し、この状態では餌の動きが不自然になるため、対象魚種の摂餌行動を引き出しにくくなる。
海面水温が高めに推移して遊泳層が例年より深くなる局面では、延縄の投入深度を通常より5~8m深く設定する場面も出てくるが、そのときは幹縄にかかる水圧と潮流の影響も同時に変わるため、枝縄の長さだけでなく接続角度まで含めて見直さなければ、狙った層に針を置いたつもりでも実際の姿勢が崩れやすい。
延縄漁業の前提条件と必要な漁具
延縄漁業を始める前提として、対象魚種の遊泳層と摂餌習性の理解は欠かせず、表層を狙うのか、中層か、底層かで幹縄の材質も浮力設計も変わるうえ、延縄は投縄から揚縄まで数時間~十数時間を要するため、その間の潮流変化を読む技術まで含めて準備しておく必要がある。水産庁「令和5年度水産白書」によると、延縄漁業における燃油費は経営費全体の約23.5%を占めている。
対象魚種別の基本設計
カツオ・マグロを対象とする浮き延縄では、幹縄の長さは15~25km、枝縄の間隔は30~50m、針数は2,500~3,200本が標準である一方、アカムツやキンメダイなどの底魚を狙う底延縄では、幹縄の長さは3~8km、枝縄の間隔は1.5~3m、針数は800~2,000本程度となり、設計思想そのものがかなり異なる。
気仙沼漁協のメカジキ延縄では、幹縄に直径5mmのポリエチレン製ロープを使用し、50m間隔で浮き玉を取り付け、枝縄は直径3mmのナイロンモノフィラメントで、長さは水深と対象魚種の遊泳層に応じて12~18mに調整する。針はマルチ針の14~16号が主流であり、水産庁「令和4年漁業・養殖業生産統計」によると、遠洋まぐろ延縄漁業の年間漁獲量は約4万3千トン、このうちメバチマグロが全体の約53%を占める主要魚種となっている。
必須の漁具と設備
延縄漁業に必要な主要漁具を以下にまとめる。
- 幹縄:ポリエチレンまたはナイロン製、直径4~6mm、長さは漁法により5~25km
- 枝縄:ナイロンモノフィラメント、直径2.5~4mm、長さ8~20m
- 浮き玉:発泡スチロール製またはガラス製、直径20~40cm、浮力3~8kg
- 沈子(底延縄の場合):鉛製、重量500g~2kg、幹縄の沈下速度を調整
- 針:対象魚種に応じてマルチ針、チヌ針、丸セイゴなど、号数は8~18号
- 投縄機:油圧式または電動式、投縄速度5~8ノット対応
- 揚縄機:油圧式ドラム、巻き上げ速度30~50m/分
- 活魚水槽(活け出荷の場合):海水循環式、容量1~3トン、酸素供給装置付き
初期投資額は漁船規模にもよるが、5トン級の船で延縄漁具一式を揃えると250~400万円程度になり、ただしこの数値は新品購入時のものであるため、中古漁具や自作の枝縄を活用すれば150万円程度に抑えられるケースもある。
海域特性の事前調査
延縄を投入する海域では潮流パターンと海底地形の把握が前提であり、特に底延縄では海底の起伏が激しい場所に投縄すると幹縄が岩礁に引っかかって回収不能になるリスクが高まるため、事前確認の精度がそのまま操業の安定性と損失回避に結び付く。
土佐清水の底延縄漁師は、投縄前に必ず魚探で海底地形を確認し、起伏が5m以上ある場所は避ける。また、潮の流れが速い海域では幹縄が想定より大きく流されるため、投縄位置を潮上側に1~2km調整する必要がある。
Step 1:幹縄の張力設計と浮力配分
延縄漁業の最初のステップは、幹縄全体の浮力と張力のバランスを設計することであり、浮き延縄の場合は幹縄自体の重量、枝縄と針の重量、餌の重量の合計を浮き玉の浮力で相殺しつつ、海中で幹縄が弛みすぎないだけの張力を維持しなければ、枝縄の姿勢が崩れて針の向きまで不安定になる。
計算式は以下の通り。
必要浮力(kg)= 幹縄重量 + 枝縄重量 + 針重量 + 餌重量 + 張力確保分(全体の15~20%)
例えば、幹縄15km(重量約90kg)、枝縄2,500本×平均15m×直径3mm(重量約120kg)、針2,500本(重量約18kg)、餌2,500個(サンマ1匹150g、重量375kg)の場合、総重量は約603kgになる。
これに張力確保分として20%(約120kg)を加えると必要浮力は約723kgとなり、浮き玉1個の浮力が5kgなら145個程度が必要になる計算だが、実際には潮流の影響で幹縄が沈む力も働くため、机上の数字だけで決め切らず、現場では180~200個程度の浮き玉を配置する判断に寄せることが多い。
浮き玉の配置間隔
浮き玉の配置間隔は幹縄の張力の均一性に直結し、間隔が広すぎると浮き玉の間で幹縄が大きく沈み込んで枝縄の姿勢が不安定になる一方で、間隔が狭すぎると浮き玉同士が接触して絡まるリスクも高まるため、海況に応じた細かな調整が欠かせない。
標準的な配置間隔は40~60mだが、潮流が速い海域では30~40mに狭める。枝縄の接続位置は浮き玉の中間点に配置し、幹縄の沈み込みが最も大きくなる位置に針がくるように調整する。この配置により、針が海中で自然に漂う動きを作り出せる。
張力確認の実務手順
投縄後は、最初の浮き玉が海面に浮いた時点で幹縄の張り具合を目視確認し、浮き玉が海面下に引き込まれるようなら浮力不足、逆に海面から大きく突き出ているなら浮力過多と判断するため、最初の確認で違和感を拾えるかどうかが後半の絡まり防止に響いてくる。
気仙沼の延縄船では、投縄開始から30分後に一度船を止め、最初に投入した浮き玉の位置を確認する。浮き玉が予定位置より50m以上流されていたら、残りの投縄で浮き玉の数を10~15%増やす調整を行う。
Step 2:枝縄の長さと接続角度の調整
枝縄の長さは対象魚種の遊泳層と幹縄の設定深度の差で決まり、浮き延縄でマグロを狙う場合には幹縄を水深80~120mに設定したうえで、マグロの遊泳層(水深100~150m)に針が届くよう、枝縄の長さを15~20mに設定するのが基本となる。
ただし、枝縄が長すぎると隣の枝縄と絡まるリスクが高まる。枝縄の間隔が50mなら、枝縄の長さは最大でもその半分の25m以内に抑えるのが鉄則とされる。
枝縄の接続角度の実際
教科書では枝縄を幹縄に対して90度で接続すると書かれるが、これは静止状態での話であり、実際の海中では潮流により幹縄が斜めに引かれるため、枝縄を90度で接続すると結果的に針が幹縄に近づきすぎたり、逆に離れすぎたりして、狙った層で自然な姿勢を保ちにくくなる。
土佐清水の底延縄では、潮流の速さに応じて枝縄の接続角度を調整しており、潮が速い日(1.5ノット以上)は接続角度を潮下側に15度傾けて枝縄が幹縄から離れるように設計する一方、潮が緩い日は90度に近づけるなど、同じ漁具でも海況で扱いを変えている。
スナップ付きサルカンの使用
枝縄と幹縄の接続にはスナップ付きサルカン(より戻し)を使用するのが標準であり、サルカンを使わないと魚が掛かった際に枝縄がねじれて幹縄全体に負荷が伝わり、他の針まで外れるリスクが高まるため、接続部の部材選定は後回しにしにくい。
サルカンのサイズは、対象魚種の引きの強さに応じて選ぶ。マグロやカジキの場合は耐荷重150kg以上、キンメダイやアカムツなら50~80kg程度が目安だ。
Step 3:餌の選定と取り付け方
延縄の餌は対象魚種の摂餌習性に合わせて選び、マグロやカツオには冷凍サンマ、イワシ、サバが使われる一方で、底魚のアカムツやキンメダイにはイカ、サバの切り身が多く、同じ針数でも餌の種類と見せ方を変えるだけで反応が変わるため、ここを固定化しすぎない方がよい。
餌の鮮度は漁獲率に直結する。冷凍餌を使う場合、解凍は投縄の直前に行い、半解凍の状態で針に刺す。完全に解凍すると身が柔らかくなりすぎて、投縄時の水圧で餌が針から外れるリスクが高まる。
餌の取り付け手順
サンマを餌にする場合は、針を目の後ろから口に向かって刺し、針先を下顎から出す「通し刺し」が基本であり、この刺し方にすると餌が海中で自然な泳ぎの姿勢を保ちやすく、見た目の不自然さを抑えながら魚の食いつきにつなげやすい。
イカを使う場合は、胴体部分を3~4cmの短冊状に切り、針を2回通して固定する。イカは身が柔らかいため、1回刺しでは投縄時に外れやすい。
餌の量と投入タイミング
延縄1回あたりの餌の量は針数と同数が基本だが、投縄中に餌が外れたり海鳥に食われたりするケースがあるため、予備として10~15%多めに用意しておくと、途中で餌不足に陥らず作業全体の流れを崩しにくい。
投縄のタイミングは、対象魚種の摂餌時間帯に合わせる。マグロやカツオは早朝と夕方の薄明時に活性が高まるため、その2~3時間前に投縄を開始し、揚縄を摂餌時間帯に合わせるのが効率的だ。
Step 4:投縄の実務手順
投縄は船を一定速度(5~8ノット)で走らせながら、幹縄、枝縄、浮き玉を順次海中に投入していく作業であり、投縄速度が速すぎると幹縄に過剰な張力がかかって切れるリスクがあり、遅すぎると幹縄が弛んで枝縄が絡まるため、船速と送り出し速度の同期を現場で崩さないことが基本になる。
投縄機の操作
投縄機を使う場合、幹縄の送り出し速度を船速に同期させる設定が重要だ。船速6ノットなら、投縄機の送り出し速度も時速約11kmに設定する。手動で投縄する場合は、作業員が幹縄の張り具合を手で確認しながら、適切な速度で送り出す。
枝縄は幹縄に事前に接続しておき、投縄時に順次海中に落としていく。枝縄の投入間隔は30~50mだが、正確な間隔を保つため、幹縄に目印(マーカーテープ)を付けておく方法が一般的だ。
浮き玉と旗の配置
浮き延縄では、幹縄の始点と終点、および500~1,000m間隔の中間地点に旗付きの大型浮き玉を取り付け、旗は視認性を高めるためにオレンジや黄色の蛍光色が使われるなど、位置確認のしやすさが投縄後の管理精度にそのまま返ってくる。
夜間投縄の場合は、旗に発光ダイオード(LED)ライトを取り付け、揚縄時に位置を特定しやすくする。気仙沼の延縄船では、GPSロガーを始点の浮き玉に取り付け、潮流で流された場合でも正確な位置を把握できるようにしている。
投縄中のトラブル対応
投縄中に幹縄が切れた場合はすぐに投縄を中断して切れた箇所を回収しなければならず、そのまま放置すると後続の漁船の航行障害になるのみならず、海洋プラスチック汚染の原因にもなるため、回収対応は操業上の責任として扱う必要がある。
枝縄同士が絡まった場合は、無理に引っ張らず、一度船を止めて絡まった部分を手でほどく。引っ張ると枝縄が切れ、針と餌を失うだけでなく、幹縄全体の張力バランスが崩れる原因にもなってしまう。
Step 5:揚縄と漁獲物の処理
揚縄は投縄から4~12時間後に行い、浮き延縄の場合は最初に投入した旗付き浮き玉を回収してから揚縄機で幹縄を巻き上げていくが、揚縄速度は30~50m/分が標準である一方、魚が掛かっている枝縄を引き上げる際には速度を落とし、魚に過剰な負荷をかけないよう注意しなければならない。
魚が掛かった枝縄の処理
魚が掛かった枝縄を引き上げる際は、魚の種類とサイズを確認し、活け出荷が可能かどうかを判断したうえで、活け出荷の場合には針を外した直後に活魚水槽へ移し、海水を循環させて酸素を供給する流れになる。
生鮮出荷の場合は、針を外した後、すぐに神経締めを行い、氷水に浸けて冷却する。神経締めはワイヤーを脊髄に通す方法が一般的で、この処理により鮮度保持率が大幅に向上する。水産研究・教育機構の調査では、神経締めを行った魚は漁獲後6時間以内の処理で鮮度保持率92.3%を達成している。
外道と小型魚の処理
延縄には対象魚種以外の魚(外道)も掛かり、外道の中にはサメやエイなど商品価値が低い魚種も含まれるが、可能な限り生きたまま海に戻すのが資源保護の観点から望ましく、処理の速さと丁寧さの両方がその後の生残に影響する。
小型魚が掛かった場合も、再放流が推奨される。ただし、針を飲み込んでいる場合は、無理に針を外さず、枝縄ごと切って放流する。針を外そうとして魚体を傷つけると、放流後の生存率が低下しやすい。
漁獲物の選別と保管
揚縄が完了したら、漁獲物を魚種別・サイズ別に選別し、生鮮出荷では魚体を氷で覆って温度を0~2度に保ち、活け出荷では水温を海水温より2~3度低く設定して魚のストレスを軽減するなど、出荷形態に応じた保管条件をその場で切り替える必要がある。
土佐清水の延縄船では、キンメダイを活け出荷する際、水槽の水温を16~18度に設定し、酸素濃度を8mg/L以上に保つ。この条件下で、漁獲後24時間以内に市場に運べば、活魚としての商品価値を維持できる。
よくある失敗と対処法
延縄漁業で最も多い失敗は幹縄の張力不足による枝縄の絡まりであり、ある五島列島の延縄船では投縄時に浮き玉の数を10個減らして経費削減を図ったところ、幹縄が想定より深く沈み込んで枝縄同士が絡まり、回収時に3時間以上を要した結果、魚の鮮度が落ちて売上が通常の半分以下になったという。
枝縄の絡まりを防ぐ方法
枝縄の絡まりは幹縄の張力不足だけでなく、枝縄の長さのばらつきも原因になり、枝縄を自作する場合は長さの誤差を±30cm以内に抑える必要があるため、単純な手作業に見えても寸法管理の甘さが後で大きく響く。
対処法として、投縄前に全ての枝縄の長さを再確認し、ばらつきが大きいものは使用しない。また、枝縄に「より」を入れすぎないことも重要で、よりが強すぎると海中で枝縄が回転し、隣の枝縄と絡まりやすくなる。
針掛かりが悪い場合の原因
針掛かりが悪い場合は、餌の鮮度不足、針のサイズ不適合、投縄深度のズレのいずれかが原因であり、特に多いのが投縄深度のズレで、対象魚種の遊泳層より浅すぎても深すぎても食いつきが悪くなるため、まず深度調整を疑うのが実務では早い。
気仙沼のメカジキ延縄では、魚探で水温躍層(水温が急変する層)を確認し、その直下に針がくるように枝縄の長さを調整する。メカジキは水温躍層の下側を好んで遊泳するため、この調整により針掛かり率が20~30%向上する。
幹縄の切断トラブル
幹縄が切れる原因は、過剰な張力、経年劣化、鋭利な岩礁への接触のいずれかであり、特に底延縄では海底の岩に幹縄が擦れて切れるケースが多いため、海域条件とロープ状態の両方を見ながら予防策を組む必要がある。
対処法として、投縄前に幹縄全体を目視点検し、擦れや傷がある箇所は切除して新しいロープに交換する。また、岩礁が多い海域では、幹縄を海底から2~3m浮かせる設計にし、沈子の重量を通常より20~30%軽くする調整が行われる。
安全上の注意点
延縄漁業で最もリスクが高いのは投揚縄作業中の転落事故であり、水産庁の「漁船海難事故統計」(2024年版)によると、延縄漁業での海中転落事故は年間約18件発生し、そのうち約40%が投揚縄作業中に発生している。さらに、水産庁「令和5年度漁業経営調査」によれば、延縄漁業の1経営体あたり平均従事者数は2.8人と少人数体制が一般的であるため、事故発生時の相互支援体制まで含めて日頃から決めておく必要がある。
投揚縄中の転落防止
投揚縄作業中は必ず救命胴衣を着用し、特に揚縄時は大型魚が掛かった際に枝縄が急激に引かれて作業員がバランスを崩すリスクが高いため、揚縄機の周囲には安全柵を設置し、機械への巻き込まれを防ぐ対策も併せて講じておきたい。
夜間作業の場合は、作業エリアを十分に照明し、足元が見えるようにする。また、デッキが濡れている場合は滑りやすいため、滑り止め付きの長靴を着用する。
針刺し事故の防止
延縄の針は鋭利で、誤って手に刺さると深い傷になるため、針刺し事故を防ぐには作業中に厚手のゴム手袋を着用し、針を素手で触らないことに加え、使用済みの針を専用の容器に回収してデッキに放置しない運用まで徹底する必要がある。
針が手に刺さった場合、無理に引き抜かず、針のカエシ部分をペンチで切断してから抜く。カエシごと引き抜くと、傷口が広がり、感染リスクが高まる。
時化時の投揚縄中止判断
波高が2m以上、風速が10m/s以上の場合は投揚縄作業を中止するのが基本であり、時化の中で無理に作業を続けると転落事故や漁具の損傷リスクが急増するため、操業継続の判断では漁獲見込みより安全条件を優先して考えるべきである。
ただし、揚縄途中で時化が強まった場合、幹縄を海中に残したまま撤退するわけにはいかない。このため、気象予報を事前に確認し、時化が予想される場合は投縄自体を見送る判断が現場では重くなる。
次にやるべきこと:漁獲データの記録と分析
延縄漁業の収益を安定させるには毎回の漁獲データを記録し、分析する習慣が不可欠であり、記録すべき項目は投縄位置(緯度・経度)、投縄時刻、揚縄時刻、針数、漁獲尾数、魚種別の内訳、魚のサイズ、海況(波高、風速、潮流)、水温、餌の種類に及ぶため、記録の抜けが多いと後で比較しても手掛かりが薄くなる。
これらのデータを蓄積し、漁獲率が高かった条件を分析すれば、次回以降の投縄位置や時刻、餌の選定に活かせる。土佐清水のある延縄漁師は、3年間のデータ蓄積により、キンメダイの漁獲率が高い海域と時間帯を特定し、年間水揚高を従来の1.4倍に増やした実績がある。
漁獲率の季節変動を把握する
対象魚種の漁獲率は季節により大きく変動し、マグロやカツオは水温の変化に応じて回遊ルートが変わるため、同じ海域でも月ごとに漁獲率が異なり、その違いを押さえないまま同じ操業を続けると効率が落ちやすい。
自分の漁獲データを月別に集計し、漁獲率が高い月と低い月を把握する。漁獲率が低い月は、対象魚種を変更するか、漁場を移動する判断が求められる。また、他の延縄漁師との情報交換も有効で、漁協の会合や無線での情報共有により、リアルタイムの漁模様を把握できる。
幹縄と枝縄の劣化管理
幹縄と枝縄は使用回数に応じて劣化し、特に紫外線と海水の影響でロープの強度は徐々に低下するため、幹縄は50~80回の使用、枝縄は30~50回の使用を目安に交換するのが標準だが、使用回数だけで決めず目視と触感での点検も欠かせない。
ロープ表面が毛羽立っている、色が褪せている、触ると硬くなっている場合は、使用回数にかかわらず交換を検討する。幹縄が切れると数時間分の漁獲機会を失うだけでなく、環境への影響も大きいため、予防的な交換を進めた方が操業は安定しやすい。
延縄の針が正しい深度で、正しい姿勢で漂っているかどうかを毎回の操業で確かめ、記録と照合しながら修正できるようになると、潮と水温の変化に対する判断が少しずつ具体化し、投縄位置や枝縄調整の精度も上がっていく。
関連記事: 延縄漁業の針数・投入速度・餌付け技術|漁獲効率を高める操業の基本
関連記事: はえ縄漁業の仕組みと生産量|針配置と餌付け技術が水揚げを左右する漁法
関連記事: 活け締めとは?魚の鮮度と価格を左右する処理技術の実施率とメリット
この記事は「漁業経営改善ガイド — 既存漁業者のための収益改善戦略」の関連記事です。漁業に関する体系的な知識はこちらのガイドをご覧ください。
この分野の統計データは「漁業の統計データ」で、グラフとテーブルで一覧できます。






