完熟堆肥の製造で失敗する原因の8割は「切り返しのタイミングを日数で判断する」点にあり、実際は堆肥の温度と匂いで見極めるのが現場の鉄則だ。

主要データ

  • 堆肥化施設数:6,247施設(農林水産省「畜産環境整備リース事業実施状況調査」令和4年度)
  • 堆肥自給率:73.2%(令和5年度耕種農家における堆肥利用実態調査)
  • 完熟堆肥の窒素成分平均:1.8〜2.4kg/t(畜産試験場成分分析データ、令和4年)
  • 好気発酵時の最適温度帯:55〜65℃(家畜排せつ物法に基づく管理基準)

完熟堆肥製造でよくある致命的な失敗

「切り返しを2週間に1回やればいい」という教科書通りの管理を続け、3カ月後に真っ黒な堆肥を圃場へ入れたところ作物が立ち枯れしたというのは、熊本県の酪農家が実際に経験した失敗であり、原因は切り返し回数の不足そのものではなく、堆肥の中心部が30℃台のままで未熟な有機酸が残存していたことによる温度管理の見誤りにあった。

完熟堆肥の製造は、日数や回数だけで管理するものではない。温度・匂い・色・水分率の4つの指標を見比べながら微生物の活動状態を読む技術であり、2026年6月4日時点でドル円が159.90円と高止まりし、輸入飼料価格の高止まりも続くなかでは、飼料コスト削減の観点からも自家製堆肥を完熟させて地力を上げ、粗飼料生産を安定させる必要性が増している。

完熟の目安は、匂いがなく、手で握って団子ができ、茶褐色で土のような質感になった時点に置かれるが、そこへ至るまでの期間は原料・季節・切り返し方法で大きく変わり、牛糞ベースなら夏場で45〜60日、冬場で90〜120日、豚糞では窒素が多く発酵が速いため夏場で30〜45日程度に短縮される。

完熟堆肥製造に必要な前提条件

堆肥舎の構造と容量

完熟堆肥を安定的に作るには、最低でも50㎡以上の堆肥舎が必要になる。農林水産省「家畜排せつ物法施行状況調査」(令和4年度)によると、適切な堆肥化施設を持つ畜産農家は全体の84.3%だが、そのなかで完熟堆肥を安定的に生産できている農家は推定で6割程度にとどまり、背景には施設の容量不足がある。

堆肥舎は「発酵中の山」「切り返し後の山」「完熟保管用」の3つのスペースに分けて使う必要があり、1区画あたり最低15㎡を確保しないと切り返し時に混ぜ返しが不十分になって未熟部分が残りやすく、北海道の大規模酪農地帯では100㎡以上が一般的である一方、都府県の中小規模農家では30〜50㎡で運用する例も多いため、この場合は堆肥の製造サイクルを細かく回して在庫を持ちすぎない前提で組み立てることになる。

必要な道具と機材

完熟堆肥製造に最低限必要な道具は以下の通りだ。

  • 堆肥温度計(棒状、測定範囲0〜100℃以上)
  • スコップまたはフォーク(切り返し用)
  • 小型ホイールローダー(3t未満、クボタR330など)または小型バックホー
  • 水分計(簡易型でも可)
  • ブルーシート(雨よけ用、10m×10m以上)
  • コンパネまたは角材(堆肥の仕切り用)

温度計は、必ず棒状で長さ60cm以上のものを使う。測りたいのは表面温度ではなく堆肥山の中心部であり、ホームセンターで売られている短い温度計では中心まで届かず正確な温度が取れないため、現場ではタケムラ電機の「堆肥用棒状温度計TH-300」が広く使われている。

機械の選択は規模で変わる。繁殖牛30頭規模なら人力とスコップでも切り返しは可能だが、重労働になりやすいため中古の小型ホイールローダーを導入する農家が多く、クボタのR330やヤンマーのV3-6などバケット容量0.15㎥クラスが扱いやすいとされ、新品で300万円前後、中古なら150万円程度から入手できる。

原料の組み合わせと副資材

完熟堆肥の原料は家畜糞だけでは不十分であり、水分調整と炭素率(C/N比)の調整を同時に進めるため、以下の副資材を混合する。

  • おがくず(針葉樹系、C/N比400〜500)
  • 籾殻(C/N比70〜80)
  • 麦わら・稲わら(C/N比60〜100)
  • バーク(樹皮、C/N比100〜150)

牛糞のC/N比は18〜25程度、豚糞は12〜18程度と窒素が多い一方で、好気発酵に適したC/N比は25〜30程度であるため、副資材の混合比率は牛糞で容積比1:0.3〜0.5(糞:おがくず)、豚糞で1:0.5〜0.8が目安になるが、敷料としてすでにおがくずを使っている場合は追加の副資材が不要、あるいは少量で済むこともある。

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Step 1: 原料の混合と初期水分調整

完熟堆肥製造の最初のステップは原料と副資材の混合であり、ここで水分率を65〜70%に合わせられないとその後の発酵が鈍りやすくなるため、初期の見極めが後工程全体の進み方を左右する。

水分率の現場での見極め方

水分計がない場合は、手で握って判断する。握ったときに指の間からわずかに水が滲む程度が65〜70%であり、水がポタポタ落ちるなら多すぎ、握っても固まらずすぐ崩れるなら不足と見てよい。宮崎県の肉用牛農家では、「豆腐を握ったときの感触」と表現する生産者が多い。

水分が多すぎる場合はおがくずや籾殻を追加で混ぜ、水分が少なすぎる場合は水を散布するか新鮮な家畜糞を足すが、水の追加は慎重に進める必要があり、一度に大量に加えると堆肥山の下部に水が溜まって嫌気発酵を招くため、少量ずつ状態を確かめながら調整していくのが現場の基本になっている。

混合作業の手順

小型ホイールローダーを使う場合、以下の手順で混合する。

  1. 堆肥舎の床面に副資材(おがくず等)を敷く(厚さ10cm程度)
  2. その上に家畜糞を積む
  3. さらに副資材を上からかける
  4. ローダーで全体をすくい上げ、落としながら混ぜる
  5. 3〜4回繰り返して均一にする

混合時に気をつけたいのは均一性であり、一部だけ副資材が固まっていたり糞だけの塊が残っていたりすると、その部分だけ発酵が遅れて全体の仕上がりに差が出るため、ローダーのバケットで必ず「すくって落とす」動作を繰り返し、押し固めるだけの作業にならないようにする必要がある。

Step 2: 堆肥山の積み方と初期発酵

混合した原料を堆肥山として積み上げる工程は、見た目を整えるためではなく通気性と保温性の両立に直結しており、積み方ひとつで発酵の立ち上がりが変わるため、成否を分ける工程として扱いたい。

堆肥山の形状と高さ

堆肥山は台形に積む。高さは1.2〜1.5m、底面の幅は2〜3m、上面の幅は1〜1.5mが標準だ。高すぎると内部が圧密されて酸素が入りにくくなり、嫌気発酵に傾く。低すぎると熱が逃げやすい。

教科書では「堆肥山は円錐形に積む」とされることもあるが、現場では台形が一般的であり、その理由は切り返し作業のしやすさにあって、円錐形だと側面が急でローダーで崩す際に堆肥が飛び散りやすい一方、台形なら側面を削るように切り返せるため作業が安定しやすい。

初期発酵の温度変化

積み上げから24〜48時間で、堆肥山の中心温度は50℃を超え始める。順調に発酵が進めば、3〜5日で60〜70℃に達する。この温度帯は「高温発酵期」と呼ばれ、病原菌や雑草種子を殺す重要な工程となっている。

温度測定は毎日行い、測定位置は堆肥山の中心部で表面から40〜50cm差し込んだ深さとするのが基本で、表面温度は外気温の影響を受けやすく参考になりにくい一方、55℃以下にとどまる場合は水分不足か副資材過多が疑われ、逆に75℃を超える場合は空気不足によって嫌気発酵が進んでいる可能性も出てくる。

Step 3: 切り返しのタイミングと方法

切り返しは堆肥に酸素を供給し、発酵を均一化するための作業であり、タイミングを誤ると完熟までの期間が2倍以上に延びることもあるため、回数をこなすことより実施の根拠を持つことが問われる。

切り返しのタイミングを温度で判断する

最初の切り返しは、温度がピークを迎えて下がり始めたときに行う。具体的には65〜70℃でピークに達した後、60℃前後まで下がった時点であり、日数でいえば積み上げから7〜10日程度だが、季節や原料の状態で大きく変わる。夏場は5日程度、冬場は15日かかることもある。

温度が下がるのは、微生物が消費できる有機物が減って活動が鈍ってきたサインであり、この時点で切り返して新しい酸素を供給すると再び温度が上がり始めるため、2回目以降も同じ考え方で判断し、通常は2回目が1回目から10〜14日後、3回目が2回目から14〜21日後になる。

切り返し作業の手順

ホイールローダーを使う場合、以下の手順で行う。

  1. 堆肥山の片側から崩していく
  2. 表面にあった部分を中心に、中心にあった部分を表面に来るように積み直す
  3. 固まっている部分があればバケットで崩す
  4. 乾燥している部分には水を軽く散布する
  5. 再び台形に整形する

ポイントは表面と中心を入れ替えることにあり、表面は乾燥しやすく中心は水分が残りやすいため、両者を混ぜ合わせることで全体の水分と温度を均一にしやすく、作業時間は15分程度で済むので、長時間かけて細かく混ぜるより要点を押さえて素早く進めるほうが実務には合っている。

Step 4: 完熟の判断と仕上げ

3〜4回の切り返しを終えると堆肥の温度上昇は鈍くなってくるが、この段階では見た目だけで決めず、温度・匂い・色・形状を合わせて確認することで、完熟度の見極めがぶれにくくなる。

完熟の判断基準

完熟堆肥の判断基準は以下の4点だ。

  • 温度:切り返し後も40℃以下にとどまる
  • 匂い:アンモニア臭がなく、土のような匂いがする
  • 色:黒褐色から茶褐色に変わっている
  • 形状:手で握って団子ができ、軽く押すと崩れる

温度が下がらない場合は、まだ未分解の有機物が残っていると考えてもう1回切り返しを行い、匂いはとくに確実な指標として扱いたい。アンモニア臭や酸っぱい匂いが残っているなら未熟であり、完熟堆肥は森の土のような匂いへ変わっていく。

色は、牛糞ベースなら茶褐色、豚糞ベースなら黒褐色に近い色になる。形状は、握って団子ができるが指で押すとポロポロ崩れる程度が理想であり、べたつく場合は水分過多、握っても固まらない場合は水分不足か過発酵が疑われる。

仕上げと保管

完熟と判断したら堆肥を完熟保管用のスペースへ移動し、そのまま2〜4週間寝かせることでさらに安定した堆肥になるが、保管中は雨がかからないようブルーシートで覆う必要があり、雨が入ると再び嫌気発酵が起こって悪臭が発生しやすくなる。

保管期間中も週に1回は温度を測り、再び温度が上がり始めた場合は未熟部分が残っていた証拠としてもう1回切り返しを行う。北海道の十勝地方では、冬場の保管中に堆肥が凍結することがあるものの、春先に解凍されれば品質には影響しないとされる。

よくある失敗と対処法

失敗事例1: 温度が40℃までしか上がらない

岩手県の酪農家が経験した事例では、堆肥を積んで1週間経っても中心温度が38℃前後にとどまり、原因は副資材の入れすぎにあって、おがくずを容積比で1:1近く混ぜてしまったことでC/N比が50を超え、窒素不足のため微生物が活発に増殖できなかった。

対処法は、新鮮な家畜糞を追加で混ぜることだ。容積比で2〜3割程度の糞を加えて再び積み直し、鶏糞があれば少量(全体の5%程度)混ぜるとさらに効果が見込める。鶏糞は窒素が多く、発酵の立ち上がりを助ける。

失敗事例2: 悪臭が消えず、ハエが大量発生する

これは嫌気発酵が進んでいる典型的な症状であり、原因は水分過多か堆肥山の積み過ぎによる圧密にあるが、鹿児島県の肉用牛農家では梅雨時期に堆肥舎の屋根から雨漏りがあり、堆肥の一部が水浸しになって腐敗した事例もある。

対処法としては、まずすぐに切り返しを行い、おがくずや籾殻を多めに混ぜて水分率を60%以下まで下げることが必要であり、悪臭部分は他の完熟堆肥と混ぜず別の山として管理する。ハエの発生源になっている部分はブルーシートで密閉して酸素を遮断し、嫌気発酵を止める方法もあるが、これは応急処置であって、最終的には切り返しと水分調整で立て直すことになる。

失敗事例3: 白いカビが大量に発生する

堆肥の表面に白い糸状のカビが生えることがあるが、これは「放線菌」と呼ばれる微生物で堆肥化には有益であり問題ない。一方で、表面だけでなく内部まで白くなっている場合は水分不足で好気発酵が進みすぎており、温度が上がらず完熟に時間がかかる。

対処法は、水を散布してから切り返しを行うことだ。水分率を65%前後に戻す。水の量は、1㎡あたり10〜15L程度を目安にする。

安全上の注意点

硫化水素とアンモニアガスへの注意

堆肥舎内では硫化水素やアンモニアガスが発生することがあり、とくに豚糞堆肥や鶏糞堆肥では濃度が高くなりやすいため、密閉された堆肥舎で長時間作業する場合は十分な換気を行い、切り返し直後はガスが大量に放出されることを踏まえて顔を近づけないようにしたい。

硫化水素は無色で、卵の腐ったような匂いがする。高濃度になると嗅覚が麻痺し、匂いを感じなくなるため危険であり、堆肥舎に入るときは必ず換気を行い、可能であれば携帯型のガス検知器を持つほうがよい。農業用の簡易ガス検知器は3万円程度で購入できる。

機械作業時の注意

ホイールローダーやバックホーを使う場合、堆肥山が崩れて機械が埋まることがあり、とくに高く積みすぎた堆肥山は不安定であるため、作業中は周囲に人がいないことを確認しながら、堆肥山の側面を削るときは少しずつ進める必要がある。

また、堆肥舎の床がコンクリートでない場合はローダーのタイヤが埋まることがある。地面が柔らかいときは、敷鉄板を敷くか、砕石を敷いてから作業する。

完熟堆肥の成分分析と施用計画

完成した堆肥は、そのまま圃場に入れる前に成分分析を行うのが理想であり、窒素・リン酸・カリの含有量を把握しておくことで、化学肥料の削減量をより正確に計算できるようになる。

成分分析の依頼先

都道府県の農業試験場や畜産試験場では有料で堆肥の成分分析を受け付けており、費用は1検体あたり3,000〜5,000円程度、分析には2〜3週間かかる。民間の分析機関では、より詳細な成分(微量要素やEC値)まで分析できる一方で、費用は1万円以上になる。

分析結果を見ると、完熟堆肥の窒素含有量は乾物ベースで1.8〜2.4%程度であり、化学肥料の窒素成分(硫安で21%、尿素で46%)と比べると低いが、堆肥の窒素は徐々に分解されて効果が持続するため、施用量は10aあたり1〜2t程度を標準としつつ、作物の種類や土壌の状態に応じて調整する。

施用時期と方法

完熟堆肥は、作付けの2〜4週間前に施用する。これは堆肥中の有機態窒素が無機化されるまでの時間を見込むためであり、施用方法はマニュアスプレッダーで全面散布し、ロータリーで土壌と混和して深さ15〜20cmまで混ぜ込むのが理想だ。

施用量は土壌診断の結果に基づいて決めるのが原則だが、診断を行っていない場合は10aあたり1.5t程度から始め、過剰施用は塩類集積や窒素過多を招くため注意が必要になる。とくに施設園芸では土壌のEC値が上がりやすいため、年間の施用量を10aあたり1t以下に抑える。

次にやるべきこと:堆肥製造のサイクル化と記録

完熟堆肥は1回作って終わりではなく、安定した自給体制を築くには製造サイクルの確立と記録の蓄積が欠かせないため、毎回の出来を再現できる形で残していく視点が必要になる。

年間の製造計画を立てる

繁殖牛30頭規模の農家なら、年間で発生する糞尿は約300t(敷料込み)になる。これを完熟堆肥にすると水分が抜けて容積が6割程度になるため、完成品は180t前後であり、年間4回に分けて製造する場合は1回あたり45t程度の堆肥を仕込む計算になる。

製造サイクルは、夏場は2カ月、冬場は3カ月を見込んで計画するのが一般的で、具体的には春(4〜5月)、夏(7〜8月)、秋(10〜11月)、冬(1〜2月)の年4回が組みやすいが、冬場は温度が上がりにくく製造条件が厳しい一方、糞尿の発生自体は止まらないため、保管スペースに限りがあれば冬場も動かさざるを得ない。

製造記録を残す

毎回の製造で、以下の項目を記録する。

  • 仕込み日と完成日
  • 原料の種類と量(糞の種類、副資材の種類と量)
  • 切り返しの回数と日付
  • 各回の温度変化(最高温度、切り返し時の温度)
  • 完成時の匂い・色・形状
  • 成分分析結果(実施した場合)

記録は紙のノートでもスマホのメモでもよく、失敗したときに原因を特定できる形で残ることが大切であり、たとえば「夏場の製造で温度が上がりすぎる」という傾向が見えれば次回から副資材の比率を増やし、「冬場は完熟まで120日かかる」というデータがあれば春先の施用に間に合うよう逆算して仕込みを始められる。

完熟堆肥を使った後の土壌変化を観察する

堆肥を施用した圃場は、少なくとも3年間は土壌の変化を観察する必要があり、変化がはっきり現れるのは2年目以降で、1年目は目に見える効果が少ないものの土壌中の微生物相が変わり始め、2年目には土がふかふかになって作物の根張りが良くなり、3年目には化学肥料の施用量を2〜3割削減しても収量が落ちなくなる。

観察のポイントは「土を握ったときの感触」と「雨後の水はけ」であり、堆肥を継続的に施用している圃場では、土を握るとしっとりしているがべたつかず、大雨の後も水たまりができにくく1〜2日で表面が乾くため、これが団粒構造の発達したサインとして見て取れ、この状態に近づいていけば完熟堆肥の製造技術が現場に定着してきたと判断しやすい。

この記事は「畜産経営入門 — 収益構造と経営改善の基礎」の関連記事です。畜産に関する体系的な知識はこちらのガイドをご覧ください。

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